赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~ 作:コントラス
20m先の巨体を前に宏壱はグレートソードの柄を強く握り締める。
「行く――「退け、坊主」――……っと?」
駆け出そうとした宏壱だが、横合いから押されて出鼻を挫かれた。リカルドだ。
リカルドとドン、パレリア、ラベス、サコイの5人の指導役が並び立つ。
「あれは俺らに任せろ。おめぇは取り巻きをやれ」
リカルドの指差す先には、ジャイアントアントの後ろから押し寄せる数十にも上るアントの群れがあった。
「……分かりました」
内心では納得していない。しかし、リカルド達に任せた方が確実であることは確かで、無理矢理納得せざるを得なかった。
頷くと同時に宏壱は駆け出す。途中、後ろから声が聞こえた気がした宏壱だが、気付いていないふりをした。
駆ける宏壱の視界には、当然大きくなっていくジャイアントアントの姿が映っている。
そのジャイアントアントが右腕の2本を大きく振り上げた。人で言う拳同士が固く組まれている。
スキル【ギガントハンマー】だ。2つの拳を組み合わせた打ち降ろしの攻撃。
威力、速度が尋常ではなく、喰らえば防御を抜けてHPを大きく削る強力な攻撃だ。
「【剃】っ!」
宏壱はジャイアントアントの股の下を高速で駆け抜け、【ギガントハンマー】を回避した。
空振った【ギガントハンマー】がドゴォッ! と土煙を舞わせて地面を陥没させる。
「喰らってたら只じゃすまないな」
額から伝う嫌な汗を顎先から落とした宏壱は、背後のジャイアントアントを意識の端に置いたまま、矢を弓に番えたアーチャーアントに飛び掛かり、グレートソードで弓ごと縦に斬り裂く。
「硬いな。洞窟にいたアントよりもレベルが高いのか……?」
手応えは洞窟で相手取ったアントよりも強かった。それはこのアントのDEFが高い数値であると言うことに他ならない。
「チッ……グレートソードが欠けやがった。こりゃダメだな」
刀身が少し欠けていた。アントのDEFがグレートソードの強度を大きく上回っている証だ。
このままではグレートソードが使い物にならなくなる。そう判断した宏壱はグレートソードを背負い直して拳を固く握り……。
「っ!」
胸を狙って槍を突いてきたランサーアントの攻撃を右手の甲で弾き、下から強烈な左アッパーを繰り出して顋を砕いた。
粒子となるアントを飛び越えてきた5本の矢を上体を揺らして躱し、左右から襲いくるアントの直剣による攻撃を後ろに下がって避け、背後から迫る斧を屈んで避ける。
「はっ!」
後ろのアントに蹴りを入れて吹き飛ばし、前方の2体のアントの頭を鷲掴み地面に叩きつけて前に転がる。
カカカカッ!!
宏壱が一瞬前までいた場所に幾本もの矢が突き立つ。
「倒した直後に間髪容れずの攻撃。普通なら決まるんだろうが、戦闘中に油断なんてするわけないだろ?」
即座に立ち上がった宏壱は自分を取り囲むアント達に告げる。
既に宏壱はアントの群れの中にいた。宏壱を中心にした円ができていて逃げ場はない。
そんな中にいて、宏壱は獰猛な笑みを隠せないでいた。短い戦闘ではあるが、長い前髪は乱れて素顔がさらけ出されている。
「さあ、掛かってこいよ。1匹残らずぶち殺してやる」
その言葉が合図となったのか、或いは余りにも凶悪な気配を放つ宏壱の圧力に耐えきれなくなったのか、宏壱を包囲していたアント達は一気に包囲網を狭めて襲い掛かる。
その先は文字通りのアリ地獄だ。
◇
「おい、待てっ! ……行きやがった」
駆けた宏壱を止めようと伸ばされたリカルドの手は空を掴んだ。
「っ!? ダメっ! 【ギガントハンマー】のモーションに入った!」
パレリアの叫びは宏壱に届いていないのか、宏壱は既にジャイアントアントの傍まで行っていて……。
ドゴォッ!
