赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第十六鬼

 勇気達、クイーンアント討伐に向かった別動隊が、クイーンアントがいるであろう空間に辿り着いた頃、宏壱達が残った魔物溜まりでは激闘が続いていた。

 

 

「でぇれやああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 ジャイアントアントに向けて放たれたリカルドのギガントキラーによる大振りな横凪ぎは、的確にジャイアントアントの右足を捉えて叩く。

 

 

――ッ!

 

 

 声にならない悲鳴を響かせながら、ジャイアントアントがバランスを崩して地面に右膝を突く。

 

 

「今だ!」

 

「……しっ!」

 

 

 リカルドの声で、ジャイアントアントの背後に回ったサコイが首を狙って突きを放つ。

 

 ギャリィィィッ!

 

 改心の一撃。そうなるはずだった突きが、金属音を響かせて逸らされる。

 スキル【メタルガード】。己の肉体を金属のように硬くし、DEFを10%増加する効果がある。

 

 ジャイアントアントの首を滑るようにして逸らされた宝剣に、引っ張られるようにしてサコイの体勢が崩れる。

 

 

「しまっ――ぐぅっ!」

 

 

 慌てて体勢を戻そうとしたサコイだったが、身体を捻って放たれた腕の横振りを腹部に受けて吹き飛ぶ。

 

 

「【狐火】!」

 

「【ウォータスラッシュ】!」

 

 

 更に追撃を掛けようとしたジャイアントアントに、火の尾を引いて【狐火】が迫り、背中を射って爆炎を散らす。

 それに追随するように水飛沫を散らして三日月形の線が飛ぶ。

 地面と並行して飛ぶ【ウォータスラッシュ】は、背を向けたジャイアントアントの膝裏を浅く切り裂く。

 

 

「サコイ、無事か!」

 

「【ヒール】……くっ、はぁ……愚問です、総騎士団長」

 

 

 吹き飛んだサコイは即座に体勢を立て直し、ジャイアントアントから大きく距離を取って左手を攻撃を受けた腹部に当てて回復魔法【ヒール】を自らに掛ける。

 声を掛けながら近寄ってきたリカルドに、大きく息を吐いてサコイは爽やかな笑顔を見せた。

 

 

「でも、硬いですね。僕のトレッシュが全く効きません」

 

 

 サコイは宝剣、トレッシュを右手に握りしめて悔しそうに表情(かお)を歪める。

 

 

「さっきまで使っていなかった【メタルガード】を使い始めたんだろう。それだけHPを削ることができたんだな」

 

「もうひと押し、ですね」

 

「攻撃が通りゃなっ!」

 

 

 リカルドとサコイは同時に左右へ分かれて飛ぶ。

 直後、垂直に振り下ろされたジャイアントアントの腕が地面を砕いた。

 

 

「ぬおっ!」

 

「くっ!」

 

 

 地面が砕かれた瞬間に発生した衝撃波に煽られて飛ばされる。

 

 

「ちぃっ! ステータスが上昇したのか!?」

 

 

 数体のアントを巻き込みながら地面を転がり、勢いを利用してなんとか立ち上がって体勢を整えたリカルドが叫ぶ。

 リカルドの向かい側で、サコイも体勢を整えていた。

 

 

「さっきより速い! ……っ!」

 

 

 サコイは前方に見据えたジャイアントアントに意識を向けたまま背後にトレッシュを振るう。

 

 ギンッ!

 

 金属音が響き硬い感触が返ってくる。そうして振るった勢いを殺さぬまま回転、背後にいた何かを斬り裂く。

 直剣を持った腕を上げた状態で胸部に一筋の切り傷を付けたアントが姿を見せる。アサシンアントだ。

 アサシンアントは粒子に変わる。

 

 

「……アサシンアントも動き出した。君達、僕達に雑魚を寄せ付けるなよ!」

 

 

 サコイの言葉に周囲でアントと戦う勇者、指導役がそれぞれの返事をする。

 未だに勇気達が消えた通路の奥から行進してくるアントは減らないが、勇気達が減って戦力が低下した宏壱達では穴を埋めるのも一苦労だ。

 

 

「総騎士団長、僕達はジャイアントアントを」

 

「ああ、分かっている。ここからは全力で潰すぞ! 【剛断】!!」

 

 

 サコイに頷いて答えたリカルドは、勢いよくジャイアントアントに飛び掛かり今まで以上の力でギガントキラーを垂直に斬り下ろす。

 それはジャイアントアントの頭部に当たるが、やはり深く斬り込めない。

 だが、浅くではあるもののジャイアントアントの頭部に食い込む。

 

 

「ぐがっ!」

 

 

 リカルドは攻撃後の硬直した瞬間にジャイアントアントの拳に腹部を打たれて吹き飛ぶ。ギガントキラーは頭部に食い込んだまま残されている。

 

 

「総騎士団長! このぉっ!」

 

 

