赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~ 作:コントラス
ギンッ! ギンッ!
昼を少し過ぎた時間にラハヤ村の見張り台がある広場で、金属をぶつけ合うような音が幾度も響く。
直剣を持った青年と短剣を持った少年が互いの得物をぶつけ合っていた。
「ぐっ、このおぉっ!」
「遅い上に真っ直ぐ過ぎだ」
「ぐふっ!?」
袈裟懸けに斬り下ろされる短剣を青年、宏壱は右手に持つグレートソードで容易く受け止め、少年、デナガの腹部に左拳を叩き込み軽く吹き飛ばす。
「デナガ! 何やってんだよ! そんな冒険者なんかボコボコにしちまうんだろ!」
「手加減しなくていいんだって! 泣かしてやれよ!」
外野の少年達の野次を受けてデナガは立ち上がる。
(物語の主人公にでもなった気か? なら、俺は美少女を攫う極悪人ってか?)
宏壱は苦笑を浮かべる。それが嘲笑に見えたのか、デナガは怒りで顔を赤く染めた。
「クソっ、調子に乗りやがって! お前みたいな弱い奴が、メアを扱き使ってんじゃねぇよ!」
台詞は奴隷の少女を救う
「はぁ……俺はいつかこの村を出る。そのときはメアも当然一緒だ、置いていくつもりはない。悪いな、お前の恋は実らない」
「っ!? な、なななっ、何が恋だ!? そんなんじゃねぇ! オレは弱いお前と外に出るよりも、この村に残った方がアイツのためになるって言ってんだ! お前は1人で魔物に食われて死んでろ! メアを巻き込むな!」
「よく喋るな。なら弱い俺に傷ひとつ付けられないお前はなんだ?」
「う、うるせぇ! これからだ!」
宏壱の煽る言葉にデナガは怒声を響かせて駆ける。
「甘いな……」
左手に持った短剣を振りかぶったデナガを見て宏壱は溜め息を溢し、大上段に振るわれるのを合わせてグレートソードを横に構えて受ける……が、デナガの腕は下まで振り下ろされていた。
金属音も手応えもない。
「はっ! 甘いのお前だっ!」
手応えがなかったのは当然だった。
デナガは左手に短剣を持っていなかったのだ。振りかぶったときに背中側で短剣を落として右手に持ち換えていた。
逆手に持った短剣を低い姿勢から逆袈裟に斬り上げる。
「だから甘いって言ってんだよ」
宏壱は左足で斬り上げる寸前の短剣の柄を押さえた。
「なっ!?」
「中堅レベルの戦士ならそれで通用するだろうが、上級者になるとそんな曲芸は効かないぞ」
驚くデナガを見下ろして言う。それは暗に「お前が戦っているのはそういう存在だ」と伝えていた。
「ぶっ!?」
短剣を押さえたまま宏壱は右膝を持ち上げてデナガの顔を打つ。
衝撃と痛みで顔を仰け反らせたデナガの胸に、宏壱の回し蹴りが襲い、吹き飛ばす。
「ぐっ! な、なんなんだよ、お前!」
転がったデナガは、顔を左手で押さえて涙目で立ち上がった。
眼は憎々しげだが、戦意は萎え始めている。
「はああぁぁぁ……なんで俺がコイツの相手なんか……」
深い、それは深い溜め息だ。飛び掛かってくるデナガをあしらいながら宏壱は回想する。
◇
時は数時間前までに遡る。
宏壱とメアがラハヤ村に拾われて数日、2人は村に少しでも恩返しをと、村の仕事を手伝っていた。
宏壱は主に力仕事を、メアは家事の手伝いをしていた。
この日、宏壱は朝食を終えてから薪割りをしている。
振るわれた鉈がスカン! と小気味良い音を立てて丸太を半分に割る。
そこから更に半分に割って4本の薪を作った。その作業を延々と繰り返す。
薪は村で共同で使われている。
村の
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」
