感想が書かれていてびっくりしました。
妄想垂れ流しの拙作に感想いただき、ありがとうございます。
また、多くのお気に入り登録に関しても嬉しい限りです。
200人弱の方にお気に入りいただき、本当にありがとうございます。
このまま細々と続けていくつもりですので、
よろしければお付き合いいただければと思います。
遅くなりましたが、koyama様
誤字報告、ありがとうございました。修正いたしました。
この場を借りて感謝申し上げます。
ストライキ騒動も一段落つき、美城では比較的に穏やかな日が続いていた。
相変わらず、武内さんはデビューイベントのために奔走している日々のようだけれど。
あの騒動以降はこちらの予定も詰まっていたので、あまり彼女たちの様子を見に行けていない。
それでも、プロデューサーを介してCPの現状をたまに聞いたりしている。
NGもレコーディングなどは無事に終わり、今はLLと共にレッスンに励んでいるのだとか。
ということは、もうそろそろ彼女たちのデビューの日も近いということになる。
今日は確かレッスンだけのはずなので、久しぶりに顔を出してみよう。
ちょうど予定が決まったところで、上着に入れていたスマホが震えてメッセージが送られてくる。
送り主は美嘉からで、彼女も同じように今日はレッスンだけとのこと。
レッスン前の空き時間に、デビューおめでとうと言いに行きたいので一緒にどうだ、と言った内容だった。
別に断る意味も無いので二つ返事で了承する。新館の前で待ち合わせし、合流してから30階の部署に向かう。
ここに来るのも久しぶりだ、と美嘉が笑って言った。それに同意しつつドアを開けると、すぐに雑談に興じていた五人を見つけられた。
「お、いたいた~」
「失礼します」
「あ、美嘉姉とくーやん!」
「うーっす☆」
「おはよう、みんな」
「莉嘉から聞いたよ~。CDデビュー決まったんだってね。やったじゃん!」
「にひひ~」
首に手を当てながら、にへらと笑う未央ちゃんは本当に嬉しそうだ。
ちなみに来るときに、美嘉になんでデビューが決まった際に連絡しなかったのか訊いたのだが、直接お祝いを言いたかったらしい。
変なところでマメというか、律儀というかである。
ギャルという生き物は仲間意識が強いからそういうものなのかもしれない。
外見はギャルらしくても、内面はまったくの純情ホワイトピュアピュアレディなので当てにはならないけれど。
「しかも発売イベントまであるんだよね~。美波もアーニャちゃんも良かったね」
「改めて、五人ともおめでとう」
「ありがとうございます」
「спасибо」
「イベント、歌もやるんでしょ? ちゃんとレッスンしてる?」
「ふっふっふ~、ばっちし!」
笑顔でピースをしているので相当な自信があるのだろう。
「へ~、緊張してるかと思ったけど、わりと平気なんだね」
意外な表情を浮かべる美嘉だが、やればできるということを前回のライブで経験しているからかもしれない。
しかし、未央ちゃんは自信満々のようだが、卯月ちゃんと凜ちゃんはまだそこまで達していないようで渋い顔をしている。
「そんなこと……」
「心配ないってしまむー。なんたって私たちは美嘉姉のバックですっごい舞台を経験したんだから」
未央ちゃんが卯月ちゃんの肩に両手を置いて勇気づける。
――その舞台を経験したから、ギャップに苦しむことになるんだよ
現実はそんなに甘く無い。理想と現実というのはかけ離れているもの。
理想はあくまで理想でしかない。どんなに思い描いても、叶わないことのほうが多い。
甘いのかもしれないけれど、自分としては手の届く範囲の娘たちには失敗してほしくは無い。
なので、先ほど浮かんだ思いを伝えるべきなのだろう。
次のステージは、あまり人が集まらないかもしれないよ、と。
以前のステージは、川島さんたち五人の人気が生んだ観客でしかない。
わざわざバックダンサーの三人を見に来たのはCPを除けば自分だけだろう。
