赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~ 作:コントラス
終わりの見えない戦闘が続く。
際限なく湧き出るアントと、HPが高く防御の硬いジャイアントアントに討伐隊一行は苦戦していた。
後方で戦力の温存とされていた勇気達も、押し寄せる圧倒的な物量に戦闘に参加せざるを得なくなっていた。
「はぁっ……はぁっ……く、おらぁっ!」
息を弾ませた宏壱のキレを欠いた拳が、アントの顔面を打ち据えて数体のアントを巻き込んで吹き飛ぶ。
威力、速度共に足りず、HPを削りきることはできなかった。
「くっ、そ! ……どんだけ時間経った? スタミナが限界だ……っと!」
重い身体を捻って飛んできた矢を回避。疲れで距離を詰めることもできない宏壱は、苦し紛れに小石を拾って投げ付けるが、体勢を崩す程度しかできなかった。
「……スタミナ……減少による……バッドステータス……こんなにキツいのか……」
この世界のステータス表記にスタミナは表示されない。しかし、当然ながら生物には体力というものがある。24時間ぶっ通しで動き続けられる者などそうはいない。
ましてや360度囲まれた乱戦の中で仲間の位置を気にしつつ、直ぐ様フォローできるように努めておかなければならない。
「っ! 【ファイアボール】!」
晶の後ろに迫ったアントを【ファイアボール】で吹き飛ばす。
宏壱は常に討伐隊一行の状況を気に止めている。その事が宏壱の更なる疲労に繋がっていた。
「っ!? ……あ、ありがとう、山口君。できればもっと優しくして欲しかったよ」
「それくらい大目に見ろよ、っと! ……ふぅ、俺も余裕がないんだ」
宏壱の放った【ファイアボール】の爆炎に身体を炙られた晶は文句を言うが、宏壱は悪びれた様子を見せずに苦笑して答え、襲い来るアントを躱して左拳を放ち吹き飛ばす。
だが、やはり威力が足りずHPを削りきれない。
(どうする? 全員で戦ってもアントの数が減らない。…………大元を絶てばこのアントフィーバーも終わるか……? なら……!)
宏壱はアントの攻撃を捌きながら思考を巡らせる。そして、結論に至った。
「討伐隊長!」
「うれやぁぁっ! どうした!! 勇者ヤマグチ! 手短にすませろ! こっちも余裕がっ……ぬおっ!?」
宏壱の叫ぶような呼び掛けに答えるリカルドだが、ジャイアントアントの一撃をなんとかギガントキラーで防ぐ。
幹好の鑑定結果ではジャイアントアントのHPはいまだに3分の1が残っている状況だった。
一瞬も気は抜けない。なにせ回復する間などないのだから。
リカルドのHPは幾度かの攻撃の余波で5割にまで減っていた。
「クイーンアントを討つ人間を選抜してください! このままじゃ数で潰される!」
「……お前ら、少し抜けるぞ。おらぁぁっ!」
パレリア達が頷くのを確認したリカルドは、ジャイアントアントに大振りの一撃を叩き込み、返ってきた反動を利用してジャイアントアントから大きく距離を取って一時的に戦線を離脱した。
「……それしかないか」
リカルドも頭の片隅で考えていたのだろう。直ぐに選定を始めた。
それをフォローするようにパレリアとラベス、サコイの攻撃が苛烈さを増す。
幾筋もの火の尾を描いて空を駆ける【狐火】と雷光を放つ【ライトニング】。
それらの合間からサコイの一閃が煌めく。確実にジャイアントアントのHPを削っていくが、やはり決め手に欠けていた。
(必要なのは火力と突破力、硬さだが、それ以上に連携が必要だな。……ユウキ、アツシ、ナズナ、アキホはパーティーを組み、ダンジョンに潜っている。普段の訓練も一緒だ。動きやすさは段違い。4人は確定だな。あとは……高火力の勇者サエシマ、硬さのある勇者アマミ。勇者の中でも随一の速度を誇る勇者スガノ。【鑑定】を持っている勇者アサイも必要か。……あとは指導役だな。これはそれぞれの指導役で十分……だが、パレリア司書にここを抜けられるわけにはいかない。……勇者アサイの警護はほかの者がするだろう)
