赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第十三鬼

 周囲には“魔石”とアントの部位、武器が散乱している。

 

 

「……ふぅ……これで全部ですか?」

 

 

 ゴキィッ! と右手で掴んでいたアントの首をへし折った宏壱が確認を取る。

 

 

「そのようですね。お疲れ様でした、勇者コーイチ」

 

 

 特に息を切らせている素振りもなくリーナは警戒を緩めて宏壱に応じる。

 

 

「……あの、山口君」

 

「はい?」

 

 

 そうしてリーナと互いを労っている宏壱に陵子が声を掛けた。

 

 

「ありがとうございます」

 

「えっ……と?」

 

 

 頭を下げて感謝の言葉を述べた陵子に宏壱は目を丸くする。

 

 

「さっき私にぶつかって転けたのは態と、ですよね?」

 

「は? ち、違いますよ。本当にちょっとした出っ張りに――「嘘、ですよね」――……え?」

 

 

 陵子は否定しようとする宏壱の言葉を遮る。

 ピン、と右手の人差し指を頬の傍で立てて陵子は言葉を続けた。

 

 

「根拠はあります。私の上から退かなかったことと、山口君にはあのアサシンアントとやらの位置が把握できていたことです。正直な話、教師として、保護者として山口君達の助けに入れなかった自分が許せません、が。アサシンアントの位置が把握できない私は足手まといでした。素手で戦う術も持ち合わせていませんし……」

 

「……」

 

 

 下唇をきゅっと噛んで、陵子は目を伏せる。上げていた手も下ろされていて固く拳を作って震えていた。

 

 そんな陵子の様子に宏壱は後ろ頭を掻き、そっと溜め息を吐く。

 面倒だと思ったわけではない。ただ、難儀な性格だと呆れ半分感心半分の思いが漏れただけだ。

 

 

「適材適所、ですよ。先生」

 

「え?」

 

「俺は素手で戦う術をリーナさんから学んでいた。だからこんな狭い通路でも難なく戦えた」

 

 

 物言いた気にリーナが宏壱を見るが、宏壱は視線でそれを制して話を続ける。

 

 

「俺の使うグレートソードと違って、先生や皆が使う聖剣、魔剣は威力が高い。だからこそ、クイーンアント戦のために力を温存してください。……露払いは俺に任せてください」

 

 

 そう言い残して宏壱はリーナを引き連れて唖然とする陵子の横を通り過ぎて、隊列の後尾に戻る。

 

 

「……()?」

 

 

 宏壱の一人称に引っ掛かりを覚える陵子を残して。

 

 ◇

 

「見えてきたな。……全員止まれ」

 

 

 先に見える光を見てリカルドは後方の勇者、指導役に停止の指示を出す。

 その光は淡い青色。ダンジョン内を照らす“魔光石”だ。

 

 アサシンアントと武器持ちアントの襲撃から凡2時間強、7度の戦闘と5回の休憩を挟んでクイーンアント討伐隊は進んできた。

 戦闘の殆んどは指導役と最初に参加した勇者組が対処した。リカルドが言ったように戦力の温存のためである。

 進行中は静かなもので、洞窟に入る前まで受かれていたクラスメイト達は、最初の戦闘以来気を張り詰めていた。

 

 そんなクラスメイト達だが、宏壱が見せた普段とは違う姿に戸惑いを隠せないでいる。

 そして漸くただの洞窟からダンジョンに辿り着いた。その20mほど手前でリカルドは討伐隊を停止させた。

 

 

「良いか? ここから先は第4バセットダンジョンだ。魔物は至る所にいる。警戒を怠るな」

 

 

 リカルドの静かな指示に一部を除いた勇者全体に緊張が走る。当然彼らは第4バセットダンジョンに潜るのは初めてではない。

 しかし、予想される魔物の量とレベルは彼らの経験を遥かに上回る。緊張するなという方が無茶であろう。

 その上、戦闘を行ったクラスメイト達には疲労も溜まっていた。だが、引き返すわけにもいかない。

 