美嘉が三人の紹介をしたため、少しはほかの面々よりは知られたというのは否定できない。
その三人が揃ってユニットデビューというのは話題性ができるのも確かなので、今が商機だという武内さんたちの考えも理解できる。
しかし、なぜ彼女たちが以前と同じ人数が来ると信じていることを察せ無いのか。
自分が神視点でアニメを観ていたからわかっているだけなのだろうか。
それにしては、未央ちゃんの発言を聞いている卯月ちゃんと凜ちゃんの説明がつかない。
凜ちゃんに関して言えば、結構現実を見ている印象をはじめてあったときは抱いたのだけれど。
アイドルという仕事に触れて、輝きの向こう側を見たことによって、その蜜の味に酔っているのかもしれない。
いい経験だったとは思うけれど、今回はその経験があだとなっているのだから笑えない。
武内さんのトラウマを刺激するルートがほぼ確定している状態で、自分はどうすべきなのだろうか。
――原作が終わるまでは死ねない
その"原作が終わるまで"というのは酷く曖昧とした制約だと思う。
CPが成功したことを意味しているのか、それとも個々のメンバーそれぞれが歩みだした春の時期を指すのかもはっきりしていない。
自分の中では冬のライブが成功に終わり、認められた時期だと一応は結論付けているが。
今まで関わってきたものは、そこまで今後の物語に影響を及ぼすことの無い事象だった。
仮にストライキが起こっていなかったとしても、アイドルをやめる宣言があれば自ずと武内さんも心を開いていたと思う。
しかし、今回のこれは大局を左右するものだ。
四人には危機が訪れると言っただけで、どういったことが起こるかを言っている訳ではないので気づかれることは無いだろう。
NGがバラバラになったあとに誰を信じれば良いかを示しただけ。
ただし、具体的にどうこうしてどうなる、ということを伝えるとなると話は別になってくる。
未然に防ぐということは、武内さんが物言わぬ車輪のまま終わってしまう可能性があるということ。
それは卯月ちゃんに選択を迫ったあの場面で、最悪の結果を招くことに繋がりかねない。
いや、そもそもあの場面にたどり着くかどうかさえ怪しくなってくる。
基本的には原作沿いで、かつ自分が防げそうなイベントは防いでCPには成功してもらう。
完全に二兎を追うもの一兎を得ず状態だが、基本的にはこのスタンスで行こうと決めていた。
誰しも未来がわかる状態であれば、目の前で失敗するとわかっている人をどうにかしようとしない人はいないだろう。
原作が終わるまで、ということは終えてもらわなければならない。
彼女たちは自分にとって重要なファクター。こんなところで挫けてもらっては困る。
ならば今回も傍観に徹すると決めてしまいたくなるが、安易に選択はできない。
結局は自分という不確定な存在がいるため、簡単には決められない。ジレンマ過ぎていやになってくる。
自分の目的のために、目の前の少女たちに辛い思いをさせるのか。
それともいったん自分の目的は忘れ、刹那主義で目の前の問題を解決するのか。
本当にままならぬ世の中だ。生きるって辛い。
「レッスンはしっかりやってると思うけど……」
「まあ、あんたたちならやれると思うよ。本番に強いのはアタシが一番良く知ってるし」
思考に耽っていた自分を美嘉たちの声が現実に呼び戻す。
考え事をしていると、それに集中してしまうのは自分の悪い癖だ。
「そういえば、ミニライブの日にちとかってもう決まってるんだっけ?」
一度考え事は保留にしよう。結論を先延ばしにしているに過ぎないけれど……
「えーっと、確か……」
「来週の土曜日だった、と思う」
「うん! 私、もう結構な人数呼んじゃったんだよね~」
「場所は、池袋サンシャインシティだったよね?」
「Да そうだったと、思います」
「えっ、かなりいいところじゃん! あんたたちのプロデューサー、やっぱりすごいわねぇ」
前の世界では、"お願いシンデレラ"の発売イベントが行われたのがそこだった気がする。
