死にたがりとシンデレラ   作:いおな

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PR動画の撮影回は
絡められる余地が無いと考えたためオリジナルになりました。


4話

 ライブのプログラムが終了したとしても、スタッフたちにはまだやるべきことが残っている。

 成功したことを喜びながらも、息をつく間もなく会場の後処理に追われる。

 そんな作業に終われる人たちを避けて通りながら、出演者の控え室を目指す。

 今は変装をしていないため、久遠と気づいたスタッフたちが頭を下げてくれるので自分もそれに返しながら歩く。

 控え室の場所は、関係者入口の前で待機していたスタッフから教えていただいた。

 

 ノックをすると中から「はーい」と声がする。

 今の声は美穂ちゃんだろうか。

 

「久遠です。入っても大丈夫ですか?」

「あっ! 久遠さん……はい、大丈夫ですよ~!」

「では、失礼します」

 

 まわりを確認してくれていたのか、一瞬遅れて了承を得られた。

 ノックもせずに入るのはそもそも論外だが、その先で着替えていようものなら目も当てられない。

 創作物の主人公のような地雷は絶対に踏みたくないものだ。

 

 一歩中に入ると、私服に着替え終えていた川島さんたちに迎えられる。

 何を言われるか期待するような目を向けられている気がするが、まずは労いの言葉を言うほうが先だろう。

 

「今日はお疲れ様でした。僕も一人の観客として楽しませてもらいました。いいステージをありがとうございました」

 

 ふぅ、と五人が息をついて肩の力を抜く。

 そんな辛辣な言葉を言われるとでも思っていたのだろうか。

 そうだとしたらショックを隠しきれないのだが。

 しかし、一観客としての客観的な意見が欲しかったのかもしれないと思い、強引に納得する。

 

「バックダンサーの卯月ちゃんたち三人もすごかったね」

「そう! やっぱアタシの見込みどおりって感じ?」

「すごいですよね、卯月ちゃんたち。初ステージがこんな大舞台だったのに……」

「若いっていいわよねぇ」

「川島さんも十分お若いですよ?」

「そうですよ、川島さん! 何なら私と一緒に今から一汗かきに行きますか!?」

「うふふ、茜ちゃんはライブ後だっていうのに元気ねぇ。ホント、若いっていいわぁ」

「川島さんもまだ十分お若いでしょうに。話は変わりますけど、みなさん明日はオフですか?」

 

 ライブを行った次の日は、大体オフになるよう美城はスケジュールを組むように心がけている。

 先方の都合がどうしてもつかない場合はその例を漏れるが、どうだろうか。

 

「私は大丈夫ですよ」

「アタシも大丈夫だったと思う」

「まゆも大丈夫です」

 

 美穂ちゃんと美嘉、まゆちゃんは大丈夫なようだ。

 

「私もオフだったと思うけど、ちょっと確認するわね」

「私もみてきます!」

 

 机においてあったバッグから、スケジュール帳を取り出して確認する二人。

 

「私も大丈夫でした!」

「うん、私も明後日まではオフね。プロデューサーが気を使ってくれたみたい。それでどうしたのかしら?」

「あまり大したことはできないんですけど、今日のライブが成功した打ち上げでもどうかと思いまして」

 

 もちろん僕のおごりで、と付け加える。

 お茶会のような形になってしまうと思うが、美城のカフェかどこかでそういったものができればと考えたのだ。

 今日の出演者は川島さんを除いて未成年なので、居酒屋で一杯というのはできそうにない。

 楓さんたちがいれば話は別になってくるが、今回川島さんにはそういう意味では我慢してもらわなければならない。

 

「いいんですか!?」

 

 美穂ちゃんが目を輝かせながら詰め寄ってくる。

 美穂ちゃんとはそれなりに長い付き合いなのだが、まだ敬語が抜け切っていない。

 性別の壁もあるのだろうが、同い歳なのだからそんな肩肘を張らず楽にすればいいのにと思う。

 

「美城のカフェでちょっとしたお祝いぐらいになると思うから、本当に大したことはないと思うよ?」

「それでも嬉しいです」

 

 こうやって素直に喜んでもらえると提案した側としてはとても嬉しい。

 

「いっぱい甘いもの頼んじゃお~っと」

 

