赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第三十七鬼

 翌日の昼過ぎ、宏壱とメアの姿はグレートソードを預けた武器屋にあった。

 

 

「ほら、これだ」

 

 

 そう言って店主のドワーフの男性がカウンターに鈍色の直剣を置く。

 刃毀れが多く、亀裂も走っていた刀身は見事に修復されていた。

 

 

「おー、直ってる⋯⋯だけじゃないな。少し重い、か? 厚みと輝きが違うようにも感じるな」

 

「手入れはしねぇクセに、んなことは分かるのか? ちょっとの差なんだがな、“魔石”を刷り込んだことで頑丈になってるんだよ。まぁ、やらないよりはましってだけだ」

 

 

 右手にグレートソードを持って眺めて感想を言う宏壱に、呆れた視線を飛ばす武器屋の店主。

 

 

「【鑑定】は持ってないが、目利きに自信はある。これでも、いろいろ経験しててな」

 

「ならその経験とやらでしっかり武器の手入れをしてくれ」

 

「はっはっはっ」

 

 

 笑って誤魔化す宏壱に呆れた視線を濃くする。

 

 

「で、幾らだ?」

 

「はぁ⋯⋯5金貨と28銀貨だ」

 

「ああ、分かった。⋯⋯はいよ」

 

「丁度だな。たしかに受け取った」

 

 

 露骨な話の逸らしかたに深く溜め息を溢す店主だが、言っても仕方ないと金額を呈示した。宏壱はは告げられた金額をカウンターの上に置く。それを店主は受け取った。

 

 

「それじゃ、ありがとな。⋯⋯メア、帰るぞ」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 興味深気に壁に掛けてある戦斧を見ていたメアに声を掛ける。物欲し気な視線を向けられた宏壱だが、首を横に振って「ダメだ」と言葉にする。

 

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 

 宏壱の許しが出ず、肩を落としたメアがとぼとぼと歩いてくる。

 

 

「なんだ? それくらい買ってやればいいじゃねぇか」

 

「おいおい、バカ言うなよ。30金貨もするんだぞ? 買えるわけないだろ」

 

 

 真剣な顔で店主に返した宏壱は「それに」と続けて⋯⋯。

 

 

「あれがメアの力に耐えられるとも思えないしな」

 

 

 と苦笑して言った。

 

 

「ほぉう? 嬢ちゃんはそんなにスゲェのか? 見た目じゃそうは思えねぇが。レベルさえあればガキでも大の大人に勝てるんだ。嬢ちゃんのSTRが、バトルアックスの耐久力を上回っていても不思議じゃないか」

 

「理解が早くて助かるよ。じゃ、今度こそ」

 

「まぁ、待て。いい話があるんだが、聞くか?」

 

 

 店主は背を向けて足を進めた宏壱に声を掛ける。

 

 

「いい話? 怪しいことじゃないよな?」

 

「俺がそんな話をするか! 武器の話だ!」

 

「分かった分かった。そう怒鳴るな。⋯⋯んで? いい話ってのは?」

 

 

 宏壱の茶化すような言葉に唾を飛ばしてがなり立てる店主を宥めて、話を促す。

 

 

「はぁ⋯⋯いいか? ここ、グスピカルからずっと東に行ったところにロドーって街があるんだ。たしか、みっつの宿村とふたつの山を越えないと行けねぇはずだ。歩きだと32日、馬車でも15日は掛かる」

 

「遠いな。その街に何があるんだ?」

 

「ダンジョンだ。エレピカダンジョンって呼ばれてるんだがな。そのエレピカダンジョンの第4ダンジョンの奥の方にミノタウロスが出るんだよ」

 

 

 ミノタウロスとは闘牛の頭を持つ大柄の怪物だ。二足歩行し、大斧を振り回す。パワーが強く、一撃で大地を砕くと言われている。

 相当な高レベルの魔物で、レベル70の冒険者が5人で連携してやっと倒せるのだ。ソロで挑むのは、Aランク以上の冒険者以外では無謀とさえ言われている。

 

 

「おいおい、高レベルの魔物だろ、それ。たしか、100近いんじゃなかったのか?」

 

「安心しろ。エレピカダンジョンは中堅冒険者がいくような場所だ。序盤からレベルの高い魔物が出る。そこに辿り着くまでにはお前も強くなってるぜ」

 

「そういう問題か? まぁ、いいや。で? そのミノタウロスがどうした?」

 

 

