赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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プロローグ――part4――

 頭の痛みが引いていく。宏壱はそう感じていた。

 

 

(便利な力だが、この痛みはどうにかならんのかね)

 

 

 宏壱はまだ少し痛む蟀谷を押さえて苦い顔をする。

 

 

――理由は分かっていただけましたでしょうか?

 

「何故、私達なのですか……っ?」

 

 

 先程の阿鼻叫喚などなかったかのようにしれっと言い放つ女神を、陵子は恨みがましく睨み付けながら問う。

 

 

――資格がある者が多いからです。

 

 

 即答だった。初めから用意されていた答えなのだろう。

 

 

「資格……?」

 

――勇者の資格です。見た筈ですよ。あなた方が行く世界を。

 

「つまり、僕達が勇者としてその世界、ユースに行くってことですか? 強制的に」

 

――そうなります。

 

 

 戸惑う陵子に代わって宏壱が問うと、女神は満足気に頷いて肯定した。

 

 

「ま、待ってくれ! 俺達はそんな戦えるような力なんてないぞ!」

 

 

 勇気が声を荒らげる。

 当然だ。彼らはただの学生。戦う力などありはしない。

 

 

――問題ありません。あなた方の戦う力は此方でご用意させていただきます。

 

「用意、ですか?」

 

 

 気を持ち直した陵子が疑問符を頭に浮かべて首を傾げる。

 

 

――当然、私共もあなた方に死んで欲しい訳ではありません。相応の力を与えさせていただきます。

 

「……なるほど、悪魔の類いかと思いましたが、違うようですね(その力とやらも信用できるかどうか、疑問ではありますが)」

 

――……あなたは相当疑り深いようですね。

 

「まともな思考を持つ者なら当然の見解です」

 

――……なるほど。生徒のため、ですか。教育者としてよい姿勢です。

 

「あなたに誉められても嬉しくありませんね」

 

 

 陵子と女神の相性は最悪と言って良いだろう。

 言ってしまえば、拐われた側と拐った側。良くも悪くも、普通の感性を持つ陵子ならば、仲良くなることなど考えられないだろう。

 

 

(みんな居心地悪そうだなぁ。……っと、あっちか?)

 

 

 そうしたピリピリとした空気を放つ陵子を意識の端で捉えながら、 宏壱は先程から感じる視線の元を辿っていた。

 

 

(勇者召喚組合とか言ってたっけ。順当に考えるなら、女神とやらの上司ってとこか。まぁ、静観を決め込んで手を出してくる気配もないし、放置だな)

 

 

 何処までも白い世界。果てなど見えない遠くを見つめて宏壱は肩を竦める。

 幾度か導きだした結論、様子見に徹することを決めたらしい。

 

 

――では、皆さま目を閉じてください。

 

「目を……?」

 

――はい、そうすれば力が目覚めます。この場に呼び出す際に、皆様の魂に力の種を植えさせていただきました。既に発芽している筈です。先程、知識を脳に刻み込む際に、発芽のための栄養素を同時に注入しましたから。

 

 

 女神の言葉の意味を把握しきれず戸惑う陵子と生徒達。

 宏壱だけは女神の言葉に従い目を閉じる。……が、数秒して首を傾げた。

 

 

(何にも感じないぞ……? 騙す、意味はないし……ぅん? どうなってんだ?)

 

 

 宏壱が一人首を傾げる中……、

 

 

「うわっ、何だこれっ!?」

 

 

 勇気が叫ぶのを皮切りに、生徒達の驚く声が上がっていく。それは陵子も例外ではなかった。

 彼等、彼女等の眼前には白い光、黒い光が靄のように漂っている。

 

 

「んだ、こりゃ?」

 

 

 戸惑いを浮かべる周囲を尻目に、龍治は黒い靄に手を伸ばして触れる。

 指先が触れた瞬間、黒い靄は龍治の指に絡み付き、形を整えるように輪郭を形成していく。

 

 

「うおっ! 何かすげぇっ」

 

 

 黒い靄が晴れると、龍治の手には一本の斧が握られていた。光沢を放つ木製の黒い1mはある柄に、光を吸い込むような漆黒の幅広で重量感ある刃。

 超重量の両手斧を、龍治は苦もなく片手で掲げていた。

 

 その成り行きを見守っていた生徒達は、自分もとそれぞれの眼前にある白い、或いは黒い靄に手を伸ばしていく。

 

 

「勇気の何だよそれ、聖剣みたいじゃんか!」

 

「敦のも何か仰々しい弓だな」

 

 

 勇気の手には潔癖なほどに白い刃を持つ両刃の剣。敦の手には全長が2mに達するほどの白い大きな弓が握られていた。

 

 

「なずなは……杖?」

 

 