 明日のことが楽しみで仕方ないのか、もう美嘉の頬は緩みきっている。

 ただ飯ほど美味しいものはないし、その反応も当然といえるけれど。

 

「嬉しい申し出だけど、久遠くんのほうは大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 

 心配そうに川島さんが尋ねてくれるが、お金の面に関しても心配する要素は皆無だ。

 普通の学生をしていた生前には考えられないほど、預金口座にはものすごい額が預けられている。

 あとこれは持論だが、生活費を除いて自由に使えるお金の九割は、他人のために使うものだと思っている。

 自分で使う分など必要にかられたときだけで十分だ。

 

 さて、本題はここからなのだがどうしようか迷う。

 これを言うべきかはまだ踏ん切りがつかない。

 川島さんあたりは踏み込んでくるかもしれないけれど、他の四人は大丈夫だろう。

 彼女だけなら、どうにか切り抜けられると腹をくくる。

 

「あと、これは欲しくなかったら別にいいんですが、一人一つだけお願いを聞こうかなと思ってます。楽しませてもらいましたし、卯月ちゃんたちがお世話になったという意味もこめて」

 

 合計十個の瞳が瞬時に自分を捕らえる。

 失敗したかなぁと心の中で苦笑しても、あとの祭りだ。

 男に二言は無いとよく聞くし、自分もそのスタンスを貫くとしましょう。

 

「そんな反応してもらえると思ってませんでしたけど、僕にできる範囲でお願いしますね……」

 

 予防線だけは張らせてもらおう。

 

「ええ。それはもちろんよ」

 

 川島さんが頬に手を当てながら妖艶に微笑む。

 蛇ににらまれた蛙ってこんな気持ちなのかなぁ、とどこか人事のように考える自分がいた。

 まあ、お願いもすぐには考えられないだろうし、明日の打ち上げの際に聞く形を取ることにしましょう。

 まゆちゃんのお願いなら、すぐに察することができるけれど、ね。

 

「明日また訊くので、お手柔らかにお願いしますね」

「撤回はなし、だからね?」

「わかってるよ。僕も男だし、一回言ったことは取り消さないよ」

「にひひ」

「まったく……明日の12時に、菜々さんが働いているカフェに集合でいいですか?」

 

 五人から即座に了承を得られる。

 卯月ちゃんたちバックダンサー組も呼ぼうか悩んだが、PR動画をいつ撮るかもわからないし今回は保留させてもらおう。

 本格デビューを果たした時にでも、また違う形でお祝いすればいいか。

 

 少しだけ、何をお願いされるか心配になってきた。

 自分を追い込んだのは他でもない自分だが、今から胃が痛い。

 しかし、どれだけ原作メンバーと関わっても問題ないかの線引きができれば、今後動ける範囲がおのずとわかってくる。

 それを得るためには、多少のリスクはやむをえないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では……昨日のライブの成功を祝って、乾杯!」

 

 ――かんぱーい!

 

 リーダーである川島さんの音頭にならって、自分たちもコップを高く掲げてからぶつけあう。

 もちろん未成年組はソフトドリンク。川島さんもみんなに合わせてソフトドリンクを頼んでいた。

 あと、ここには自分と美嘉たち以外に卯月ちゃん、凛ちゃん、未央ちゃん、武内さんの姿もある。

 卯月ちゃんたちは美嘉が昨夜連絡を取って呼んだらしい。

 なんでも「お祝いするならあの娘たちを仲間はずれにできない!」とのことだ。

 今更数人増えようがお財布的にはかまわないのだが、武内さんに限って言えば完全に巻き込まれた側だ。

 ここで昼食をとろうとしていたのが運の尽きと思って、あきらめてもらうしかない。

 昼食代が浮いた程度に考えてもらえれば嬉しい。

 

 二つあるテーブルには、所狭しと料理とスウィーツが並べられている。

 女性の割合が多いのでスウィーツのほうが多いのはご愛嬌だろう。

 思い思いに談笑しながら笑顔がこぼれているのを観ると、やってよかったという気持ちがあふれてくる。

 

「あの……久遠さん。昨日のお願いのことなんですけど」

「美穂ちゃんはお願い、決まったのかな?」

「はい……えっと、この歳になってもって思われるかもしれないんですけど……」

「そんなこと思わないからどーんとと言ってもらって大丈夫だよ?」

「じゃあ、ライブが成功した自分へのご褒美に……新しい、クマのぬいぐるみが欲しいなって」

 

