赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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新年あけましておめでとうございます。
今年も赤鬼転生記をよろしくお願いします。


第十八鬼

「ああぁぁ、疲れたーーっ!」

 

 

 ごつごつとした地面に身を投げ出して叫ぶ。

 周囲は戦闘の痕跡が残る。

 隆起した地面や凍りついた壁、穿たれた岩。その空間で動くのは魔物ではない。

 散乱した“魔石”を回収する人の姿がある。その散乱する“魔石”の中に一際大きなものがあった。

 拳台ほどの紫色の水晶石だ。それを拾い上げた勇気が繁々と観察する。

 

 

「それがクイーンアントの“魔石”か?」

 

 

 “魔石”を持つ青年に声を掛けたのは勇気の親友である敦だ。

 

 既にクイーンアントは討伐されていて、宏壱達も合流していた。

 クイーンアントは宏壱達が到着する前に討伐されていた。残ったアントの群れは合流した宏壱達と共に駆逐した。

 相当の疲労から、龍治のように地面に身を投げ出す者も多く、へたり込んで立ち上がれない者もいる。

 

 

「しかし、本当にクイーンを討伐しているとはな。驚いたぞ、ユウキ」

 

「リカルドさん。……はい、思ったより強くなくて。簡単に倒せたんです」

 

「ふむ? クイーンが簡単? 奴はアントの中でも珍しく魔法を使う。容易に倒せる相手じゃないが?」

 

 

 リカルドは訝しんで勇気に視線を向ける。特に敦が反応しないところを見ると、勇気の話に嘘偽りはないようだ。

 

 

「……さっきパレリアと勇者ヤマグチが言っていたことか?」

 

「え?」

 

「どういうことっすか?」

 

 

 リカルドが溢した言葉に勇気達は疑問を浮かべるが、リカルドはそれに答えずパレリアに視線を向けて問い掛ける。

 

 

「パレリア、説明を頼めるか? ジャイアントアントが出てきたことがどう影響したんだ?」

 

「……普通なら産めないジャイアントアントを産んだ。クイーンが消耗してないはずがない」

 

 

 声を掛けられたパレリアは“魔石”を拾う手を止めないままに答える。

 

 

「相応の負担はあるはず。その分弱っていた可能性が高い。ミキヨシ、クイーンアントのステータスは見た?」

 

「え? あ、はい。えっと、これです」

 

 

 パレリアは傍で“魔石”を拾っていた幹好に声を掛けた。

 彼女に話を振られた少し戸惑いながら自身の聖剣である“何でも図鑑”を手元に出現させ、クイーンアントのステータスが載っているページを開く。

 

 ◇◆◇

 

 Lv:138 名前:クイーンアント(状態異常・疲労大)

 

 種族:虫

 

 HP:250983

 

 STR:2438(-1500)

 

 DEF:3945(-1500)

 

 INT:4581(-1500)

 

 AGL:1589(-1500)

 

 DEX:2377(-1500)

 

 MND:4231(-1500)

 

 《スキル》

 

 産卵

 

 統率

 

 鼓舞

 

 《魔法》

 

 ダーククロス

 

 ポイズン

 

 パララサス

 

 《称号》

 

 女王蟻

 

 ◇◆◇

 

 幹好が開いたページを見てパレリアは一つ頷く。

 

 

「これ、しっかり見た?」

 

「いえ、一応【鑑定】してはみたんですけど、ここに入って直ぐにアントが襲ってきて……」

 

「詳しく見る暇がなかった?」

 

「……はい」

 

 

 言葉に詰まった幹好の代わりに、その場の状況を予測したパレリアが引き継ぐように言うと、幹好は沈痛な面持ちで頷いた。

 パレリアは言葉数が少なく、語尾を切る癖がある。淡々とした抑揚の少ない口調も加わって幹好に怒られているような感覚を与えた。

 実際はそんな意図はなく、ただの確認でしかないが。

 

 

「そう。リカルド、やっぱりクイーンアントは弱っていたみたい。タイミングがよかった」

 

「弱っていたから簡単に倒せたってことか……運がよかったってことだな」

 

 

