赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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諸事情により、非公開になっていました。大変ご迷惑をお掛けしました。
詳しい内容は活動報告の場面でさせていただいています。宜しければそちらをどうぞ。


プロローグ――part3――

 教室に広がった光が晴れる。宏壱達の視界には白一色の世界が広がっていた。

 目に痛いほどの白だ。果てがなく、ただただ白の世界が続く場所。そんなところに宏壱達はいた。

 

 

「なんだ、これ? 何処だよ、此処は!?」

 

 

 勇気が叫ぶ。一人が騒ぎ出せば、皆が釣られるように騒ぎだし、辺りは騒然としだす。

 

 

(音が、返ってこない。何処かの屋内じゃないのか? それに、妙な場所だ。生命の息吹を感じない)

 

 

 声を出せば音が跳ね返る。宏壱はそれを感じようと目を閉じて耳を澄ますが、何時になっても返ってこない。

 それほど壁が遠いということなのだろう。

 

 

――皆様、ようこそおいでくださいました。(わたくし)、勇者派遣組合の者です。

 

 

 騒然とする彼らに話し掛ける声が響く。反響のないこの空間で、響き渡ったその声は澄んでいて穢れのないものだった。

 

 

――ご安心ください。皆様に危害を加えるつもりはございません。

 

「それを確約できますか?」

 

 

 安心させるような言葉に、陵子は震えた声で何とか返す。

 怖くない筈がないのだ。それでも自分は教師で、この場での唯一の大人だと自分を奮い立たせて声を発した。

 

 

――できます。

 

「ならば、姿を見せてください。何処からともなく話し掛けられるのは、良い気がしません」

 

 

 もっともだ。話をし、安全は保証する。なのに姿は見せず、高みから話し掛ける。いい気分のする者はいないだろう。

 

 

――……。

 

「できませんか?」

 

 

 陵子の注文に返さない声。それを畳み掛けるように、陵子は強い口調で追及する。

 相手がなんであろうと引けない。自分の弱気が、生徒の身の安全を左右するかもしれないから。

 

 

――いえ、そうですね。貴女の言う通りです。姿を見せないというのは些か卑怯でした。

 

 

 そう告げると、宏壱達、全員が見える位置で発光が始まる。目に優しい光だ。それはやがて人の輪郭を形成し、絶世の美女の姿をとる。少し薄ぼんやりと光っていることで、妙な神々しさを醸し出していた。

 

 

――これが私の姿です。と言っても、あなた方にどう見えているかは分かりませんが。

 

 

 絶世の美女。一口に言っても表現は多岐に渡る。肌の色、髪色、目の色から始まり、顔立ちや体型、身長、足の太さや腰回り、人の好みの数だけ美人というのは存在する。

 つまりだ、宏壱の視点から見れば彼女は金髪に青色の瞳、胸は大きく背は低め、手足はスラッと長く、腰回りの肉付きは程よい……が、時折髪色が桃色に変わり、目の色が赤く染まる。胸は小さくなり背が伸びる。といった風に、存在が安定しない。髪色も不定期に変わり、髪型やスタイル、顔立ちさえも移り変わる。

 それは宏壱だけだ。勇気の場合はなずなに見え、龍治には金髪碧眼の外国人。

 他のクラスメイトにしても、憧れのモデルや好きなタレント、或いは想いを寄せる女子生徒だった。

 声から判断できるように、性別は女性のためか、女子生徒には憧れている女性に見えるようだ。

 

 

(気が多いのも考えものか。アイツ等と似た姿にころころ変わるが、統一性がないぞ。これは目に痛いな)

 

 

 宏壱には多くの恋人、或いは妻と呼べる存在が三桁単位で存在する。

 要は、見る者にとっての絶世の美女に姿を変えるのだ。

 

 

「それで、これは白昼夢……ですか?」

 

――それを私に聞きますか? 答えは決まっています。紛れもない現実ですよ。あなた方は皆確りと此の場所に立っているのです。

 

「俄には信じられません。このような非現実的な……」

 

 

 生徒は口を開かない。此の場は陵子に任せた方が得策だ、そう知っているから。

 尚も絶世の美女と陵子の話は続く。

 

