とある槍使いのSAO騒乱記   作:フリムン

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とりあえずもう1話あげて様子を見てみようかな、と。


始まりの日

 ―――思えば、オレの人生は恵まれていたのかも知れない。

 

 

 先日、リズベット作のカレー(という名のダークマター)を食い尽くしたオレは、珍しく自室にヒッキーしてベッドの上でそんなことを思う。

 

 年上の幼馴染み(♀)に、優しい両親。割りと裕福な家庭。気のいい親友に、DQNに見えてヘタレな後輩。

 そう考えると、やっぱりオレの生活は楽しいものだったと思う。

 

 

 ………一年前までは。

 

「これはゲームであっても――――」

 

 ――――遊びではない。

 

 この世界(ゲーム)が始まる前までは、ただストーリーに必要なフレーバーだと思っていた。

 でも、結局それは違っていて、その言葉の通りになってしまった。

 

「………半分を過ぎるのに一年とちょっとか。早いな」

 

 早い。驚くほどに。

 でも、

 

「もっと早く。もっともっと、先へ………」

 

 天井に掌を向けて握り込む。

 こんなところでグズグズしていられない。オレは帰るんだ。帰らなきゃならないんだ。

 

 ――――交わした約束があるから。

 

 ――――伝えたい言葉があるから。

 

 

 握った拳を下ろして、オレは回想する。

 

 

 

 日常が崩れて、仮想が現実となってしまったあの日の事を。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「デートしようぜ、アキ姉!」

 

 11月5日の夕方、学校の帰り道でオレは隣を歩く(主観的に)美少女、(ひいらぎ)暁那(あきな)にイケボ(のつもり)で提案した。

 

「……いきなりなに? 明日用事あるんだけど?」

「くぅぅ、ドライな反応! て言うか明日じゃねぇよ。明日はオレも予定がある」

 

 いきなりのことに驚いたのか、奥手なアキ姉はジト目でオレを見ている。

 

「ちなみに用事って聞いていい?」

「バレー部の先輩とデート」

「ごふぅぁ!」

 

 こうかは ばつぐんだ ! きゅうしょ に はいった!

 

 心をクリティカルに抉ってきたアキ姉の台詞を聞いたオレは、そのまま地に倒れ伏す。

 ちょっとビクンビクンしてるのはご愛敬。決してNTRとやらに目覚めた訳ではない。純愛最高。

 

「……に着る服を一緒に買いに行くのよ」

「ぐふぉぉ……追い討ち………追い討ちなのかこれは……………くぅぅ、そのデートの相手が羨ましいぜぇ」

「結構余裕そうね」

 

 そんな事はない。実際、流せるもんなら体の穴という穴から血を流している。

 

「そのデートの相手は誰だ? 髪の毛とか持ってる? ちょっと藁と五寸釘とトンカチとその他諸々買いに行くから」

「この辺りに神社って無いけどね」

「………不覚っ!」

 

 自分の余りの無力さに項垂れていると、アキ姉がオレの目の前にしゃがみこむ。

 

「相変わらず鈍いわねぇ。デート相手はあんたよあんた。まったく、可愛いんだから。ほら立ちなさい? 制服あんまり汚したらおばさんに怒られるわよ?」

 

 ……………ファっ!?

 

 ちょっと早口で、けど、ちゃんと聞き取れた彼女の台詞にオレの動きが固まる。

 

「な、なによ?」

「デート、相手って、オレ?」

「そ、そうよ! 有り難がりなさいよ!」

「うおぉぉお! 女神様暁那様ぁ!」

「うるさい叫ぶな近所迷惑!」

「ぎゅむっ!」

 

 これはますます明後日が楽しみになってきたぜ! 滾ってきたぁ!

 

「あ、あんたには当日に服を見せて上げるわ」

「楽しみにしてるぜベイベー」

 

 イケボ(のつもり)でサムズアップすると、顔を真っ赤にしたアキ姉に脛を蹴り抜かれてしまう。

 

「あだぁ! ローファーの爪先で脛はダメだって!」

「う、うるさいバカァ!」

 

 そう叫ぶアキ姉の声は、先程のオレの雄叫びよりもよく響いていたそうな。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「今ごろはアキ姉、ショッピングなうかね?」

 

 待ちきれずナーヴギアを被ったものの、やることなくて仕方なく別のMMOでPK野郎をひたすらモーションで煽ってはキルって行きながら、ふとそんなことを考える。

 ちなみに、相手の攻撃をひたすら躱しながら『躍り』のモーションを繰り返すと、自分でも見てて腹が立ってくるんだ。

 そこにフレンドの褌一丁のユージーンと紐パンのレコンも加わるもんだから効果は人数の乗数である。

 

「くぅぅ、今日も楽しみだけど、明日も楽しみだぜちくしょー! ………あ」

 

 HP一桁に最上位技ぶちこんじまったZE。オバキしてすまんそ。

 

 一通り煽りプレイをして一段落付き、時計を見ると、ちょうどいい頃合いの時間となっていた。

 チャットで彼らに別れを告げ、いそいそとベッドに潜り込む。

 

 確か、始まりの言葉は…………

 

「Link Start」

『認識できませんでした。もう一度ハッキリとお願いします』

「なん………だと……………」

 

 できないネイティブ発音を使用としたのがいけなかったのか。

 

