オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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何か知らないけど投稿にえらく時間がかかりました
きっと夏が暑いせいだと思います。






四十四話目 魔導国建国物語 ~vs王国軍~

 

帝国の宣言から二か月が経過し。吐息が白くなる季節となった

この時期になると各領地の村々では屋外の仕事から家の中での仕事に移行し、外を出歩く者は少なくなる

この時期も忙しく働く者などそうはいない、年中暇なく働いているイメージの冒険者でもそうだ

しかし、食料を求めて飢えた魔獣などが時折、村里まで現れることもあり、その魔獣退治の依頼が舞い込んでくるが、基本的には冒険者にとってもこの時期は休みの時期であり、訓練や副業に精を出すのだ。

 

しかし、今日のエ・ランテルはそのような常識が通用せず、熱気がこもるほど人で溢れていた

熱気の発生源はエ・ランテルの三重の城壁のもっとも外周部の城壁内から発生していた。人数にして、約25万人くらいはいるだろう。

 

確かにエ・ランテルは三カ国の領土に面しており交通の量は多く日々様々な物資が行きかっているが、ここまで多いのは帝国との戦争の為に地方の村々から徴兵されてきた人々が集まっている為である

 

「・・・っははは。ここに王国の兵士が集められると聞いていたけど、この目で確かめてみるとやっぱり多いな。ナザリックに攻め込んできた1500人を見た時もその人数に圧倒されたけど、この人数見たら1500なんて大したことないと錯覚してしまうな」

 

城壁の上にて王国の兵士の様子をうかがいながら、ついそんな言葉が漏れてしまった

 

「何言ってるんですかサイファーさん。あんな数だけの有象無象と比べられたら無謀にもナザリック地下大墳墓に攻め込んできた1500人が怒りますよ」

 

「確かに。俺たちが隠れて様子を見ているのに看破も違和感も感じないほど低レベルの雑魚とあのカンストガチ勢を比べたら悪いですよね。・・・やっぱりこの場にプレイヤーの影はなしか」

 

この城壁まで隠蔽系魔法で姿を隠してきたとはいえ、堂々と正面から歩いてきたが、人混みが邪魔で歩きにくい以外、何事も無く素通りだったためサイファーは早々にこの集団に見切りをつけていた

 

「・・・断言はできませんね。ここにいる25万人は囮で、こちらの戦力を分析する捨て駒かもしれませんし、開戦時に混乱に紛れてこちらに攻撃を仕掛けてくる事も考えられます」

 

サイファーの希望的観測を聞きアインズは冷静に答えていく

確かにサイファーの言う通り、最高レベルの隠蔽を施しているとはいえ、専門職ではない為、その道のガチ勢から見ればあまいと言われるレベルである

しかし、プレイヤーである二人が堂々と兵士の駐屯所に居座っているのに誰も気付いたそぶりも見せず、ある者は粗末な装備で戦闘訓練らしきものを行い、ある者は何人かで集まり戦争の愚痴や国家の陰口を話し、またある者は何かに絶望したように膝を抱えてうずくまっている

そんな人間たちを観察していると自分の考えは杞憂ではないかと思えてしまう

 

「・・・まぁ、考えても仕方がないか。特に見るべき所も無かったし、敵情視察もこれくらいにして帰りましょうか?」

 

いくら観察してもプレイヤーの影は見当たらず、士気もやる気も感じられない兵士ばかり見ていて気が滅入ってきたアインズは飽きたとばかりにサイファーに声を掛ける、彼も退屈になってきたのか二つ返事で了承した

 

「はいよ。あっ、俺も一緒にナザリックに帰りますんで送迎よろしく」

 

「ん、屋敷に帰らずナザリックに帰るんですか?」

 

「ああ、アインズさんが来る前にチエネイコ男爵とか言ったやたら偉ぶったおっさんが来て、あまりにもムカつく態度だったんで、出かけるから忙しいって突っぱねて出てきたから、開戦時までナザリックでゆっくりするつもりですよ」

 

