村長の家は広場からすぐのところにあり、家に入ると土間の真ん中にあるテーブルと複数の椅子があり、村長に座る様に進められアインズとサイファーは椅子に腰を下ろした
「村長の家のわりに結構ボロイですね、アインズさん」
「・・・確かにそうかもしれませんね」
小声でかなり失礼な事を呟くサイファーだが、今回ばかりはアインズもそう思ってしまう。椅子は体重を掛けるたびにミシリミシリと嫌な音を立てるし、ガントレットを着けているとしてもテーブルの上にのせるたびにガタガタと揺れており、まさに貧しいという言葉が相応しいかった。
「お待たせしました」
そう言って村長が向かいの席に座り、その後ろにいた村長の妻が何か入っている器を二人の前に出した
「どうぞ」
「・・・これって白湯ってやつですか?」
サイファーは目の前に出された白湯を物珍しそうに眺めた、何しろ温めた水ー 白湯 ーを出されたのは初めての経験であったためである
「そ、そうですが、何かお気に障る事でもありましたか」
「いや、白湯を出されたのは初めての経験でして・・・つい口に出してしまいました」
目の前の悪魔に未だに慣れない夫婦は緊張した面持ちで言葉を掛けたが、悪魔は特に気にした様子もなく答えた。その様子をうかがっていたアインズは話を進めるべくきりだした
「・・・さて、そろそろ報酬の交渉をいたしましょうか」
アインズは気を引き締め目の前の村長に向き合った、欲しいのはこの世界の情報であり、決して金銭などではない。だからといって情報を報酬としてくださいと素直に言っても怪しまれるだけだ、村長を言葉巧みに誘導し怪しくない程度に情報を集めなくてはならない、もしも今回の事件が権力者や力ある者が知ればこちらと接触しようとしたとき、この世界について無知だと知られれば何らかのだまし討ちにあう可能性が出て来る
だからこそ警戒は怠れない
その事を念頭に置きアインズは交渉をはじめた
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村長とアインズが交渉をしている中、サイファーは退屈だった。何しろ話はほとんどアインズ主体で進めており
自分は只々二人の話を肴に白湯をチビチビと飲むだけだった。
サイファーは椅子の背にもたれ掛けながら話している二人の様子をうかがう。アインズは村長から話を聞くたびに、なんじゃそりゃ、とか失態だ、とか独り言が漏れておりそのたびに話がいちいち止まってしまう
白湯がもう一杯欲しいが村長の奥さんは席を外してしまっておらず、話をしている村長におかわりを要求するほど空気は読めない訳ではない。
悩んだ結果、仮面を着けて白湯に口を着けて無いアインズの分を頂くべく手を伸ばした時、ドアをノックされる音が響いた
「どうぞ、私も少し休憩が欲しかったところです。出ていただいて構いませんよ」
「申し訳ございません」
村長は軽く頭を下げ席を立っていった
「村長。お話し中すみませんが、葬儀の準備が整ったので」
「構いませんよ私達のことはお気にされずに」
「ありがとうございます、では、皆にはすぐ行くと伝えてくれ」
このやり取りを見ていたサイファーは続きはアインズ一人に任せようと心に誓った・・・決して退屈とか、話に混ざれなかったからではなく、あの人が一番適任だからである
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村はずれの共同墓地で村人の葬儀の様子を離れた場所で眺めていたが、アインズがローブの下で『蘇生の短杖/ワンド・オブ・リザレクション』を撫でていたのに気付いたサイファーは何のために出したのか聞いてみた
「使う気が無い物を取り出してどうしたんですか」
「いや、この世界には死者蘇生の魔法やアイテムは存在するのかなぁと思って。もし無ければ死者蘇生の手段を持つ俺たちは厄介ごとに確実に巻き込まれますね」
「そう思うならアイテムボックスから出さない方が良いですよ、こっちの角度から杖は丸見えですよ」
サイファーの言葉にアインズはギョッっとし、そそくさと杖をしまい込んだ
