ガゼフ・ストロノーフが村のため部下を連れ囮となるべくスレイン法国の部隊に向かい、村人達はアインズの指示に従い村の倉庫に集まり身を寄せ合い不安に身を焦がしていた。
倉庫の中心付近にてアインズは魔法により戦士長と法国の特殊部隊の戦闘を観察していたが、視れば視るほど馬鹿らしくなってきた。何故なら敵の主戦力は第三位階魔法にて呼び出す事の出来る炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が30数体に監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が1体だけしかおらず、ユグドラシルでは序盤に出て来るモンスターであり、LV100のアインズには雑魚同然であり、最初はブラフかと警戒していたが本当にこれだけのようで肩透かしをくらった気分になるがここはゲームではない慎重に行動する越したことは無い
「敵の戦力は大体把握出来ましたし、もう少し様子を見てから転移・・・って、なに食べているんですかサイファーさん」
アインズが振り返るとシャリシャリと音を立てリンゴをかじるサイファーの姿があった
「リンゴだけど、しかも丸かじり・シャリ・初めてやったけど・シャリ・中々・シャリ・うまい・シャリ・・」
「食べるか話すか何方かにしてください・・・まったく、その緊張感の無さは昔から変わりませんね」
「モグモクグ・・・ゴクン、まあ良いじゃない、本番中のミスは今まで一度も無いんだから」
アインズはあっけらかんと笑う友人を見てふと笑みがこぼれる、ユグドラシルがまだゲームだった頃からサイファーは良くも悪くも緊張感がなく自分のペースをあまり崩さずフラフラしていた、 しかしクエストやPVPとなるとでは自分より味方の安全を最優先に考え行動したりとタンクの仕事はキッチリと行い、普段の態度とのギャップがすごいとよくギルドのメンバーに揶揄われていた
「どうしたんですかボーとして」
「いや、なんでも無いです・・・そろそろ行きますよサイファーさん、話した通りサイファーさんは俺の配下って事でお願いします、あとこの世界の事はまだ謎が多いんですから最後まで決して油断しないで下さい」
「了解いたしましたアインズ『様』、あなた様もタンクである私たち二人から離れすぎないようお願いいたします」
「了解です・・・戦士長も限界のようだし ーそろそろ交代だな。」
アインズの言葉とともにマジックアイテムの効果が発動し三人の姿が消え、代わりに傷つき今にも倒れそうなガゼフ・ストロノーフとその部下たちが姿を現した
「こ、ここは?」
ガゼフの言葉に近くにいた村長が答えを返す
「ここはアインズ様が魔法で防御を張られた倉庫です」
「そ、村長か・・・ゴウン殿はどこに・・・?」
「いえ、先ほどまでサイファー様と話をしておられたと思ったら、戦士長様と入れ替わるように消えてしまいました」
「そうか、あの声の主は・・・」
そこまで言うとガゼフは全身の緊張を解いた。
もうこれ以上することはないだろう、ゴウン殿と話をしていたサイファーという人物は知らないが、どうやらゴウン殿にはもう一人仲間がいたようだ
あの方なら負けないだろう、そう思いながらガゼフは地面に倒れこんだ
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視界が反転し目に飛び込んできたのは薄暗い倉庫の中と違い夕焼けがまぶしい草原であった。草原の光景自体は美しいとサイファーは思ったが、風が吹くたびに血生臭い臭いが鼻に付き少々げんなりした
「初めまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。そして後ろに控えているのは私の配下であるアルベドとサイファーです。どうぞお見知りおきを」
アインズの紹介を受け悪魔であるサイファーを視たスレイン法国の部隊は驚きはしたもの大きな動揺は表面上はなかった、動揺が少ないのはサイファーの姿が肌の色と角以外あまり人間と変わらない姿なのも原因の一つだが、サイファーの目の前にいる部隊は亜人の殲滅を基本的任務とする陽光聖典であり、あの程度の悪魔くらいたいしたことないという思いも少しはあったかも知れない
「まず最初に言っておかなければならないことはたった一つ。皆さんでは私には勝てません」