気の良い友人がムカつくと言うくらいなのでよほどの相手だったんろうと思い、戦場にいたら真っ先に処分する事を検討しながらサイファーに相槌をうつ

 

「ふーん、じゃあ、帰ったら久しぶりにチェスでもしますか? 最近駒の動かし方が分かってきたから相手が欲しかったんですよね」

 

「ふふふ、良いですよ、じゃ、負けた方が今度の飲み会の幹事をするってのはどうですか?」

 

「ええ、かまいませんよ。勝つのは俺ですからね」

 

二人は笑顔でにらみ合いながらアインズの転移魔法にてナザリックに帰還していった

 

ちなみに、初心者~素人レベルの勝負だったが、たまたま勝負の最中に盤を見たデミウルゴスはサイファーの定石をまったく無視した打ち方に衝撃を受け、アルベドはサイファーの常識外れの打ち方に完璧に対応しアインズの『チェック・メイト』の一声でヤバいくらい興奮したそうな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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農村にとって冬は畑仕事が少なくなるかわりに家の中での仕事が増える時期である。例えば家畜の世話、農具の修繕、家や納屋、家畜小屋にも手を入れる必要がある

それはここ、カルネ村でも例外ではなく、村人たちは休みなく働いていた

なぜなら、この村には通常の村とは違い、オーガという肉食のモンスター達を養わなくてはならないからだ

そのため、狩人はトブの大森林で肉を確保するために狩りを行い、その狩りにだけに頼らないように豚の飼育も始まっていた

この豚の飼育はまだ実験段階だが、うまくいけばそのまま数を増やしていくだろう

色々と困難な状況が続き問題もあったが、確実にカルネ村の未来は明るいものになっていっている

 

そんな明るい村だが、ただ一名だけ暗い雰囲気を醸し出している少女がいた

その少女は自分の家の隣にある鳥小屋の前でより一層沈んでいた。その鳥小屋にはガーガーと喧しく騒ぐガチョウが十数羽ほどおり、二人の妹が餌やりと小屋の掃除をしている

掃除をしている姉妹は数か月前まで貴族の令嬢だったとは思えないほどて手際が良く、さっさと仕事を終わらし、小屋の隅に産み落とされている卵をカゴいっぱい収穫していた

 

「・・・どうしてこうなったのだろう・・・一羽だけでも物凄い価値があるのに、増えるなんて聞いてませんよ、悪魔王様」

 

一羽だけでも大変だったのに、たまたま卵の収穫をせず小屋に置きっぱなしにしていたら、朝起きればガチョウは2羽に増えているではないか

 

その時は思わず大声を上げてしまい、妹やヘッケラン達に要らぬ心配を掛けてしまった

それはそうとして、家に保管している卵は孵らないのに、なぜ小屋の中に置いていた卵は孵ったのか疑問に思い、思い切って村にいるメイドさんに説明を求めたら

 

『え? アルちゃん何言ってんすか? 未収穫の卵を一晩置いておくと孵化するなんて常識じゃないっすか。・・・あ、残念ながらそのガチョウはレア度が低いっすから生まれたガチョウは金の卵は生まないっすから、普通の卵を収穫するか食肉にするしかないっすよ、一獲千金の夢はやぶれたっすね、ぷぷぷ、ザマァ』

 

訳が分からないし説明も良く分からないかった

 

・・・いや、あのお方が与えてくださった物に常識を当てはめる事が間違っているのだと自分に言い聞かせ、オーガ用の肉の確保が安定し村に貢献できるし、尚且つ新鮮な普通の卵も確保できるのだから何も問題は無いはずである

 

今日もたくさん収穫出来たことを喜び合う妹を視界に収めながら、アルシェが今日何度目かのため息をついているとエンリとンフィーリアが慌ててこちらに走って向かってきている

 

「そんなに慌てて、どうしたのエンリ?」

 

一緒にいるゴブリンのジュゲムも慌てた様子であり、このゴブリンがここまで慌てているのは、あのトロールが攻め込んできた以来だ。

アルシェの経験則からくる勘がかなり激しく警報を鳴らしていた

 

