赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第五十三鬼

──ォォォッ!

 

 

 前方から雄叫びが聞こえる。森を背に、3m強はあるであろうひとつ目の大男が吠えていた。

 木をへし折り、枝葉を強引に取り除いて棍棒に見立てた武器を持っている。太さは成人男性の胴ほどある。

 周りを円を描く森に囲われ、中心に大樹があるその開けた場所は、エレピカ第4ダンジョン最深部──ダンジョンコアの間である。

 

 

「さぁ、掛かってこい。ダンジョンコアを守るんだろ?」

 

 

 静かに呟く黒髪の青年が一人、左手に直剣を携えてひとつ目の大男──サイクロプスを待ち構えている。

 青年──宏壱は、大樹を守るように両腕を広げた。右腕は包帯で巻かれていて、どうも左右でバランスが悪い。

 その理由は一目瞭然で、右腕の手首から先がないからだ。

 宏壱はそんなことに見向きもせず、エレピカダンジョンでもっとも強力な魔物だというサイクロプスを待ち、振り下ろされる棍棒にグレートソードを合わせていなす。

 

 

「【雷神槍】!」

 

 

 右手首の先に雷の槍が発生し、宏壱の腕振りの動作と同時に射出された。

 

 

──アアッ!

 

「チッ、外したかっ!」

 

 

 サイクロプスの大きなひとつ目を狙ったそれはしかし、僅かに逸れて右頬を雷撃で軽く焼く程度にとどまった。

 舌打ちした宏壱は、素早く二歩下がって横薙ぎに振るわれた棍棒を躱す。

 

 剛力で振るわれた棍棒の風圧で前髪が踊る。

 宏壱は棍棒が過ぎ去るのも待たず、一足で懐に飛び込み、右肩から掬い上げるような体当たりをサイクロプスの腹部に決めた。

 その衝撃は凄まじく、サイクロプスの巨体を数cm浮き上がらさせた。

 

 

「強烈だろ?」

 

 

 そう呟くと同時に、右肘を跳ね上げて腹部を打たれた衝撃で俯いていた鼻っ面に激烈な一撃を叩き込んだ。

 タン、と軽快な音を響かせて跳び上がって身体を捻り、サイクロプスの左頬に左踵による回し蹴りを打ち付ける。

 ぐるんとサイクロプスの首が一回転する。太い首は捻れて細くなってしまった。

 

 

──ギ、ア⋯⋯ァ

 

「⋯⋯ホント、生命力だけはとんでもないな」

 

 

 虫の息で膝を突くサイクロプスに、容赦なくグレートソードを突き入れる。

 狙い違わず、宏壱の胸をほどの高さになった大きな目玉を突き破り、脳まで達して絶命させた。

 

 

「さて、次はお前らが相手か?」

 

 

 粒子となったサイクロプス越しに迫る4頭のブラッドボアを見据え、宏壱は口を歪めて笑みを浮かべる。牙を剥くような獰猛な笑みである。

 

 

「上等だ。俺を殺してみせろっ!」

 

 

 躊躇など微塵もなく、宏壱はブラッドボアに肉薄し、グレートソードを振るった。

 

 ◇

 

 メアに瘴気を注入させる作業を始めてから3日が経過した。

 その間、18体のミノタウロスと7体のサイクロプス、ボア系統の魔物26体の襲撃を受けていた。

 これは推測だが、ダンジョンが自身の本体ともいうべきコアを守るために、魔物を呼んでいるのではないか? と宏壱とセターヤは仮説を立てた。

 その仮説を証明するように現れる魔物達を、宏壱は幾度かの休息を挟みつつ、撃退していた。

 

 

「よくやるものだ」

 

 

 大樹の中は空洞になっている。その中心に宙に浮くダンジョンコアがあり、下には魔法陣が三重に描かれ、その上、ダンジョンコアと魔法陣に挟まれるようにプラチナブロンドショートボブのクマミミの女の子が寝かされている。

 

 女の子──メアに視線を向けたままに串に刺した肉を頬張る宏壱に、焚き火の向かい側に座るブロンドの浅黒い肌の女性──ダークエルフのセターヤが言った。

 

 日は既に落ち、夜も深くなった。幾度か魔物の襲撃を退け、今は束の間の休息を取れていた。

 

 

「ん? 何が?」

 

 

 セターヤに顔を向けた宏壱が首を傾げて聞き返す。

 

 

「サイクロプスはこのダンジョンでもっとも力のある魔物だ。それを容易く倒してしまうとは⋯⋯」

 

 

 呆れとも、感心とも言えない表情のセターヤに、宏壱は苦笑を浮かべた。

 

 

「弱点はあのデカイ目玉だ。あれを狙えば、戦況は有利に進める。できれば、そのまま脳まで破壊したいな」

 

「恐ろしいことを言う」

 

 

 それができるのなら苦労はしない、そう心中で呟き、今度は呆れの表情一色を浮かべた。

 