 地面を数度バウンドして止まったリカルドに、更なる追撃を仕掛けようと動くジャイアントアントの動きを止めるためにサコイは駆け出す。

 

 

「【火炎・散り花】」

 

 

 リカルドに迫るジャイアントアントの周囲で、バチバチと火花が散る。

 それらは一瞬の膨張を見せた後、ボボボボン! と連続して小規模な爆発を起こした。

 

 

「【フリーズアロー】!」

 

 

 弓を射つような構えを取ったラベスから放たれた氷の矢が爆煙の中に飛び込んでいく。

 

 爆煙が晴れると、足を地面に氷漬けにされたジャイアントアントが抜け出そうと藻掻いていた。

 そこに飛び掛かる影。サコイだ。

 サコイは頭上にトレッシュを構えると、両手で力強く握り込む。

 

 

「【残閃結華】!!」

 

 

 トレッシュが一瞬の発光を見せた瞬間、サコイの姿がジャイアントアントの前から消え、頭部に一瞬だけ姿を見せてまた消える。

 

 ガガガガガッッッ!!!

 

 何度も何度も何度も何度も何度もジャイアントアントの頭部に残るリカルドの大剣、ギガントキラーを打ち付ける音が響く。

 その音が一度響く(ごと)にギガントキラーはジャイアントアントの頭部に減り込んでいき、半ばまで到達した時、ジャイアントアントはその生命(いのち)を停止していた。

 やがてジャイアントアントは粒子となり、拳台の“魔石”と通常のアントの3倍はある腕を2本残した。

 

 

「はっ……はっ……はっ……はっ」

 

 

 サコイは片膝を地面につき息を荒くしていて、大量に吹き出した汗を拭うことすらできず顎先から滴らせている。

 両腕には幾筋もの裂傷が刻まれていた。【残閃結華】の影響だ。

 

 スキル【残閃結華】は、一時的にAGLを10000にするというスキルだが、SPは全体の9割を消費、安全性度外視での強化なため使用すると人体があまりの速度に耐えきれず筋肉の断裂や関節への負担、HPを3割にまで削るというデメリットがあり、酷使した箇所には必ず裂傷が刻まれる。

 通常なら辿り着くことは不可能に近いが、レベルの上昇によってAGLを10000超えした場合、【残閃結華】の効果は変わることがないため、弱体化スキルとなってしまう。

 

 閑話休題。

 

 

「はっ……くっ、【ヒール】……はっ……【ヒール】……っ……【ヒール】……」

 

 

 腕の痛みと足の痛みに何度も呻きながらサコイは自分に【ヒール】を掛け続ける。

 暖かな光がサコイの腕と足を何度も優しく包み込み癒していく。暫くすると腕から滴っていた血は勢いを失い、止まる。

 

 周囲ではいまだに戦闘の音が止まない。

 しかし、ジャイアントアントがいなくなったことによって懸念材料が減ったお陰か、宏壱達、アントを相手にしている彼らにも大きな余裕が生まれていて、自らの回復に専念するサコイにアントを近付けさせることはなかった。

 

 HPが8割まで回復したサコイは少しふらつきながらも立ってみせた。

 

 

「無事か、サコイ」

 

 

 声を掛けたのはリカルドだ。ギガントキラーを回収して、肩に担ぐようにして持っている。

 何度もサコイに打たれたが、大した損傷もなく己の主に握られている。

 

 

「総騎士団長……なんとか。【残閃結華】はやっぱり使いどころが難しいですね。あれでジャイアントアントを殺しきれなければ、僕は死んでいました」

 

「まぁ、俺のコイツがなければ終わってたな」

 

 

 ドスッ、とギガントキラーを地面に突き刺して杖代わりにする。

 よく見るとリカルドの足は少し覚束ない。

 

 

「【ヒール】……どうですか?」

 

 

 リカルドを暖かな光が包む。

 

 

「……4割まで回復ってところだ。今はこれで十分だろう。とっとと雑魚を片付ける。パレリア司書とラベスもそっちに回ったしな」

 

 

 そう言ったリカルドの視線の先には【狐火】を放ちアントを屠るパレリアと、巧く魔法を使い分けて勇者、指導役達をサポートするラベスの姿があった。

 ジャイアントアント戦では大したダメージを負っていない彼女達は消耗も少ない。

 強いて言えば、MPの減少がネックだが、それは魔力回復薬でどうとでもなった。

 

 

「もう一踏ん張りだ。やるぞ」

 

「はっ!」

 

 

 彼らはそれぞれ消耗が激しいであろう勇者、指導役の加勢に向かった。その動きはジャイアントアントと激戦を繰り広げたとは思えないほどに鋭さがあった。

 

 ◇

 

「……無茶を言う。リーナさん、ピッチ上げますよ!」

 

「承知です。……SPの消費が激しいからあまり使いたくはなかったが……【獣化】」

 

 