「アルシェさん! ぐ、軍隊が、この村に向かってきているんです! 急いで装備を整えて門に集合してください!」

 

「 !! こんな時期になぜ?・・・どこの所属、人数は?」

 

「ジュゲムさんの説明を聞く限り、おそらくは王国の軍だと思います、数は・・・最低でも四千くらいです・・・」

 

「・・・分かった。妹たちを避難させてからすぐに向かう」

 

その後二、三言葉をかわしエンリたちは走って門に向かってい、アルシェは急いで妹たちを呼び戻し避難用の鞄を背負わせ緊急時の避難場所に向かわせ、自身も倉庫にしまっていた装備を取り出し急いで装着していく、そして最後に宝箱の奥に厳重にしまってあった『伝言/メッセージ』の魔法が込められたスクロールを取りだした

 

「・・・王国の軍隊が村に攻めてくる、私たちでは対処出来るレベルじゃない・・・お力をお貸しください」

 

スクロールに魔力を込めると、すぐに熱を感じない炎をあげ燃え尽きていき込められている魔法が発動した

 

【・・・ん、緊急時の『伝言/メッセージ』か・・・エ~、ゴホン。こちらは悪魔王サイファーである。して、何用か?】

 

『伝言/メッセージ』越しからでも感じられる威厳と重圧に耐えながらアルシェはカルネ村に迫る危機を報告する

 

【ファ、マジで・・・あ、いや、了解した。よくぞ報告してくれた、すぐさま討伐隊を編成し駆逐に向かおう。それまでは村の人々と協力し防戦せよ・・・】

 

魔法の効果が切れ、辺りに静寂が訪れ、アルシェの心臓の音がやけに響いて聞こえる

 

「・・・あの恐ろしい悪魔王様が討伐隊を率いて王国軍を駆逐する? もしかして私、とんでもない引き金を引いてしまった・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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カルネ村に緊急事態発生。その報告を受けたサイファーはすぐさま情報収集を行い、カルネ村に進軍しているのが王国の第一王子率いる軍だと突き止めた

 

・・・もっとも、情報はデミウルゴスが五秒で出してくれた、彼曰く『第一王子は政治的、戦略的にも利用価値が無く、どうでもいい存在』だそうだ

 

サイファーはアインズの許しを得て、動かしても問題ないシモベ達をすぐさまかき集め、ナザリックの地上部に集合させた

 

ナザリックの地上部に展開している戦力は

アインズが貸してくれた『魂喰らい/ソウルイーター』が100体

プレアデスより ソリュシャン、エントマと現地で合流するルプスレギナの3人

階層守護者より シャルティア

 

「いいかお前ら!! こいつらは俺たちギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の所有地に愚かにも攻め入ってきたんだ、遠慮はいらん、存分に遊んでやれ!」

 

人間相手には過剰なまでの戦力が集まったが、これも第一王子の人徳がなかったとして諦めてもらおう

それに集まったシモベ達も、至高の御方の名の下に人間を好きにできるとかなり張り切っている

 

「皆の者、準備は良いか!! シャルティア、まずはカルネ村にいるルプスレギナの下に『転移門/ゲート』を頼む」

 

サイファー命令を受けシャルティアは嬉々として魔法を唱える、彼女もこれから始まる虐殺にわくわくしているのだろう、その顔はとてもいい笑顔だった・・・

 

 

「さぁ、愚か者共を粛正に行くぞ!!」

 

サイファーの掛け声を受け、まずは『魂喰らい/ソウルイーター』が100体が『転移門/ゲート』をくぐり抜けていき、その後をシャルティアとプレアデス二人に守られながらサイファーがその後に続いた

 

『転移門/ゲート』を抜けると、そこは薄暗い森の中であり、辺りからは太鼓の重くリズミカルな音と人の悲鳴が止むことなく響いていた

 

「ん? なんだ、この太鼓の音は? おーい、ルプスレギナ、これどういう状況?」

 

