赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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鬼の居ぬ間―その1

 重苦しい沈黙が場を支配する。

 ここは複合都市・マグガレン王城にある玉座の間。5つの玉座には各種族の王が5人揃って座っている。彼らの前には跪く勇者の指導役達の姿があった。

 第4バセットダンジョンから帰還後、討伐隊に参加した指導役は玉座の間で事の顛末の報告を行っていた。当然、宏壱の訃報も。

 一様に沈痛な表情を浮かべている指導役達に反して、5人の王は平静な面持ちだ。

 

 

「……では、勇者コーイチ・ヤマグチはメガベアーと共に落ちたと?」

 

「はい……私が付いていながら勇者に犠牲を出してしまいました」

 

 

 王達の前で跪くリカルドが悔しげに唇を噛む。

 リカルドだけではない。彼の横に並ぶ指導役の面々も一様に苦い表情を浮かべていた。それは宏壱に対して悪態を吐いていたサコイも同じだった。

 

 

「……そう、か。覚悟はしていた。大きな力に自惚れた者が無茶をするのではないか? とな。早めに出てよかった。これで勇者達も気を引き締めるだろう。生半可な鍛え方では命を落とす、と」

 

「なっ!? お言葉ですが陛下! 勇者コーイチは生半可な鍛え方などしてはおりません! 彼は真剣にっ!」

 

「バコフ! 報告の場だ。許可なく喋るな」

 

「ぐっ、……ああ、リカルド殿、すまない。……陛下、出過ぎた真似をいたしました、申し訳ございません」

 

 

 魔人族女王、ルーカスの物言いに噛み付いたリーナだったが、リカルドに窘められて頭を下げた。

 

 

「いや……今のは私も言い方が悪かった。あの男で良かった、そう言おうとしたんだ。勘違いするなよバコフ。あの男は底が知れない、これは我々、王全員一致の見解だ」

 

「ヤマグチっつーと、あのやべぇ奴だろ? 今のアイツならオレも殺せると思うが……レベルが100まで上がるとどうだろうな。正直分かんねぇ」

 

「ふむ。妙な気配を放っていた少年だな? エルフである私にさえ正体を掴ませなかった。あの少年が死んだ、とは考えられないが……」

 

「そうじゃなぁ。身のこなしは熟練の武人そのものであったように思うのぉ。見たのは最初の一回じゃし。会話もなかった。まぁ、判断はし難いがのぉ」

 

「私はお話ししましたが、爽快な方でした。少し意地の悪い方でしたけど。で、直接見て思ったのですが、そう簡単に死ぬような方ではありませんよ。彼は生きています。断言できます」

 

 

 各王が宏壱を見た時の印象を語る。

 彼らは多くの人間と接してきた。内輪の貴族や豪族、商人。国外の要人。当然腹に一物を抱えた者との対談はあり、腹を探って本質を見抜く目が必要だった。

 僅かな動作で見抜けなければ死さえあり得る世界だ。勇者との対面で1人1人様子を窺ってみると、最も怪しくて一物を抱えているようにみえたのが宏壱だった。

 ただ、見抜いたところでどうすることもない。未知の世界で暗躍などしようもないし、そういった陰険な人間には見えなかった。

 

 

「まぁ、そういうことだ。我々は勇者コーイチ・ヤマグチが死んだとは思っていない。捜索隊は早いうちに編成する」

 

「……はっ! ありがとうございます」

 

「さて、次じゃが……勇者ユウキ・オオワシはどうじゃ?」

 

 

 宏壱の話は一区切りついた。そう判断したジェネガン王国国王、ブルセオが次の問題を提示する。

 それは目下(もっか)一番の懸念事項だった。

 

 

「ユウキは……今後、戦えないかもしれません」

 

 

 勇気は意気消沈している。覇気が一切ない。その理由は明白だ。宏壱の戦闘の邪魔をして、敗北の要因になったこと。

 マグガレンまでの道のりで誰も声を掛けなかったわけではない。リカルドは叱責と励ましの言葉を、龍治は責める眼差しを向けながら怒鳴り散らした。

 声は掛けなかったものの、晶カエデペアとリーナも良い顔をしなかった。

 なにより、宏壱が落ちる前に優しい声色と眼差しで声を掛けたなずな。彼女が特に気にした風がないのが勇気には一番効いた。そこには宏壱に対しての絶大的な信頼があり、彼を深く理解しているように見えたから。

