オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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二十五話目 裏切り??

 

 

 

 

 元、エ・ランテルの曰く付き物件。現、冒険者モモンの拠点である屋敷のテラスでアインズは優雅にコーヒーを飲みながらセバスより届いた王都での調査報告書を読みふけていた。

 今日はアインズの初めての休暇日なので一人になれる空間を求めここにきたのである。

 その姿は日曜のお父さんが新聞片手にコーヒーを飲んでるようだったが、ナザリックの皆からは余裕をもって仕事をしているビジネスマンに見えているらしい。

 

 相変わらず過剰すぎるほどの評価に内心苦笑しつつ書類を読み進めるが面白味のある内容は書かれていなかった。

 何枚か書類を読み飛ばし噂話レベルの情報に目を向ける。この項は噂話を中心に書かれているため情報としては不確かな所が多々あるがアインズは内心楽しみであり毎回新聞のエンタメコーナー感覚で読んでいる箇所でもある。

 

「どれどれ、今週の噂はどんなことだろう」

 

前回の報告では王都まで冒険者モモンは同じチームのアルと内縁の妻的感じの噂が広まっているらしく、初めて読んだ時は何回、精神の抑制が働いたかわからなかった。

しかもその後アルベドがもう本当に夫婦になりましょうと押しかけてきたりとかなりの騒動にまで発展してしまった、おまけに自分達二人の噂ばかりでサイファーの噂はほとんどなかったためイジけたサイファーのフォローも大変だった

 

「ん?」

 

 記事を読もうとした時自分の近くに『転移門/ゲート』が開かれ噂をしていたサイファーが飛び出してきた。

 

「休暇中すみません!!  王都が急用でやばいんですって!!」

 

 アインズの代わりにアルベドと内政の仕事をしていたはずだがこの慌てようはただ事ではなさそうだ。

 

「落ち着いてください! 文法がめちゃくちゃで何言ってるのか分かりませんよ」

 

 アインズの言葉に落ち着きを取り戻したのかサイファーは呼吸を整えゆっくり話し始めた。

 

「王都のソリュシャンが『伝言/メッセージ』で・・・セバスに謀反の疑いありって」

 

「!!」

 

 その言葉を理解すると同時にアインズは数回精神の抑制が働き眩暈を起こしそうになる。

 

「アルベドとデミウルゴスも玉座の間で待機しています、すぐ戻ってください」

 

「・・・分かりました、戻りましょうナザリックに」

 

 こうしてアインズの初めての休暇は半日もたたずに終了となった。

 

 

 

 

 

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 ナザリックに帰還したアインズは玉座にいたアルベドとデミウルゴスへの挨拶もそこそこにし玉座に腰を下ろしコンソールを開きセバスの名前を確認する。

 

 

「精神的な異変は見られないな」

 

 その言葉通りセバスの名前はシャルティアの時とは違い何も変化していなかった。

 

「アインズさん、ソリュシャンを連れてきましたから詳しく聞いたらどうですか?」

 

 いないと思ったらソリュシャンを連れてきたようだ、今日はいやに手際が良く感じる。

 

「アインズ様このたびは・・・」

 

「挨拶はよい。報告を聞かせてくれ」

 

「畏まりました。」

 

ソリュシャンは今日までのセバスの不審な行動について語り始める。

 曰く死にかけの娼婦を拾ってきて治療をした後も屋敷に置き続け、簡単な仕事までやらせ屋敷に住まわせ、その結果悪質な役人や裏の人間に目を付けられ脅しを掛けられたとの事。

 しかしそれでもセバスは娼婦を処分せず手元に置き続け、先ほど出掛けて行ったらしい。

 

「はぁ!・・・いや、まさか・・・」

 

 うろたえるアインズの肩にサイファーが手を置き言葉をかける。

 

「バカな事と思いますけど即刻セバスの真意を確かめる必要があります・・・と、言うか確かめてください」

 

 話の途中でサイファーがアインズに耳打ちを始めた。

 

「アインズさんが真意を確かめてから行動に移れって二人を納得させたんだから」ゴニョゴニョ

 

「なにかあったんですか?」ゴニョゴニョ

 

 アインズの言葉にサイファーは苦笑いを浮かべながら話し始める。

 

「もちろん、報告の後すぐにアルベドが粛清するべしって息巻くし、一緒に止めてくれると思ったデミウルゴスも乗り気だったし・・・ホントタイヘンダッタヨ」ゴニョゴニョ

 

「え? それマジですか。大変でしたね」ゴニョゴニョ

 

 二人を抑えていてくれた友に感謝し、ふぅーと息を吐き出し支配者としての態度をつくり口を開く。

 

「話は分かった。しかし、私はセバスを信頼しているため謀反もただの杞憂だと思う・・・が、それではお前達の中にシコリが残るであろう。アルベド、デミウルゴス」

 

「「はっ!」」

 

「私はセバスの真意を確かめに行こうと思う。二人には共に向かう者の選抜を任せる、だがあまり大人数ではなく、あくまでも少数で向かう事とする」

 

 

 

 

 

 

 

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 全てを終わらせてセバスが館に戻るころには日が沈みかけていた。しかし頭を悩ませている問題については解決しておらず、ついには館に着いてしまった。

 扉を開けようと手を伸ばすが扉の向こうに二人分の気配を感じる。

 一人はソリュシャン、もう一人は判別がつかない。

 セバスは内心嫌なものを感じながら扉を開ける。

 

「おかえりセバス。散歩は楽しかったかい?」

 

 扉を開き目の前にいたのは至高の御方の一人サイファーが佇んでいた。そしてあまりにも想定外の光景を目にして硬直してしまった。

 