テンポ良く薪を作っていく。20本ほどできると、藁で編まれた紐を使って縛る。
「よっ、と。ふぅ、けっこうできたな」
右腕の袖で額の汗を拭う宏壱の眼前には、50束の薪の束があった。
空を仰ぎ見れば、日は頂点に差し掛かっている。
「そろそろ飯だな」
マグガレンでは朝の6時頃から夜の12時まで3時間置きに鐘の音がなり、民衆に時刻を知らせるが、この村にそんなものはない。
皆、太陽の位置で大体の時刻を把握していた。
「……コーイチ……」
感情の籠らない静かな呼び掛けが宏壱の耳に届く。
声のした方向に顔を向けると、スカートの部分にフリルがあしらわれた半袖の白のワンピースを着たメアが立っていた。
「おう、メア。迎えに来てくれたのか?」
「……」
コク、と頷くメア。ここ数日、村人の力を借りてメアは言葉を学んでいた。と言ってもメアが聞いたことを勝手に覚えているだけで、誰かに教わっているわけではない。
ただ、意味は理解できないため、それは宏壱が教えているのだが。
「……お昼……作った……」
「そうか、ちょっと待ってろ、今片付けるからな」
「……ん……」
頷くメアを見て、宏壱は薪の束を2束ずつ両腋に抱えて小屋に運び入れていく。
最後に鉈を仕舞うと、メアと手を繋いで寝起きしている小屋へと歩き出した。
宏壱とメアが泊まっている小屋は薪の小屋とは離れた場所にある。小屋に戻るには広場を抜けた方が早い。
「おい、お前っ!」
広場を抜ける際に背後から声が掛けられる。声を掛ける、と言うよりは、怒鳴り付ける、と言った方が適切かもしれないが。
「……」
宏壱は答えないまま歩みを進める。
「お、おい! 聞いてるのか!」
「……コーイチ……?」
「俺じゃないだろ。俺は宏壱であって、お前なんて名前じゃないからな」
「……」
怒声の主、デナガに答えない宏壱を不思議そうに見上げたメアだったが、宏壱の言い分にメアはひとつ頷いて「……勉強……なった……」と納得した。
「そんなわけないだろっ!」
「はぁ……」
溜め息を溢す。デナガの怒りが頂点に達しているのは宏壱にも理解できている。その理由も、分かっている。
ただ、面倒だと思っただけである。
「なんの用だ? 俺は帰って飯にしたい。それからは魔獣を狩りにいくんだ。邪魔しないでくれるか?」
「うるさい! オレと勝負しろ!」
「……言葉、通じてるか? 俺は言語を理解できている人間と喋っているつもりなんだが……?」
呆れた視線をデナガに向ける。高い身長と鋭い目付きによって、見る者を畏怖させる威圧感がある。
「うっ」と怯んだデナガだったが、踏み止まり、キッと宏壱を睨み返す。
「お前と戦って俺にメリットがあるのか?」
「男として恥をかかなくて済む!」
「……」
胸を張るデナガに宏壱の眼差しは更に冷たくなる。話にならない、そう言いたげだ。
「ほっほっほっ、受けてやってはくれんか、コーイチ殿?」
「じいさん……」
そこで騒ぎを聞き付けて遠巻きに見ていた人垣の中から、ラハヤ村村長のダボが長い髭を愉快気に揺らして出てくる。
「デナガの満足いくまで戦ってやってはくれんかの?」
「俺には戦う理由がない。経験値にもならないだろうし……何より、弱い者虐めは好きじゃない」
「なっ!? オレが弱いだと!? ふざけんなっ! メアに一撃でやられた奴が調子に乗んじゃねぇ!」
宏壱の考慮をしない物言いにデナガは顔を赤くして怒る。
そんなデナガを無視して宏壱とダボは会話を続ける。
「ふむ、ではデナガと戦ってくれれば旅立つときに食料を分けよう。幾ばくかの“魔石”も分けよう。時折村に訪れる商人の話じゃと、価値の高い“魔石”じゃ」
「……食料と金になる“魔石”、か。分かった、受ける」
「???」
