拙い文章ですがこれからもよろしくお願いいたします。
アインズとの衝撃の再会、そして別れから一時間ほどが経っただろうか、自分勝手な行動をデミウルゴスに怒られるのではないかと内心びくびくしていたが、逆にエントマを救出したことを褒められ、エントマからも感謝されお咎めはほぼなかった。
このままラスボスの役をやる羽目になりましたけどね(笑)
いやー焦った、焦った。やっぱり感情的になったらあかんわ、何事も冷静に行動せねば。きっとアインズさんはこれからの生活でも敵に何を言われようが『くそがぁぁぁぁ!』などと俺のように怒りを顕にすることはないんだろうな。
などとくだらない事を考えながらサイファーは倉庫区にて荷物運びに精を出していた。
「シャルティア。この倉庫はこれで最後だ、次に行こうか」
ふーと息を吐き、汗は流れてはいないがハンカチを取り出し汗を拭う仕草をしサイファーは働いた感を出していた。
その姿をシャルティアは苦笑いを浮かべながら此処に来てから何度か目の言葉を掛ける。
「サイファー様。やはりそのような雑務など他のシモベに任せたほうがよろしいかと?」
使ったハンカチを傍にいた適当な悪魔に渡しこちらも苦笑いで答える。
「そう言うなよ、出番が来るまで暇なんだよ。それに倉庫の中身にも興味があったし、いい暇つぶしになってるよ」
やはりNPCは俺が率先して働くのに良い感情を持っていないようである。
しかし、ここで折れて全てを任せてしまうと多分俺は一生働かなくなる自信がある。
そんか感じに軽口をたたくと「それの何処に問題がありんすか?」など真剣に答えられてしまいサイファー様はアインズ並みとはいわないが、もう少し真面目に働こうと心に誓ったのであった。
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倉庫区の資源をあらかた回収し終わり最後にこの地区に住む人間たちを悪魔たちのスキルで洗脳しナザリックに『転移門/ゲート』で誘拐……もとい招待しているとにサイファーの下にこの場にいない筈の人物が訪ねてきた。
「あれ? ペス。何でお前がここにいるんだ。誰かの使いか?」
ペストーニャが来るなんて計画も連絡もなかったはずだと考え周りをキョロキョロと見回すがそれらしき人物は見当たらない、するとペストーニャは急に目の前に跪いた。
「サイファー様にお願いしたき事があり参りました。どうか御聞き入れ願えないでしょうか」
「お、おう……」
何時かのコキュートスのように真剣に言われ、アインズのように支配者演技に慣れていないサイファーは内心の動揺を必死に抑えながら続きを話すように促す。
「私情で大変恐縮でありますが……どうか幼子だけでも御慈悲を与えては下されないでしょうか」
ペストーニャの言葉にサイファーは少し考える……考えるが何の感情も湧いてこなかった。何しろ犠牲になるのは全く自分には関係ない赤の他人だ、死のうが生きようが興味がない。
むしろその話を聞いて幼子が好物のシモベに今回の働きの褒美として配れば良い感じになるのではないのかと思ってしまう程だ。
しかしいろんな事を破ってまで直訴したペストーニャの意見を無下にするわけにもいかない。
しかし、なぜ俺なのだろう。この作戦の責任者はデミウルゴスであり、ナザリックの頂点はアインズさんだ。
中途半端な立場の俺でもなくてもいいはずだ。
「その願いはアインズさんやデミウルゴスにも言ったのか?」
「いえ。まだで御座います。御二人方よりサイファー様の方が希望があるのではないかと思い……」
震えながらなんとか声を出して答えるペストーニャの意見を聞き二人の性格を思い出す。