 俯いて口にする美穂ちゃん。

 両手は机の陰に隠れて見えないけれど、ひざの上できゅっと握られているのが見えるかのようだ。

 顔だけでなく、耳も真っ赤に染めているのをみるに相当恥ずかしかったのだろう。

 ファンがみたら卒倒しそうな可愛さだ。

 一晩じっくり考えたお願いだし、受けるといった手前ちゃんと叶えてあげないといけない。

 それにしても、お願いがクマのぬいぐるみとは可愛い物好きの彼女らしい。

 

「OK。じゃあ、美穂ちゃんにはクマのぬいぐるみだね。また買いに行くから楽しみにしておいて……って言っても、僕のセンスになるから、あまり期待してほしくはないんだけどね」

「いいえ、どんなものでも大切にします! ありがとうございます、久遠さん」

 

 花のように可憐な笑顔を浮かべる美穂ちゃんの姿は、守ってあげたくなるような王道的可愛さがある。

 何人のファンがこの笑顔によって陥落したのだろうか。

 プレゼントに関しては無自覚にハードルが上げられた気がするが、男の子として頑張りましょう。

 ちょっと奇抜だが、美穂ちゃんより大きい等身大のクマのぬいぐるみなど喜んでもらえるかもしれない。

 そういったものがあるかどうか、また検索しておこう。

 

「あの、美嘉姉。お願いって何のこと?」

「あ、そういえば未央たちは知らなかったね。どうするの、久遠。この娘たちの分もお願い聞いてあげる?」

「そうだね。卯月ちゃんたちも昨日頑張ってたから、そうしよっか」

 

 飛び入り組三人にも、少しは先輩らしいことをしてあげなきゃね。

 

「お願いって言っても、僕にできる範囲だから大層なことはできないけどね」

「こうは言ってるけど、美穂ちゃんみたいに何か欲しいって言ったら大体のものは買ってくれるから」

 

 ねっ、と美嘉がウインクしてくる。

 確かに法外な値段のするものでなければ買ってあげられる。

 特に、自分にお金がかからない、かけるとしても必要な時のみというのが起因しているところはあるけれど。

 

「じゃあ、一つだけいいですか?」

 

 おずおずと手を上げながら、卯月ちゃんが心配そうに見つめてきた。

 彼女に頷くことで先を促す。

 

「久遠くんが言われている、予見者ってどういうことですか?」

 

 雲が太陽を隠し、影が落ちる。

 卯月ちゃんからこの手の話題を訊かれるとは思っていなかった。

 予想外に痛いところを突かれた。

 

「どういうこと、か。難しい質問だね」

「あっ、えっとすみません」

「ああ、ごめん。責めてるわけじゃなくて、自分で名乗ってるわけじゃないからね。どう説明したものかと思ってさ」

「ようは、久遠がつれてきたアイドルたちに問題があるのよね」

「問題?」

「うん、凛。初めてあんたたちと会ったときにもちょこっとだけ言ったと思うけど、久遠は美城にアイドル部門ができた時、色んなとこからスカウトしてきたの。有名なところでいうと楓さんかな。まあ、アタシもその一人なんだけど……」

「楓さんや美嘉ちゃんもなんですか」

「そ。それで連れてきた人たちが、アタシも含めてちょっとしたところで有名になっちゃったからさ。いつの頃からか言われるようになったの。久遠は未来が見えてるんじゃないかって。だから久遠が連れてくる人にはずれが無いんだ……ってね。予見者っていうのはそこから来てるのよ」

「そうだったんですか」

 

 美嘉が助け舟を出してくれてよかった。

 こういった話題は自分で言うより他の人が言ってくれたほうが説得力がある。

 

「はいはーい! 次は私ね、くーやん」

「くーやんって僕のこと? まあ、次は未央ちゃんかな?」

 

 物怖じせずに接してくれる分には楽なのでありがたいけれど、また変わったあだ名をつけられたものだ。

 

「くーやんはホントに未来が見えてるの?」

 

 予見者云々が出たあとなので、来ると思っていた。

 でも、この質問がきたら同じ回答をしているので、未央ちゃんには申し訳ないけれどその回答で我慢してもらおう。

 

