赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第九鬼

「あ、リーナさんだったんですね。さっきの返事」

 

 

 宏壱の部屋に入った晶は、宏壱のベッドの脇に立つリーナを見て納得した。

 

 

「うん、無茶をするなって怒られていたところだよ」

 

「なぁっ! わ、私は怒ってなど……っ!」

 

 

 宏壱の物言いにリーナは顔を赤くして慌てた。

 

 

「ははっ……分かってます。僕はもう大丈夫ですから、リーナさんは自分の仕事に戻ってください。と言ってももう夜ですから、お風呂に入って終わりかもですけど」

 

 

 それを見た宏壱は明るく笑って暗にリーナに退室を促す。ステータスも既に伏せていた。

 

 

「~~っ! ……ふぅぅっ……分かりました。もう遅いですからお話もほどほどに。勇者ミフネ、勇者コーイチが夜更かしをしないように言い聞かせてください。では、失礼します」

 

 

 気を落ち着かせたリーナは晶に頭を下げて一礼、ドアまで行きもう一度頭を下げてドアを閉め、退出した。

 

 

「……良かったの?」

 

「何がだ?」

 

 

 リーナが退出して暫く、口を開いた晶がそう聞くと、宏壱は首を傾げて聞き返した。

 

 

「リーナさんにあんな態度取って……と言うか、僕にはもう隠す気ないんだね」

 

「まぁ、この程度で怒る人じゃないし、こっちには深く踏み込んでこないから大丈夫じゃないか? それにちょっと俺にとって不都合な状況でもあったしな」

 

 

 晶の前では取り繕う気がない宏壱は、素の口調で答える。

 

 

「不都合?」

 

 

 宏壱が口にした不可解な単語に疑問を持った晶は、疑問符を頭に浮かべる。

 

 

「ああ、ステータスを全部見られるところだった」

 

「え? それが不都合? ステータスくらいなら別に全部見せてもいいんじゃない? と言うか、山口君は見せてないんだ。僕はカエデさんに全部見せてるよ」

 

「色々あるんだよ。……見せられないもんがな。ところで三船は何しに来たんだ?」

 

 

 そこで話題を切った宏壱は晶が来訪した理由を聞く。

 宏壱にとってこの先は触れられたくない話題である。そう察した晶は宏壱の話題転換に乗ることにした。

 

 

「えっと、これ」

 

 

 晶は腰に下げたポーチから巾着を取り出し、宏壱の膝の上に置いた。

 

 

「……この重み、銅貨だな。リンちゃんの護衛の報酬か?」

 

「うん。ギルドの職員の人に聞いたら、複数で当たるクエストは大体分け前は人数分に割るって話だったから」

 

 

 宏壱が膝の上に置かれた巾着の中身を予想して晶に聞くと、予想通りの答えが返ってきた。

 

 宏壱は巾着の中身を確認することなく枕元に置いていた自分のポーチに入れた。

 

 

「確認しないの?」

 

「確か50銅貨だったよな? なら25銅貨が俺の分け前ってことだろ?」

 

「そうだけど……そうじゃなくて、中を見て確認しないの? ってことだよ」

 

 

 そう言って怪訝な視線を向ける晶に宏壱は……。

 

 

「ははははっ……!」

 

 

 笑った。

 

 

「……ちょろまかしてんのか?」

 

 

 笑うのを止めた宏壱は片眉を釣り上げて晶に鋭い視線を向け、静かにそう言った。

 

 

「してないよ! そんなことする訳ないじゃないか!」

 

 

 心外だと憤る晶に「だよな」と笑い掛けて宏壱はベッドに深く背を預けた。

 

 

「あ……疲れた?」

 

「正直な。傷は魔法でほぼ治った。でも身体の疲労が抜けきってないんだ。ぶっちゃけ眠い」

 

 

 欠伸を溢し、宏壱は目を擦る。

 

 

「分かった。用事も済んだし、僕はこれでお暇させてもらうよ」

 

「ああ、悪いな、あんまり相手できなくて」

 

 

 ドアまで歩いていく晶に宏壱はそう声を掛けた。

 ガチャ、とドアを開けた晶はそこで振り向いた。

 