戦う勇者と指導役の戦闘スタイルを見極めてリカルドはメンバーを選出していく。
戦力を残しつつ、クイーンアントに確実に対抗できるメンバーを選んだつもりだ。
「よし。これで行こう」
深い海に落としていた思考を引き上げ、リカルドは周囲に視線をやる。
そこでは乱戦が続いていて息を荒らげながらもアントを屠る勇者と指導役の姿がある。
「ユウキ、アツシ、ナズナ、アキホ、勇者サエシマ、勇者アサイ、勇者スガノ、勇者アマミ、お前らでクイーンの討伐に向かえ!」
「……え? ……ちょっ、ちょっと待ってください! ここはどうするんですか!?」
「嘗めるなよ。俺達がこの程度の数に負けると思ってんのか? なら、お前の目は節穴だ。ここにいる奴はお前が思っているほど弱くない。聖剣も、魔剣も持たない勇者ヤマグチでさえ、な」
「……」
沈黙した勇気を尻目にリカルドは口を開く。
「……ランチェ、ドン、マリヤ、ヨツキ。お前達はユウキ達に付いて行ってくれ。サポートに徹しろ、などとはもう言ってられん。全力でことに当たれ。クイーンアントを討てば指揮系統は乱れ、統率が崩れて奴らは浮き足立つはずだ。お前達が要だ」
リカルドの言葉を受けて乱戦の中にいる名前を挙げられた勇者と指導役が頷く。
「よぉし! 突破口を切り開くぞっ! リュウ坊!」
「うっす!」
ドンが龍治に声を掛けると、龍治は力強く返答して、手に持つ漆黒の戦斧を大きく振り回し、周囲にいたアントを吹き飛ばす。
そして龍治は漆黒の戦斧、ブラックドラゴン(龍治命名)を天高く掲げ……。
「おっしゃあ! 誰も俺の前に出るなよ! 【グランドクラッシャー】!!」
アントが湧く根元があるであろう通路に向いて、勢いよく振り下ろす。
ブラックドラゴンが地面を打つと、一瞬の静寂の後、龍治より前方の地面が振動を始めた。
亀裂がブラックドラゴンとの接触面から走り、地面が隆起する。多くのアントが足を取られて転び、隆起した地面と地面に挟まれて粒子となった。
「おい、佐枝島! 通れないだろっ!」
「はっ! テメェはアント以下かよ!」
文句を言う勇気に対して、龍治はブラックドラゴンを地面から引き抜き肩に担ぐと、鼻で笑って言い捨てる。
その言葉通り龍治の視線の先、クイーンアントがいるであろう通路側からは、隆起した不安定な地面を足場にアントの群れが迫ってきている。
「ゴチャゴチャ言ってねぇで行動しろってぇの!」
龍治は勇気と問答する気はないと、不安定になった地面に足を掛けて進む。
「がっはっはっは! よく言ったリュウ坊! 迫るアリ共を蹴散らして進めぇっ!」
ドンが言葉を放つと同時に飛び出す影が2つ。
1つは美咲だ。背中の半ばまで伸ばされた黒髪の艶やかなポニーテイルが、馬の尾のように地面と平行になって靡く。
不安定になった足場を、トントントンとリズムを刻んで跳ぶように進み、手に持つ漆黒の刀を横凪ぎに一閃。アントを一刀両断した。
もう1つはヨツキ・ミハラ。この世界出身者では珍しい黒髪を邪魔にならない程度に切り揃え、深い黒の瞳で正面を見据え、180cmにも届くであろう高い背を、低姿勢のままに駆ける。
その動きを阻害するような類いの鎧は身に付けられておらず、ゆったりとしたゆとりのある菫色の着物を着ている。
カエデ、ヨツキの故郷は、古い時代の日本に酷く似通っていた。
ヨツキの左手は鞘に、右手は鞘に納められた刀の柄に添えられている。
アントとすれ違う瞬間に鞘から刀を抜き放ち、アントの胴を斬り裂いた。