「あと、もう用はないんだから、こいつを何とかしてくださいよ」
アインズは指をさされたデスナイトに視線を移した。ユグドラシルなら召喚されたモンスターには時間制限が設けられているが、このデスナイトは未だに消えずここにいる。いろいろと推測が成り立つが情報が足りず答えは出ない
「アインズ様。少しよろしいでしょうか」
「ん? どうしたのだアルベド」
「はい、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)がアインズ様にお目通りがしたいということで連れてまいりました」
そう言うとアインズの前に人間大の大きさを持つ、忍者服を着た黒い蜘蛛に似た外見のモンスターが頭をたれアインズに襲撃の準備が終わったから何時でも行けます、とのことだった。アインズは既に問題は解決済みと八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)に伝え指揮を執っているアウラとマーレ共ども待機を命じた
ちなみにサイファーはアルベドにまた声を掛けられなかった事に少しへこんだ
「はぁ、もういいだろう、サイファーさん、そろそろ帰りましょう」
「そうですね、正直ゲームみたいに大歓迎されると思ってたけど期待外れだったな」
先に歩き始めたアインズの後に続く様に歩き始めるサイファーだったがアルベドからピリピリとした空気が立ち込めているのに気付きサイファーは声を潜めアルベドに問いかける
「もしかして、アルベドって人間が嫌いなの?」
「・・・好きではありません、脆弱な下等生物であり、虫の様に踏みつぶしたらどれだけ綺麗になるかと」
「あっ、はい」
アルベドの声は甘い蜜の様な声色だが内容は苛烈で・・・なぜかこちらをじっと見つめており、少し寒気がした
二人の会話を聞いていたアインズはアルベドには似合わない言葉と思い、諭すように声を掛けた
「お前の気持ちは分かるが、ここでは冷静に優しく振る舞え、演技というのは重要だぞ」
アルベドが頭を下げるのをみてアインズは部下の好みも把握するべきと心のメモ帳に書き記した
「ところでアインズさん、帰るなら向こうの茂みで『転移門/ゲート』を使用した方が早いですよ」
「いや、帰る前に一応、村長に挨拶しようかなと思いまして」
「そうですね、おっ、ちょうど広場にいましたよ」
サイファーが指さす方には村長はいたが数人の村人達と相談中の様子だったが緊張感がその顔には浮かんでいた
「また厄介ごとか・・・・どうかされましたか?」
「おお、アインズ様。実はこの村に馬に乗った戦士風の者が近づいているそうで」
アインズはそれを受け、安心させるように軽く手を上げた
「なるほど、任せてください。村長殿の家に生き残った人を集めてください、私と村長殿で対応しましょう」
鐘をならし、住民を集める一方でアインズは怯える村長に明るい声で話し掛ける
「ご安心を、今回はただでお助けしますよ」
苦笑いを浮かべる村長と共にアインズは村の中央の道を走ってくる騎兵の姿に目を向けた
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人々が集まってくる村長の家の中で村人の誘導をするサイファーは自らの地味な役回りに誰にも聞こえないようにブツブツと不満を漏らしていた
「なんで俺は家の中で待機なんだよ・・・確かに村人の護衛はアルベドやデスナイトじゃ難しいけど、何が『悪魔種のサイファーさんがいると戦士風の奴らにあらぬ誤解を与えるかも知れませんから村人の護衛をお願いします』だよ、デスナイトの方がよっぽど印象が悪いと思うけどな」
文句は幾らでも出たが顔や態度には出さず村人達に声をかけて回ったがほとんどの人が疲れと不安で元気が無く、結構な人数がいるはずだが誰も口を開かず黙っており自分の声ばかり響いていた
そんな村人をサイファーは俺らがいるのに辛気くせーと思いつつ窓の外を眺める。広場には騎兵団が集まり隊長格の人間が馬から降りてアインズと何かを話していた、騎兵たちはこの村を襲ってきた奴らと違い装備も格好もバラバラで、まとまりのない傭兵団みたいである