 

――あなた方が信じようと、信じまいと、此方には関係ありません。私は此方の都合をあなた方に押し付けるだけなのですから。

 

「そんな物言いがありますか! 此のような場所に勝手に連れてきて……! 此方の言い分は聞かない! 何様のつもりです!」

 

――何様と聞かれれば、女神と呼ばれる存在だ、と答えましょう。

 

 

 余りにも勝手で配慮ない言い分に、激昂する陵子だが、絶世の美女は余裕を持って返す。

 

 

「(女神、ね。なら此処は天界ってやつか? 或いは高位次元に存在する世界か? どちらにしろ、逆らうのは得策じゃないな)用件はなんですか?」

 

 

 宏壱は自分達の不利を感じて話を進める。

 

 

――あなたは?

 

「山口君、ここは私に任せてください」

 

 

 陵子は女神の意識が宏壱に向いたことに焦りを覚え、女神と宏壱の間に自分の身体を割り込ませる。

 

 

「先生、大丈夫ですよ。危害は加えないってそう本人が言ってましたから」

 

「此のような場所に連れてこられて、それを信用することはできません」

 

 

 陵子は女神を意識しながら宏壱に身体を向ける。

 

 

「(慎重だな。まぁ、相手の情報もなしに信じろってのが無理があるか)でも、平行線です。話を進めないことには……」

 

「……(この目です。山口君はやはり他の生徒とは違います。彼は何か大きなものを抱えている。こんな不可思議な現象に狼狽えることもないほどの何かを……)」

 

 

 陵子は気づいていた。騒ぐ生徒達の中で、宏壱だけが冷静に周囲を窺っていた。それは普通の男子高校生とは言えない。

 

 

――……っ!?

 

 

 女神は息を呑む。陵子の肩越しに見えた宏壱の鋭い視線が、偶然前髪の隙間から見えたのだ。

 その視線に射貫かれ、女神は寒気を覚えた。宏壱の目は暗にこう伝えていた「危害を加える意思を見せた瞬間……お前を殺す」と。

 それほどの濃密な殺意と殺気が、一秒にも満たない時間で放たれたのだ。

 

 

「分かり、ました。確かに結果が同じなら、ここで時間を掛けるべきではないですね」

 

 

 宏壱の目を見て納得する陵子。何故か安心できるのだ。この青年の言うことに間違いはない、と。

 頭ではなく、心の奥底、生物としての本能が、彼に従うべきだと訴え掛けている。陵子はその直感とも言える本能に従った。

 

 

――話は済んだようですね。……では、今からあなた方にしていただくことを、脳に直接叩き込みます。

 

(脳に直接……って、大丈夫なのか?)

 

 

 宏壱は女神の言葉に不安が過るが、話を進めろと言った手前、ここで水を差すことに躊躇い、結局言わないことにした。

 

 

――少々の痛みはあるでしょうが、心配要りません。

 

 

 女神が言い切った瞬間……。

 

 

「ぐっ!?」

 

「いたっ!」

 

「ああぁぁっ!」

 

 

 同時に生徒達が頭を押さえて悲鳴を上げる。

 痛みに耐えるようにきつく閉じられた瞼の裏に、見たこともない映像が浮かぶ。

 

 複合王都市・マグガレン。

 そこに住まう多くの民達の姿。耳が長い者、背の低い者、獣の耳と尻尾を生やし全身を体毛に覆われた者、肌が青白く米神から角を生やした者、柔肌の代わりに硬質な鱗に覆われたトカゲのような顔の者、背に透き通る二対の羽を生やした掌サイズの小さき者。

 髪色が多彩なものの、自分達と変わらない姿の者達も多く存在した。

 その光景はファンタジーそのものだ。

 

 そして不思議と理解できた。

 耳の長く美麗な者達はエルフ。

 背が低くがっしりとしたがたいの者達はドワーフ。

 獣の耳と尻尾を生やし身体を体毛に覆われた者は獣人族。

 肌が青白く蟀谷から角を生やした者は魔族。

 硬質な鱗に身を覆われた者は竜人族。

 二対の羽を生やした掌サイズの小さき者は妖精族。

 宏壱達と変わらない姿の人族。

 その他にも様々な種族が行き交っている。鬼人族にひとつ目族。岩人族や魚人族。

 複合都市・マグガレンとは、多くの種族が交流を持つ唯一の大都市である。

 

