赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第十一鬼

「では、これよりクイーンアント討伐作戦に掛かる。洞窟内はアントのテリトリーだ。油断なく進むように願う」

 

 

 男性の威厳のある野太い声が森林の合間を駆け抜ける。

 

 バセット山下腹部、洞窟前。

 宏壱が見付けたそこで、66人の人員が並んでいた。勇者とその指導役だ。その内22人が洞窟内部に入り、クイーンアントを討伐することになっている。あとは見送りと、洞窟の口を塞ぐ人員だ。

 

 そんな彼らを前に2mに迫る大柄な体躯を持つ男性、リカルド・ボレアだ。体躯通りと言ってしまえば本人は不平を漏らすだろうが、かなりの強面で、右目に三筋の引っ掻き傷があるのもそれを助長している。

 身に纏う鎧はあちこち傷だらけで、元は日の光を反射して輝く銀色だったのが、今では土や汗、煤、血で汚れていて、どれ程磨いても輝かない。

 歴戦の勇士、リカルド・ボレアがクイーンアント討伐隊の指揮を執ることになっていた。

 

 

「龍治、頑張れよ」

 

「死んだら骨は拾ってやるよ」

 

「誰が死ぬか、んなとこでよ」

 

「大鷲、バシッと決めてこい!」

 

「頑張ってね、大鷲君!」

 

「ファイトー!」

 

「ああ、今より強くなって帰ってくる!」

 

「先生、気を付けてくださいね? 先生がいないと私達寂しいですから」

 

「はい、ありがとうございます。私がいない間、クラスメイトを纏めてくださいね?」

 

「まかせください!」

 

 

 出発前という雰囲気で、あちらこちらで仲の良いクラスメイト、少し話す程度のクラスメイト、教師である陵子と見送りの挨拶を交わしていく。

 

 

「(緊張感がないな。先生でさえちょっとした探検気分だ。不味い傾向だな。指導役にも勇者の空気が伝播して、空気が緩んでやがる。下手をすると誰かが死ぬことになるぞ。今の内に備えた方がいいな)【見聞色の覇気】」

 

 

 僅かな時間で周囲の雰囲気を読み取った宏壱は思考し、結論を出した。

 不意の攻撃を気にして周囲の警戒を務めることにした。

 

 

「よし! 行くぞ、勇者諸君! クイーンアント討伐だ!」

 

 

 勇者の見送りが終わるのを待ったリカルドが声を大にして告げた。

 リカルドを先頭にして勇者と指導役がアントが掘り進めた洞窟に足を踏み入れていった。

 

 ◇

 

「ダンジョンと違って暗いんだね」

 

 

 洞窟へ入って十数分が経過した頃、幹好が言った。

 

 高さ3m弱。幅は4m強。武器の取り回しは難しい上、補強整備もされていないため、派手な魔法は使えない。下手なことをすれば同士討ちどころか、崩落して生き埋めになってしまう。

 

 洞窟内部を照らすのは光る拳大の球体、【ライト】だ。

 勇者と指導役が二列に進む最前列と中間部、最後列に1つずつ設置されている。

 “魔法石”の【ライト】と違い30分ほどで効力を失うため、何度か掛け直しが必要だが、魔力消費も多くないため暗い夜道などでは重宝されている。

 

 

「ダンジョンは“魔光石”があるから、【ライト】なんていらない。でも、ここはダンジョンじゃない。“魔光石”なんてない」

 

「言われてみればそうですね。足許気を付けないと、っと」

 

 

 幹好の言葉に答えたのは彼の指導役であるバレリヤ・メソッドだ。

 金色のストレートに背中の半ばまで下ろされた髪と金色の瞳。頭に生えているのは細長く尖った耳、お尻からはふさふさの尻尾が生えている。キツネだ。

 愛想の欠片もない無表情で眼鏡を人差し指でくい、と押し上げて位置を調整する。

 ミニスカートの巫女装束を着た彼女は、発育に乏しいのか胸の盛り上がりが小さい。

 

 そんなバレリヤの言葉に相槌を打ち、幹好は出っ張った土を少し大きく跨いだ。

 

 

「そろそろだ。全員備えろ」

 

 

 先頭を歩くリカルドが後列に呼び掛ける。先はまだ見えない。備えろとは衝撃に、だ。

 

――ォォン。

 

 遥か後方で爆発音が響いてくる。次いで、少しの揺れが来てパラパラと天井の土が落ちた。

 

