《禁獄の魔女》と《神鳴》 作:遥推しの名無し
「綾斗……ごめんね」
「姉……さん……?」
少女と少年が二人きりで向かい合っていた。
少女は今にも泣き出しそうにその端正な顔を歪め、少年は、呆気に取られたように少女を呆然と見つめるだけだ。
周りの喧騒から切り離されているかのように、二人の間には重苦しい沈黙が横たわった。何も言葉を発しない二人の耳に届くのは、木々に止まる小鳥のさえずりだけ。
(どうしよう、光輝くん……)
少女――天霧遥は、悲痛な表情で俯き、綾斗から目を背ける。悲しんでいるような、外からはそんな風にしか見えないだろう。だが、心のなかでは冷や汗が凄い勢いで流れていた。遥は重苦しい空気の中、自らの愛する人に助けを求める。
(昨日の夜、何を言うか散々考えてたのにいざ綾斗の前に立つと色々と飛んでっちゃったよ!)
『取り合えず謝らなくちゃ』と言う気持ちから、綾斗に謝ったはいいものの……続きが全く出てこない。
遥の一晩の苦労が水の泡となった。
――――――
「悪いな。デートだってのに水差すような真似して」
「なっ!? で、デート等ではない! ただ天霧にここの案内を頼まれただけで――」
「にしては格好に気合いが入ってるね」
「これは最低限の身嗜みだ!」
がーっと吼えるユリスの抗議を光輝は笑って受け流した。
週末。遥が綾斗と兄弟水入らずの話をしている間、部外者である光輝は、綾斗にこの学戦都市を案内するために待ち合わせをしていたらしいユリスと時間を潰していた。……いや、ユリス“で”と言うべきか。
「でも、綾斗も凄いよなぁ。まさか初日に女子寮に突入するとか。それは決闘を挑まれても仕方ない」
電柱に背中を預け、光輝は堪えきれないように笑う。ユリスから事の顛末は先程聞いたばかりなのだが、想像の斜め上を行っていた綾斗の行為に、光輝は話を聞いている間、吹き出すのを堪えるので必死だった。
――流石は遥の弟。間の抜けっぷりは姉譲りか?
そんな風に考える。因みにその際、一昨日に遥が体重計の前で崩れ落ちていたことを思いだし、微笑ましい気持ちになった。
ユリスはそんな光輝を訝しるように数秒見つめると、肩を落として溜め息をつく。そして、綾斗と遥が話をしているはずの茂みに視線をチラリとだけ向け、小さく呟いた。
「……まぁ、何と言うか……不思議なやつなのは確かだな。実力を隠しているようにも見えるし、そうでないようにも感じた」
「ふぅん。当たらずとも遠からずって所か」
光輝が小さく笑って言った言葉が気にかかり、ユリスは眉を潜める。
「どういうことだ?」
だが、ユリスの言葉に光輝は肩を竦めるだけで、何も言うことはない。引っ掛かるものはあったが、別にそこまで追究することでも無いだろう。そう思い、ユリスは話を変える。
「……1つ聞かせて貰いたい」
「んー?」
「今年の
ユリスの質問が予想外だったのか、光輝は一瞬目を丸くしたが、すぐに何かを察したように『なるほど』と頷いた。流れるような動作で腰に付けてある
「ま、叶えたい願いは無いから、出ないってのもアリなんだろうが――」
『叶えたい願いは無い』という光輝の言葉に、ユリスは内心安堵の息を吐いた。
ユリスは光輝とも遥とも剣を交えた経験があり、その際に彼我の実力の差に1度絶望しかけた。あの二人は別次元の存在だ、と自分には無理矢理納得させたが――恐らく、自分に自信を持っているような、星導館の他の
例えるなら、序列3位の刀藤綺凛が『“今の”ユリスが10回戦って一回も取れない相手』とするならば、遥や光輝は『何度戦っても絶対に勝てない相手』と言ったところだろう。そのくらいの実力の差があり、彼らがタッグを組んで鳳凰星武祭に出場した場合、どう足掻いても勝てない。ユリスは冷静にそう分析していた。そしてその分析結果は、ユリスに取って喜べることではない。ユリスは、何としても今期の
だが、光輝の言葉に含みがあるのを感じて、ユリスは顔をしかめた。続く言葉が朗報だとは考えられなかったためだ。
「アリなんだろうが――何だ?」
「遥は綾斗が出るなら出るんじゃないか? で、俺は遥が出るなら出るし」
「……むぅ」
ユリスは唇を曲げて、難しそうに唸った。