 それらの情報を始め、言語、文字、文化等々多くの知識が脳に刷り込まれていく。

 

 

(少々の痛み……ねぇ? これだけの情報量を一気に叩き込むとか、脳髄が焼き切れるぞ、普通なら)

 

 

 周囲の生徒が痛みで踞る中、宏壱は目を閉じて頭痛の波が通り過ぎるのを待つ。

 長い時の中で、多くの痛みを経験した彼にはどうということはないのだ。

 

 

(この空間が、壊れることを許さないんだな。何らかの術式で気絶することも、頭をパーにすることもできなくしている。地獄だな)

 

 

 瞼の裏に浮かぶ多くの情報を叩き込まれながら、呼び出されたことの発端、核心へと至る。

 

 

――予言は正しいのか?

 

――うむ、世界樹の根本に済むお婆(おばば)の言葉だ。間違いはない。

 

――我らが先祖の故郷、魔界の門が開く、か。

 

――オメェら魔人族が、元々は魔神で人と交わって今の魔人族になったって話か? ありゃ、お伽噺だろ?

 

――一概にそうとも言えん。極稀にだが、巨大な魔力とユニークスキルを持って産まれてくる者もいる。私もその一人だ。

 

――ですが、私共(わたくしども)、妖精族にもそういった者は少数ですが存在します。

 

――人族も変わらぬぞ。まぁ、魔力の面で魔人族に劣ることは認めるが、ユニークスキルは引けを取らぬと思っておる。

 

――議題はそれではない。魔界の門の対処だ。

 

――つってもよぉ。何時、何処でその門は開くんだよ?

 

――……分からん。

 

――はぁ? おいおい、エルフの民ってのは博識で有名だろぉが。予言になくてもよぉ、んぐらいの文献なり、研究論文なりあんじゃねぇのかよ?

 

――……すまない。魔界の門に関する資料は殆んどない。

 

――ふむ、それは仕方あるまい。我ら魔人族にも残ってなどいない。邪神を信仰する教団への対処が名目だ。

 

――はい。邪神は知性のある者の闇を増幅します。生半可な志の者では、研究することさえ危険です。闇に呑み込まれてしまいます。

 

 

 円テーブルを囲む五人の姿。

 豪奢な服を纏い、白髪の頭に王冠を被り、口回りに髭を蓄えた『人族王』ブルセオ・ジェネガン。

 長い金髪をオールバックにした長い耳が特徴のエルフの民の『亜人族王』ロッサ・シュープス。

 オレンジの鬣とスリットの入った金色の目動きを重視した服の上からでも分かるほどの筋肉が自慢、モデルライオンの『獣人族王』ゴーロス・ディケン。

 紺の短髪に青白い肌。蟀谷から生えた角は20cmほど前につき出されている。薄い黒のロープの上からでも分かる豊満な肢体を持つ『魔人族女王』ルーカス・ピフ。

 ピンク色の長い髪をストレートに下ろし、白を基調とした清潔感と儚さを両立させた女性。掌サイズの小さき者達の中で、並みの人間女性と変わらぬ背丈を持つ『妖精族女王』ハサーシャ。

 

 彼らはこの世界、ユースの王達だ。亜人族の王はロッサ・シュープスだけではないのだが、エルフの民の長である彼がエルフ、ドワーフ、鬼人族、ひとつ目族、岩人族、魚人族の代表として選ばれたのである。

 彼らは総数が少ないことから、連合を組み、亜人族と一纏めにして呼ばれている。

 

 嘗ては種族間での諍いが絶えず、多くの命が失われた。

 その諍いの中で勢力的不利を悟ったエルフ、ドワーフ、鬼人族、ひとつ目族、岩人族、魚人族らが手を組んだ名残が亜人連合である。

 