 安心しろ、その言葉が一切信用できない宏壱だが、細かいことは脇に置いておき、話を進める。

 

 

「そのミノタウロスは稀に斧を落とすらしい」

 

「⋯⋯斧、か。でもさ、たしか魔物の落とす武器って脆いんじゃなかったか? アンタらみたいな鍛冶士の打ったやつの方がいいって聞いたんだが」

 

 

 聞いたとは言っても、マグガレン城の書庫に保管されていた文献で読み知っただけだが。

 

 

「ああ、それは事実だな。魔物が落とした武器、防具はグレードが落ちる。同じ物でも、俺達が一から打った物の方が強い。ダンジョンに入った奴が落とした物を使ってるからだって話だ。まぁ、それは置いといてだな。ミノタウロスが落とす武器、錆びたグレートアックスだが、こいつを鍛冶屋に持っていって、50個の“魔石”を使って強化してもらえ。そうすれば、Aランクの冒険者が使ってる武器並みに強くなる。それなら嬢ちゃんでも使えるんじゃないか?」

 

 

 店主の言葉に「なるほど」と頷く宏壱だが、STR が10000を超えるメアが扱える代物なのかは疑問である。

 しかし、物は試しという言葉もあるように、やってみなければ分からない。

 

 

「そうだな。情報の提供ありがとう、ロドーにいって試してみるよ。それじゃ、今度こそ」

 

「おう、また機会があったら寄ってくれ!」

 

 

 快活な店主の声を背に、宏壱とメアは武器屋を出た。

 

 ◇

 

 グレートソードを受け取り、グレートアックスの話を武器屋の店主に聞いてから数日、幾つか街中で簡単なギルドの依頼(臨時のウェイター──メアはウェイトレス──や荷物運び、ペットの散歩、幼児の子守りなど)をこなした宏壱とメアは、既にグスピカルを出立する準備を終えていた。

 

 

「忘れ物はないな?」

 

「⋯⋯ん、ない⋯⋯」

 

「よし、じゃあいくぞ」

 

 

 頷いたメアの頭を撫で、宏壱はメアと一緒に借りていた部屋を出る。すると⋯⋯。

 

 

「あれ? 旦那じゃねぇか。どうしたんだ?」

 

 

 声を掛ける者がいた。ゴザムだ。

 

 

「ん? ああ、ゴザムか。そういえば、宿一緒だったんだっけ。今まで会わなかったのが不思議だな」

 

「あー、まぁ、冒険者は生活のサイクルが違うからな。そんなこともあるって」

 

「そうか。他の2人はどうしたんだ?」

 

「まだ寝てる。昨日は仕事が長引いてな。大したことはねぇんだけど、逃げたペットを捕まえるってやつだ」

 

 

 本来は効率的に魔物を退治するために発足された組織なのだが、何でも屋の側面が強くなってしまっている。宏壱が受けた依頼も、ゴザム達が受けた依頼も、民衆の意識がそういった方面に向いているからこそである。

 

 

「それはご苦労様だな」

 

「ああ。んで、話は逸れたが、旦那と嬢ちゃんは今から仕事か?」

 

 

 ゴザムの問いに宏壱は首を横に振った。

 

 

「いや、そうと言えばそうなんだけどな。⋯⋯グスピカルを出ようと思ってな」

 

「⋯⋯そうなのか? また一緒に仕事したかったんだけどな。でも、出ていくのに仕事ってことは護衛依頼か?」

 

 

 宏壱は前日にギルドでひとつ、依頼を受けていた。護衛依頼である。

 依頼内容はグスピカルからロドーまでの荷馬車と行商人の護衛だ。一家で旅をしながら商いをしているらしく、専属でずっと護衛兵を雇う金はない。

 宏壱がそこまで詳しく依頼主から聞いたわけではなく、依頼書にそう書かれていたのである。本来はそこまで内情をさらす必要はないのだが。

 

 

「ああ、丁度ロドーまでいく行商人の護衛依頼があってな」

 

「ロドー? あそこにいくのか?」

 

「ん? ゴザムはいったことあるのか?」

 

 

 ゴザムの知った風な口ぶりに宏壱が聞く。

 

 

「まぁな。いいとこだぜ、魚が旨いんだ」

 

「ほう、魚か。近くに川でもあるのか?」

 

「ああ。エレピカダンジョンのことは知ってるか?」

 

「武器屋の親父に聞いた。そもそも目的はそのダンジョンだしな」

 

