赤鬼転生記~異世界召喚・呼び出された赤鬼は聖剣と魔剣を持っていない~   作:コントラス

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第三鬼

「でさー、正面から摘み掛かってくるからよ、アリ野郎の首にさ? こう、俺の棍棒をズガッとぶち込んでやったんだよ」

 

「へぇ~。あたしはまだ魔物戦えないなぁ。だって怖いもん」

 

「大丈夫だって。一度攻撃喰らったけど――」

 

「どんな魔法覚えた?」

 

「まだ火属性Lv1だよ。しかもファイアーボールだけ。イメージするだけって言うけどさ、何もないところから火が出るなんてイメージできないって」

 

「私もLv1のライトニングだけ。雷属性に適性があるって言われたけど、剣術と並行してなんて難しいし」

 

「私も弓の練習しながら――」

 

 

  近況報告染みたやり取りをしながら朝食するクラスメイト達の間を、宏壱とリーナはお腹を空かせて歩いていた。

 

 長方形のテーブルを横に並べてくっ付け、向かい合わせに3つずつ背凭れのない四角い椅子が並べられている。一つの食事台で6人のグループが出来上がるようになっている。

 それが両開きの扉から入って左右に一列ずつ、六組ずつ縦に並べられている。

 

 その奥に厨房があった。中が見えるように大きくくり抜かれていて、中にいる5名の料理人に注文してその場で料理を受け取る仕組みだ。

 二人の目的地も当然ながらそこだ。

 

 

「勇者コーイチ、今日は何を?」

 

「そう、ですね。肉がいいです」

 

「肉、ですか……では、野ブタの肉団子などはどうでしょう?」

 

「それで決まりです。あとスープも付けて」

 

「野菜も食べないといけませんよ」

 

「分かってます」

 

 

 朝食のメニュー相談しながら歩く二人。

 ぽそぽそと小さな声で喋る宏壱にリーナは普通の声量で答えるものだから、端から見るとリーナが独り言をしているように見える。

 

 

「ご婦人、今構わないだろうか?」

 

「はいはい、ちょっと待ってくださいねー!」

 

 

 厨房前まできた二人は、リーナが主導で中にいる割烹着姿の人族のふくよかな女性に声を掛けるが、その女性は忙しなく手を動かしていて、リーナに顔を向けることなく返事をして作業に集中する。

 勇者寮の厨房を仕切るのは、今回のために雇われた城下町の主婦達だ。

 

 コンロのような機械の上に乗せられたフライパンに油を敷いて、野菜を投入、ジューッと香ばしい音を響かせる。

 

 コンロのような、と表現したが、使われるものはガスではない。“魔法石”と呼ばれる石が燃料となっている。

 魔物から採れる“魔石”に魔法を組み込むことで“魔法石”となる。これによって魔法を使えない者でも魔法を疑似再現できるのだ。

 込められた魔力の濃度によって使用時間は決まるのだが、魔法を込める“魔石”の質も大きく関係してくる。

 質の低い“魔石”に高度な魔法を込めると、魔力量に耐えきれず破損してしまう。もっと言えば、レベルの低い魔法の持続時間が延びる。

 当然“魔法石”の用途はコンロのような機械だけではない。

 ライトという暗がりを照らす魔法を組み込めば電球の代わりにし、水魔法を組み込めば水が湧く。風魔法なら扇風機の代わりになり、水魔法と風魔法を合わせて組み込めばクーラーにもなる。

 当然、コンロのような機械、自動加熱魔機械のように魔動機械に組み込む必要はある。だが、その研究も各種族、各国で進められていて、様々な魔動機械がこの世界にはある。

 

 因みに、弱い魔物よりも、危険度の高い魔物の方が、質の高い“魔石”をドロップしやすくなっている。

 希少価値が高い分、高値で取引されていて、取り扱いを許されているのは冒険者ギルドだけだ。個人で入手して、個人で使う場合は問題ないが、“魔石”の暴落を危惧されギルド以外の売買は禁止されている。

 取り引きする場合は、必ず冒険者ギルドを通すのが規則だ。これに違反した者は、ギルド会員ならばギルド会員除名。三年間のギルド加入禁止。商人であれば財産の半分を没収。貴族ならば全財産、領の没収。爵位の返上が罰則として与えられる。

 

 閑話休題。

 

 

「ごめんね。今、お姉さん達は僕の朝御飯を用意してくれているからさ」

 

 

 厨房が落ち着くのを待つことにした宏壱とリーナに話し掛ける青年がいた。その後ろには、人族の緑髪の美女が目を閉じ、木製の簡素な杖を突いて佇んでいる。

 

 

「確か……勇者ミフネ、ですか?」

 

「うん、僕のことを知っていてくれるなんて嬉しいよ。あなたは紅蓮騎士隊副分隊長、リーナ・バコフさんでいいんだよね?」

 