 パレリアの言葉を聞いてリカルドは腕を組んで頷く。その表情は納得顔だ。

 

 

「運……」

 

 

 それを横で聞いていた勇気の表情が曇る。

 当然だ。クイーンアントを倒せたのは実力ではなく、運がよかったから。そう言われて素直に納得できるほど勇気は大人ではない。

 生きていれば儲けものなんて考えも、死を実感したこともなかった。彼には圧倒的に経験値が足りなかった。

 

 

「勇気、どうした?」

 

 

 表情を曇らせた勇気を心配した敦が声を掛ける。

 

 

「……ん? 何が?」

 

「何がって、表情が暗いぞ?」

 

「何でもない」

 

 

 何でもないようには見えない、そう言おうとした敦だったが、勇気の雰囲気が聞かないでほしいと、この話題には触れないでくれと物語っていた。

 

 

「そう、か」

 

 

 勇気の親友であると自負している敦は、しつこく聞いたところで勇気が喋らないことは何となく分かった。

 だから、無理に聞き出すことを止めて話題を転換してそのまま談笑しながら“魔石”拾いを再開した。

 

 ◇

 

 全ての“魔石”とアントの部位、女王蟻の足というクイーンアントでしか採れない部位の回収を終えた一行は、クイーンアントが存在していた広場で休憩していた。

 思い思いのメンツでグループを作り、ポーチに入れて持ってきていた薪を組み、火を点けてそれを囲む。焚き火には串が通った魚が立てられ、焼かれている。魚もポーチに仕舞っていた物だ。

 他にも幾つかの保存食が入れられている。肉や野菜、水が入った竹筒。それらはある程度の長期間ダンジョンの中で過ごすことを想定してリーナが宏壱に買わせた物だった。

 

 そんな宏壱は自身の指導役であるリーナと、最近なにかと縁のある晶カエデペアと供にいた。

 宏壱、リーナ、カエデ、晶、そして宏壱に戻るという順で焚き火を囲んで食事と談笑に耽っていた。

 

 

「ちょっとトラブルはあったけど無事に終わったな」

 

「そうだね。正直、あの大きいのが出てきた時はもう終わりかと思ったよ」

 

 

 口調は素のままで会話する宏壱に戸惑う様子もなく晶は言葉を返す。

 既に宏壱は晶に対して取り繕う気などなく、気安い笑顔を見せる。

 

 

「それが貴方の地ですか?」

 

 

 姿勢よく正座をしているカエデが宏壱に聞く。特に驚いた様子はなく、ただの確認であるかのような雰囲気だ。

 目の見えない彼女はその場の雰囲気で空気を読み、微かな物音で空間を把握する。

 そんな彼女は宏壱の雰囲気と言動に強い違和感を覚えていた。

 言動の弱々しさとは裏腹に纏う雰囲気は歴戦の戦士と言っていい。どれだけ前髪を伸ばして顔を隠し、猫背で身体を小さく見せて外見を誤魔化しても、目の見えない彼女には意味がなかった。

 しかし、違和感を覚えながらも、宏壱はカエデにその正体を一度も見せなかった。だが、この長期の戦闘で気が張り巡らせ、多少ながらもHPを削られたためか、普段は陰鬱さと弱々しさで覆い隠した好戦的で快活な性格が表面に出ていた。

 

 

「どうでしょう? カエデさんはどう思いますか? ()の何が視えて(・・・)いるんですか?」

 

「……質問に質問で返すのは反則では?」

 

「そんなルール聞いたことないですけど……まぁ、答えるなら……ご想像にお任せしますってことで」

 

 

 そう言って笑った宏壱は邪魔な前髪を指で払って避けると、こんがりと焼けた肉を取り、一口で串ごと口に入れて串だけを引き抜く。

 肉を旨そうに咀嚼する宏壱を見てカエデは浅く溜め息を吐く。

 

 

(底が視えませんね。まるで奈落の穴を覗いているようです。戦闘経験は勇者の中でも群を抜き、自分を隠すことに長けている。何を考えて彼は我らと共に行動しているのか……不気味で興味深い御仁です)

 

 