(まあ、この三人の中だと俺が安牌っぽいかな、デミウルゴスはカルマ値最悪だし人間は余すことなく利用すべしって考えだし、アインズさんはナザリックの最高責任者にて絶対なる支配者……確かに人間助けてって言いにくいよね)
それに女性にここまで頼られて無下にしては男が廃るというものだ。
「分かった、お前の陳情を受け入れよう。アインズさんとデミウルゴスには俺のほうから言っとくからあっちの空き倉庫に幼子だけ詰め込んどけ……その隣の倉庫は救出される用の倉庫だからついでに助けてもらえ」
その言葉にペストーニャはさらに頭を下げ感謝の言葉を述べ、その言葉に若干テレてしまったサイファーはさっさと行動するように促し、駆け足で駆けていく彼女を見送りながら胃の痛くなる相手に連絡を取るのであった。
でも思ったよりすんなりOKしてくれたのでサイファーの胃は痛まずに済んだ。
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開けた広場の中央でデミウルゴス特製の骨玉座に座りながらサイファーは本日の作戦のクライマックスの主役を待ち構えていた。
「首尾はどうだデミウルゴス?」
「問題ありません。後はここにくる何も知らないピエロにアインズ様、いえ、冒険者モモンの素晴らしさと強さを見せつけ時間になりましたら撤退となっております」
「サイファー様ぁ、あの女は私ぃに下さりませぇ」
何時もの甘い声でエントマは憎き女を要求してくる。もちろんOKと言いたいが今回は冒険者モモンの英雄談の引き立て役アンド語り部になってもらうという大役があるため『今回はダメだが用が済んだらあげるよ』って約束してあげたら凄く喜んでいた。
その姿はとても可愛らしく役得を感じていたが同時に寒気もし始めた。
何故ならギルドのメンバーの中にはエントマが好きすぎる人もおり、彼女に近づくといちゃもんや難癖をつけられたり彼女の魅力をログアウトまで聞かされるという無限コンボの存在があるためである。
そんな地獄を何度も味わったサイファーの経験が警告を鳴らしている。
もちろんエントマだけではなくプレアデス全員にそれぞれに固定のファンがついているため無暗やたらに近づく事はお勧めできない。
近づいたら最後、その派閥の色に染まるまで『お話』を延々とされ、染まってきたら『俺の○○ちゃんに色目使うんじゃないぞ』と脅されるという理不尽コンボが定番である。
ちなみにサイファーはギルド最多のお話し合い参加者であり、その結果何色にも染まりきらず無所属の扱いになっている。
そんな昔の事を思い出していると前方に人影が三つ見えてきた。尤も三人とも顔見知りであるため驚く事ではないが、横に控えているエントマはその内の一人仮面をつけたローブ姿の少女を恨みがましく睨み、デミウルゴスは中央に立つ漆黒の戦士に対し優雅な一礼を見せる。
「さて、役者は揃ったようだな……始めるぞ」
サイファーは椅子より立ち上がり三人が来るまで頑張って練習した悪魔の盟主の演技を開始した。
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「見えてきたな」
戦場を突っ切り盟主を名乗る悪魔のもとに走り続け遂に広間の中心に目的の悪魔を発見した。
その悪魔は隠れもせず堂々と骨で出来た玉座に鎮座しておりその両隣にはあの蟲のメイドとヤルダバオトが控えていた。
相手も自分達に気付いたらしく蟲のメイドはイビルアイに向け殺気を放っており、ヤルダバオトは優雅な一礼をして見せている。
その余裕な態度が意味する事はたった一つ。
「罠か。どうするモモン様」
「何が待とうと食い破るほか道はない」
「まったくその通りだ」
モモンの言葉遣いが他人行儀ではなくなったためイビルアイも普段通りの話し方で返し目の前の敵に狙いを定める。