「ある程度は予想できる、って言う感じかな」

「予想? ってことはやっぱり未来は見えないんだぁ、無念」

「期待させちゃって申し訳ないけど、未来が見えたら超能力者だと思うよ」

 

 ある程度、未来は予想できている。

 しかし、それもいつ外れるかはわからないので嘘は言っていない。

 どの口が言うのかと自虐もあるが、こういう風に自分は嘘を重ねてこの世界でも生きていくのだろう。

 

「凛ちゃんは何かある? 思いつかないようであれば、後日でもいいけど」

「じゃあ、一つだけ」

「うん。何かな?」

「一回でいいからCPのみんなのレッスンをみて欲しい、かな」

「レッスンをみる、ね。わかった」

 

 冷たそうな外見で勘違いされやすいが、人一倍仲間思いな彼女らしいお願いだと思う。

 美嘉と一緒のレッスンを経験して、何か思うところがあったのかもしれない。

 

「武内さんは何かありますか?」

「私、ですか?」

「武内さんも、昨日のライブでは裏方として支えていただきましたからね」

「……すぐには考えつかないので、後日ということでよろしいでしょうか?」

「わかりました。何か思いついたら教えてください」

 

 この時、無理にでも彼に訊いていれば、未来は変わっていたのかもしれない。

 安易に発言したこの時の自分には、気づくことはできなかったけれど。

 

「久遠さん! 私も一緒にレッスンして欲しいです!」

「茜ちゃんもレッスンね。また一緒に走り込みでもしよっか」

「くぅ~、今から燃えてきましたぁ!」

 

 茜ちゃんは本当に忠犬のイメージだなぁ。

 尻尾でもあったら今はそれを振るっていそう。

 その熱い思いをビジュアルレッスンのときにも発揮して欲しいんだけど、変なところで初心だからね。

 何でも気合でどうにかしようとする姿勢は、可愛らしいのだけれど。

 

 残りはまゆちゃんと、美嘉と川島さん。

 と言っても、まゆちゃんのお願いなんて一つしか思い浮かばない。

 

「久遠さん。まゆはまゆのプロデューサーのことがもっと知りたいです」

「うん。そう言ってくると思ってもうまとめてたりするんだよね。あとでスマホに送っておくね」

「うふ、ありがとうございます」

 

 プロデューサーを愛しすぎて、まゆちゃんが所謂ヤンデレにならないことを祈ろう。

 アイドルが傷害事件など笑い事ではない……それも加害者側で。

 プロデューサーさん、まゆちゃんはいい娘ですから早く赤い糸に結ばれてください。

 何なら、自分がまゆちゃんに赤い糸でも紐でも買って来ますから。もちろんまゆちゃんが使う用の。

 

「あとは、美嘉と川島さんだけですけどどっちから言いますか?」

「私は最後でいいから。美嘉ちゃん、お先にどうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて……久遠、久しぶりにデートしよっ」

「うん、いいよ」

「軽っ!?」

 

 未央ちゃんたち三人が驚いているが、正直今更なことだ。

 

「えっと、お二人は付き合ってるんですか?」

「ううん、付き合ってないよ?」

「それにしてはなんか、未央も言ってたけど軽くない……?」

「美嘉とは長い付き合いだからね。そう思われるのも仕方ないかも」

 

 莉嘉ちゃんが生まれてすぐからだから、本当に長い付き合いだと思う。

 

「アタシたちはアイドルだから、迂闊に男の子と遊びに行けないからね~。その分久遠なら問題ないっしょ?」

「美嘉姉とくーやんが一緒だったら、それはそれで逆にスキャンダルなんじゃ……」

「まあ二人とも変装するし、何かあってもテレビの企画とでも言えばいいから」

「今までも何回か行ってるけどバレたことないし、今更かな~? たまにはアタシもデート気分味わいたいし」

 

 何か微妙な顔をされているが、こういうものと納得してもらうしかない。

 

「さて、真打の川島さんを残すところになりましたけど、川島さんは何にします?」

「その真打の意味を詳しく訊きたいわね、久遠くん」

「深い意味はありませんよ。この中でリーダーなのは間違いなく川島さんですし」

「……そういうことにしておいてあげるわ。私のお願いはね……」

 

 一旦言葉を切ってから真剣な表情で目を合わせてくる。

 これは逃げられそうに無い。

 