 秋穂が盛り上がる勇気と敦を横目に、なずなに話し掛ける。

 彼女の手には金属製の白い杖が握られている。約70cmほどの長さで、上部には汚れのない白色透明の宝石が嵌め込まれている。

 秋穂は抱き締めるように両腕で分厚い本を抱えていた。

 

 

「秋穂ちゃんのは……何だか黒い本だね」

 

「ええ、魔導書のようね」

 

「分かるの?」

 

「なずなも分かるんじゃない? その杖の使い方とか」

 

「うん、知識としてあるって感じかな?」

 

「私も似たようなものよ」

 

「そっか」

 

 

 各所で生徒達が自分の手にする武具を互いの友人に見せ合っている。

 剣や斧、弓、杖、書物だけではなく、槍、棒、盾、鞭、占い師が使うような水晶を持つ生徒もいる。だが、多いのは剣を持つ生徒だ。

 両刃、片刃、両手、片手、中には二本の剣を持つ生徒もいる。

 しかし、全てが違う。色は白か黒だが、装飾や刃の反り具合、長さ、厚み、どれをとっても同じものはない。

 

 

「何か体に力が入るよな~」

 

「そうそう、俺も思ってた。今なら50m走5秒台余裕じゃね? みたいな」

 

「リンゴとか握り潰せそう」

 

 

 妙な昂りを生徒達は感じていた。全身に力が漲り何でもできそうな感覚だった。

 

 

「……」

 

 

 しかし、そんな生徒達の中で一人、何も手に持たない人物がいた。

 

 

「あの~」

 

 

 その人物、宏壱が遠慮気味に右手を挙げる。

 

 

――はい?

 

 

 その場の全員の視線が宏壱に集中する。

 

 

「俺、何にもないんですけど……」

 

 

 思わず一人称を“僕”と言い換えるのを忘れるほどの動揺だった。

 新たな力の存在に胸を密かに躍らせていただけに、その動揺は相当なものだった。

 

 

――……そうですね。暫くお待ちください。

 

「資格がないんじゃないの~? 勇者の資格がさぁ」

 

 

 女神が宏壱の言葉を受けて蟀谷に人差し指と中指をそっと添えて目を閉じる。

 その間を埋めるように茶髪の男子生徒がケラケラと嗤い、宏壱に声を掛けた。

 

 龍治、秀次、浩司のサンジではない。

 谷村 誠也(たにむら せいや)。浩司のように髪を伸ばして茶色に染めた、線の細い男子生徒だ。

 彼の顔には宏壱を嘲るような色が見える。

 

 

「見てよ、これ。槍だよ、や・り。俺的にはもっと装飾のある豪華な剣の方が良かったんだけどさぁ」

 

 

 と、これ見よがしに右手に持つ漆黒の槍を見せ付けてくる。

 金属製で統一されていて、120cmの柄から穂先に行くに連れて柄が二股に分かれ、捻れるように交じり合い先端までいく。穂はドリルのようになっていた。

 全長で145cmといったところだろう。

 

 

「やめなよ、誠也。山口くんかわいそーじゃん」

 

 

 誠也の肩を叩いて宏壱に向いている意識を自分に向けた少女、船間 可奈(ふなま かな)が呆れたように言う。

 背中半ばまで伸ばして茶色に染めた髪を毛先でカールさせ、肌は日に焼いて小麦色だ。

 少し化粧っ気の多い顔だが、それでも尚綺麗さが目立つ。

 日本は冬真っ盛りで寒い。それはストーブを炊いていても教室の中全体は中々温まらない。そんな寒い中でも彼女はワイシャツを第三ボタンまで開け、豊かな小麦色の胸の谷間を見せ付けている。本人としては少し窮屈らしい。

 

 そんな可奈と誠也は彼氏彼女の関係だ。過去に浩司と関係があったらしいが、彼の名誉のために省略する。

 

 

「何? 可奈って山口くんの肩を持つ気?」

 

「何でそうなるかなぁ。そんなの放っといてさ、ほら、あたしのは剣だよ。何か短いけど」

 

 

 可奈が持つのは刃渡り80cmの片刃の剣、と言うよりも、刀だった。白い刃とドスのような白い木製の持ち手、鞘もあり材質は持ち手と同じだ。

 服によっては、懐に忍ばせておくことも可能だろう。

 

 

「へぇ~、格好いいじゃん。持たせてよ」

 

「いいよ、はい」

 

 

 誠也は可奈の持つドスに興味を持ち、貸して欲しいと願い出た。

 可奈は誠也の興味を自分に引けたことに、気付かれないようにほっと息を吐く。その過程で宏壱と目が合った。と言っても長い前髪と瓶底眼鏡のコンボで宏壱の視線を窺い知ることはできないが。