美咲とヨツキが道を切り開きその後ろをほかの面々が進む。倒すのは行進の邪魔になるものだけだ。
「ご、ごめんね、佐枝島くん。僕走るの遅くて……」
「ああ? んなこと気にすんじゃねぇよ。オメェは戦闘には向いてねぇんだろ? んだら、黙って掴まっとけ」
隆起した地面を掛けて通路の入り口に向かう途中、龍治は足を取られてもたつく幹好を見つけていた。
そして、龍治は小柄な幹好を背中に乗せて走っている。
学校での態度や宏壱の扱いを見ている幹好にとっては、龍治が助けてくれるというのは意外だった。
ほかの面々も後に続いて通路の入り口に向かう。そこには龍治に苦言を呈していた勇気の姿もあった。
◇
「くっ、この!」
「大鷲君、全部倒す必要なんてないわ。ボレアさん達が倒してくれるもの」
通路に侵入して暫く、離れた位置にいるアントにも攻撃を加える勇気に秋穂が注意する。
「少しでも多く倒せば、広場に残ったみんなが楽になるはずだ!」
通路の奥から行進してくるアントは、勇気達に攻撃するアントと、無視して魔物溜まりに向かうアントで分かれていた。
攻撃をしてくるアントは美咲とヨツキ、小春とマリヤのペアで一行の周囲を固め、対処していた。
因みに、戦闘能力の低い幹好は龍治の背に乗ったままで、動き辛い龍治をドンが護衛している。
「それでクイーンアントを倒せなかったらあなたの所為ね」
「……え?」
一瞬意味が理解できず、勇気は立ち止まってしまう。
「勇気! 立ち止まるな! 囲まれるぞ!」
「っ!? ……あ、ああ」
だが、直ぐに敦に声を掛けられて足を動かすが、どこか覚束ない。
「勇気くん」
「……なずな」
先を走っていたなずなが速度を落として勇気の横に並んぶ。
「こ……リカルドさん達を信じよ?」
「でも……」
「大丈夫」
「なずな……ああ、そう、だな。リカルドさんが負けるはずないもんな」
「そうだよ。だから余計な力を使わないで? 溜め込んだ力はクイーンアントにぶつけよ、ね?」
「……ああ!」
なずなの言葉に勇気は力強く頷く。
それを優しい目で見ていたなずなは、そっと勇気の傍から離れた。
「優しいのね」
そこに見計らったように話し掛けてきた人物がいた。
「み、……菅野さん」
美咲だ。
どうやらアントの数が減ってきたらしく、自分がいなくても大丈夫だと判断したようだ。
美咲の視線はどこか冷たさがあって、なずなを少し身震いさせた。
「友達……だから」
「そう。……大鷲君に優しくできるのに
「っ!?」
なずなの表情が苦渋と後悔に歪み、視線は足元に落とされた。
「
「……」
美咲の呼び掛けになずなは答えない。
正確に現状を表すならば、答えられないと言った方が正しいだろう。
「私の名前も呼べない?」
「資格……ないから」
「名前を呼ぶのに資格が必要?」
「……うん」
「そう。……弱くなったのね。
美咲の言葉になずなは沈黙する。間を少し開け、なずなは正面を見据える。その瞳に苦渋と後悔の色はなく、代わりに覚悟と闘志を宿らせていた。
「……出口、見えてきたよ。今はクイーンアントを倒すことに集中しよ」
「……ええ」
一行が進む先にはぽっかりと開いた大きな空間、その際奥に巨大な影が蠢くのが見えた。
間段なく姿を見せるアント達の発生源もそこなのか、攻撃を加えてくるアントの数が増えていた。
「この戦いが終わったら、わたしは向き合うよ」
「そう」
「
それだけを告げてなずなは速度を上げる。苛烈さを増したアントの対処に向かったのだ。
「変わらないものもある、か。それは多分
残された美咲も独り言ちて速度を上げた。
――キャラクター紹介――
ヨツキ・ミハラ
身長:179cm
体重:62kg
ジェネガン王国近衛師団団員。カエデ・ミカグラと同郷ではあるが同じ近衛師団に入るまでは面識はなかった。美咲の指導役を勤めている。