アインズが上手くやってくれるだろう、そう思いサイファーは外を見るのをやめた。その場を離れ辺りを見回し人の多さに辟易していると、ふと二人の姉妹の姿が視界に入った。待つのに飽きたサイファーは話をして時間を潰そうと考えそちらに歩き始めたが姉の方がサイファーに気付き、その場で立ち上がり頭を下げてきた
「すまないな、親を助けられなくて」
「いっいいえ、こちらこそ村を救って下さりありがとうございます・・・」
「いや、困っている人を助けるのは当たり前だからな」
・・・どうしよう暇だから声を掛けたのにもう会話が止まってしまった。良く考えたら親が死んだのに楽しく談笑なんかできる訳ねーだろうが・・・何か、何か話題を変えないと
別にここで会話を切り他に行けばよかったのだがサイファーの中に残る人の心が女子との会話の途切れを恐れ、焦りが支配してゆく
(話題、話題が欲しい、リアルでも親が亡くなったばかりの子との会話なんて一度も無かったし、どう対応するのが正解なんだ、助けなかった俺が『それはお気の毒に。ご愁傷さまです・・・』なんて言えないし、クソ、暇だからって話し掛けるべきじゃなかった。誰か助けて~今、場の空気を変えてくれたら全力で今後の生活の支援を約束するぞ~)
目の前で暗い顔をする女の子の扱いに困り果てたサイファーはかなりテンパっており周りを見渡し助けを求める視線を送るが、家に集まっている人々はそんな元気もない様子であり、サイファーは空気に耐え切れずそそくさと退散しようとしたとき、彼女の妹がその空気を変えてきた
「ねえ、サイファー様は本物の悪魔ですか?」
「ネム、何を言ってるの!!」
妹の爆弾発言にエンリは驚き慌てて口を手で押さえ妹の行為を謝罪しようとしたが目の前の悪魔は笑い、楽しそうに答えた
「そうだよ、正真正銘の悪魔だよ・・・あ、角触ってみる?(よし空気が変わった、ナイス!、ナイスだネムちゃん、もう君は一生助けてあげちゃう)」
サイファーはネムの前でしゃがみ頭の角を突き出しすとネムは物珍しそうに触り始めた
「うわ~、おっきくて、かたいよ、お姉ちゃん」
「こ、こら。妹がすみませんサイファー様」
ネムと違い態度が固いエンリ、これがある程度大きくなった子と子供の違いかな
「いやいや、気にしなくて良いよ。あと別に様づけじゃなくてもいいよ」
「いいえ、そんな事出来ません」
「・・・じゃ、『さん』づけなら呼んでくれるかな?」
「・・・分かりました、サイファーさーーん」
「さーーんって、まぁ、少し間抜けだが最初はこんなもんかな、おいおい慣れていってね」
未だに角にじゃれつくネムだったがサイファーは悪い気がしなかった。何だかんだ言って会話は弾んできており二人に少し笑顔が戻ったことが少しうれしくなった・・・なんか当初の目的がうやむやになってきたが気にしたら負けである・・・
「サイファーさん。ここにいたんですか」
「あれ、アインズさん、表の騒動は片付いたんですか?」
「いえ、その人達は村のためにスレイン法国の部隊に突撃して行きました」
「スレイン法国? ここを襲ったのは帝国兵じゃないの?」
「どうやら王国のガゼフ・ストロノーフを暗殺するための偽装だったみたいです・・・詳しくは移動しながら話しますから」
「え?また移動するの」
もう何もかもがめんどくせーとアインズに訴えたら、後で出番があるから我慢してと言われた・・・まだイベントがあるのか、正直な話し、エンリとネムとある程度仲良くなれたし、ナザリックに帰って夕食にしたいんだけど
「分かりましたよ・・・で、何すんです?」
「これを使うんですよ」
そう言ってアインズは小さな彫刻品を取り出し不敵に笑う
「まだまだ利用できそうな奴らが残っているんです。最後まで参加して行きましょう、サイファーさん」
不穏な話をしながら村の倉庫に村人達と共に移動した
サイファーは退屈な待ち時間を与えてくれたスレイン法国の者をどうしてくれようと考え出番を待つのであった