 勇者と指導役は壁に手を当てて身体を支えていた。

 リカルドの言葉の意味は「洞窟の入り口を塞ぐ作業が行われるから、体勢を崩さぬように何かで身体を支えろ」というものだった。

 

 揺れが過ぎ去るのを待ち、クイーンアント討伐隊一行は歩みを再開する。

 

 

「……ぅわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

『――っ!?』

 

 

 最後尾を歩いていた宏壱が足を縺れさせて前に転んだ。宏壱の前を歩いていた陵子にぶつかり、2人は転倒する。

 

 何事か、と驚いた全員の視線が2人に集中した。

 

 

「いったた……」

 

「ご、ごめんなさい! 先生!」

 

「だ、大丈夫ですよ、これくらい」

 

 

 宏壱は陵子の身体に覆い被さる形で手を付いて自身を支えていた。

 

 

「本当にごめんなさい……」

 

「い、いえ、大丈夫ですから、か、身体を起こして退いてください」

 

 

 宏壱は再び謝る。陵子は背中越しに宏壱を見て照れながら退くように要求した。

 

 

「そうだね。何時までもレディを押し倒しているものではないよ、無能君」

 

 

 陵子の隣を歩いていた金髪の青年が、右手で前髪をかき上げて宏壱を見下ろす。いや、この場合は見下す(・・・)、の方が正しいだろう。

 

 青年の名はサコイ・ルニーノ。陵子の指導役だ。

 金に輝く鎧を身に纏い、多くの宝石や真珠で装飾された宝剣とも呼べるような剣を腰に下げたジェネガン王国貴族の出の騎士だ。

 整った顔と線の細いスラッとした身体をしていて、実力もあるため女性の人気が高い。

 

 

「早くした――「【隼斬り】!」――……っ!?」

 

 

 焦れたサコイが宏壱を退かそうと近付いた瞬間、サコイの眼前で赤い閃が下から上に向かって一条走った。

 

 

「なっ、あっ、バ、バコフ殿何をっ!?」

 

 

 一瞬呆けたサコイだが、赤い閃の元凶、レッドクレトスを斬り上げた状態で静止するリーナを見て、声を荒げた。

 

 

「構えろ、敵だ!」

 

 

 サコイの抗議の声を無視してリーナはレッドクレトスを背負い直し、拳を振りかぶる。

 

 ゴッ!

 

 放たれた拳の先で鈍い音が響き、腕を一本なくした150cm台のアリが吹き飛ばされる。

 吹き飛ぶ過程で、アリ、アサシンアントは空中で粒子に変わり、“魔石”と部位の足を残して消滅した。

 

 

「敵……? ……アサシンアントかっ!? 全員気を付けろ! 奴らは姿を消すぞっ!」

 

 

 アサシンアントは普通のアントよりも尚黒く、ともすれば闇に溶けてしまいそうなほどだ。

 

 リカルドはリーナの言葉の意味を悟り、勇者、指導役に注意を促す。場が騒然となった。

 気の緩んでいた勇者、指導役に緊張が走る。

 

 

「先生、大丈夫ですか? さ、立ってください」

 

 

 周囲が警戒心を強める中、宏壱は立ち上がって陵子に手を差し伸べた。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 若干の照れを見せながら、陵子は宏壱の手を握って立ち上がる。

 

 

「先生は隊列の中に……。リーナさん、武器は厳禁です。徒手での戦闘、いけますか?(前方に13体、後方に17体。左右は壁で気配もない。長引けばわらわらと湧いてくる可能性はあるな。早期の排除が要求される)」

 

 

 陵子を隊列の中に追いやった宏壱は自分から見て前後のアサシンアントの気配を読み取り、拳を握り混み警戒を強めているリーナに声を掛けた。

 

 

「勿論です。武器がなくて戦えないなど……騎士の恥さらしも良いところです」

 

「そうですか……っと!」

 

 

 答えつつ宏壱は身体を上半身を後ろに仰け反らせた。

 宏壱の鼻先でヒュッと風切り音がしてそよ風が舞う。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 右足で強烈なヤクザキックを前方に放つと、ゴッ! リーナの時同様鈍い音が響き、固い感触が返ってくる。

 右足を元に戻して、左足を畳み膝を突き出した状態で横凪ぎに振るう。

 

 ゴキッ!