 クイーンアントは早めに対処しておかなければ際限なくアントを生み出し、ダンジョンの外にまで縄張りを広げていく。その範囲には当然複合都市・マグガレンも含まれている。

 クイーンアントから生まれたアント達は一方向からではなく、四方向から攻め、戦術を駆使し、戦略を練ってくる。

 ダンジョン内で戦うのと、外で戦うのとでは手強さが違うのだ。

 

 

「では、行くぞ」

 

 

 リカルドの号令で一行は先へ進む。

 ただの洞窟からダンジョンに入ると、そこはドーム状の広い空間だった。魔物溜まりだ。

 

 淡く照らされた空間内に見えるのは4つの穴。1つは背後の洞窟に繋がる穴、残りの3つはダンジョンの通路だ。

 

 

「魔物の影はないな。メソッド司書、ここの位置は分かるか?」

 

「待って。……【自座標】」

 

 

 リカルドに問われたパレリアは、アイテムボックスから地図を取り出して広げると、スキル【自座標】を唱える。

 10秒も経たない内に地図上に一点を指した矢印が現れた。58層の広大な空間、今の討伐隊の位置だ。

 

 【自座標】とは純粋な獣人族に備わるユニークスキルだ。地図上に現在地を示す矢印が出現する。要はただ自分の位置を確認するためのものだ。

 

 

「58層の奥地にある魔物溜まりか。にしては魔物が見当たらんな」

 

 

 リカルドはぐるりと周囲を見渡す。

 特に何かがあるわけでもない空間が広がるだけのそこは、遮蔽物もない簡素な場所だ。

 そこには魔物がいなかった。

 

 

「……クイーンは何処だ?」

 

「うむ。ハサーシャ様の予想では洞窟を抜けた先だったが……居らんな」

 

 

 リカルドが溢した言葉を拾ったのはドワーフの男だった。

 禿げ上がった頭に2本の角が生えたような兜を被り、口周りを覆う茶色の髭を生やした130cmほどの身長の小さな男。

 だが、四肢は丸太のように太く、その腕には超重量級の斧が握られている。それをなんの苦もなく右肩に担ぐ男の名はドン・ヤッゴだ。

 

 

「ドンさん、どうするんすか?」

 

 

 油断なく周囲を窺いながら龍治がドンに問う。

 普段は不良を通して協調性の欠片も見せない龍治だが、この討伐作戦が開始されてからリカルドの指示に大人しく従っていた。

 

 

「どうもできんだろう。アントが多く攻めてくる方角がクイーンのいるところである……とは思うが。それで間違いはねぇかよ、パレリアの嬢ちゃん?」

 

「私はあなたよりも年上、嬢ちゃん扱いは止めて」

 

「がっはっはっは、わりぃなっ、パレリアの嬢ちゃん!」

 

「はぁ……」

 

 

 パレリアの注意もむなしく、ドンは悪びれた様子もなく笑い飛ばした。

 

 

「でも、確かにそう。クイーンアントの傍には多くのアントがいる。そして、侵入者があればそこからアントの群れが動き出して排除に向かうはず。全く出てこないのはおかしい」

 

「あれだけ倒したのだから子飼いのアントがいなくなった、とか?」

 

 

 パレリアの説明にそう言ったのは碧の刺繍があしらわれた紺のロープを身に纏った青い肌をした女性。

 背中半ばまである長いブロンドの髪を赤のリボンで1本に纏めた赤目の魔人族だ。150cmほどの身長と線の細さから華奢な印象を受ける。

 ラベス・レッツェ。魔人族の紺碧騎士隊3番隊隊長を務めている攻撃魔法のエキスパートだ。

 

 右手に持った木製の杖の先で地面をコンコンと叩きバレリヤを見る。

 

 

「それは考えづらい。クイーンアントは常に卵を産む体勢になっている。卵も1日あれば孵化して、生まれたアント達は訓練を初めて武器を持つようになる。その数は1日約200体。ここに来るまでに倒した数は137体。どれほど前にクイーンアントが発生したのかは分からないけど、1000体はいると見ていい」

 

「せ、1000体……」

 

 

 その途方もない数になずなが唖然と呟く。

 

 

「あくまで最低ラインが、ですよね?」

 

「そう。少なくても1000体、上限は分からない」

 

 