 

「うんん、気にしないで。それじゃ、お大事に」

 

「……おう」

 

 

 既に宏壱は晶を見ていなくて、その声も重たげだ。

 そんな宏壱に晶はくすりと笑みを溢し……。

 

 

「そうだ山口君」

 

「……ん~?」

 

「今の口調と眼鏡を外して前髪を整えて目を見せた方がカッコいいよ」

 

「……」

 

「山口君?」

 

 

 晶が名前を呼ぶが宏壱からの返事はない。

 

 

「……すぅ……すぅ……」

 

「……寝てる……【ライト】解除」

 

 

 晶の言葉を最後まで聞くことなく宏壱は意識を手放し、眠っていた。

 それを確認した晶は、部屋の照明を切り「お休み」と一言残して宏壱の部屋を後にした。

 

 ◇

 

「まったく……昨日の今日であの人はどこに……っ」

 

「あれ? リーナさん?」

 

 

 翌朝、まだ日の出前の薄暗い時間に晶がカエデと一緒に宏壱の部屋に向かっていると、正面から早足で向かってくるリーナの姿があった。

 怒りに呼応するように身に纏った赤鎧がガチャガチャと音を鳴らす。

 

 

「む? これは勇者ミフネ、お早う御座います。ミカグラ殿も」

 

「うん、お早う」

 

「お早う御座います、バコフ殿。先程、呟かれていたことはまさか……?」

 

 

 互いに挨拶を交わすリーナ、晶、カエデ。その流れでカエデはリーナが呟いていた言葉の意味を聞く。

 

 

「はぁ……勇者コーイチが自室にいないのだ」

 

 

 溜め息を吐いてリーナは答えた。

 

 

「こんな朝早くに? 昨日は相当疲れていたみたいだけど……」

 

「ええ、そう思って私も何時もより遅く勇者コーイチの部屋を訪ねたのですが……」

 

「いらっしゃらないのですか?」

 

「ああ」

 

「何処にいるか分かる?」

 

 

 晶の問いにコクっと頷いたリーナは歩みを進めた。

 

 

「恐らく……」

 

 

 リーナの向かう先は何時も宏壱と鍛練している場所。

 

 

「第二演習場です」

 

 

 ◇

 

 第二演習場。まだ日も照らさぬ時間帯、そこで剣舞を舞う1つの影があった。

 

 

「しっ! ふっ! はっ!」

 

 

 大上段に構えた直剣が振り下ろされ、地面を穿つ前に突き上げられ、右足を軸に回転が加えられ大きく横凪ぎに振るわれる。

 

 ゴウッ!

 

 土埃が舞う。影は止まらない。

 舞った土埃を下から斬り上げて払うと、1歩大きく踏み込んで鋭い突きを放つ。

 直剣の切っ先を下に向けて軽く地面に突き刺し、それを支えにして体を浮かせて左足を横凪ぎに蹴り抜き、その流れのまま身体を反転させて後ろ蹴り、直剣を地面から引き抜いて力任せに斬り下ろす。

 

 ゴウッ!

 

 再び土埃が舞った。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 剣舞を舞う影こと宏壱が直剣、グレートソードを背中の留め金に嵌め込んで静かに息を吐く。それが一旦の区切りとなった。

 

 

「お見事です」

 

 

 それを見計い宏壱に声を掛けた人物がいた。

 

 

「……確かハサーシャ女王、でしたよね?」

 

 

 宏壱は驚く様子を見せなかった。見られていたことは初めから気付いていたのだ。

 

 

「敬語は不要です。普段通りにしてください」

 

 

 気付かれていたことを見抜いていたハサーシャも驚くことはなく、そのまま会話を進めた。

 

 

「不要、と言われましても僕は――「私に嘘は通じません。妖精は真実を見る目を持っています」――……それアンタだけだろ。妖精族は勘が良いって書いてあったけど、アンタの、確かユニークスキル【真理眼】……だったか? 見たモノの真実を見抜く眼。ステータスを見ることもできる。スキルにしては珍しくSPと同時にMPも膨大に消費するため、そのユニークスキルを持って生まれた者は、生まれながらにして膨大なMPとSPを持ってるって書いてあったな。アンタはその影響で妖精族でありながら、並みの人間サイズになってる」