部長さんが言っていた「いい会場を押さえてくれた」というのはそういった経緯が含まれていたと思う。
それを抜きにしても、あんな大きいステージを新人のデビューに使えるのはすごいことなのだが。
「美嘉ちゃんはよく行ったりするんですか?」
「うん。アタシも莉嘉も池袋派だしね~。ってか卯月、あんたまだかたいよ? 同い歳なんだし、アタシにぐらい気つかわなくていいのに……」
美嘉の言うように、卯月ちゃんは武内さんとはまた別な意味でかたいというかなんというか。
自分の中で丁寧語といえば男性は武内さん、女性は卯月ちゃんというようなイメージが生まれつつある。
「あ、ありがとうございます。頑張ります! あっ……」
「しまむーそればっかり」
「まあ、一応は先輩後輩だし仕方ないか。とりあえず、レッスン頑張って本番に備えなきゃね!」
「応援に行けたら行くから」
あとでまたスケジュール帳を確認しておかなければ。
あまり長居するのも良くないので、今日はこの辺で出て行くことにしよう。
自分たちのレッスンもそれなりに近づいているわけだし。遅れた際のトレーナーさんのしごきはなるべく回避したい。
五人と挨拶を交わしてから退室する。ドアを閉めてひとつ息を吐くと、
「あんた、また悩み事?」
美嘉から声がかけられた。
なぜわかったのだろう、ぎくりとした。これが女の勘というのであれば、すごいものだと思う。
「なんでわかるかなぁ……」
「考え事してるとき久遠は無口になるから、誰だってわかるでしょ」
わかるひとにはわかるらしい。このぶんだと武内さんなどもわかっているのかもしれない。
これからはできるだけ一人のときに考えよう。新しい教訓ができた。
「そっか。これから気をつけるよ」
「……なんで久遠は……」
「どうかした?」
「……何でもないっ! ほら、レッスン行くよっ」
突然不機嫌になった美嘉の背を追いかける。
聞こえていてはぐらかしてしまったけれど、許してもらうしかない。
――誰にも言えるわけ無いだろう、こんな悩み……
CPを訪れてから早いもので一週間ほど経った。
今日は――と言ってもあと一時間で日を跨いでしまうが――ミニライブの前日だ。
あれから悩みに悩み、結局は武内さんに言葉を選んでもらえば、それほどダメージは負わないのではないかと結論に至った。
なので思い立ったが吉日。
23時という普段なら美城にいない時間だが、CPに向けて移動中だ。
さすがに人気も少なく、シンと静まり返っているので人が動き回っている昼とはまったく違う印象を受ける。
小梅ちゃんがいう、"あの子"が徘徊していそうな時間帯である。
自分にとってはもうひとつの家みたいなものだから、特に恐怖感などは覚えないけれど。
最近はこんな時刻まで残っていることは少なかったが。
エレベーターを降りるとすぐに目的地のCPの部署にたどり着く。
この時間ならノックも必要無いだろう。さっさとドアを開けて部屋に入る。
節電のためか明かりは消されていたが、右前方の一箇所だけドアが開けっ広げになっており、そこから光が漏れている。
そこまで歩を進めてから、ドアをノックしてポスターを感慨深げに眺めていた二人にこちらの存在を気づかせる。
「お疲れ様です。武内さん、ちひろさん」
二人は自分がこんな時間にここに来たことに驚いたのか、目を見開いている。
「……お疲れ、様です」
「久遠くん、今何時だと思ってるんですか? 早く帰らないといけませんよ?」
ちひろさんはすぐにいつもの調子を取り戻し、人差し指を立てて叱ってきた。
その姿が妙に様になっていて、まるでどこかのお母さんのようだ。ちひろさんは子供を持ったらいいお母さんになると思う。
それを言うとちひろさんの後ろに般若が見えそうなので、決して言わないけれど。
「大丈夫ですよ。ここから近いですし、もしここに泊まったとしても、そこまでお小言ももらわないでしょう?」
「それは、そうですけど……」
「少しだけ、武内さんに話しておきたいことがありまして」