 洞窟内での最初の戦闘から今に至っても尚増してゆく宏壱の覇気に、気味の悪さを覚えながらも好奇心を抑えられなかった。

 

 

「面白い方だろ? 勇者コーイチは」

 

「ええ。初見の時から並みの御仁ではないと思ってはいましたが。以前とは別人のようです。纏う空気が戦場では一際映える」

 

「ははっ、私とは違うな。私は最初彼を見た時はなんとも頼りない男だと思ったのだが」

 

「今は違うのですよね?」

 

 

 軽快に笑うリーナに、確認をするように問うカエデ。その問いは分からないことを聞くというよりも、確定している事実を確認する程度の作業に他ならなかった。

 

 

「そうだな。あの方と刃を交えて見えたのは、確かな研磨と確固たる芯の強さだった。何度打ち負かしても彼は腐らなかったぞ。圧倒的力量さを見せても技術と折れぬ心でそれを――「リーナさん、本人の前でそんなこと語らないでください。恥ずかしいですよ」――……はっ!? も、申し訳ありません!」

 

 

 どこか恍惚とした表情でカエデに語っていたリーナが宏壱の声で我に返ると、魔人族特有の青白い肌をほんのりと朱に染めて宏壱に頭を下げる。

 

 

(青白い肌に朱が混じると紫っぽいな。……ん? これは……)

 

 

 そんなどうでもよいことを考えて、無駄に熱くなった顔を焚き火の熱に当てて誤魔化す。

 そうして羞恥を紛らせていると、宏壱の後ろから自分達に近付いてくる気配に気づく。

 

 

「少しいいかしら?」

 

 

 宏壱以外の3人の視線が声を掛けてきた人物に向く。

 

 

「菅野さん? それと……」

 

「ヨツキ・ミハラじゃ」

 

 

 声を掛けたのはクラスメイトの菅野美咲と、彼女に付き従うように3歩後ろに控えるヨツキ・ミハラだった。

 外見年齢は20代半ばといったところだが、少々年寄り臭い口調で喋る黒髪黒目で長身痩躯の青年だ。腰に下げるのは一本の刀。

 東方の島国で生産される独特な反りを持った刀が、和装の青年には非常に似合っていた。

 

 

「隣、構わないかしら?」

 

 

 代表するように声を上げた晶に微笑むと、美咲は未だ自分に背を向けたままの宏壱に声を掛ける。

 

 

「す、好きにするといいよ」

 

 

 瞬時に猫を被った宏壱は小さな声で応じた。彼の本性を知る3人は苦笑いだ。

 

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 

 そう言って美咲はポーチから青い布を取り出すと、宏壱とリーナの間に敷いて正座を崩して座った。若干宏壱の方に身体を寄せる。

 その際にリーナに視線を向けると、一瞬渋い顔をしたのを見逃さなかった。

 

 

「では、ワシも失礼して」

 

 

 ヨツキは宏壱と晶の間に胡座を掻いて座る。美咲は兎も角、ヨツキに他意はない。

 ヨツキは腰を落ち着けると、何処からともなく細長い器、徳利と小さな器、御猪口を取り出すと徳利を傾けて御猪口に内容物、酒を注いで一気に呷る。

 

 

「んく……くはぁっ。戦闘後の酒は格別じゃのう!」

 

「「「……」」」

 

「「……はぁ」」

 

 

 上機嫌のヨツキを唖然と見る宏壱、リーナ、晶の3人と呆れたように溜め息を溢す美咲とカエデ。反応は五者二様だが思いは「ここで飲むなよ」の一様だった。

 

 ◇

 

 少し問題はあったものの、美咲ヨツキペアを迎えた宏壱達は説明を受けていた。

 

 

「あの時は、取り巻きを私達が押さえ切れなかったのよね」

 

「菅野さんはそこそこにレベルが高かったと思うんだけど、それでも?」

 

「ジャイアントアントはいなかったけど、ハイアントの数が多かったもの。正直、かなり苦戦したわ」

 

「へぇ」

 

 

 クイーンアント戦を語る美咲に晶が相槌を打つ。

 

 

「ハイアントですか……。勇者アサイの話では、平均レベルが70ほどだったとか。ハイアントでそのレベルは相当苦労されたのでしょう」

 