 

 またも鈍い音が響いた。だが、今度は何かが折れる音だ。

 それから時間も掛からず宏壱の正面にいたアサシンアントが姿を見せる。

 ヤクザキックで腹部が凹み、前屈みになった瞬間に側頭部に宏壱の膝蹴りを受けて、耐えきれず折れ曲がった頭がブラブラと揺れていた。

 

 

「……スキル【ステルス】か」

 

 

 アサシンアントの消滅を見届けた宏壱は誰に言うでもなく独り言ちた。

 

 

「ご名答」

 

 

 バレリヤが宏壱の独り言に答えた。

 王城書庫の司書と書庫に頻繁に通う常連。そんな関係の2人は少しだが交流があった。

 

 

「姿を消し、音を消すスキル【ステルス】。それは攻撃の瞬間さえ切れない暗殺スキル。だけど……【狐火】」

 

 

 バレリヤの人差し指の先からライター程度の火が起こる。それは狐の姿を形取り、火の粉を散らして宙を駆けた。

 

 ボウッ!

 

 とある一点に接触した瞬間、火の狐は弾ける。弾けた火は炎となり、そこにいたアサシンアントを呑み込んだ。

 直ぐに鎮火したが、残っていたのは“魔石”とアントの腹部だった。

 

 

「臭いは消せないから獣人には効かない」

 

 

 それが【ステルス】の弱点だ。と言っても、普通はそれで十分脅威である。

 

 

「対処できない者は下がれ! 固まって列の中心に行くんだ!」

 

 

 何もない場所に豪腕を放ったリカルドが吼える。

 リカルドの拳の先では頭が弾け飛んだアサシンアントが粒子に変わっていた。

 

 

「リカルドさん、俺も戦います……!」

 

「聞いてなかったのか! 対処できない者は下がれと言ったんだ! 【ステルス】を見破れないお前は引っ込んでいろ!」

 

「でもっ!」

 

「このあとはクイーンが待ってる! 力を温存しとく奴が必要だ!」

 

 

 勇気の相手をしながらもリカルドは止まらない。前方から迫る見えない敵を打ち据えていく。

 リカルドが拳を振るい、蹴りを放つ度に洞窟内が揺れる。

 

 

(おい、崩れるんじゃないか?)

 

 

 宏壱の頭に生き埋めの4文字が浮かんだ。

 武器を持たずとも、リカルドの一撃は十分崩落の危険を孕んでいる。

 

 

「リーナさん、僕は前に出ます。討伐隊長に任せると崩れそうなんで」

 

「隊列を越えて行けますか?」

 

「行けます」

 

 

 リーナの確認に宏壱は迷わず頷いた。

 

 

「……では、お願いします。クイーンアント討伐に出て、ボレア殿の攻撃による副産物の崩落で死ぬなど末代までの恥です」

 

「カバーは任せて」

 

 

 バレリヤがリーナの後方に陣取り人差し指の先から【狐火】を幾つも生み出す。

 

 

「お願いします」

 

 

 一言告げて宏壱は跳んだ。天井スレスレの跳躍。落下寸前に宏壱は壁に足を付けた。そして、落ちる前に足を踏み出す。それを繰り返して壁を走った。

 狭い通路で参戦できない勇者と指導役の上を駆ける。

 隊列の後方はリーナとバレリヤ、そして宏壱が抜けたのを見ていた晶が。前方はリカルドが応戦している。

 リカルドの強さに呆気に取られている多くの勇者達は、宏壱の行動に気付かなかった。

 

 

「むっ? アントが増えたな。全員、前方から武器を所持したアントが現れた! 数が多い! 討ち漏らしが出る可能性がある! 各自で対処しろ!」

 

 

 リカルドの見据える先には直剣、短剣、槍、弓を持ったアントが我先にと競うように駆けてきていた。




――キャラクター紹介――

リカルド・ボレア

身長:198cm

体重:96kg

ジェネガン王国総騎士団長兼勇気の指導役。
豪快で大雑把な性格。だが、頭はキレる。
AAランク相当の実力を有し、ドラゴンと戦い生還した。


バレリヤ・メソッド

身長:143cm

体重:38kg

B:77 W:54 H:73

複合都市マグガレン王城書庫の司書兼幹好の指導役。
獣人族最長寿であるキツネ族で、見ため以上の年齢。冷静で物知り。読書家の幹好とは気が合う。


サコイ・ルニーノ

身長:175cm

体重:59kg

聖白騎士団団長補佐兼陵子の指導役。
ジェネガン王国のルニーノ侯爵三男で典型的な嫌み貴族。ルックスと腕っぷしの強さからちやほやされて育った。
陵子を落とそうと頑張るが、成果なし。
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