《禁獄の魔女》と《神鳴》 作:遥推しの名無し
暫く時間が経ち、遥が森から出てきたその姿を見て、光輝は思わず苦笑いを浮かべた。
それもその筈、遥は一目でそうと分かるくらいに肩を落として落ち込んでいたのだ。大体予想通りだが、どうやら綾斗との話し合いには失敗したらしい。
遥は、光輝の姿を視界に捉えると、堪えきれないように目に涙を溜めてこちらへと走ってきた。両手で確りと抱き止め、泣いている赤子をあやすようによしよしと頭を撫でる。
「うぅ……全然話せなかった……。話したいこと、いっぱいあったのに……」
「まぁ、そうなるだろうとは思ってた」
光輝の無慈悲とも取れる言葉に、遥は「えっ」と情けない声を出した。
だが、昔から遥の事を見ていたのは伊達ではない。戦闘の時は頼れる相棒なのに、こういうプライベートな面はかなり弱いのが、この天霧遥という少女なのだから。
――まぁ、そんなところも好きなんだけど。
内心で呟き、光輝はもう一度だけポンポンと遥の頭を撫でる。
「姉さん!」
そんなとき、不意に聞き覚えのある声が光輝の耳に届いた。この声を聞くのは実に6年ぶりくらいだろうか。軽く過去に思いを馳せそうになりながらも、気を取り直して声の主――天霧綾斗へと視線を向けた。
「久し振りだな、綾斗」
果たして、闇色の瞳をした少年は光輝を見て、複雑そうな表情になった。
「えっと……」
そこで言葉を詰まらせる。どうしたのだろうか、と首を傾げた光輝に、綾斗は虚空に視線をさ迷わせ――
「光輝兄さん? それとも光輝義兄さん?」
「……音同じだしどっちでも良いよ」
確かに、今の関係としては綾斗は光輝の義弟に当たるのである。どう呼べば良いのか綾斗が困惑するのも仕方がないことだとは言えた。
* * *
「へぇ、紗夜から大体のことは聞いてるのか」
「うん、一応はね」
光輝と綾斗はごく自然に会話を交わしていた。所々ぎこちなくはあるが、遥のように何を話せば良いのかが分からない、等と言うことにはならない。
遥が密かに送ってくる『綾斗と普通に話せて羨ましい』という羨望の視線を全力でスルーし、綾斗ととりとめのない会話を続ける。
「それにしても、何で今の綾斗が特待生として入れたんだ?」
「それは俺にも分からないんだけど――クローディアが強く推したらしいよ」
「あの生徒会長さんがねぇ……」
光輝は顎に手を当てて軽く思案を巡らせる。あの黒い生徒会長の事だ。まさか何も考えずに綾斗を推薦する、等ということはしないだろう。
まぁ、確かに全力状態の綾斗ならば
――よし。
「綾斗、久し振りに会ったことだし、一度手合わせするか?」
「……分かった」
一度剣を交えてみれば、その本意が分かるかもしれない。光輝はそう考え、綾斗をしかと見据えた。
冗談じゃないことが通じたのだろう、先程まで微妙に遠慮しているような様子だった綾斗は一転真面目な表情になり、頷く。
「――つっても綾斗はお姫様とのデートがあるしなぁ」
後ろの方で「だからデートではないっ!!」と顔を赤くしたユリスの必死な言い訳が聞こえてくる気がするが、多分気のせいだろう。更に遥は光輝の事を呆れたように見ていたような気もするが、これも気のせいだ。
「じゃあ明日トレーニングルームに来てくれ。そこで一戦やろう」
光輝の言葉に、綾斗は再び頷いた。