「予見者としての久遠くんに訊くわ。あなた、どこまで見えているの? 久遠くん的な言い方に直すとしたら、どこまで美城の先を予想しているの?」

 

 全員が食事の手を止めた。

 一番訊かれたくないことを、一番訊いてほしくないタイミングで言われてしまった。

 CPの三人、武内さんがいないのであれば、ある程度この先の未来を話してもよかったのだが。

 しかし、今の川島さんの眼差しからは逃れられそうに無い。

 武内さんや他の人の目も光っているし、変にごまかそうものならすぐにバレてしまうことは容易に想像できる。

 後輩思いの川島さんがこの質問をしてくるのは想定していたが、予定外のことが重なりすぎた。

 やはり早まった選択だったかと心の中で嘆息しながら、満足の得られそうな回答を探す。

 

「……近いうちに、美城内部でストライキが起こると思いますよ」

 

 無難な回答で言えばこんなところだろうか。

 

「ストライキって、あの自分の要求を通してもらうために仕事を放棄するあれですか?」

「そうだよ、美穂ちゃん」

「それはまた、物騒な話ね」

「いえ、そこまでどろどろしたものではありませんよ。数時間にも満たない、可愛いストライキです」

「……久遠くんはそれが起こるってわかっていながら、止めないの? それとも止める必要は無いって事かしら?」

「難しいところですね。でも、それはその部署にとって必要なことだと思いますから」

「どういった意味かは、訊いてもいい?」

「出血大サービスですよ? その部署に関してですけど、プロデューサーとアイドルの意思疎通不足があるんです。それが原因で、アイドル側がやりきれない思いを発散するためにプロデューサー側に要求する、といった感じです」

 

 必死にカボチャの馬車の車輪になろうとしているプロデューサーは、お姫様たちとは一向に話をしようとしない。

 車輪になろうとしているので言葉を話さないのは当然だが、彼が魔法使いに戻らなければ舞踏会はうまくいかない。

 

「その要求も、プロデューサー側が用意しているので平和的に解決に向かうはずですよ。だから、心配することはありません」

「なんでそんな詳細まで知っているかは気になるけれど……わかったわ。ありがとう、久遠くん」

「いえ、ご満足いただけたならよかったですよ」

「……最後に一つだけいいかしら?」

「……どうぞ」

「本当に、久遠くんは未来が見えてないのよね?」

「さぁ、どうでしょう?」

 

 茶目っ気たっぷりに返す。

 武内さんがいなければもう少しサービスできたのだけれど、今日はこのあたりで店仕舞。

 

 誰もが仮面をつけて生きているように、男性も女性も同じように嘘を使い分けて生きていく。

 と言っても今の自分の存在は、存在自体が嘘のようなものだけれど。

 

「また訊きたくなったら訊いてください。できるだけサービスしますから」

「そうね。機会があればお願いするかもしれないわ。それよりも、私もあなたたちみたいにデートがしたいわね」

「川島さんのプロデューサーさんに相談してみますね」

「やめて、久遠くん」

 

 そこからは、先ほどまでの緊迫感が嘘のように平和な時間が流れた。

 武内さんは「仕事が残っていますので」と言ってあのあとすぐに戻ってしまったけれど、有意義な時間を過ごせたと思う。

 

 ストライキのことに関してはかなり口が滑ってしまった感が否めないが、与えたピースでパズルが完成するとは思えない。

 逆にこれで未来が変わってしまうのであれば、どれだけ情報を解禁していいかという判断基準ができる。

 

 CPは良くも悪くも大きなプロジェクトだ。

 そんなプロジェクトのメンバーのCDデビューが決まったなれば、美城内部にいればおそらく簡単に耳にすることができる。

 であれば、あとはストライキまでの期間を待つだけ、ということになるか。

 ハイリスク・ハイリターンな選択をしたと我ながら思うけれど、得るものがあるのであれば上々だろう。

 リスクになってしまうか、はたまたリターンになって返ってくるかどうかは、神のみぞ知ると言ったところか。

 

「これからの未来がどうなっていくか、少し楽しみだね」

 

 この世界で、唯一興味を引かれるものの一つだ。

 傍観者となるかどうかはわからないけれど、見届けさせてもらいましょう。

 

 

 

 

 

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