 

 リーナの言葉に答えた青年、三船 晶(みふね あきら)は確認するように言葉を返す。

 黒く艶やかな髪を肩で切り、一部の後ろ髪だけを長く伸ばして細いポニーテイルにしている。整った顔立ちは中性的で、肌も肌理が細かい。

 身長は160cm前後といったところで、男子としては背が低い。しかし、ピシッと伸ばされた背筋で妙な存在感を放っている。

 

 

「勇者ヤマグチ殿ですね?」

 

 

 晶の後ろに控えていた人物、晶の指導役である女性が、右手で杖を突きながら前に出て宏壱に声を掛ける。

 

 

「そう、ですけど……?(何だコイツ? 嘲りの色が見えねぇ。俺を警戒してやがるぞ)」

 

 

 相変わらずの細々とした喋りで返す宏壱は戸惑っていた。

 今まで出会ってきた指導役とはどうも毛色が違うようだった。

 

 

「某はカエデ・ミカグラと申します。故あって人族の王代表、ブルセオ・ジェネガン陛下の近衛をしています」

 

 

 カエデ・ミカグラと名乗った女性は、杖を左手に持って宏壱に向けて右手を差し出す。

 

 黒髪を高い位置でポニーテイルにした女性だ。瞳は澄んだ水色で身長は晶より拳一つ分高い。

 服装は胸当てに籠手、インナーに紺の布の服、下は膝より少し上のプリーツスカートで、露出した美脚はハイソックスに包まれている。どれも軽く、動きを阻害しないものだ。

 プリーツスカートを止める腰のベルトは、二本下腹部で×になるように巻かれている。

 

 

「僕は山口 宏壱、です。知ってると思いますけど、聖剣も、魔剣も持っていません」

 

「存じ上げております。他の勇者様方とは違う、と」

 

 

 手を離してカエデは宏壱と向き合う。

 彼女の放つ言葉に嫌味の色はない。ただ何かを探るように宏壱の顔を窺う。

 

 

「ええ、勇者の成り損ないです」

 

「勇者コーイチ!」

 

 

 晶と二、三言葉を交わしていたリーナが、宏壱の自虐とも取れる言葉を聞き咎めて抗議の声を上げる。

 食堂内にリーナの声が響き、食堂内にいる生徒や指導役の視線が集中する。しかしそれも数瞬の間だけで、興味をなくした彼らはまた思い思いの行動に戻っていく。

 

 

「リ、リーナさん?」

 

「あっ、も、申し訳ありません! ですが、あのような言い方はよろしくないと思います」

 

 

 戸惑った宏壱の声にリーナは我に返る。どうやら思わず声を上げてしまったらしい。

 一度謝罪を入れてリーナは宏壱を窘める。

 

 

「えっと、ごめんなさい?」

 

「何故疑問形なのですか……はぁ」

 

 

 深い溜め息を吐いてリーナは「ふふっ」と笑みを溢した。リーナは冗談めいた宏壱の対応に心を許されているようで嬉しくなった。

 

 

「???」

 

 

 首を傾げる宏壱にリーナは笑顔のまま「何でもありません」と言ってまた笑う。

 

 

「はいよ、勇者ミフネ様! 焼き麺にシーザーサラダ、肉団子、特上のドラゴンステーキ、海魔獣の刺身盛り合わせ、天空鳥の串焼きの出来上がりだよ!」

 

 

 厨房にいる料理人の主婦(魔人族)がどんどん料理を並べていく。それも大皿に溢れんばかりの量を乗せて。

 

 

「「……」」

 

「見えはしませんが、大凡の見当は付きます。アキラ殿は線が細い割りに大食いのようですから」

 

 

 並べられた料理を唖然と見る宏壱とリーナに、カエデは苦笑混じりに言う。

 カエデは目が見えないが、音で世界を見ている。料理が机に置かれたときの音と晶の食事時間や咀嚼回数で、とんでもない量だということは把握していた。

 

 

「……大食いで済む話ですか?」

 

「これで腹八分目ってところかな。お腹いっぱい食べると動けなくなるからね」

 

 

 リーナの気の抜けた言葉に、晶はにこやかな笑みを浮かべて答えた。

 

 

「そうだ! 山口君達も一緒に食べない? これだけあるんだ。二人増えたって僕は大丈夫だよ」

 

 

 名案だと言わんばかりに晶は声を弾ませて宏壱に聞く。

 

 

「どうしますか?」

 

「別に良いと思いますよ。断る理由もないし」

 

 

 リーナの問いに宏壱は特に考える様子もなく答えた。

 そして4人はそれぞれ大皿のを片手に一つずつ持ち空いている場所を見つけて腰を下ろす。宏壱とリーナが並び、その向かい側に晶とカエデが座る形だ。

 

 

「小皿を貰ってきます」

 

 