「はいっす! 簡単に言いますとエンリちゃんがアインズ様より賜った笛を吹いたらでてきたっす。マジすごかったっすよ」

 

「はぁ!? 『小鬼将軍の角笛』で召喚したっていうのか! そんなバカな! ネットにだってこんな効果があるなんて書いてなかったぞ!」

 

「ねっと? が何か知らないっすけど、エンリちゃんが使うところを後ろからちゃ~んと見ていたっすから間違いね~っすよ」

 

課金アイテムの一つでありながら使ってもザコいゴブリンが小隊規模しか召喚されないはずれアイテム

これがユグドラシルプレイヤー共通の認識でありこのような効果はユグドラシル始まって以来発見されていない事だった

 

「はぁ~、世界には俺たちが知らない事がまだまだあるんだなぁ~・・・ お、そうだ。ソリュシャン」

 

「はっ!」

 

「ゴブリン達はここに攻めてきた王子様を生かして返したみたいだけど・・・俺は生かして返すつもりはないから、とりあえずエントマとルプスレギナと一緒に『魂喰らい/ソウルイーター』が100体で俺の村での野暮用が終わるまで監視しといて」

 

サイファーの命を受けすぐさま全員が行動を開始し、誰もいなくなったところでシャルティアを連れて目的の人物を探し始める

探すのに時間がかかると思ったが目的の人物であるアルシェとその仲間たちは村はずれの路地におり、ボロボロだが皆、生きているようだった

 

「よう、ずいぶんと頑張ったじゃないか?」

 

警戒されないようになるべくフランクに話しかけたが、全員がギョッと驚き、疲れて座り込んでいただろうに一斉に立ち上がりあたふたし始める

 

「うおぉ! サ、サイファー様! な、なんでこんなとこに!?」

 

「バカ!落ち着きなよヘッケラン。アルシェがサイファー様に支援を要望したって言ったでしょ」

 

「だけどよ、本人が直接来るなんて夢にも思わないだろうが!」

 

「まあまあ、お二人とも、サイファー様の御前です、失礼のないように」

 

ようやく状況を飲み込めたのか全員、サイファーの目の前に跪き、次の言葉を待っているようだ

 

「まぁ、まずは傷の手当からしようかね」

 

アイテムBoxより全体回復の霊薬を取りだし、そのまま瓶のふたを開け、その中身を周りに振りまくと薬品は瞬く間に霧状に霧散し、その場にいた全員を回復させる

その現象を不思議がりフォーサイトの面々は驚き声を出すが、一々答えてあげると時間を食うので今回は無視し、話しを進める

 

「さて、フォーサイトの諸君、今回の働きは予想外に素晴らしいものだったと私は考える。そこで、特別に何か褒美を上げようと思うのだが、ちょっとこの後用事があるから、この紙にお前らの望む報酬を書いて定期報告の時に使者に渡してくれ、そうしたら後日その報酬を届けさせるよ」

 

そう言ってこの世界で作っている羊皮紙をリーダーであるヘッケランに手渡たしたが、なぜか全員、唖然としていて話しを聞いてない様子だった

 

「の、望む報酬って・・・何を書いても良いんですか?」

 

アルシェが何とか絞りだしたと思われる言葉にサイファーは思わず首を傾げてしまう

 

「俺はそのつもりなんだけどなぁ ・・・まぁ、君たちの良識に任せるよ」

 

その言葉に再度フォーサイトは固まってしまったが、言う事言ったし、これ以上はここにいる理由も無い

 

「シャルティア、お待たせ。さぁ、俺たちの所有物に手を出したバカ共の所に行こうか」

 

シャルティアの『転移門/ゲート』で村を襲った王子様の所に向かったサイファー一行

向かう先はもちろんこの村を襲った王子様のところだ

 

 

その時の様子は詳しくは記さないが、第一王子であるバルブロは夜が明けても死ぬことを許されず、まだ楽しみたいという部下の頼みを悪魔王が了承したため、その続きはナザリック地下大墳墓で彼女らが飽きるまで続けられることとなった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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