「……………りんくすたーと」

 

 何故か負けたような気になったオレは、割かしなげやりに言葉を告げる。

 

 

 それで通ってさらに悔しくなったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

刺し穿つ(ゲイ)――――死棘の槍(ボルグ)!」

 

 突き出した槍は、淡い光を的ってスライムポジの猪を貫く。

 

「チョイスが古いな!」

「古いゆーなディアベル! 名作だぞ! エクストラクラス:ジガイセヨランサーだぞ!」

「やめて差し上げろ」

 

 片手剣と盾を装備した無駄にイケメンな野郎にオレは言葉を返す。

 けっ、これだからイケメンは……………まぁキャラクリで作った模造品だろうがなぁ! それに比べて見よ! オレのこの逞しい体付きと豊満な胸、そして流れるような長い黒髪! この乙女の姿を!

 

「お前絶対ネカマプレイする気無いだろ」

「なにおぅ!?」

「いや、そのキャラクリはネタに走りすぎだろう。なんだよムキムキの乙女フリューゲルって。悪夢だろ」

「巨乳だからいいだろ!?」

「半分以上が筋肉の巨乳はお断りです」

「捨てないでダーリン!」

「野太い! 声が野太い! あとボディービルやめろ笑う」

 

 いやぁ、持つべきはノリのいいフレンドだぜ。だてにMMOでの付き合いは長くない。

 

「にしても、ベータに当たったお前が羨ましいぜ」

「ふははは、崇め奉れ」

「お金くれるなら」

「俺の損失しかなくね?」

 

 などと馬鹿話をしていると、時間ってのは案外早く進むもんで、気がつけば夕食時となっていた。

 

「ん、すまんディアベル。飯時だから帰るわ」

「おう、また明日な」

「明日はデートだ!」

「……なん………だと……………」

「はっはっは、じゃあな童貞(ディアベル)。また次の休みにな!」

「ど、どどど童貞ちゃうわ!」

 

 ウインドウを開き、ログアウトボタンを押す。

 

 ブー。

 

「ぉん?」

「どうした?」

「いや、ログアウトボタンが反応しないんだ。と言うかログアウトの文字が無い」

「んなバカな………あれ? ホントだ」

「だろ?」

 

 とその時、辺りに鐘の音が鳴り響く。

 

「な、なんだ?」

「さぁ? でも、なんか………」

 

 不安感を覚える音だな。

 そう思った瞬間、俺たちの体は光に包まれ、そして気がつけば始まりの広場へ転移していた。

 

 

 

 

 そこからが、非日常の始まりだった。

 

 

 

 告げられたこのゲームの………いや、この世界の異常性。茅場の宣言。配布された手鏡によるキャラクリのリセット及び現実の自分の投影。

 

「ディアベルお前、キャラクリする意味なくねぇ!?」

「いや空気読めよ」

 

 そして訪れる混乱。

 悲鳴を上げる者、泣き叫ぶ者、行動を開始する者。

 反応は様々だった。

 

 

 対してオレは、ただひたすら立ち尽くしていた。

 

 

 ―――出られない?

 ―――なんで?

 ―――明日は大切な日なんだ。

 ―――約束があるんだ。

 ―――帰らなきゃ。

 ―――伝えたい言葉があるんだ。

 ―――帰らなきゃ、帰らなきゃ、帰らなきゃ―……………

 

 

「っ、フリューゲル!」

 

 呆然と立ち尽くすオレの腕を、ディアベルが掴む。

 

「……ディアベル?」

「行くぞ、グズグズしてられない」

「え?」

「約束があるんだろ! デートなんだろ! だったら行くぞ!」

「でも、クリアなんて、そんなの…………」

 

 自覚できるほどらしくもない弱音が、自然とこぼれる。

 だが、そんなオレに向かって、彼はまっすぐオレを見て言った。

 

 

 

 

 

 

「クリアできないゲームなんか、無い」

 

 

 

 

 

 

 あれが始まり。あれがオレの始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 意識が浮上する。どうやら眠っていたようだ。

 

 ………しかしまぁ、懐かしい夢を見たもんだ。

 

「クリアできないゲームは無い、か……………お前の事は忘れないぜ、ディアベル」

 

 ああ、忘れないとも。我が友よ…………。

 

 

 

「いや、死んでねぇから俺」

「……………目覚めたら部屋にいるのは美少女がいいのでやり直し。せめてユリエールさん連れてこい」

「リズベットさんにチクるぞ」

「? なにを?」

「………これだから童貞は」

「おまいう………で、なに?」

 

 ベッドから体を起こしながら目の前のイケメン、ディアベルに向き合う。

 

 ちなみに、オレのホームに入れるのはコイツとリズ、アスナ、キリトの四人だけである。信用の現れだね、うん。

 

 

 問うと、ディアベルは真面目な顔つきでオレに告げる。

 

 

 

「―――ボス部屋が見つかった」

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて、口が弧を描くのをどうしても、抑えることができなかった――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ディアベル帰るならこれやるわ」

「なにこれ?」

「リズのカレーで作ったカレーパン」

「お、サンキュー」

 

 

 

 このあと、鳴り続けるフレンドメッセの音と外で苦悶の悲鳴を上げるイケメンの絶叫なんか、オレは知らない。

 

 

 

 




ディアベルは生存しました。
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