「そうじゃのう。あれだけの数のハイアントは骨が折れたのは間違いない。ワシの愛刀“月夜”もほれ、この通りじゃ」

 

 

 リーナの言葉に頷くとヨツキは座る際に脇に置いた刀を鞘から引き抜くと、焚き火に照らして5人に見せる。

 所々の刃毀れが目立つそれは、戦闘による汚れか煌きを失いくすんでいた。

 

 

「ただ、クイーンアント自体はかなり弱っていて、大鷲君のユニークスキル【光影斬】を2回当てただけで倒せたんだけど」

 

「こうえいざん、って何?」

 

「オオワシのが放つ必殺技じゃろう。光と影が振り上げた聖剣の刀身を包み、そいつを振り下ろすと三日月型の斬撃が前方に放たれ一直線に斬り裂くんじゃ。威力は凄まじいぞ? ほれ、あそこの斬撃跡がそうじゃ」

 

 

 ヨツキの指差す場所には深く刻まれた溝が10mほど続いていて、よく見るとその溝は2度重ねて削ったようにも見えた。

 

 

「直線上のものしか斬れんし、射程も長いとは言えん。しかもSPの消費が激しいようでの、一発でふらついておったわ。ちと欠点が目立つのう」

 

 

 ヨツキはそう言って笑うと御猪口に並々と注がれた酒を呷る。彼の前には空の徳利が4本転がっていた。今は既に5本目に突入しているが、彼に酔った様子はない。

 

 

「それを二発。彼に戦う力は殆んどないと見ていいのか?」

 

「じゃろうのう。SPも枯渇しておるだろうし、疲れもそこそこに残っているはずじゃ。好いた女子(おなご)の前で格好付けてはおるが、アントは大丈夫じゃろうがハイアントと戦う力は残っとらんじゃろう」

 

 

 リーナの問いに己の見解を示すヨツキは5本目を空にすると6本目を取り出す。

 

 

「クイーンアント戦が取り巻きに苦戦したものの、クイーン自体は楽だったというのは分かりました。……ですが、ヨツキ殿」

 

「うむ?」

 

 

 御猪口に口を付けたままヨツキは言葉を投げ掛けてきたカエデを見遣る。

 その姿に深い深い溜め息を溢すと、脇に置いていた杖を握り一瞬腰を浮かせて「飲み過ぎです」と言って杖を目にも止まらぬ速さで横に薙ぐ。

 焚き火も揺らさず行われたそれは、新しく取り出された徳利を弾いた。弾かれた徳利は中身を溢すことなく宏壱の手にキャッチされる。

 

 

「ぬあっ!? カエデ嬢! 何をするんじゃ! ヤマグチの、それを返してくれ!」

 

「……」

 

 

 素知らぬ顔で座り直すカエデに抗議の声を上げ、徳利をどうしようかと眉尻を下げる宏壱に右手を伸ばす。

 

 

「……んくっ……んくっ……んくっ……」

 

「ぬああああぁぁぁっ!!?」

 

「「「え?」」」

 

「……成る程、そう来ましたか」

 

 

 宏壱は徳利に口を付けて傾ける。中に入っていた液体が、宏壱の舌を滑り、喉を満たし、胃へ落ちていった。

 それに驚愕の声を上げたヨツキと唖然とする晶、美咲、リーナ。感心の声を上げたのはカエデだが、宏壱の手に徳利を持たせた本人も彼がこのような行為に及ぶとは予想していなかった。

 

 

「くぅぅっ!」

 

 

 喉を焼くアルコールに唸る。相当な度数のようで、前髪で分からないが少し涙目だ。

 

 

「ヤマグチの! 今のは――「全員準備しろ! そろそろ上がるぞ!」――……ぬうぅぅ! 後で特上の酒を請求するっ!」

 

「けほっ! そうさせて頂きますよ。……まぁ、俺が生きていれば、ね」

 

 

 憤慨するヨツキに少し噎せながら言葉を返した宏壱であったが、最後に誰にも聞こえぬように口の中で呟く。それは聴力に長けたリーナやカエデにさえ聞こえないものだった。

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