赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第五十六鬼

「……もじゃもじゃ……」

 

 眼を覚ましたメアはそう呟く。

 大樹の(うろ)の中心にあるエレピカダンジョンのコアの真下で寝かされていたメアの顔を、宏壱は覗き込んでいた。

 

 多量な瘴気噴出は時間経過で安定を見せ、瘴気の濃度も薄くなったように思える。

 

「寝覚めで第一声がそれか……」

 

 宏壱が呆れて溜め息を溢した。

 彼の髪と髭は伸びに伸び、顔全体を覆い隠すほどだ。眼と鼻、口の位置がかろうじて分かる程度だ。

 メアはそれを見て“もじゃもじゃ”と評したのである。

 

「確かに酷いな。……私はまったく気にしていなかったが」

「そうだな。俺も気にならなかった」

 

 改めて言われると、といった風に、宏壱は大樹のぽっかり開いた虚の入り口に立ち、様子を伺っていたセターヤと顔を見合わせる。

 セターヤは買い出し等でロドーにいったついでに、髪を整えていたりしたのだが、宏壱は三ヶ月間大樹の傍を離れなかった。

 元々、身嗜みに頓着しない宏壱は、戦闘の邪魔にならなければ気にしない質で、ずっと放置し続けた。

 気配さえ読めれば、多少の視界の不良などものともしなかった。

 

「メアも起きたし、ロドーに戻るか。そのときに整えてもらおう」

「ある程度はしておけよ?」

 

 確かにこれ全部は図々しいか、とセターヤの言に納得し、宏壱はアイテムポーチから安物のナイフと手鏡を取り出し、大樹の虚から外に出て、川のある方へと向かう。

 

「って、おい! 彼女はっ!?」

「任せた」

 

 余りにも自然な動作でセターヤは反応が遅れた。言って直ぐ行動を起こすとは思っていなかったのである。

 

「……」

「……」

 

 宏壱が森に消えると、残されるのは当然メアとセターヤだけになる。

 この三ヶ月、セターヤは宏壱と深く接し、会話を重ねた。気兼ねなく冗談を言い合えるほどではないにしろ、出会い当初よりも親密な関係になったのは言うまでもない。

 が、メアとセターヤに会話の経験はなく、どう喋ったものかとセターヤは頭を悩ませた。

 

「あー、とにかく、身体を拭こう。定期的に拭いはしたが、全てではないからな」

「……」

 

 メアは答えず、セターヤを見ているだけだった。

 

 ◇

 

 ジャキジャキと硬質な毛を切る音が鳴る。

 乱雑にしながら、ある程度適当になるよう整える。

 

「こんなもんか?」

 

 前髪は眉毛まで。後ろ髪は首が見える程度。髭は唇が見えるくらいまで切った。

 整えた、とはお世辞にも言えず、余りにも乱暴でテキトー具合が浮き彫りだった。

 

 シャバシャバと川の水で顔を洗い、細かく付着した髪や髭を流す。

 雑に顔を拭う。顎先からポツポツと雫が垂れた。

 

「はぁ……」

 

 宏壱は座り込み空を見上げた。思考は先のことへと流れる。

 魔神族――不完全であれ、顕現したそれと戦った感想で言えば脅威だった。

 倒し方が思い付かぬまま自らの手を犠牲にして勝利を得た。到底実力でとは言えない。

 

「鍛え直しが必要、か」

 

 鈍っていたわけではない。ただ、魔物と比較して余りにも魔神が強かったのである。さくさくと、とは言わずとも、大した苦戦も強いられぬままダンジョンを進めた宏壱は油断を持っていたと言える。

 それを自覚した今、レベリングに精を出そうと考えを改めたのは当然の帰結だった。

 

「……の、前に。先にこれだなぁ」

 

 空を見上げる視界に右腕を映す。包帯で巻かれた傷痕の先には何もない。

 有るべき手を失って数ヵ月、生活にも慣れたが、やはり不便だと感じていた。右手は宏壱の利き手でもあった。

 

 咄嗟に手が出るのは利き手だ。何かしら、不意を突かれれば宏壱は右手を出してしまう。

 それでは戦闘時、危険だ。矯正してはいるが、やはり癖はそう抜けない。

 

「もういい、か……?」

 

 十数分といったところか。

 宏壱は時間を開けて、メアとセターヤの交流の時間を設けることにした。

 メアは無口でセターヤもお喋りとは言えないので、会話自体は多くないだろうが、ちょっとした疎通が取れれば、と考えたのだ。そんな気遣いからの行動である。

 

 腰を上げて来た道を戻る。

 森を抜け、ダンジョンコアのある大樹まで歩いてく。川まではさほど距離はなく、二百メートルも歩けば行き来できる。

 

「……」

「……」

「……何してんの?」

 

 大樹から漏れる木漏れ日を浴び、向かい合って見詰め合うメアとセターヤを見付け、宏壱は首を傾げた。

 

「む? 戻ったか。なに、ということもないが、メアは喋らないな。無言で意思疏通ができないかと目で語り掛けていたのだ」

「へぇ? 成果は?」

「好きなものは? と問い掛けたが一切分からなかった」

 

 いや、ダメじゃん。と宏壱は思ったが、それも当然だ。言葉で語り合う前に目で語り合うなど、誰ができるというのか。

 視線での意思の共有は難しい。相手の考えを読み取るには相応の付き合いが必要だ。

 

(こいつ、まさかのポンコツか?)

 

 宏壱を不安にさせるやり取りであった。




三ヶ月ぶりの更新!
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