 その諍いを止めたのは各種族の勇気ある者、勇者である。

 絶えない争いに物資の消耗と人民の損耗による飢餓で苦しみ、奪われ、生きることに困り賊に落ちる。悪循環を繰り返した。

 更に弱った村は魔物の格好の餌食となった。

 それを疎んだ若者達が意識改革を行った。それぞれの国で人助けを始めたのだ。

 賊や魔物から村を守り、街を守り、飢餓の改善に努めた。どれ程罵声を浴びても、暴力を振るわれても、恨まず反撃せずを信条に、長く、根気強い努力があった。

 若い命を散らした。大切な友人、恋人を失った。枯れぬ涙を、穴の空いた心を、悲鳴を上げる身体で堪え忍んだ。

 そうして53年に渡る意識改革を経て今の多種族間での交流が出来上がった。その象徴として、多くの種族が住まう都市、複合王都・マグガレンが作られたのだ。それは今から700年前の話である。

 此処、複合都市・マグガレンは各種族の王が集い、会議する場でもある。

 

 

――じゃあどうすんだ? このまま魔界の門が開くのを待って討つか?

 

――危険だ。恐らく瘴気の蔓延と共に世界が滅びることになる。

 

――瘴気……か。草木を枯らし、生物を狂気に落とし、太陽を陰らせる。陰気な世界じゃのう。

 

――想像したくありませんね。私共、妖精族は生命の息吹によって生まれ、その命を育みます。瘴気ある世界で、私共は生きられません。

 

――それは我らエルフも同じだ。我らエルフは森と共に生きる種族、森がなくなれば我らも共に潰えるしかない。

 

――だが、どうする? 対策は賢者殿から聞いていないのか?

 

――聞いている。

 

――それを早く言えってんだ。対策できんなら、大掛かりなことしなくても良いじゃねぇか。

 

――……勇者召喚、ですね?

 

――私の心を覗いたか、ハサーシャ。

 

――いかんぞ! 勇者召喚は禁術だ!

 

――私も反対だ。己の世界ぐらい、己らで救える。他力本願は好まない。

 

――……あれか、瘴気か?

 

――流石だ、ゴーロス。我々では瘴気に耐えられない。加護を与えられた勇者でなければ……というのがお婆の話だ。

 

――ぬぅ。しかし、勇者召喚は拉致も同然。若い少年少女を強制的に呼び出すものだと言うではないか。そのような身勝手が許されるのか?

 

――許しを請う必要なんざねぇよ。オレらはどっしり構えて、最大の援助を呼び出したガキ共にすりゃあいい。んで、無事に返す。

 

――ふむ、では呼び出す方向で問題ないな?

 

――おう!

 

――はい。

 

――ぬぅ、仕方あるまい。

 

――はぁ……私が駄々をこねても決定は覆らない、か。代替え案もない。心苦しくはあるが、それでいこう。

 

――決まりだな。では、勇者派遣組合への問い合わせを……。

 

 

 そうして彼らの会談は止まることなく進められた。




――キャラクター紹介――

――勇者派遣組合――

女神

召喚される勇者に対しての説明役。
絶世の美女。
見た者が思う美人に姿を変える思念の存在。
気が多い宏壱には、色々な女性の寄せ集めに見えて目の毒だった。

――異世界・ユース――

『人族王』ブルセオ・ジェネガン

ジェネガン王国12代目。
髭を蓄えた73歳のお爺ちゃんで昔は冒険者だった。



『亜人族王』ロッサ・シュープス

エルフの長。
弓の名手で200年生きる壮年の男性。エルフの寿命は約400年。ロッサはまだ折り返し地点。



『獣人族王』ゴーロス・ディケン

ライオン顔の王。身長は2mに達する。
獣人族最強の男。粗暴で乱暴な口調だが、頭の回転が速い。



『魔人族女王』ルーカス・ピフ

魔人族を束ねる300年を生きる女王。
巨大な魔力とユニークスキルと呼ばれる固有能力を持っている。
魔人族の寿命は2000年と言われている。寿命が長い分子供ができにくい。



『妖精族女王』ハサーシャ

人族台の女王。
ルーカス同様巨大な魔力を保持する女王。その影響で人族並みの大きさになった。
妖精族に寿命の概念はない。ハサーシャは2456歳。
種族間での諍いを止めた勇者でもある。因みに彼女を含めて二人の生き残りがいる。
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