アインズが演技を初め話し始めるとスレイン法国の隊長らしき人物は最初は訝しげに聞いていたがアインズの交渉と言う名の死刑宣告を聞きかなりご立腹の様子だった
「では、サイファーよ、奴らを始末せよ」
打ち合わせどうりサイファーは敵部隊に向かい歩き始め、アインズは見にまわり不測の事態に備える
「くふふ、抵抗したければどうぞ」
サイファーもアインズに負けじと悪魔らしいと思う態度で敵を挑発すると掠れた悲鳴のような声で隊長らしき人物が命令を下して来た
「天使達を突撃させ、あの悪魔を滅するのだ」
命令を受け二体の炎の上位天使が翼をはためかせながら飛び掛かりサイファーに対し迷うことなく手にした炎の剣を突き出した
「さあ来い! スキル(召喚獣の反逆)アンド(弱攻撃の代償)」
サイファーは慌てた様子もなく対召喚モンスター用のスキルを発動させ両手を開き敵の攻撃を待ち構える。
スキル(召喚獣の反逆)は召喚モンスターからのダメージを1.5倍にすることで召喚モンスターのコントローラ-に受けたダメージをそのまま相手に与える効果であり、(弱攻撃の代償)はスキル発動中に受けたダメージが一定値以下の場合固定値のダメージを与える効果であり、この二つを同時に発動する事により弱い召喚モンスターが相手でも召喚者に対して安定したダメージを与えることができるのである
「無様なものだ、所詮はただの悪魔、天使の前ではかたなしだな」
天使の剣に貫かれピクリともしない悪魔を見た陽光聖典隊長ニグンは人知れず安堵の息を吐き出す、アインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔法詠唱者が使役している悪魔から強者の威圧を受けたときは焦りを感じたが・・・なんてことは無い天使の一撃で勝負は決まってしまった。
「よし、天使を下がらせ次はあの二人を攻撃せよ」
ニグンの命令とほぼ同時に後方から何かが倒れる音と部下の悲鳴が響いた
「どうしたのだ! 現状を報・・告せ・・・よ」
ニグンの目に映ったのは炎の剣に貫かれ血の海に倒れこむ二人の部下の姿があり、奇妙なのは剣がまるで身体の内側から外に食い破ってきたように身体から突き出ていたのだ。なぜ、天使の攻撃は確実に悪魔を貫いたのに。ニグンは状況が呑み込めず部下たちに動揺が広がり始めたとき背後から声が聞こえる・・・天使に殺されたハズの悪魔の声が
「ふふふ、どうした、俺はまだ死んじゃいないのによそ見ですか?」
「な・!?」
慌てて視線を声の方に視線を向けると無傷の悪魔が笑っていた
「さて、つまらない遊びはそろそろお開きにしようか・・・アインズ様のために死ぬがよい」
サイファーは口が裂けるほどの笑みを浮かべ再び進み始めた
「全天使で攻撃を仕掛けろ! 急げ!」
隊長の言葉に弾かれたように全ての炎の上位天使がサイファーに迫る
「流石に数も多いな。俺が魔法で攻撃しますからサイファーさんはアルベドと共に下がって下さい」
「確かに俺は広範囲攻撃はないからアインズさんにお任せします」
アインズの言葉に素直に頷くと急いでその場を離れようとしたが・・・
(どこまで下がったらいいんだろう・・・)
どの程度離れたら良いかわからないサイファーは取りあえず安全圏にいると思われるアルベドの隣まで飛びのくとアインズを中心に黒い波動が広がり天使たちを消しとばした
「負の爆裂(ネガティブバースト)か・・・やっぱ魔法職は華があっていいな」
ユグドラシル時代は魔法職は専用の指南wikiが作られるほど人気が高く多種多様な構成が出来できるため人それぞれの個性が出てくる職業である
「・・・終わったみたいだしアインズさんの側に戻ろうかアルベド・・・ってあれ?」
隣にいたはずのアルベドは既にアインズの隣に陣取っていた・・・ちなみにサイファーは一言も声を掛けられていない
「・・・ふ、こんな扱いはユグドラシル時代から慣れっこさ・・・」
そうさ、こんな三枚目みたいなあつかいは・・・
多少へこみそうになったがまだ敵は残っている。気持ちを切り替えアインズの側に駆け付けると、法国の部隊は半狂乱になりながら様々な魔法を放ってきたが殆どが一~二位階の魔法であり、アインズはダメージを受けず、なすがままに魔法をその身体に受け入れ静かに相手の魔法を観察し、サイファーはスキルで相手を殺してしまわないようにスキルの調整を行い防御に徹した
「やはりユグドラシルの魔法ばかりだ・・・」
一体だれが教えているのだろう、法国か? それとも別のだれかか?