「私に?」
「はい。一応は重要な部類に入ると思うんですけど」
歯切れが悪くなってしまうが許してほしい。言うと決めたはいいが、まだ迷っている気持ちも存在する。
「……明日、彼女たちのミニライブですよね?」
「はい。みなさんの第一歩目になります」
「ちょうど、プロデューサーさんともそのことについて話してたんですよ。目が離せないですねって」
「確かに、まだまだ目が離せないですよね。いろいろな意味で」
違う。こんな世間話をするためにきたわけではないのに。
自分の中の悪魔が鎌首をもたげる前に、意を決して口を開く。
「それで明日のことなんですが、恐れ多いですけど……発言には注意されたほうがいいと思いますよ」
「それはどういう……?」
「……一度口をついて出てしまった言葉は、取り消すことができません。その伝え方一つ違うだけで、誤解を生むものですから」
いったん言葉を切り、乾いた唇を舐めてから続ける。
「不躾ながら、武内さんが不器用な方だというのはわかっているつもりです。そして、それ以上にまっすぐな方だということも……ですが、明日はどんなことがあったとしても冷静に対処してくださると幸いです」
明日の彼女たちの傷を浅くしてくれると信じています。
言葉にはしないけれど、まっすぐに目を見て言い切った。
けれど、また曖昧な伝え方になってしまった。もっとちゃんと、それこそ未央ちゃんへの言葉など、限定して伝えればいいものを。
つまるところ、自分も保身に走っているということか。
この発言のせいで自分の知らない未来になるのが怖いのだ。
そう思うと居た堪れなくなり、
「僕が伝えたいのは、これだけです……明日のライブ、楽しみにしています」
「久遠さん?」
「では、お疲れ様でした。ちひろさんも武内さんもあまり根を詰めないでくださいね」
返事も聞かずに早々に部屋を辞した。
――やはりどう取り繕っても自分が可愛いだけなのか
「ほら、いつまで愚図ってるの! 早く行くよ」
「わかってはいるんだけど……」
美嘉に手を引かれながら、あの娘たちが待つ控え室に向かう。
昨夜、逃げるように美城から帰ったあとも気持ちの整理はできないまま、朝日は昇ってしまった。
整理はできなかったが、ひとつだけこうしようという方針は決めることができた。せめてもの罪滅ぼし、と言ったところだろうか。
昨日まで悩みぬいた答えとは真逆になってしまうけれど、自分の知らない未来に行く可能性があるのであれば、こちらのほうが良いと自分の中で結論付けた。
もう、永遠に朝なんて来なければいいのに。
そうなれば世界の何割かの人は喜ぶと思う。その内の一人はほかでもない自分だが。
「お、みんな来てるねぇ!」
「失礼します」
開けっ放しになっていたドアから一声かけて控え室に入る。
扉のすぐそこにきらりちゃんがいたので、彼女の腰に手を当てながら美嘉が横からにゅっと顔を出す。
「やっほー!」
「美嘉姉!」
「袖でしっかり見てるからさ、ぶちかまいちゃいなよ!」
「OK!」
「が、頑張ります」
美嘉のギャルピースに未央ちゃんが元気よく応え、緊張した声で卯月ちゃんが返事をする。
残りの凜ちゃん、LLの二人も真剣な面持ちで頷く。
「久遠もなんか一言言っとけば?」
「そうだね……」
じゃあ、一言だけ。
「初めてのステージの娘もいるし、これだけは頑張ってほしいってことをひとつだけ。どんなステージになったとしても、お客さんの前では笑顔で頑張ってほしいかな」
「あ~、そうだね。アタシたちが言わなくてもレッスンで散々言われたと思うけど、笑顔で終われるように頑張ろ!」
「はいっ。私、笑顔は得意なんです! それなら頑張れそうです」
卯月ちゃん一番の強みと自負している輝く笑顔を浮かべてくれる。
今の話題で幾分か自信を取り戻してくれたようでなにより。
そこで二回ノックの音が聞こえ、目を向けると武内さんの姿が視界に入った。
「もうすぐ開演時間です。スタンバイ、お願いします」
――はいっ!