「そうかい。まぁ、そのエレピカダンジョンはな湖のど真ん中にある孤島でよ。みっつの小ダンジョンの中心に第4ダンジョンがあるんだよ。あ、全部孤島な。その湖の傍にロドーはあるんだ。そこから街中に水を引いてるから、一部じゃ水都市ロドーなんて呼び方もするんだ」

 

「へぇ、水都市ね。情報ありがとよ、ゴザム」

 

 

 宏壱の礼の言葉を聞いて照れ臭そうに後頭部をポリポリと掻き、「ま、まぁ、これくらいはな」と視線を宏壱から逸らして言った。

 

 

「それじゃ、俺達はもういくな」

 

「ライクとセロルには⋯⋯」

 

「起こすのも悪いし、お前から言っといてくれ」

 

 

「分かった、伝えとく」と頷いたゴザムに、「じゃあな」と背を向けてメアと一緒に歩き出し、階段を下りる宏壱。

 

 

「もう出ていくのかい?」

 

 

 一階に下りると、いつものように受付カウンターに座っている宿屋の女店主が声を掛けてくる。

 

 

「ああ、世話になった。ここはいい宿だったよ」

 

「世辞はいいさね。アンタらの旅の無事をダクテマ様にでも祈ってるよ」

 

 

 ダクテマ神とはこの世界に伝えられている旅と武の神だ。当然この世界、ユースにも神々が存在し、遥か昔にあったとされる神話の時代が文献で残されている。

 長寿の種族が多いこの世界では、実際に神と対面した者が詳しく言い伝えた伝承があり、超常の存在は実在した⋯⋯実在すると強く信じられている。

 実際にその神が奉られている神殿にいき、恩恵を受けることができれば、○○神の加護という称号が与えられる。

 女店主が口にしたダクテマ神であれば、良好な旅、土地土地による気風に左右され辛く、粗悪な馬車でもある程度揺れが緩和され、STR200が加算される。

 簡単に言えば、乗り物酔いが緩和され力が強くなる、そういう恩恵である。

 宗教に関しては厳しいことはなく、ダクテマ神の加護を受けているからといって他の神の加護を受けられないことはなく、重複は十分に可能だ。

 

 女店主の見送りを背に、宏壱とメアは宿屋を出る。

 ギルドには既に護衛依頼の受理をしているため、グスピカルを離れることを伝える必要はない。

 そのままの足で、2人はグスピカルの東門に進んだ。

 

 

「よし、通っていいぞ」

 

「どうも」

 

 

 門番の許可を得て門を潜る。

 門を出ると、幾つかの人の塊がある。宏壱が受けた依頼と同じような商隊、行商人だろう。身なりのいい者、村人風の者、格好は様々で雇う冒険者の数もまちまちだ。私兵を保有している者もいるらしく、装備が統一された護衛を連れている商人もいた。

 

 因みに、乗り合い馬車という物があるが、それはグスピカル内に停留所があり、そこで乗車するので馬車のまま通過することになる。

 

 

「⋯⋯あれか?」

 

 

 辺りを見渡した宏壱は、一際小さな集団を見付けた。

 年若い男女と2人の幼子、革鎧を纏う赤髪の女性が1人に白い毛並みを持つ狼獣人の男、そして10歳前後と見られる小柄な少女。少女には不釣り合いに巨大な木槌を背負っている。

 

 宏壱はポーチから依頼書を取りだ出し、護衛対象を見る。

 

 

「荷馬車一台に、夫婦っぽい一組の男女と子供2人、冒険者風の奴が3人⋯⋯あれで間違いなさそうだな」

 

 

 今回の依頼には人数が指定されている。指定数は5人。宏壱、メアを彼ら3人に加えて5人となる。

 指定人数を越えるようであれば、依頼を受理されないので指定の人数と違うなどというトラブルが起こることはない。

 

 確認を終えた宏壱はメアを連れて近付いていく。

 

 

「行商人のレガリってのはアンタでいいのか?」

 

「あ、はい、そうです。えっと、あなたが護衛依頼を受けてくれた冒険者さん、ですか?」

 

 

 宏壱が商人風の男に声を掛けると、男は少しおどおどとして答えた。

 

 

「ああ。Eランク冒険者の宏壱と、こっちがメアだ」

 

 

 宏壱はメアの頭に手を置いて紹介する。

 恙無く宏壱とメアは彼らと自己紹介を済ませ、グスピカル東門をたった。

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