振り下ろされた【ギガントハンマー】の影で見えなくなった。
「そんな……!」
「ぬぅっ、早まりやがったかあの坊主っ!」
悲鳴のような声を上げるラベスと悔しそうに地面に視線を落とすドン、クラスメイト達からも悲鳴が上がる。
しかし、警告の声を発したパレリア、頭を掻いて呆れたような視線を土煙が舞う奥に向けているリカルド、どうでも良さそうなサコイ、宏壱の指導役であるリーナ、そしてなずなを含む数人のクラスメイトは動じた様子を見せなかった。
「はっ! ……野郎、ジャイアントアントの股の下を潜っていきやがった」
リカルドの鼻で笑って告げられた言葉に、面々が視線をジャイアントアントの後方にやると、自分を囲むアント達と徒手で戦う宏壱の姿があった。
振るわれる武器を弾き、逸らし、往なし、躱す。殴り、蹴り、投げ、叩き付け、奪った武器で斬り伏せる。
360度、どの位置からの攻撃にも対応して見せる宏壱に呆気に取られる。
「……なんという度胸……。並みの胆力ではないぞ」
「無鉄砲なだけだよ。まぐれもまぐれ、一瞬遅かったらぺしゃんこだったのにね。残念」
サコイはドンが呆然と呟いた言葉に下らないと言わんばかりに吐き捨てる。
「……話は後だ。今はあれをやるぞ。ルニーノ、俺とお前で前衛をやる。付いてこい」
サコイに目配せをしてリカルドは前に出て駆け出す。サコイもそれに続いた。
「フォローする。【膂力・贈】【硬化・贈】【俊足・贈】」
パレリアが指を組んで印を結び呪文を唱えると、リカルドとサコイの腕に淡く赤い光に、全身が淡く青い光に、足が淡い緑の光に包まれる。腕に力が
獣人族のキツネ族が持つユニーク魔法【膂力・贈】【硬化・贈】【俊足・贈】はそれぞれの対象のSTR、DEF、AGLを、1,5倍にするものだ。難点は対象が自分以外で、利点は一度に5人を対象にできることだ。
通常で習得できる魔法には【パワープラス】【ガードプラス】【ソニックプラス】というエンチャント魔法があり、これはSTR1,5倍、DEF1,5倍、AGL1,5倍を1人だけしか掛けられない。効果時間はどちらも10分で、重ね掛けはできない。
閑話休題。
「【ライトニング】!」
ラベスの持つ杖から雷魔法Lv3の【ライトニング】が放たれる。一条の雷撃はジグザグに蛇行しながらリカルドとサコイの頭上を通り過ぎ、ジャイアントアントの頭部に炸裂した。
「はっ!」
その横では矢を放ってジャイアントアントよりも前に出てきたアント達を穿つ美麗な男性がいた。
肩まであるさらさらの透き通るような金の髪。アメジストのような瞳。均整のとれた優しげな顔立ちはサコイ以上に女性を惹き付ける。
普通の人と違うのは長い耳だろう。エルフ族のエカーヤ・ヤソップだ。
弓の名手である彼の放つ矢は正確に、的確に、迅速にアントの急所を射つ。
急所と言っても一撃でHPを削りきれないため、ほぼ同じ箇所に2本、3本と突き立っていく。
頭や胸に矢を2、3本生やしたアントが量産されては粒子となって霧散していく。
「おおおぉぉぉ!!」
その先、ジャイアントアントがいる場所では、到達したリカルドが咆哮を上げてジャイアントアントに斬り掛かる。
ギャリィッッ!! とジャイアントアントの表面を火花を散らせてリカルドの持つ鈍色の武骨な大剣、ギガントキラーが滑る。
リーナが持つ大剣、レッドクレトスの3倍はあろうかというほどの長大な大剣を、右腕1本で軽々と振り回すリカルド。
空気を巻き込み気流を生み出すその暴力は嵐そのものだ。
リカルドが生み出す嵐の中で、ジャイアントアントは反撃の拳を打ち出す。
「ぬうぅっ!」
リカルドの顔ほどにもある大きな拳をギガントキラーの腹で受け止めるが、勢いを殺し切れず踏ん張った両足が地面を滑る。
更なる追撃を行おうと踏み出すジャイアントアントの背後から、飛び上がったサコイが後頭部に向けて過度な装飾が施された宝剣と呼べるような直剣を叩き付ける。
「くっ! 硬いっ!」
着地したサコイは慌てて後ろに飛び退く。直後、ゴウッ! と空気を巻き込んでジャイアントアントの足が通り過ぎていく。
紙一重だった。一瞬遅ければサコイの身体は小石のように撥ね飛ばされていただろう。
「でぇやああぁぁっ!!」
サコイに気を取られたジャイアントアントの背後で、リカルドが大上段からギガントキラーを斬り下ろす。
――……ィィィイイッ!!!