交渉成立だ。そう続けて宏壱はメアの頭を撫でる。
不思議そうに小首を傾げるメアだが、嫌がる素振りはない。
「っ! お前が負けたらメアを置いていけ!」
それが癪に障ったのか、デナガが声を上げる。
何度目かも分からない溜め息を吐く宏壱は、ダボと視線を合わせる。
「すまんのう、デナガの鼻をへし折ってはくれんか? 子供らのあいだでは負けなしで調子づいとるんじゃ。痛い目に遭わん内にコーイチ殿が現実を見せてやってほしいのじゃ」
「それが狙いか、じいさん」
溜め息で幸せを逃がしまくる宏壱はくるっと周囲を見る。
子供達はデナガに声援を送るが、大人達は苦笑で宏壱を見返す。村の大人達の総意らしいことは見て取れた。
「分かった、万が一、億が一、兆が一、俺が負けたらメアの意思に委ねる。メアが残りたいと言うなら、俺はメアの意思を尊重しよう」
要は、自分が負けることはない。宏壱はそう言っているのだが、デナガは「首を洗って待ってやがれ!」と吐き捨てて駆け出した。昼御飯を食べに帰ったのだろう。
それを合図に、村人達も散ってゆく。
「本当にすまんのう」
「まぁ、あの年のガキは回りより優れていると図に乗るからな。で、いつかデカイ壁にぶち当たって容易く折れる。壁に当たる耐性がないからな、痛みに耐えられない」
頭を下げるダボに苦笑して宏壱は染々と語った。
「若いのに重みがある言葉じゃな。お主、相当な経験をしてきたじゃろ?」
「俺は挫折したことないぜ? ただ、折れてダメになる奴は多く見てきたってだけだ。俺の場合、当たってもぶち破るからな。俺は絶対に折れない」
にっと笑って言うともう一度メアの頭を撫でて手を繋ぎ、宏壱とメアは小屋へ向けて歩みを再開させた。
◇
「……ああ、俺の所為か」
思い返すと、引き受けたのは自分自身だった。今日の昼は旨かったなぁ、と現実逃避する宏壱に、デナガが肉薄する。
「っ!」
気合い一閃。鋭い呼気とともに放たれる横薙ぎ。今日のデナガ一番の渾身の攻撃だ。
(取った!)
自分でも驚くほどの速度で放たれた剣閃。確実に宏壱の胴を捉えていた。
デナガに殺す気はない。ただ、浅く皮膚を裂くだけだ。
「まだ遅い」
「っ!? ごふっ!? がっ!?」
一歩。宏壱は一歩引くだけで短剣を躱す。服に掠らせることもさせない。
そして二歩踏み込み、膝をデナガに二度突き込む。一度目は右膝を腹部に、二度目は身体がくの字になって落ちてきた顔に左膝。
デナガが突進した勢いも相まってその二撃は強烈なダメージを与えた。
「メアはたしかに俺より強い。それは事実だ」
グレートソードで肩をトントンと叩きながら仰向けに倒れて呻くデナガを見下ろす。
「が、俺がお前より弱い証明にはならない」
「ぐっ」
「お前は……弱い。お前程度なら世界中探せばどこにでもいる」
言いたい放題である。数時間前に弱い者虐めは好きじゃない、と言っていた者と同一人物とは思えないほどだ。
が、宏壱は見た目以上に腹を立てていた。
「メアの人生だ。テメェが決めていいことじゃねぇ。何がメアのためで、そうじゃないのかは今後のメアが決めていく。部外者が口出ししていいことじゃねぇんだよ」
デナガが放った「この村に残った方がアイツのためになる」という言葉が宏壱の癪に障った。逆鱗に触れた、とも言い換えられる。
どうあれデナガは宏壱を怒らせていた。宏壱の口調が荒くなっているのはその表れだ。
「テメェは弱い、それを自覚しろ。お山の大将の坊主」
「ぐっ、調子に乗んな!」
挑発を受けて跳ねるように立ち上がり、勢い込んで宏壱に向かう。
が、半身を引いた宏壱に足を引っかけられて転ぶ。
「ぐぅっ!?」
「足元に気を付けろ。木の根が出てるぞ?」