現在時刻は16時40分を過ぎたところ。開演は18時のはずなので、もろもろの最終確認を済ませるのだろう。
五人は出て行ってしまったけれど、残りのメンバーはもうすぐ開演ということでそわそわし始めていた。
自分のことでもないのに、心配してくれる仲間がいる彼女たちは幸せ者だ。
そこから一時間というのは早いもので、もうまもなく開演時間となった。
大丈夫かなぁ、と彼女たちを心配する声が雑談中で一番多かったのが李衣菜ちゃんというのが意外だった。
義理堅いのはみくちゃんとのやり取りでわかっていたけれど、やはり直接かかわって新たにわかる一面というものはあるものだ。
一番心配する李衣菜ちゃんをきらりちゃんが宥めつつ、舞台袖のカーテンを少し開けてステージを盗み見る。
ステージ上の視界のお姉さんがNGとLLの紹介を終えてこちらにはけてくる。
入れ違いに淡い光に彩られたステージの真ん中に、美波ちゃんとアーニャちゃんが袖から出てきて立ち止まる。
自己紹介を終えた彼女たちは早速、観客の前で宣言する。
「聴いてください、私たちのデビュー曲」
――"Memories"
前奏が流れるのと同じタイミングで二人が背中合わせになり、踊り始める。
今日まで幾度となく繰り返してきただろうその動作は、観客の前でも揺るぎはしない。
努力は人を裏切らない。まばらではあるけれど、彼女たちの歌に魅せられて足を止めてくれるお客さんもいる。
ちっちゃな男の子が、目を輝かせながら母親であろう女性に自分のことのように指を指して笑っている。
それが彼女たちの目に入ったのかはわからないけれど、二人の顔にも自信が溢れ始め一層強く歌い続ける。
そんな二人の姿に憧れたのか見入ってしまったのか、舞台袖からこっそり見ているメンバーの口から息が漏れる。
きらりちゃんだけは、まるで成功することがわかっていたかのように笑顔だったけれど。
対する美嘉も、いつもの自信満々な笑顔を浮かべながらアーニャちゃんたちを見守っていた。
この二人は、彼女たちが失敗することなんて微塵も考えていなかったのだろう。信頼、とも言えるか。
美波ちゃんとアーニャちゃんが歌い終わり、頭を下げるとすぐに何十人かのお客さんから拍手をもらう。
そのことに感極まったアーニャちゃんは、素に戻ってロシア語でお礼を返していた。
美波ちゃんも少し震えた声で、手を上げながら拍手に応えてお礼を言っていた。
最後にもう一度深くお辞儀をしてから、二人が出てきた側の舞台袖に戻っていく。
その彼女たちの背中に一層大きな拍手がわいた。
「LLの二人、いい顔してたね?」
「そうだね。初めての舞台だったのに、上出来だと思うよ」
しかし、このあとは……
LLがお客さんの足を止めてくれたとはいえ、言い方は悪いけれど前回に比べると観客の数は月とすっぽんもいいところ。
NGの三人には辛い現実が待ち構えている。彼女たちはおそらく、LLとは違い笑顔でステージを終えることはできないだろう。
案の定、舞台に出てきたときは期待に満ちていた三人の顔が、心なしか強張ったのが感じられた。
だが、世界とは非情なもので三人の心の整理がつかないまま、前奏が流れ始める。
ここで折れなかったのは素直に賞賛したい。
かたい動きではあるけれど、三人は自分の役目を果たすべく音楽に合わせて歌と踊りを披露する。
未央ちゃんは引きつった笑みを浮かべながら、凜ちゃんと卯月ちゃんはそんな未央ちゃんの様子を心配しそうに伺いながら――
途中、未央ちゃんのことを気にしすぎていたのだろう。
卯月ちゃんが、苦手としていた部分のターンを失敗してしまう。
それでも懸命にほかの二人にあわせ、"できたてEvo! Revo! Generation!"を歌い終えることはできた。
しかし、練習ではきらきらに輝いていたであろうその顔は、ステージが終わったにもかかわらず晴れることは無かった。
「……ありがとうございました!」
いち早く立ち直った卯月ちゃんが観客に向かって一礼する。
凜ちゃん未央ちゃんと続いていくけれど、未央ちゃんにいたっては舞台袖に届くかどうかという、か細い声だった。
ステージ上の未央ちゃんに追い討ちをかけるかのように、二階で応援していたクラスメイトから未央ちゃんを応援する声が届けられた。
一瞬クラスメイトのほうを見つめていたが、突然下を向いたと思えば逃げるように舞台をあとにした。
凜ちゃんと卯月ちゃんが心配して声を上げるが、かまわず舞台袖に消えていってしまった。