 

「あくまで私個人の考察です。ユニークスキルは世界に1つだけ……私が死ななければ、私以外の【真理眼】保有者は生まれませんから、実証の仕様がありませんが……恐らくは、といったところです」

 

「……スキルに関しての考察及び検証の結果って本、アンタが書いたのか?」

 

「はい、暇な時に150年ほど時間を掛けて書きました」

 

「はぁーっ、150年暇ってどんだけだよ」

 

「正確には173年3ヶ月27日の暇がありました」

 

「こまけぇなおい」

 

 

 ハサーシャが真面目な顔で言うと宏壱が軽くツッコンだ。そのあと「ははっ」とカラッとした笑いを溢すと……。

 

 

「王族ってのはもっと気難しい連中だと……」

 

 

 と言い掛けたところで、宏壱は言葉を切った。

 

 

「いや、うん、そうでもなかったな」

 

「? なるほど、貴方は多くの王やそれに連なる者達を見てきたのですね。多重転生者とやらの称号がそれを物語っています」

 

 

 前言を撤回した宏壱を見て訝しむように首を傾げたハサーシャだったが、【真理眼】で見た宏壱のステータスを思いだし、合点がいったと納得した。

 

 

「……なるほどねぇ。それが目的か……」

 

「……察しが良いですね。私が貴方に会いに来た理由が分かりましたか」

 

「ステータス、だろ? 昨日は確認できなかったから、今日確認しに来た。そういうことだよな?」

 

「はい。ですが、これは他の者には伝えられませんね。殺戮王……こんな物騒なものは」

 

 

 昨夜、宏壱がリーナに見せることを渋り、無理にでも追い出したのはこの称号が大きな理由だった。

 殺戮王などと不穏で危険色の強い称号、誰が見聞きしてもその持ち主に警戒心を抱くのは必然である。

 

 

「このことは私の胸の内に秘めておきます」

 

「……良いのか? 俺がただの殺人鬼って可能性もあるぜ?」

 

 

 宏壱の問い掛けにハサーシャは「いいえ」と首を横に振ってその可能性を否定した。

 

 

「殺人鬼ならばその称号がステータスに刻まれます。貴方は何かを守るために誰かを傷つけられる人なのでしょう」

 

「はっ。俺のことを知らねぇくせに――「昨日の件がその証明ではないですか」――……はぁ?」

 

 

 ハサーシャの見解を鼻で笑い飛ばした宏壱は、不機嫌に顔を歪めてハサーシャを黙らせようと試みるが、それはハサーシャに言葉を遮られて叶わなかった。

 

 

「何故残ったのです?」

 

「……アンタ何を言ってるんだ?」

 

「分かりませんか? そんな筈はありませんよね。貴方は理解している筈です」

 

 

 1歩、ハサーシャは宏壱に近付く。

 

 

「……さっぱりだな」

 

「バセット山には少数ですが山菜採りに出ていた民や冒険者がいました。アントと交戦した貴方は、並みの冒険者では相手取れない。そう判断して貴方はアントが湧く場所を探索して、発生源の洞窟前に陣取りアントが出てくるのを防いだ。貴方が殺人鬼だとするならば、見も知らぬ人の命を守るためにそんなことをしますか!」

 

 

 惚ける宏壱にハサーシャは1歩、また1歩と近付き、最後にびっと宏壱の鼻先に人差し指を突きつけて言いきった。

 その鼻息は妙に荒く、ふんすと音がなりそうだ。

 

 

「めーすいりだねー」

 

「むっ、今馬鹿にしましたか? 2000年を生きる私を、妖精族女王である私を馬鹿にしましたか?」

 

「いんや~、ぜーんぜん」

 

「むむっ。やはり馬鹿にしていますね?」

 

「してないって。そんなことどうでもいいから離れてな、鍛練を再開すっからさ」

 