「くっ、この!」
立ち上がって反転、宏壱に飛び掛かる。
「おっと、今度は枝だ」
「がっ!?」
短剣を首を傾けて躱し、腕を横に伸ばす。そこに吸い込まれるようにデナガはぶつかり、額を打って落ちる。
「っ!」
起き上がり様に突きを放つ。
「怒り任せだな。自分を抑えられてない」
半身になって躱す。もうグレートソードを使う気もない様子だ。
その行動が更にデナガをむきにさせる。
「っ! っ! っ!」
「どうした? 荒くなってるぞ?」
大降りに振るわれる短剣を紙一重で躱していく。力任せで鋭さの欠けた攻撃は脅威ではない。
宏壱はデナガが動くのを見て躱している。時間にすればコンマ数秒の遅れだ。これはメア、メガベアーと戦ったときとは大きく違う。
メガベアーのときは極限の集中力の中で、筋肉の流動を把握して、メガベアーが動くよりも速く行動してギリギリで躱していた。
今はデナガが動いた後から動いて躱している。謂わば、後出しジャンケンのようなものだ。
「ぜっ……ぜっ……ぜっ……なんで……当たらない……んだ……!」
息を切らせてデナガは膝に手をつく。尋常じゃない汗が全身から流れ出ている。
「簡単な話だろ」
「……はっ……はっ……あ……?」
「分からないのか? 俺がお前より強いってだけだよ。それ以外に理由があるわけないだろ」
「……ぐふっ!?」
宏壱はデナガが認識するよりも速く近付き、右拳を腹部に減り込ませる。吹き飛ばすようなものではなく、衝撃を内部に止めてデナガの意識を奪った。
「……っと、はぁ……これでいいのか、じいさん?」
崩れ落ちたデナガを受け止めた宏壱が観客達の中に混じっているダボに声を掛けた。
「少しやり過ぎじゃと思うが……皆はどう思うかの?」
ダボが周囲の村人達に聞く。
「私は別にいいと思いますよ。強すぎる薬は毒になりますけど、効きの弱い物よりはましかと思います」
「いや、あれは伸び過ぎた鼻を折るってよりは、砕く感じだろ。若い奴を再起不能にされるのは困るぞ」
様々な意見が飛び交う。
子供達は自分達の中で一番強いデナガが、赤子の手を捻るが如く圧倒的実力差で捩じ伏せられたことに唖然としているが、大人達は当然と言わんばかりの反応だ。
「ふむ、賛否あるじゃろうが、コーイチ殿が気にすることではないわい」
「そうか。まぁ、俺も反省する気はないけどな。ちょっとばかし腹は立ってたし」
「すまんのう。デナガは調子に乗りすぎる嫌いがあるんじゃ」
「知ってるよ。この数日、何度絡まれたことか」
宏壱はデナガに幾度となく絡まれたことを思い出して嘆息する。
村の女性に付いて家事を学んでいたメアだが、それ以外では宏壱の後ろを付いて回っていた。
メアは文句なく美少女と言っていい。村の少年達には非常に人気があった。だから、懐かれている宏壱が彼らには気に食わないのだ。それはデナガだけでなく、村の少年の殆んどだ。
そんな理由で宏壱は村の少年達に嫌われている。嫉妬だ。
特に嫌がらせをするわけではないが、何かにつけて宏壱に文句を言うのだ。
「これで終わりだな? 今晩の飯を狩ってこないとな」
「うむ、大きいのを期待しておるぞ」
デナガをダボに預けると、宏壱はひとつの村人の固まりに向かって歩き出す。
彼らは狩人だ。この村ではそれぞれ役割が決まっている。森に自生する食用植物や薬草を採集する者。薪や家を建てる材木を確保する樵夫。鳥獣や魚を狩り、村全体の食料を調達する者。家事は基本的に女性の仕事だが、中には狩りに参加する者もいる。
その背中に声を掛けたダボに、宏壱は背中越しに手をヒラヒラと振って了解の意を示した。
「今日は何処で狩るんだ?」
「ああ、森の奥だ。朝な、そこでデッカイ犬がいてな」