まるで金属同士を擦り会わせたような甲高い音が響く。ジャイアントアントの悲鳴だ。
リカルドの渾身の一撃は、ジャイアントアントの背中に一筋の斬り込みを刻んだ。
「浅いかっ!」
深く斬り込めなかったことを悟り、リカルドは大きく飛ぶ。
振り返り様に振るわれたジャイアントアントの腕が2本通り過ぎた。
リカルドとサコイは適度な距離を保ち、前後になるようにジャイアントアントを挟む形で攻撃を繰り返す。
ジャイアントアントは2人に翻弄されていた。
時折飛び来るラベスの魔法やパレリアの【狐火】もジャイアントアントの行動を阻害する。指導役の連携が上手く嵌まっていた。
少しずつではあるが、確実にジャイアントアントのHPを減らしていた。
◇
一方でリカルド達が戦っている中、アントの群れを蹂躙している宏壱の方にも変化があった。
それはリーナ、カエデ、晶、陵子、そしてなずなと美咲の参戦だ。
圧倒的な数に手を焼いていた宏壱に、加勢する彼女らによって宏壱も動きを大きくしていく。
「ふっ!」
突きを放つアントの槍を最小の動きで躱して前に踏み出る。
懐に潜り込んだ宏壱は左拳をアントの腹部に叩き込む。威力を度外視して速さを追求したパンチ、直ぐに拳は引かれ次は右拳が飛び出る。
同じ箇所に交互に放たれるパンチ、それが5回行われ、宏壱はその場で右足を軸に回転、鞭のようにしなる左足がアントの首を打ち据えて吹き飛ばす。
「はぁっ!」
リーナが宏壱の後ろで赤い刀身の大剣レッドクレトスを横凪ぎに一閃。それだけで5体ものアントが両断される。
そこから左側、5m先では陵子が20体のアントを相手取っていた。
「――っ!」
ジャラララッ!! と己の聖剣を蛇腹剣に変えて大きく振るう陵子。
生徒を守るためと、寝る間さえも惜しんで身に付けた陵子の剣技が炸裂する。
手首のスナップと腕振りを利かせて360度、死角なくアントを斬り裂いていく。
しかし、殺傷能力は極めて低く、何度も打ち据えてやっと1体撃破と言ったところだった。
「しっ!」
刀身が2mにも及ぶ聖剣の大太刀を振るい晶はアントを屠る。切れ味で言えば、一行の中でもトップクラスに入る。
斬り結ぼうにも、斬撃を受けてしまえば武器ごと絶ち斬られる。
それはカエデと美咲も同様で、カエデの杖に隠されていた仕込み刀と、美咲の純白の日本刀は、紙を切るように容易くアントを切断していく。
そんな中で異色の戦い方をする者がいる。なずなだ。純白の魔法杖をくるくると回してアントを凪ぎ払っていた。
「やっ! ほっ! とっ! 【ホーリーアロー】!」
突き、払い、逸らし、弾き、魔法を放つ。光属性に高い適性のあるなずなは、攻撃魔法を至近距離で放つ。
何もない場所に光の粒子が集まり形をなす。
飛び出したそれは言葉通りの矢で、反応すら示せなかったアントを貫通し、更に6体ものアントを貫いて消える。通常のアントは魔法耐性が極めて低いのだ。
「数が多いな、っと! 【ファイアボール】!」
宏壱は飛び掛かってきたアントを跳んで躱し、そのアントの頭を踏んで更に飛び上がり、空中で体を捻って掌をアントに向けて【ファイアボール】を射つ。
バスケットボール大の火炎球の直撃を背中から受けて、爆炎を散らして息絶えた。
そのまま爆炎の衝撃波を利用して、くるりと後方宙返り決めてアントを踏み潰して着地した。
いまだアントは続々と湧き出ていて、休む暇などない。
地面を強く蹴り付けて前へ出る。攻撃のモーションに入る前に右拳が顔面に打ち据えられたアントは、周囲を巻き込んで吹き飛ぶ。
「急造のパーティーで連携なんてとれるわけもなし、個別で戦うのがベストだな」
そんな理由で彼らは距離を取って戦っていた。宏壱とリーナ、晶とカエデは比較的近い位置で戦っているが、陵子、なずな、美咲は距離を置いて戦っている。
「ホントに減らないな。ここで総力戦か? クイーンアントはこの場所で俺達を圧倒的な物量で押し潰す気か?」
眼前に迫る直剣の腹を左掌で叩いて逸らし、側頭部に右足の爪先を叩き込む。
考え事をしながら身体を休めることはしない。
「なら、消耗戦だな。掛かってくる奴ら、全部叩き潰してやる」
突き出された槍に腕を絡めて奪い取り、柄を横凪ぎに振ってアントの腹にぶつける。
バキィッ! と折れた柄を今度は突き出して、折れて尖った槍の柄をアントの腹に突き刺した。
「くおっ!? ……このっ!」
宏壱は背後からの攻撃を躱しきれずに受けてしまう。
幸いなのは宏壱自身と制服のDEFが極めて高い数値で、アントの攻撃力では抜けないというところと、受けた箇所が背中だったことだ。
怒りに任せて振り向き様に回し蹴りを叩き込んだ。
「【ヒール】! です~」
宏壱を暖かい光が包む。受けた傷などないが、背中の痛みが引いていくのを感じていた。
「あんたは……?」
「ランチェですよ~。なずなちゃんの指導役です~。回復なら任せてください~」
「助かる」
なずなと一緒にこの乱戦に飛び込んでいた妖精族の少女、ランチェが宏壱の頭の上を飛び回り、名乗る。
「っと、同じ攻撃は受けねぇよ!」
再び背後から襲ってきたアントに振り返り様の裏拳を叩き込み、
ゴリュッ!
盛大な音を立ててアントの首は360度回転した。
「うわぁー、エグいです~」
ランチェもドン引きだった。
戦いは量より質で、宏壱達優勢で進む。
――キャラクター紹介――
エカーヤ・ヤソップ
身長:178cm
体重:54kg
エルフ兵団第3師団長兼敦の指導役。妻帯者で、愛妻家。夫婦仲は極めて良好だが、仕事が仕事なため酷く心配させているらしい。
ジャイアントアントのHPを3851から153851に修正しました。
プレイヤーと同じレベルでもモンスターの方が圧倒的にHPが高いのは常道、それを思い出しました。