《禁獄の魔女》と《神鳴》 作:遥推しの名無し
「ねえ、何でお姉ちゃんは光輝兄ちゃんとそんなに仲が良いの?」
天霧綾斗は、同門の少年の顔を思い浮かべながら少し頬を膨らませて姉である天霧遥に聞いた。最近、大好きな姉を彼に取られている気がして、綾斗としては面白くなかったのである。
すると、遥はほんのりと頬を染め、照れくさそうに微笑んだ。
「そうね。……私が光輝君を大好きで、光輝君もそうだから……かな」
二人が恋人同士だというのはまだ10歳程度だった綾斗にも分かっていた。二人が仲良くするのは当然の事だと言うことも知っていた。それに、彼は綾斗の周囲で唯一遥と対等に剣を交えられる人間。……つまり、立ち会いをするにせよプライベートな面にせよ、遥と光輝が一緒に居ない理由は殆ど皆無に等しいのである。
だが、それとこれとはまた別の話だ。綾斗は唇をつんと尖らせて、意地が悪いと分かっていながらその質問を放つ。
「じゃ、じゃあさ。……お姉ちゃんは僕と光輝兄ちゃん、どっちの方が好きなの?」
それを聞いた遥は、困ったように苦笑しながら、トンと軽く綾斗の額をつついた。
「そうね……。綾斗も好きだし、光輝君も好き。
綾斗。そもそも、人を好きって気持ちには優劣を付けるものじゃないのよ?」
――――――
「はむっ……」
遥がケーキをフォークで器用に切り分けて口に入れると、それは口のなかでふわっととろけた。途端に広がるしつこくないチョコレートの甘味と、言い様のない高揚感に思わず頬を緩めて満足げに深く息を吐く。
「ん~っ、おいしい!」
遥が漏らした感嘆の声に、テーブルで向かい合って座る青年が、頬杖をついたまま嬉しそうに笑った。
「そいつは良かった。わざわざ美味しいケーキ屋を調べた甲斐があったよ」
「ありがと、光輝君。本当に美味しい」
「どういたしまして。ま、今回は約束通り昨日の決闘で負けた俺の奢りだし、好きなだけ食べてくれ」
「う、うん……」
『決闘で勝った方が相手の好きなものをご馳走する』という二人の間だけでの約束通り、光輝は遥の大好物であるチョコケーキをご馳走してくれた(因みに前回は遥が負けてしまい、遥は光輝へと手作りのパスタをご馳走した。光輝の好きなものというのが遥の手料理だったためだ)。
だが、『好きなだけ食べて良い』という本来なら喜ぶべきはずの光輝の言葉に、しかし遥は緩んでいた頬をピクリと引き攣らせた。
フォークを持っていない左手で最近危険な状態になっているような気がする自分の腹部をふよふよと摘まみながら、昨日、お風呂上がりに測った体重計の数値を思い出す。
あーうー、と暫く唸りながら色々と考えた結果、結局遥は深く肩を落とした。
「……やっぱり私これだけにしとく……」
いかに
そこまで考えて、ゾッと背筋に悪寒が走った遥は余計な考えを振り払うようにブンブンと首を横に振る。星導館のトップである序列一位の圧倒的な実力を誇るとは言え、体型を気にしてしまう年頃の女の子なのだ。体重の増加に薄ら寒いものを感じてしまうのは仕方の無いことだと言えよう。
だが、今はそんなことを考えるよりも、このケーキをより味わって食べるべき。
現実逃避ぎみにそう思い直し、遥は気合いを入れてフォークを持ち直す。光輝は、そんな遥に苦笑いを浮かべながらもずっと彼女を暖かく見つめていた。