その時後ろから太鼓や勇ましい雄たけびが聞こえてきた。
盟主を名乗る悪魔を倒すべく敵の防衛戦力を削ぐための作戦が開始されたのだろう。
「どうやら予定通りに始まったようだな」
「ああ、その通りだ。モモン様、出てくるだろう敵の伏兵は私とアルさんが相手をする。だから心置きなく戦ってくれ」
「了解だ。だが決して死ぬなよ。アル、彼女に協力して戦え。三人揃って帰還する事が私の願いだと知れ」
「わかったわモモンさん」
三人が盟主の前に降り立つと、盟主は玉座から立ち上がり薄ら笑いを浮かべながら拍手をし始めた。
「なんのまねだ!」
その態度に若干の怒りを憶えたイビルアイは感情的に口を開く、そんな彼女を無視するかのように盟主は言葉を発する。
「よくぞここまでたどり着いたな。褒めてやろう、そして改めて名乗ろう。俺の名は盟主、悪魔の軍勢を統括する絶対者である」
薄ら笑いをやめ冷たい目でこちらを睨んでくる盟主、その氷のような視線に堪え切れすイビルアイは一歩後退してしまったがモモンとアルは平然と盟主を睨み返していた。
そんな二人を見てイビルアイは改めてモモンの胆力に驚かされる。
「このまま君達を消すのは簡単だ。しかしモモン、君ほどの男は殺すには惜しい、だから提案しよう……」
盟主はマントを翻しモモンに手を差し伸べる。
「俺の部下となれ! さすれば褒美として世界の半分を君にやろう。どうだ悪くない話だろ?」
盟主の余りにも規格外の提案にイビルアイは驚愕する、盟主にとってモモンとはそれほどの価値がある存在なのだろうか。
「断る。その提案では私は世界の半分しか救えないことになる。ここで貴様を倒し世界のすべてを救わせてもらう」
カッコイイ。モモンの事だから必ず断ると思っていたが此処までカッコよく断るとは思いもしなかった。横にいるアルもイビルアイと同じ思いを抱いたのか構えていた武器を下ろしモモンに熱い視線を送っていた。
「非常に残念だよ。君ならばもう少し賢い選択をしてくれるとばかり思っていたのだが」
盟主は少しも残念そうな顔はせず冷めた目で指を鳴らす。それを合図にヤルダバオトと同じ仮面を被った者たちが物陰より現れる。
「五人だと? クソ!盟主の持つ戦力を侮っていたか」
自分と同格程度の戦闘力を持つ者が総数六人。戦力不明だがメイドより強いと思われるヤルダバオト、そして盟主。
三対八では彼我の戦力差は大きくかけ離れ勝算は限りなく低くなる。
「ではそちらの七人は任せる」
モモンはそう告げると、剣を両手に握りつつ、自然な足取りで盟主に向かって歩いていく。その姿にイビルアイは心細さに苛まれるがすぐに弱い心に叱咤し闘志を燃やし始める。
「では行くぞ、サイ……ファぁぁぁぁぁ!!」
「来い!モモン……ガぁぁぁぁぁぁ!!」
声を張り上げ、盟主に斬りかかるモモン、対する盟主はイビルアイ戦で見せた不可解な技は使わず何もない空間から大鎌を取り出しモモンに飛び掛かって行き応戦し始める。
イビルアイ戦では動きもしなかった盟主だがモモンに負けず劣らずのパワーで苛烈な打ち合いを繰り広げる。
二人を巻き込まないためかモモンは盟主を誘導しながら徐々に離れていく。
「それで私が五人で貴方が二人で良いわね」
「待て! なぜアルさんがそんなに相手にするんだ!」
「魔法詠唱者である貴方は多数戦には向いていないわ。私なら倒せないでも防御に徹すればモモンさんが盟主を倒すまでの時間稼ぎくらいはできるわ」
アルの言葉にイビルアイは言葉に詰まる。
「ならば私もこの戦いに参戦いたしましょう!」
その言葉と同時に空から何かが地面に落ちてきて土埃が舞い上がる。
しかしすぐに風が吹き始めあっという間に土埃を晴らしてしまい声の主が現れる。その人物は赤黒いフード付きマントに身を包みフードから角がちょこんと生えていた。