 

 

「ま、そっちはリカルド、お前の腕の見せどころだ」

 

「ゴーロス陛下、無茶を言わないでください。仲間の死をある程度割り切れる騎士団と、それができない少年では話が違ってくるんですよ」

 

「だろうな。……他の勇者はどうしてんだ?」

 

 

 膝に肘を突き、掌に顎を乗せた獣人族王、ゴーロスが話題を変えて問う。

 

 

「一様に驚きを隠せないようで……正直不味い空気になっているようです」

 

「ほぉ? アイツら、たしかヤマグチを疎んでなかったか? 扱いも軽かったように思うが?」

 

「彼らは平和な世界で生きてきたと聞いています。人の死というのも身近なものではなかったようで……」

 

 

 言葉は切られたが、そこから続く言葉を王達は想像できた。

 

 

「次は自分……そんな考えがあるのかもしれんな」

 

「だろうな。指導役がいながら学友を失った。経緯はどうだろうがそれが今アイツらに見えてる全部だ」

 

「勇者ヤマグチが生きている。そう考えられる者は少ないでしょう。勇者召喚を知っているのはこの王城の関係者と、私達の側近だけ。……その彼らも勇者ヤマグチの死を疑っていませんから」

 

 

 亜人族王、ロッサの言葉にゴーロスとハサーシャは頷く。

 勇者達は宏壱が落下した状況を詳しく聞かされていた。リカルド達よりも先に帰還していた勇者と指導役は、急な展開に言葉が出せなかったほどだ。

 

 

「発言、いいですか~?」

 

「許可します」

 

 

 ランチェが小さな身体を精一杯伸ばして存在をアピールすると、ハサーシャが微笑んで答えた。

 

 

「勇者ヤマグチ様のことは~、なずなちゃんがあした他の勇者様にきちんと説明するそうですよ~」

 

「ランチェの担当は勇者アカツミネ、ですね? 彼女は勇者ヤマグチと何か関係が?」

 

「その話もあしただそうです~」

 

 

 現在時刻は深夜を回っている。連戦を重ねた疲労とクラスメイトの落下という心労で、勇者達は心身共に疲労困憊だった。

 居残ったクラスメイトに大まかな事情だけ話すと、自室に戻って寝てしまった。

 だから、翌日に食堂で集まって詳しい経緯をなずな達がクラスメイトに話すことになっていた。その際になずな、美咲、宏壱の関係を明らかにするというのだ。

 居残り組みや先行して帰還したクラスメイトには意味が通じなかったが、翌日に分かることだからと解散になった。

 

 

「……ふむ、我々も詳しく知りたい。指導役であるお前達も何人か参加してくれ」

 

「では、私、リカルド・ボレアとリーナ・バコフ、カエデ・ミカグラ、パレリア・メソッドの4人で参加しましょう」

 

「うむ、頼んだぞ」

 

 

 リカルドにひとつ頷いて、ロッサは「皆、ご苦労だった。今日はもう休んでくれ」と解散を促したことで報告会は閉幕となった。

 

 ◇

 

 小学校に入学して数ヶ月経ったある日、下校途中信号待ちをしていたわたしに一台のトラックが接近していた。

 頭が真っ白になったわたしはただそれを見ていただけ……。幼いながらに思ったのは、「当たったら痛いだろうな」だった。

 助けはなかった。トラックがわたしに接触するその一瞬前までは……。

 

 気が付けばわたしは近くのビルの屋上にいて、誰かに抱っこされていた。それがお姫様抱っこだったと気が付いたのはその日の夜だった。

 眼下では凄い騒ぎになっていた。『近くにいた女の子は無事か!?』とか『誰か救急車を!』なんて怒号と悲鳴が響き、場が騒然となっていた。

 

 

――居眠り運転だってさ。危ないよな。

 

 

 それは場違いなほどに暢気な声。声の主はわたしを抱えている男の子だった。年齢は2、3歳くらい上に見えた。後で聞くと、同い年だって言うからビックリしたけど。

 

 閑話休題(っと、じゃなくて)

 

 それがわたし、朱津嶺 なずなと幼馴染みで大好きな男の子、山口 宏壱くんとの出会いだった。




終盤は本作初の一人称、なずな視点でした。と言っても過去語り風です。次回は過去語りの続きからです。
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