「……犬?」
狩人の1人に声を掛けると、満面の笑みでそんなことを言う。
「ああ! レッドドッグっていうんだが、赤い毛並みの獰猛な奴なんだ。でもな、コイツの股が最高なんだよ!」
「俺は胸肉の方が好きだな」
「バッカ、心臓に決まってんだろ」
犬はレッドドッグだと言った男が嬉しそうに語る。それを皮切りに他の狩人も思い思いに、どこが旨いと言い合う。
ダンジョンの外の魔物は粒子に変わらないことが分かっている。と言っても、レッドドッグは魔獣の部類なのだが。
「どこが旨いかの議論は後にしてください! レッドドッグは危険な魔獣です! 十分に注意していきましょう!」
狩人の纏め役を任されている弓を背負った若い男が好きに喋りだした男達を黙らせ、村の外に向けて足を動かした。
宏壱も男達の後を付いていった。
◇
宏壱とデナガの戦いから5日後、宏壱とメアは村の出入り口にいた。
「世話になった、皆」
「……世話……なった……」
村に振り返った宏壱とメアは、見送りに来ていた村人達に告げる。
今日、2人はラハヤ村を出る。旅に出るのだ。
「寂しくなるのう」
他の村人達よりも一歩前に出ていたダボが言う。声には哀愁が含まれている。
他の村人も涙ぐんでいる。住民が少ない分、彼らの繋がりは強い。外者でも、一度内に招き入れれば家族も同然の扱いをしてくれるのだ。
「俺も離れるのは名残惜しいけどな、世界を回ってみたいんだよ」
村人達に苦笑を向ける。宏壱の偽りのない気持ちだ。
「……うむ、コーイチ殿の性質は分かっておる。こんな寂れた村で骨を埋めるような質ではないことはのう」
「おいおい、自分の村を寂れたとか言うなよ」
ダボのあんまりな言い分に宏壱は呆れた。その後に村人を含めて笑う。メアだけはよく分かっていなさそうだが。
「……」
「……」
「じいさん……デナガのこと、よろしくな」
「……本来ならお主がせねばならんことだと思うのじゃが?」
「逆効果だろ。アイツを折ったのは俺だぞ? 俺が何を言っても嫌みにしか聞こえないだろ」
「……そうじゃな」
宏壱と戦った後、デナガは家の外に出なくなった。
村の大人達を相手にしても、デナガは後れを取ることはなかった。
それが外から流れ着いた冒険者に、手も足も出なかったことが相当な精神的ダメージを与えていて、引きこもってしまったのだ。
調子に乗っていたデナガに、灸を据える程度の感覚だった宏壱と村の大人達だったが、存外に効き過ぎてしまったらしい。
「……はぁ、もういくよ。日が落ちる前に森を抜けたい」
「うむ、そうした方が良いじゃろう。夜になれば、動き出す魔物もおる。ソヤツらは闇に潜み襲撃を仕掛けてくる。お主とメア嬢でも危険じゃろう」
ダボの助言に頷くと、宏壱は「じゃあな」と言って軽く手を降り踵を返して歩き出す。
メアも軽く手を振って「……じゃあ……な……」と宏壱を真似ると、小走りで宏壱の後を追った。
「……ん?」
「……?」
歩いて暫くすると、宏壱とメアは首を傾けて立ち止まる。
風に乗って後ろから呼び止めるような声が聞こえた。
「あれは……デナガか?」
振り返ると、小さくなった村の出入り口が見える。そこにはいまだ2人を見送る村人達と、さっきまで姿を見せなかったデナガがいた。
「絶対、お前より強くなってやるからな!! 待ってやがれ!!!」
大声量で宏壱に届いた声は、紛れもなくデナガのものだった。
宏壱は返事をしないまま踵を返すと、メアに「行くぞ」と言う。
それから、背中越しに手を上げて振り了解の意を示した。
「はん、やってみやがれ。お前が今の俺の域になっている頃には、俺はもっと先に進んでる」
届くはずもない言葉を溢して、宏壱とメアの2人旅は幕を開けた。