 

「実際、ミノタウロスの方が苦戦するぞ? アイツら、硬いし速いしで、弱点も攻撃後のほんの一瞬だけだからな。弱点剥き出しのサイクロプスの方が攻略は簡単だ」

 

「ふむ⋯⋯ミノタウロスは攻撃後に筋肉を緩め、再び硬くさせる。理由は定かではないが、攻撃の瞬間だけ、普段よりも肉体を硬くする分、直後に緩めなければそのまま硬直してしまうらしい」

 

「へぇ? そんな話があるんだな」

 

 

 魔物の生態を研究する学者は多く存在する。弱点や耐性、生息地域や行動範囲に細かなレベルの下限値と上限値。ステータスの幅まで詳しくである。

 それらを参考に、冒険者は魔物を狩る。しかし、当然冒険者だけではなく、セターヤのような裏の世界の人間も参考にしている。

 

 

「ま、それはいいや。⋯⋯サテナはどうした?」

 

「彼女はもうロドーにいない。お前が目指す場所──ミステルに向かうそうだ」

 

 

 セターヤは昨日(さくじつ)から、ロドーにいた。目的はサテナに宏壱とメアの生存を知らせるためだ。

 帰れないことも理由をぼかして伝えて、面倒事に巻き込む可能性もあり、パーティーの解散を提案した。

 が、サテナは了承せず、セターヤから次の目的地を聞き出してそこに向かったらしい。

 

 宗教都市・ミステル。多彩な宗教感の集合体であり、高位の神官も多く在住している。

 ロドーから遥か北部に位置していて、標高2000mの山の山頂を切り払って作られた広大な土地に、幾つもの神殿が連立した都市だ。

 ロドーからは徒歩で二ヵ月も掛かる。気温は低く、夏場でも肌を露出させると少し寒く感じられ、防寒対策も万全の準備が必要だ。

 メアがいつ目覚めるかも分からない現状では、真冬の時期に向かうことも覚悟しなければならないだろう。

 

 

「そうか⋯⋯アイツも物好きだな」

 

「嬉しそうだな」

 

「そう思うか?」

 

「思うも何も、ニヤニヤしているぞ」

 

 

 セターヤが宏壱の顔を指差す。ぺたぺたと左手で頬を触り、ホントだなと納得した。セターヤの指摘通り、宏壱の口角が少し上がっている。

 宏壱は自分で思う以上に嬉しかったらしい。

 

 

「んんっ、それで、俺とメアは行方不明扱いか?」

 

 

 気を取り直すように咳で誤魔化すと、そう尋ねた。

 

 

「彼女がコーイチとメアの生存をギルドに報告している。その心配はいらないだろう」

 

「そうか⋯⋯あ、それと」

 

 

 心配事といえばその程度のもので、後は特にない──そう考えた宏壱だったが、ひとつ思い出したことがあった。

 

 

「これ、今度鍛冶屋に持っていってくれないか?」

 

「これは⋯⋯?」

 

 

 ズズとアイテムポーチから錆びた大斧を取り出す。

 刃こぼれや柄の腐食も酷く、鈍器として扱うことも難しい。一度強く振るえば、たちまち刃と柄は崩れて原型をとどめないだろう。

 

 

「バトルアックス──になる錆びた大斧だ。メアが武器屋で欲しがってな。こいつのためにここまで来たんだ」

 

「ふむ、それで今回の件に巻き込まれたと? 災難と言うにはあまりにもタイミングが⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

 

 確かに──宏壱もセターヤの言葉に内心で同意する。

 どうも自分は間のいいときに問題に巻き込まれている気がした。

 クイーンアント、メアことメガベアー、セターヤとの初遭遇、そして今回の魔神召喚の儀式。偶然で片付けるには少し遭遇率が頻繁で、タイミングも良すぎた。

 

 

「⋯⋯女神様が何かしたのかね?」

 

「女神様?」

 

「いや、何でもない」

 

 

 見る者によって姿形が変わるという女神を思い出す。

 話によれば、人それぞれに好みがあり、美人の定義が違う。万人に美人だと認められるには、それぞれにの好みに合わせなければならず、宏壱は“好み”を幾つも持つが故に定形を持たなかった女神は、宏壱にとっては頻繁に姿が変わる気持ちの悪くなる存在であった。

 そんな女神──いや、この場合神々と言った方が正しいだろう──は宏壱の事情を把握しているような節を見せた。事実、聖剣、魔剣を渡さなかったのはそういうことだろう。

 つまり、なくても生きていけると判断されたわけで、実際に十分やっていけている。

 その観点から見ても、特別視されていたのは間違いなく、何かしらの遭遇率を弄られたと疑うのも無理のない話であった。

 

 

(⋯⋯考えすぎか。俺は数多くいる勇者の中の一人だろうし、特別気に掛けられている感じはしなかったからな)

 

 

 そう結論付け、宏壱はセターヤと共に一時の休息を満喫した。

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