「……そうですか。では私もこれで失礼します。あ、そうそう」

 

 

 離れようとしたハサーシャだったが、足を止めて宏壱の顔を見据える。

 

 

「先程の取り繕った貴方より、今の貴方のほうが“らしい”ですよ」

 

 

 それだけを言い残してハサーシャは、ふっと空気に溶け込むように消えた。

 

 

「なーんか昨日同じことを言われた気がするな……」

 

 

 呟いた宏壱は右拳を握りしめて振り抜く。

 ビュッ! 空気を裂く音が響き遅れてパァン! と破裂音がした。

 

 

「急激に上がった身体能力の確認はそろそろ十分だな。今度は全力で動き回って俺の限界を知る……!」

 

 

 宏壱の動きがどんどん加速していく。宏壱の眼には赤い全身鎧を身に纏った女性、リーナが映っていた。

 

 

(ステータスの数値は五分だ。なら経験の差で俺に軍配が上がる、筈だ!)

 

 

 イメージのリーナの動きは酷く遅い。これは全力のリーナを宏壱が見たことがないからだ。故に宏壱がレベルアップした分イメージのリーナが遅く感じてしまうのだ。

 だから自分の動きに合わせてリーナの動きを速くしていく。

 

 

「しっ!」

 

 

 右足を蹴り上げる宏壱に対し、宏壱に見えるリーナの幻影は上段から大剣を振り下ろす。

 宏壱の足とリーナの大剣がかち合う。

 幻影でありながらまるで質量を持っているようだった。

 

 

「ぬっ、りゃあ!」

 

 

 宏壱と本物のリーナの力はほぼ五分だが、未だイメージの追い付かない幻影のリーナは宏壱に押し負ける。

 

 

「ふっ! はっ!」

 

 

 大剣を押し退けられ、バランスの崩れた幻影のリーナの肩に宏壱の右踵が振り落とされ、更に体勢を崩して傾ぐ幻影のリーナの鳩尾に宏壱の左後ろ蹴りが突き刺さり、霧散した。

 

 

「……イメージが追い付かなかったな」

 

 

 幻影のリーナが消えるまで凡13秒。宏壱のリーナに対しての実力の調整が追い付かないまま倒してしまったのだ。

 

 

「何度もやれば追い付くか……」

 

 

 休む間も設けないまま宏壱の鍛錬は続いた。

 

 ◇

 

「やっぱり……」

 

 

 第二演習場入場口にて宏壱の鍛錬を遠目から見る影が3つ。リーナ、晶、カエデだ。

 

 

「凄く綺麗な動きだね、無駄がないのが僕にも分かるよ」

 

「身体の動かしかたは元々上手かったのですが、それにレベルが付き、ステータスが大幅に向上した分、力強さと速さが増しました。その感覚に慣れるための鍛錬でしょう。ならば……それに付き合うのもまた指導役としての務め」

 

「……怒っていたのでは?」

 

 

 戦意を瞳に灯らせたリーナの意欲を感じたカエデが聞く。

 

 

「私は騎士である前に一介の武人だ。貴殿も分かるだろう? 今の勇者コーイチは我々指導役に匹敵しうる力を持っている。手合わせしてみたいと思わないか?」

 

「……(確かにこうして肌で感じるヤマグチ殿から迸る闘気は尋常ではありません。現段階ではコーイチ殿が勇者最強でしょう)」

 

「しかし、お灸は必要だな。勇者コーイチが増長しないようにするのもまた指導役としての務めだ。……と言うことで、勇者コーイチ、死角から失礼させていただきます」

 

 

 見えないながらも宏壱の実力を肌で感じているカエデを尻目に、リーナは背負う紅の刀身を持つ大剣の柄に右手を添える。

 

 そして駆けた。リーナの幻影と闘う宏壱が右拳を振り抜いた瞬間の一瞬、右側面に死角ができた。その隙を突く。

 駆ける中でリーナは紅の大剣、レッドクレトスを引き抜く。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 数瞬の間も置かずリーナは宏壱に接近、右側面から宏壱の右腕の付け根を狙ってレッドクレトスを斬り下ろした。

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