 一瞬、可奈はウィンクを宏壱に飛ばす。

 深い谷間が見える胸元と、ギャル系のメイク、高校生とは思えない女性として大人びた顔立ちが合わさり、その破壊力は倍増する。

 さしもの宏壱も、少しばかりその愛らしさに心を奪われる。

 

 

「へー、軽いね。それに何だか振り回しやすいし……でも持ち難いな」

 

「そう? あたしは手に馴染んだけど」

 

「俺はこの槍の方がいいや。……わっ!? な、何だ? 消えたぞ?」

 

 

 誠也が可奈から受け取ったドスを振り回して感触を確かめること2分きっかり。ドスは光を纏い消失した。

 

 

「えぇ!? あたしの武器がっ!」

 

――心配ご無用です。

 

 

 慌てる可奈に女神が安心させるように笑い掛ける。

 

 

「で、でも」

 

――もう一度、さっきと同じように目を閉じてください。

 

「え、……あ、出てきた」

 

 

 女神の言葉通りにすると、可奈の手には消えたドスと同じものが出てきた。

 

 

――あなた方が持つそれらを総称で聖剣、魔剣と呼びます。聖剣、魔剣はあなた方の魂に刻まれた力です。謂わばそれらはあなた方の魂の一部。だからこそあなた方の手によく馴染むのです。そして、扱えるのもあなた方だけです。聖剣、魔剣は主であるあなた方から2分離れると霧散して、あなた方の魂へと還っていきます。ですが、ご安心を……それは消えたのではなく、還っただけで、何度でも呼び出せますし、還せます。

 

 

 そこで女神は一拍おき、続ける。

 

 

――先程馴染んでいる。扱えるのもあなた方だけ。そう言いましたが、鍛練は怠らないでください。あなた方の身近なところで言えば、聖剣レベル1のようなもので、訓練しなければ強くなれません。それは恐らくあちらでサポートしてくれるでしょう。

 

「えーっと、そこら辺は分かりました。でも、山口君の聖剣? とか、魔剣? って言うのがないのは……?」

 

 

 気になっていたのか、勇気が逸るように女神に尋ねる。

 

 

――必要がないから、ですね。

 

『え?』

 

 

 女神の思ってもいない言葉に、陵子と生徒達の声が重なる。

 

 

――付け加えておきますが、勇者の資格がない。そんな話ではありませんよ。この意味、あなたなら分かりますよね。

 

「……」

 

 

 前髪と瓶底眼鏡で隠された極限までに研ぎ澄まされた鋭い眼光。女神はその奥底の深意を覗こうとするかのように目を見据えて言う。

 

 

「……何の話か分かりません」

 

――そうですか。

 

 

 短い遣り取りで女神は宏壱から視線を逸らす。宏壱の言葉を信じた訳ではない。宏壱のすっ惚けを見抜いた上で、詮索をする意味がないと諦めたのだ。

 

 

――では、時間も差し迫っています。そろそろ――「待ってください」――……何でしょう?

 

 

 送ります。そう続けようとした女神の言葉を遮り、陵子が前に出る。

 

 

「その世界を救う義務は私達にあるのでしょうか?」

 

――……。

 

「なっ!? 先生! 困っている人が――「ちょっと黙ってて」――……秋穂、何で……っ」

 

 

 陵子の言葉に女神ではなく、勇気が反応した。だがそれを秋穂が止める。

 

 

「困ってるんだったら……っ」

 

「いいから黙っていなさい。大事な話なのよ」

 

 

 尚も反論する勇気を秋穂は冷たい眼差しと言の刃で沈黙させた。

 

 

「先程の映像で異形の存在を見ました。刷り込まれた知識には、ダンジョンなるものが存在するとありました。極めつけは魔神です。文献資料が乏しく、知る者も少ない。どう対策を立てれば良いのです? それに、私達は帰れるのですか?」

 

――対策は彼方に行ってから考えてください。帰還はできます。魔神の討伐、若しくは無力化が確認された段階であなた方の送還準備を行います。

 

「戦いを望まない生徒を還すことはできませんか? 荒事を嫌う生徒もいるのです」

 

 

 送還の言葉を聞いて陵子は、幹好を始めとした大人しい生徒達に視線をやる。

 

 

――その提案は受け付けられません。

 

「っ! 何故です!? 望まぬ生徒を資格があるからと――既に時間は動いているのです――……じ、かん……?」

 

 

 突っ撥ねた女神に何度目かの激昂を見せる陵子。更に女神は続ける。

 

 

――はい。あなた方が消えて学校はパニック状態です。ご家族のクレーム、警察の捜査、メディアの報道。全て動き出しています。そんな中で数人の生徒を戻してしまうと……。

 