「うわぁあああ!!」
敵の一人が魔法が効果が無いとさらに恐れおののいた一人がスリング弾をアインズに向け発射したが逆に頭が吹き飛び絶命した
「アルベド、あの程度の攻撃など私には無意味だと承知のはず、お前がスキルを使わずとも・・」
「お待ちくださいアインズ様。至高の御身と戦うのであれば、最低限の攻撃というものがございます、あのような下賤なもの、失礼にもほどがあります」
「ふはは、それを言ったらあいつら自身失格ではないか。ねえ、サイファーさん」
「ア、アルベドさん。俺にも沢山飛んできたからアインズさんみたいに守ってよ」
ここまで来たら自身のプライドなど捨てアルベドに声をかけた。その姿にアインズはサイファーに少々同情した、(すいません俺がアルベドの設定を書き換えたばかりに)そんな二人のやり取りをアインズはただ黙って眺めていた
「これは異な事を申されますサイファー様、あなた様のスキルは攻撃を受けてこそ真価を発揮するもの。私ごときが邪魔をするわけにはまいりません、大変心苦しいのですがこの場合はアインズ様を守るのが先決かと。・・・それに戦場でタンクを守るタンクがおりましょうか」
「あ、はい・・・ソウデスネ」
アルベドのド正論にサイファーはこれ以上の反論をやめた・・・なんていうかアルベドのやつ、まるで主人公に恋するヒロインみたいだな。大好きな主人公は大切だけど主人公の友人はどうでもいいって感じのキャラみたいだ
そう言えば、アルベドを造ったタブラさんはギャップ萌えだったな・・・これがギャップ萌えか・・・少々心にくるぜ
ギャップ萌えの心髄をかなり味わってげんなりとしていたら急に周りが暗くなる。何事かと見上げると監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)が巨大なメイスを振りかぶっていた
「・・・へ?」
「油断しすぎですよサイファーさん」
アインズは呆れたような声をもらし、アルベドはこちらを見ずにアインズを見ていた
監視の権天使はこちらの事なぞ構わず光の輝きを宿すメイスを叩き込む。サイファーがその一撃を真正面から受けると同時に監視の権天使の頭部と思われるところがへしゃげ光の粒子となり消えていった
「バカな・・・なぜ悪魔が死なず天使が殺されるのだ」
「ひいっ」
「ありえるかぁぁぁあぁぁ!!」
敵の部隊から恐怖にかられた大声が響く。不意打ちまでかましておいて、ありえるかって、都合良すぎだろ
「生き残りたい者は時間を稼げ!最高位天使を召喚し奴らを滅する」
敵の隊長が何か喚き、懐からクリスタルの様な物を見せつけるように取り出すと周り部下たちが目に見えて元気になり生気が宿った目を向けてきた
「最高位天使って・・・まさか。アインズさん!」
「ええ、わかってます。おそらく超位魔法以外は封じ込めることができる魔封じの水晶でしょう・・・アルベドはスキルを使用し私を守れ、セラフ級の天使が現れたら流石に本気での対処が必要だ」
「はっ!」
アインズ達が話をしている隙にクリスタルが破壊され光が薄暗くなった草原に輝く、その光はあまりにも強くまさに地上に降りた太陽のようであった
「クソが!アインズさん、まずは防御を優先させます。スキル(リベンジ・ズトーム)発動!」
スキルの発動に合わせサイファーの背部より蝙蝠の翼を思わせる羽を生やし体全身を包み込んだ、よくある羽を使った防御形態でる。