 フルフェイスの兜を投げ捨てたリーナがスキル【獣化】を唱える。その瞬間、リーナの全身を包む鎧の中で劇的な変化が起こる。

 髪色と同じ緋色の体毛が全身余すところなく生え、鼻が伸び口が大きく裂けていく。その口には長い犬歯が二本ずつ、鋭い牙がズラリと並んでいる。

 女性として大柄だった体躯は背は更に高く、肢体は細くしなやかに変わる。

 

 獣人族の血を引く者が持つ【獣化】はベースとなっている獣に使用者をより近くさせるユニークスキルだ。

【獣化】は筋力や五感、生命としての本能が高まる奥の手のようなものだが、知性が低くなり攻撃性が増す一面もあるのに加え、SPを多く消費することと発動後にHPを上限の半分減り、HP、SP、MPを除いたステータスを上限の数値に関係なく一時的(個人差はあるが平均3分弱)に300まで減らすため、非常に使いどころの難しいスキルなのだ。

 

 スキル【獣化】の説明ではSTR+1500、DEF+1500、AGL+1500、INT-1000、発動後HP50%減、HP、SP、MPを除くステータスを一時的に300にする。発動中SPを毎秒5%消費し、SPがなくなると【獣化】が終わる。と記されている。

 

 

――グルゥアアアアア!!

 

 

 リーナの咆哮が魔物溜まりに轟く。レッドクレトスを投げ捨てたリーナは籠手をも外し、伸びきった太く鋭い5本の爪で正面のアントを難なく切り裂く。

 

 デメリットは大きいがその効果は絶大で、【獣化】を発動した直後からリーナは四足で駆け出し、周囲のアントを瞬く間に始末し、近くのアントから片付けていく。

 

 

「……うぉ!? あぶねっ!」

 

 

 リーナの変容に言葉を失っていた宏壱だったが、右からの攻撃に気が付いて慌てて後ろに跳んで避ける。

 

 

「集中しますかね」

 

 

 呟いた宏壱は意識を攻撃一点に向けると、裏拳で攻撃してきたアントを叩き、追撃に回し蹴りを放つ。

 右足を軸にして放たれた左足は鞭のようにしなり、アントの首を的確に打ち据えてへし折る。

 

 粒子に変わるアントの奥から顔目掛けて迫ってくる槍を首を傾けて回避、2歩踏み込んでカウンター気味に右拳をアントの顔面に減り込ませ、体勢を崩したアントの頭を左右から両手で掴むと力任せに右手を奥に、左手を手前に引くと、アントの頭は180度回転して粒子となった。

 

 

「甘い!」

 

 

 左右から迫る直剣の腹を左手の甲と右掌で弾くと、右側のアントに掴み掛かり左側のアントに向けて投げ飛ばす。

 もつれ合って倒れた2体のアントに飛び掛かり、それぞれの頭部を足で踏み潰す。

 着地の瞬間を狙って短剣が振るわれる。

 

 

「……っ!」

 

 

 回避が間に合わない。そう判断した宏壱は(わざ)と短剣を胸で受け止めた。

 軽い衝撃に顔を顰めるが、動きは止めない。

 

 攻撃後の硬直した隙を突いてアントの胸部を右拳で打ち、間髪容れずに左足でアントの右足を蹴ってバランスを崩す。

 

 

「……っと!」

 

 

 そこから更に追撃を掛けようとしたところで背後からの奇襲に気付いて1歩下がった。

 宏壱の頭を狙った斧が、狙いを外して左肩に当たる。

 しかも、宏壱が1歩下がったことにより、刃の部分から柄の部分に位置が変わり、宏壱に大したダメージを与えることはなかった。

 

 肩に当たって止まった斧の柄を右手で掴み、左手で柄を握るアントの腕を掴むと、背中に背負い込む形で前方に投げる。

 当然そこにはバランスを崩したアントがいて、ぶつかって倒れた。

 

 

「【ファイアボール】!」

 

 

 起き上がられるよりも早く、宏壱は倒れた2体のアントに向けて右手を突き出し、【ファイアボール】を放つ。

【ファイアボール】はアントに着弾して爆炎を散らした。

 爆炎が起こす熱を含んだ突風を浴びながら宏壱は周囲に注意を向ける。

 

 

「ジャイアントアントは片付いたか」

 

 

 視線を周囲に巡らせる中で、宏壱は粒子となって消えゆくアントを見た。

 

 

(へぇ、結構やるんだな。あのサコイって奴は)

 

 

 片膝を地面に突き、肩を上下させているサコイを見た宏壱は、感心してサコイの実力を上方修正した。

 

 

「全員聞けぇっ! これより、アントを全て殲滅しつつクイーンを討伐するために先行したユウキ達と合流する! 一匹も逃さず、前進だっ!!」

 

 

 サコイに治療を受けたリカルドが叫ぶ。

 宏壱達はアントをダンジョン外に出さないように殲滅を始めた。

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