「どうしたセバス? 日も暮れてきたことだし早く中に入れよ」

 

 いつもと変わらない口調であったがセバスの心臓が一つ跳ねる。

 

「な、なぜ・・・」

 

 舌がもつれたようにしか言葉が出なかったが目の前の御方はやはり変わらぬ口調で話す。

 

「アインズさんが待っている。早く入れよ」

 

 その言葉にセバスは重い足を引きずるように館の中に足を踏み入れた。

 

「ソリュシャン。セバスをアインズさんの所へ案内してくれ。俺はもう一人のお客さんを迎えに行くから」

 

 サイファーの言葉にさらに体が強張り額に冷や汗がうかぶ。

 

「セバス。アインズさんに会いに行くまでに汗を何とかした方が良いと思うぞ」

 

 それだけ言うとサイファーはまっすぐにセバスが助けた女性-ツアレ-の部屋に向け歩いていく。セバスはその背中を見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

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 館の中にある質素な部屋でサイファーは女性と二人きりという状況に少し緊張していた。

 目の前の女性は美人とはいわないが愛嬌のある可愛らしい感じの人であった。しかしこの世界はなぜか美形が多いため美人ではないと言ったがサイファーの中の人から見たら十分すぎる可愛い子である。

 何か話したほうが良いのかと思うが、あっちは完全にこちらに怯えていた。

 確かに今は正体を隠しておらずいつもの悪魔の姿であったがそんなに怖いのだろうか。見た感じは角の生えた肌の青い青年であり、ほかのメンバーの造り込みに比べればまだ可愛いほうだと思う。

しかし彼女は顔を下を向け時よりカチカチと歯を震わせていた

 

 沈黙に耐えかねたサイファーは意を決し話しかける事を選んだ。

 

「たしかツアレとか言ったっけ? ここの生活は楽しい?」

 

 意を決した割にはしょぼい内容だったがもう後には引けないこのまま続けるしかない。

 

「は、はい・・・楽し・・い・です」

 

「そうか。それは良かった」

 

 それだけのやり取りで会話は終了し、再び思い沈黙がのしかかる。

 

 こんなはずではなかった。そう思いもう一度チャレンジしてみる事にした。

 

「セバスは優しくしてくれているかい?」

 

「は、はい。良く・・して・・いただ・いています」

 

 はい会話終了。どないせいっちゅうねん。

 

「サイファー様。アインズ様よりその娘を連れてくるようにと」

 

 ソリュシャンの言葉にツアレはビクッと震えさらに体を縮こまらせたがサイファーは逆に救われた気持ちになる。

 いくら危害を加えるつもりが無いと言ってもさすがにここまで怯えられたら話にならない。

 ま、少しとはいえ悪魔である俺と会話できたことはほめるべきかな。

 そんな事を考えながらサイファーは席を立ちツアレに部屋からでるように促す。しかしツアレの足は想像以上に重いらしい。

 そのことに業を煮やしたソリュシャンが口を開こうとしたが、サイファーは手を上げ言葉を遮り代わりに出来るだけ優しく言葉をかける。

 

「お前次第でセバスの運命が決まるのだ、早く行くがよい」

 

 その言葉に聞きツアレは震えながらだか歩き始めた。ソリュシャンを先頭にツアレ、サイファーと続いて目的の場所に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 普段と変わらない部屋にてセバスは決断を迫られていた。しかしそれは答えの決まりきった問題である。

 なぜなら、セバスはナザリックの執事であり、それ以外の何者でもないのだから。

『殺せ』と主人から絶対の命令が下った。ナザリックに鋼のごとき忠誠を誓うセバスにその命令に従わない理由はない。

 ツアレはそんなセバスの顔をみてセバスの決定を見て微笑むと目を閉じた。

 しかしセバスの動きにはわずかな動揺もなく、拳を硬く握りしめ瞬殺の速度を以てツアレの頭部に拳を叩きこんだ。

 

「ぐぉぉぉ!」

 

 しかし逆にツアレに叩きこんだ拳の骨が砕け激痛に声が漏れる。

 

「さすがは・・・セバス。ダメージらしいダメージを食らったのはこれが初めてだな」

 

「・・・何を? 邪魔をするとはどういうことなのですか?」

 

 セバスの拳を弾いたのはツアレの後ろに控えていたサイファーのスキルであった。

 

「反射スキル『アナタノタメニ』は対象にした味方のダメージを代わりに受けてカウンターするスキルだ。そして、俺でさえ結構なダメージを受けたんだ。人間であるツアレには耐えられないだろうな」

 

「そうでご・・うですか。セバス、下がれ」

 

 その言葉にセバスは理解する、すべては自分の忠誠を確かめるための出来レースであると。

 緊張の切れたツアレは涙目で体を震わせ倒れそうになっているが、サイファーが後ろからとはいえ一応支えていた。

 その様子にセバスはホッとするのと同時に引け目を感じてしまう。

 彼女を見捨てた自分がいまさら彼女の心配をするなど。

 

「ならばこれを以て、セバスの忠義に偽りなしと私は判断する。ご苦労だった、セバス。手はこれで回復するがよい」

 

 アインズから回復薬を受け取り硬い表情で頭を下げる。

 

 その場にセバスの忠誠を疑うものはなく皆主の言葉に肯定の返事を返す。それに満足したアインズは王都からの撤退を宣言しヴィクティムとサイファーを連れナザリックへと転移の魔法で帰還していった。

 

 いつもと違う主の演出じみた振る舞いに違和感を覚えたセバスであったがデミウルゴスに許可を取りツアレを部屋に送ることにした。

 

 

 

 

 


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