「……っ!」

 

 

 女神は言葉尻を濁したが、陵子にはその先が容易に予測できた。

 警察からの事情聴取。メディアの取材。他家族からの詰問。その他の様々なものの矢面に立たされるのは還ってきた彼等だ。

 生徒思いの陵子にはそんな立場に自分の教え子を追いやることなどできない。

 

 

――ですが、全員でユースに渡り魔神の討伐、若しくは無力化が確認された段階であなた方の送還準備を行います。勿論、あなた方がユースへ行く前の時間に、です。

 

「……脅し、ですかっ」

 

 

 陵子は女神を直視できず視線を落とす。

 俯けた視線の先には、与えられた力である直剣があった。白い刃の中心を芯が通るような一本の赤いラインがあり、カッターナイフのような線が等間隔で付いていた。

 

 陵子はギリッと強く歯を噛み締める。一人の生徒も還してやれない自分の無力さが悔しいのだ。

 直剣を握る手にも力が入る。

 

 

――そうは言いません……が選択権があると思いましたか?

 

 

 女神のその言葉は陵子の神経を逆撫でした。

 

 

「……っ!」

 

 

 バッと上げられた陵子の瞳には強烈な怒りの色があり、冷静さが欠如しているのは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

「っつぁ!」

 

 

 彼女が生きた32年間で初めてであろう裂帛の気合い。

 力任せに横凪ぎに振るわれた直剣。しかし、陵子と女神の距離は3mはある。陵子の直剣では届きようもない。

 

 ガガガガッ!!

 

 だが、横凪ぎに振るわれた過程で、等間隔に入れられた線が割れて直剣が伸びた。

 刃と刃の間には伸縮自在の金属繊維ワイヤーが幾本も繋がっている。

 所謂蛇腹剣である。

 蛇腹剣は三日月のように(しな)り、届かないはずの距離を潰して女神に襲い掛かる。

 

 

――はぁ、感情に任せて剣を振るうとは……愚かですね。

 

 

 呟く女神は視界の端に蛇腹剣を捉えながらも動かない。そして……。

 

 ザンッ!

 

 女神の上半身と下半身を抵抗もなく斬り裂き、分断した。

 

 

「ぁ……」

 

 

 陵子の口から間の抜けた声が漏れる。

 相手は女神だという超常の存在。避けるか防ぐかするだろう。冷静さを欠きながらも陵子は思考の片隅でそう思っていた。

 だが、予想に反してそれはなされず、女神は陵子の蛇腹剣をその身に受けて上半身と下半身を泣き別れした。

 

 シャキン。

 

 静寂に支配された空間に蛇腹剣が元の直剣に戻る音だけが響いた。

 

 

「なっ、あっ、せ、先生! 何てことをっ!」

 

「……っ!? わたっ、私が殺し、た?」

 

 

 余りの出来事に言葉を失った生徒達の中で、勇気が誰よりも早く我を取り戻し陵子に叱責の言葉を飛ばす。

 それで我に返った陵子は自分のしたことを認識する。

 

 

(突発的な殺人ってのはこういう時に起こるのかねぇ? まぁ、殺せる訳ないけどな、あんな存在。正直、俺でも殺せる自信はない。殺されもしないけどな)

 

 

 身体を震わせる陵子を視界に入れながらも、宏壱は意識を女神に向ける。

 

 

――それが命を奪う感触です。

 

「……え、へ?」

 

 

 切断された筈の女神が声を掛ける。女神の姿は既にない。切断された上半身と下半身は光の粒子となり消えたのだ。

 そもそもの話、女神は肉体を持っていない。今、宏壱達の眼前にいる存在は、エネルギーの塊にすぎないのだ。

 

 

――生徒を守るというのなら、その覚悟を強く持つことです。では、御武運を……。

 

 

 女神が言い切ると、宏壱達全員が納まるように大きな陣が展開される。

 

 

(おいおい、強引過ぎるだろ! 先生へのフォローなしかよ!)

 

 

 余りの急な展開に放心する陵子と生徒達。宏壱は心の中で女神の粗雑な対応に文句を呈した。

 

 そして陣が光り輝き、宏壱達を異世界・ユースへと飛ばすのだった。




――キャラクター紹介――


谷村 誠也(たにむら せいや)

身長:172cm

体重:57kg

浩司以上のチャラ男で密に宏壱を見下している。可奈とは恋人関係。実は宏壱と同じ中学校出身。


船間 可奈(ふなま かな)

身長:163cm

体重:42kg

B:89 W:58 H:80

誠也と恋人関係のギャル。



プロローグはこれで終了となります。
転移ぐらいささっとできないのか? 自分でそう思うくらい進みが遅いですね。簡潔に話をまとめる技量がほしいです。
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