二人は呆然としながらも、今自分たちが立っている場所がステージ上だと思い出したのか、お客さんたちに再度お辞儀をした。
そして、顔を上げるとすぐに未央ちゃんの背を追うために早足で袖に戻って行った。
「アタシたちも戻ろっか」
「うん」
「次はほかのメンバーも頑張らないとね~?」
今日主役でなかったCPのメンバーを引き連れ、舞台袖に戻る。
第一弾としてデビューした仲間を見ていたメンバーに美嘉が発破をかけていると、目の前を未央ちゃんが通りかかる。
「待って!」という悲痛な卯月ちゃんの叫びを連れて。
「お疲れ~。よかったよ……って、あれ?」
彼女に労いの言葉をかけようとしたが、気にも留めず未央ちゃんは通り過ぎていく。
普段であれば美嘉のことが大好きな未央ちゃんらしくないのだが、今は仕方ないだろう。
しかし、そう理解しているのは自分だけで、ただ事ではないと感じた武内さんがすぐにその背中を追っていく。
もちろん、自分もそのあとに続いた。辛い思いを負わせた責任の一端は確実に自分にも存在しているから。
後ろには卯月ちゃん、凜ちゃん、美嘉もついてきている。
舞台裏の照明が少ない薄暗い場所から、蛍光灯が設置された従業員出入り口に差し掛かる。
「前のライブと全然違うじゃん!」
そこで、怒鳴り声が自分たちの鼓膜を揺らした。
「すっごいライブやるからって、早く来ないと良い場所取れないからって……私、馬鹿みたいじゃん!」
「未央ちゃん……」
「前のステージみたいに盛り上がると思ってたのに……」
そこではたと気づいたのか、息をのんだ美嘉が自分を指差しながら割って入る。
「それって、アタシのステージに出たときのこと?」
その言葉を受けて武内さんもようやく気づき、未央ちゃんが望んでいたことをここにいる全員が理解した。
「つまり、以前のライブに比べて盛り上がりに欠けると……?」
言い当てられた未央ちゃんは唇をかんで下を向く。
それはまさに、そうですと答えているようなものだ。
武内さんが困ったときにとっさに出る、首に手を当てながら悩むしぐさをしてしまう。
彼女に今必要な言葉を吟味しているのだろうか。
でも、すみません。ここであなたに発言を許すつもりは無いんです。
昨晩言った言葉を忠実に守ろうとしてくれる、武内さんには悪いけれど。
「それは、仕方ないんじゃないの?」
えっ、と息が漏れたのは誰の口からだろう。
未央ちゃんからのものだったのかもしれないし、もしくは全員だったのかもしれない。
その驚きは、傍観を決め込んでいた自分が口を挟んだことに対してなのか、それともこの発言に対してなのか。
こういった場面では慰めるのが普通だろうから、おそらくは後者だろうけれど。
「仕方ない? これが?」
「うん。新人のデビューなんてこれぐらい普通だと思うけど」
「そんな、酷いよ……!」
彼女の声がだんだんと涙声になってきた。
それも当然か。大よそ自分が望んでいた言葉と違う言葉をもらったのだから。
「私が……私がリーダーだったから!?」
「本田さん、久遠さんが言いたいのは……」
「もういいよっ!」
武内さんからフォローが入ろうとしたが、未央ちゃんはそれを一蹴してこちらをキッと睨みつける。
「私、アイドル辞めるっ!」
「っ!」
武内さんが未央ちゃんの言葉を受けて絶句する。
彼にとっては古傷を直にえぐられたのだから仕方が無い。
しかし、唯一得られたことは、武内さんに怒りの矛先が向かず、自分に対して言ってくれたことだろうか。
これならば、彼がマンションを訪れた際に門前払いという流れにはならないと思う。
物語の恨まれ役など、異分子の自分だけで十分だ。
「未央ちゃんっ!」
慌てて階段を下りて行った未央ちゃんを追うNGの二人。
純粋な心配から、こちらには目もくれずに走っていく卯月ちゃんだが、凜ちゃんはそうではなかった。
明確な怒りを自分に向けてから二人を追って行った。
誰もが口を開けずに静まり返っている。
美嘉はライブに誘ったのが原因でおおごとになってしまったと顔を曇らせているし、他のメンバーは突然の出来事に言葉を失ってしまっている。
禁句を言われてしまった武内さんの背中は、いつもよりずっと小さく見える。
未央ちゃんにそう言わせたのは自分のせいなので、忘れないようにしっかりと目に焼き付けておこう。
未央ちゃんの泣き顔も、凜ちゃんの怒りも、卯月ちゃんの戸惑った顔も、武内さんのこの背中も――
しかし、何度味わっても慣れないものだ。誰かに嫌われる、というのは。