「お前はチーム『漆黒』最後の一人、魔法詠唱サイファーなのか!?」
「その通りで御座います! 麗しイイお嬢様。このサイファー別行動を終え全力でやって参りました!」
演技掛った仕草でマントを翻しながらイビルアイに向き直り、これまた仰々しく一礼をしてみせる男にアルがあきれたように声をかける。
「遅かったわね、サイファー。説明はいるかしら?」
「無問題です! 大体の事は理解しております。ですので私が二人抑えますのでアル様が三人、お嬢様が二人を抑えて下さい、さすればモモン様が憎き盟主を倒してくださるでしょう!」
体のすべてを使い演技掛った手振り身振りで作戦を伝えるサイファーにイビルアイはいろいろと言いたい事があったが、戦力が増える事で自分たちの勝率がわずかだが上昇したことに少し安堵し心に余裕が生まれる。
「いいのか? 私が三人でも構わないぞ?」
ふん、とアルが笑った気がした。
「貴方が二人で私が三人よ」
その態度にイビルアイは破顔し、モモンをめぐるライバルだと思っているがイビルアイはアルに対しさらに好感を抱いた、自分の正体を明かしても良いと思えるくらいに。
「それとサイファー殿、私の名はイビルアイ。お嬢様なんて名前ではない」
「これは失礼いたしました。余りにも可憐な御姿につい」
「お喋りはそこまでよ。 さて、三人は私の相手をしてほしいのだけど、誰が来るのかはそちらに任せます」
「では、私がお相手させてもらいましょうか」
アルの前にヤルダバオトが立ちふさがり、それに釣られたように蟲メイドにポニーテイルのメイドが追従する。
イビルアイと対峙したのは髪を結い上げたメイドと、ロングヘアのメイド。
サイファーには三つ編みのメイドにロールヘアのメイドが立ちふさがる。
「行くぞ!」
高らかに吠えイビルアイは魔法を発動させた。
今更解説サイファーの設定
名前 - サイファー
性別 - 男
役職 - 特になし
属性 - 中立【カルマ値:0 】
種族レベル
小悪魔 - 10
中位悪魔 - 10
最上位悪魔 - 5
純血種悪魔 - 5
魔王種悪魔 - 5
職業クラス
カウンターマスター - 10
マジックリフレクター - 10
ダメージコントローラー - 10
リフレクターナイト - 10
フィールドソーサラー - 5
エレメントガードナー - 10
呪殺師 - 5
薬学師(毒) - 5
種族レベル 35 + 職業クラス 65 = 100レベル
能力表(最大値を100とした場合の割合)
HP - 200 (課金あり)
MP - 10
物理攻撃力 - 50
物理防御力 - 50
素早さ - 30
魔法攻撃 - 0
魔法防御 - 40
総合耐性 - 20
特殊 - 80
備考
① 悪魔王はあくまでふざけて名乗っていただけだが誰もその事にツッコミを入れてくれなかったのでそのまま定着してしまい、以後そのまま名乗っている
② 性格は温厚で人当たりが良い、そのせいか貧乏くじを引く回数がやたら多い
③ 上記の性格だが彼も異業種の例にもれず人間種のプレイヤーに何度もPKされた経験があるためアインズ・ウール・ゴウンのPKKには積極的に参加しており、PKへの怨みは人一倍あり、差別や偏見を嫌っている
④ 実は生身の肉体がある分モモンガより精神の統合が進んでおり自分が元人間であることを忘れてしまっている、その為か人間に対しの同族意識はほぼ無くなっている
しかし元来の性格とカルマ値が低い事が幸いし人間種そのものは嫌っておらず、相手が好意をもって接してくれば優しく対応する事もでき仲良くなることも可能である
しかし無礼な奴、常識がない奴、他種族を差別する奴はその範疇になく、昔の異業種狩りの記憶とともに葬り去るべく強硬手段を取ることが多い