 陵子の緊張を孕んだ問いにパレリアは頷く。

 

 

「まさに未知数」

 

 

 パレリアがそう締め括る。

 全員がどうするか模索する中、宏壱の視線は一点を見つめていた。

 討伐隊から見て正面の通路、高さ7m、幅10mはあるその大きな通路の入り口。“魔光石”が照らすその通路の中には蠢くものがあった。

 背負うグレートソードの柄にそっと右手を添えて握り込む。カチャッと音が鳴る。

 

 

「勇者コーイチ? 何を見て――っ!?」

 

「どうした? ――おいおい、何だあれは?」

 

 

 宏壱の雰囲気が変わったことに気付いたリーナの声に、反応したリカルドが宏壱とリーナの視線を追い……見付けた。

 

 普通のアントの数倍はある体躯と丸太のような4本の腕。その身体を支える2本の足もまたごつく太い。

 明らかに今までのアントとは様子が違った。

 

 

「ミキヨシッ!」

 

「は、はい!」

 

 

 普段の淡々とした口調を引っ込めて、パレリアは大きな声で幹好の名を叫ぶ。

 何を言われたのか理解した幹好は姿を見せたアントに目をやる。

 

 

「見ましたっ!」

 

「見せて!」

 

 

 幹好が持っていた“なんでも図鑑”を掻っ攫うように奪い取り、パレリアはそこに記されたアントの情報を読み解く。

 

 ◇◆◇

 

 Lv:127 名前:ジャイアントアント

 

 種族:昆虫

 

 HP:153851

 

 STR:3159

 

 DEF:3835

 

 INT:672

 

 AGL:1438

 

 DEX:578

 

 MND:3921

 

 《スキル》

 

 ギガントハンマー

 

 メタルガード

 

 ◇◆◇

 

 魔物にMPとSPは存在しない。学者が唱える一説によると「彼らはMP(マジックポイント)SP(スキルポイント)を消費するのではなく、瘴気を使って魔法、スキルを操っている」とされるものがある。

 これは、彼らの身体が瘴気によって構成されているためである。

 

 余談ではあるがこの世界、ユースには魔獣と呼ばれる生物が存在するが、魔獣は瘴気に当てられて魔物化した生物のことを言う。

 魔獣の中にも魔法、スキルを操る存在がいるが、彼らのステータスにはMP、SPが確りと表示されている。

 その事がこの一説に説得力を持たせていた。

 

 閑話休題。

 

 

「ジャイアントアントっ!?」

 

「何だとっ! 奴は85階層から出てくるはずだ! 何故こんなところに!」

 

 

 パレリアの言葉を聞いて声を荒げたリカルドは、憎々し気にジャイアントアントを睨み付ける。

 

 

「クイーンアントが産んだ? だけど、クイーンアントはアサシンアントとアントしか産まないはず……魔界の門が開く兆候? 瘴気の濃度が高くなっている?」

 

「パレリアさん、長考している時間はありませんよ」

 

「コーイチ?」

 

 

 思考を深く落とそうとしたパレリアに宏壱は声を掛け、グレートソードを抜き放つ。

 

 

「ははっ……デケェ獲物だ。狩り甲斐がありそうだ」

 

 

 宏壱は口角が持ち上がるのを自覚する。獰猛さを称えた笑みを浮かべていることが自分でもはっきりと分かった。

 ステータスを見る限りでは自分よりも格上だ。その事実が宏壱をより高揚させた。




――キャラクター紹介――

ドン・ヤッゴ

身長:135cm

体重:72kg

亜人連合ドワーフ兵団団長を勤める壮年の男。見掛け通り腕力が自慢だが、裁縫が得意という器用な面がある。お酒にはめっぽう弱い。

ラベス・レッツェ

身長:156cm

体重:43kg

B:77 W:55 H:76

魔人族紺碧騎士隊3番隊隊長を勤めている魔法のエキスパート。攻撃魔法が得意。
多く肌を露出することはなく、彼女の全貌を知る者は少ない。私生活は謎に包まれている。


前回投稿した第十二鬼が未完成でした。自分はしっかり書いたつもりだったのですが、所々言葉が抜けていたので加筆しました。
申し訳ありません。
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