《禁獄の魔女》と《神鳴》   作:遥推しの名無し

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遥の事情

「えっと……つまり……」

 

綾斗は額に冷や汗を滲ませながら、ついさっき聞いた情報を簡潔に纏めて紗夜に返す。

 

「父さんが姉さん達の交際を認めなかったから、姉さん達は駆け落ち同然で星導館のスカウトを受けて、3年前の鳳凰星武祭(フェニクス)で優勝したときの願いで結婚した――……ってこと?」

「さすが私の綾斗。全くその通り」

 

紗夜はグッと親指を立ててサムズアップし、満足げに頷く。綾斗は頭を抱えて蹲った。それでいいのか我が姉。確かに親族でもアスタリスクには中々入れないから駆け落ちには最適かもしれないけどさぁ……、と声には出さずに洩らす。

そして、不意に思い至った。いくら星武祭(フェスタ)に興味が無かったと言っても、綾斗も父も遥が星武祭に出ていたのなら流石に気付かないわけがない――と言うことはつまり。

 

「もしかして……父さんが姉さん達のことを意図的に隠していたり……?」

 

口に出してから、それが真実だと気付く。まぁ、真実をそのまま綾斗に伝えるのは流石に父の面子が立たなすぎる。だから『遥は行方不明だ』なんてことを綾斗に教えたのだろう。

 

「……俺は一体どうすれば……」

 

なすべき事を探しにアスタリスクへとやってきたはずなのに、逆にやるべき事を失った綾斗であった。

 

 

 

 

――――――

 

 

綾斗が混乱で自分を見失っている頃、その元凶とも言える2人の学生が星導館内の公園でのんびり寛いでいた。

 

「――へえ」

「どうしたの? 光輝くん」

「見るか? 驚くぜ」

 

ぽかぽかと麗らかな陽射しの下、丁度一際大きな樹の陰になるように配置されたベンチに腰掛けながら、湯気を立てる缶ココア片手にキョトンと首を傾げる遥に向かって、光輝は自分の前に広げていた空間ウインドウをスライドさせた。

開いてあるのは星導館の生徒専用のとあるニュースアプリ。星導館内のニュースしか入ってこないのがたまにキズだが情報の速さと正確さが売りで、光輝はこのアプリを割りと愛用している。

 

そして、そこに載っている記事はといえば。

 

「ん? ……華焔の魔女(グリューエンローゼ)が特待生と戦闘? 確かに珍しいかもしれないけど、別にそんなに驚か――」

「もうちょい下のところ。ほら、決闘相手の名前」

「んー?」

 

遥はココアを一口飲むと、光輝の言う通り再びウインドウに視線を落とす。

 

「特待生の名前は天霧綾――んぐっ!?」

 

そして噎せた。けほ、けほと咳き込み、漸く落ち着くと、目尻に浮かんだ涙を拭って光輝に眼鏡越しの視線を向ける。

 

「あ、綾斗!? な、何でここに!?」

「特待生……だからスカウトされたんじゃねーの?」

「で、でも綾斗ってそこまで有名じゃないでしょ? 何でスカウトされたんだろ……」

 

確かになぁ、と虚空を仰ぐ。確かに光輝や遥の記憶にある綾斗は、遥には敵わないもののかなりの優れた才能と異常な量の星辰力(プラーナ)を持っていた。……だが、駆け落ち前夜に遥は綾斗がその膨大な星辰力に使い潰されないようにと、三段階の封印を施した筈だ。

いくら才能があるとは言え、そんな状態では厳しいアスタリスクのスカウト審査は通れないだろう。

遥と光輝も特待生として入学したが、あの頃で既に二人ともが圧倒的な実力と知名度を誇っていたからスカウトをされたのだから。

 

「……ま、そんなことは考えても仕方ない。つか問題はどっちかって言うと遥がどうするかってことだよな」

「う、うん……」

 

光輝の言葉に、遥は歯切れ悪く俯き気味に呟いた。ココアの缶を握る右手が小さく震えている。駆け落ちした際、遥も光輝も綾斗に対しては何も言わずにアスタリスクへと逃げてきた身だ。ブラコン気味の遥のことだし、『嫌われていたら』という心配もあるだろう。

 

光輝は息を1つ吐くと、隣に座る遥の左手をそっと握った。

 

「ま、俺も付いてくからさ。今度の週末にでも綾斗に会いに行ってみようぜ?」

「……うん……。ありがとう、光輝くん」

 

光輝の言葉に、遥は頬を染めてはにかんだ。

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