スキル(リベンジ・ズトーム)は自分のHPを半分にし受けたダメージ周囲の味方ユニットのHPを回復しステータスUPの効果を与えるスキルであり、最大の特徴は回復とステータスUPの効果は自身も対象になることであり、一撃で殺されない限り攻撃を受けるたびに回復とバフを行うことができる。しかし幾つかの欠点も存在する、1、HPが半減する事による事故死、2、スキル発動中は移動制限が掛かりその場を動く事ができず、羽に包まっているため視覚情報が入らない事である
視界による情報は得られないが天使の気配は肌で感じることができたが感じられる気配は弱いのが一つ・・・
「アインズさん、敵は情報攪乱の魔法を使っているらしくてドミニオン級一体の気配しか感じません、指示をお願いします」
「・・・・だけです・・」
「何ですって? 良く聞こえません」
指示をお願いしたらか細い声で何か言ってきたが聞こえず思わず聞き返してしまった
「・・・ドミニオン一体だけです」
「え?」
そんなまさか、魔封じの水晶にそんな雑魚を入れるはずが無い、そんな思いを抱きながらサイファーはスキルを解除しその姿を現わすと目の前には威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が燦々と輝いており、召喚した隊長はドヤ顔で何か語っていたがサイファーの耳には全く届かなかった
後ろを振り返るとアルベドは既に武器を下ろしており、アインズは手で顔を隠していた。
(この世界にきて一番HPを削ったのがスキルの無駄打ちとか・・・ないわ~)
ゲームなら赤っ恥間違いなく一日話のネタにされ、ドミニオンが出るたびに『スキル使わないんすかw』とかイジられるパターンだ
此処にきて心にダメージばかり負ったサイファーは家(ナザリック)に帰りたくてたまらなかった
「善なる極撃(ホーリースマイト)を放て!」
最大の攻撃を望む召喚者の思いに呼応し威光の主天使は魔法威力増幅のスキルを使い魔法を放つ。その威力はまさに圧巻であり、アインズと近くにいたサイファーに対し清浄な青白い光が降り注ぎ対象者を呑み込んでいった
「ははははは、これがダメージを負う感覚・・・痛みか。しかし痛みの中でも思考は冷静であり行動に支障はないな、サイファーさんはどうです?」
「どうですって・・いててて、凄く身体がチクチクした」
魔法攻撃が終わりほぼ無傷の二人はダメージの感覚についての感想を楽しそうに言い合っていたがただ一人だけが怒り空気を切り裂くほど声を荒げていた
「か、かとうせいぶつがぁぁ。わ、私のちょーあいしているアインズ様に痛みを与えるなど・・ゴミである身の程を知れえぇぇ・・・」
かなりご立腹のご様子で捲し立てており陽光聖典の連中はあまりの恐怖に只々立ち尽くすばかりであった
「アインズさん・・go」
「お、俺が止めるんですか!?」
「当たり前でしょ、ちょーあいされてるアインズ様」
しぶしぶ向かうアインズの背を見ながらサイファーは再びアイテムボックスよりリンゴを取り出しかぶりついた
リンゴの芳醇な香りと甘味がこれまでの精神的疲れを癒してくれる気がする
果実の味を楽しみつつこれから始まるであろう茶番劇にサイファーは心を躍らせる
一体どんな無様な姿を晒してくれるのだろう・・・
ほどなくして天使は消え去りお決まりの命乞いタイムが始まったがアインズの腹は決まっているらしく最高のジョークで締めくくってくれた
「確か・・・こうだったかな。無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」