 持ちきれなかったため、後回しにした小皿を人数分取りに行こうと宏壱が腰を上げた。

 

 

「いえ、それなら私が」

 

「まぁ、ゆっくりしていてください。何時もはリーナさんに任せきりですから、偶には僕が、ね?」

 

「そう、ですか? では、お願いします、勇者コーイチ」

 

 

 腰を上げようとしたリーナを制して、宏壱は僅かに笑顔を見せながら言い聞かせるように話す。

 渋々頷いたリーナは浮かした腰を下ろした。

 

 

「山口君、ありがとう」

 

「ヤマグチ殿、感謝いたします」

 

「そんな畏まらなくてもいいよ。それじゃ、行ってくるね」

 

 

 晶とカエデの言葉に軽く返して、宏壱は厨房に向かった。

 

 

「う~ん。印象が違うなぁ」

 

 

 宏壱の背中を見送った晶は、背凭れに身を預けて呟く。

 晶は宏壱と話したことはない。だからこそ表面の印象、暗く気の小さい男だと思っていた。暴力に抗う術を知らない軟弱者だと。

 しかし、妙である。こうして対面してみると陰鬱さを感じない。

 聖剣も、魔剣も持たない彼は一部の生徒や指導役から邪険に扱われている。強さを、得た力を見せびらかす者もいる。

 だが、それを見てもまるで動じないのだ。並みの感性ならば、劣等感を覚えて腐っていくだろう。普通はそうなるはずだ。しかし……。

 

 

「悲観的感情が見えないんだよねぇ」

 

「ヤマグチ殿ですか?」

 

 

 何気ない呟きに返答したカエデをチラリと見て、晶は「うん」と頷いて続ける。

 

 

「どうも一部のクラスメイトとか、指導役の人が彼を雑に扱うみたいだから少し心配してたんだけど……いらなかったみたいだね」

 

「某も気になっておりました。某は耳が良いですから、聞きたくないことも聞こえてしまうのです。余り良く思われていないのは確かです」

 

「……勇者ミフネ、何故あなたが勇者コーイチの心配を?」

 

 

 リーナは晶の言葉を聞いて訝しんだ。クラスメイトとかいう以外接点がないはずの宏壱を何故気に掛けるのか、と。

 

 

「特別な理由はないよ。ただ、みんなで帰れたらなって思うだけで。だから腐られて無茶をされると困るんだ」

 

 

 中性的な顔を緩めて笑う晶。そこに嘘などはなく、宏壱を案じる響きが含まれていた。

 

 

「何の話?」

 

 

 そこに宏壱が戻ってきた。右手に数枚の小皿、左手にナイフやホフォーク、スプーンの入った篭を持っている。

 それらを全員が取りやすい位置に置いて、宏壱は元の場所に座る。

 

 

「何でもないよ。それより、食べようよ。僕、お腹空いてるんだ」

 

「同感です。私も朝の鍛練でお腹が空いていたところです」

 

 

 晶が腹部を擦りにへらと笑う。それに続いてリーナも空腹を主張した。

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 4人の声が揃う。

 この世界に食事前に「いただきます」と言う文化はない。しかし、宏壱と晶は食事前に「いただきます」、食後に「ごちそうさまでした」と言うことが身に染み付いているため、この世界に来ても止めなかった。それが指導役であるリーナとカエデにうつったのだ。

 

 

「山口君は訓練の方どうなの?」

 

「え?」

 

 

 食事を始めて暫く経った頃、晶が宏壱に聞く。突然の問いに宏壱は戸惑った。

 

 

「あ、いや、深く考えなくて良いんだよ。ただ気になっただけだから」

 

 

 不審に思われた。そう見た晶は慌てて弁明を付け足す。

 

 

「ははっ」

 

 

 それが面白かったのか、宏壱は小さく笑いを溢した。誰にも聞こえない程度だが、隣にいるリーナにははっきりと見えていた。宏壱の口角が上がっているのが。

 

 

「んんっ……僕は聖剣も、魔剣も持っていないから、伸びは良くない、かな。まだダンジョンにも行けてないし」

 

 

 笑いを溢したことに気付かれていたのを察して、宏壱は咳払いをして何事もなかったように現状を語る。

 

 

「そっか。因みにレベルは? 僕はレベル35なんだけど」

 

「もうですか!?」

 

 

 驚いたのはリーナだ。二週間でレベル35は異常だ。

 レベルというのは経験を積めば自然に上がっ ていく。この世界に生まれた者は戦闘や訓練をしなくても10歳までにレベル5まで上がると言われている。

 しかし、そこからが上がりにくくなるのだ。

 普通の村人、農民は生涯でレベル20からレベル30が限度だ。商人も似たようなものだ。と言ってもこれは人族を基準にしたもので、他の種族は上下するが。

 

 この世界の平均寿命は100歳だ。医療技術は殆んど発展していないが、治癒魔法で現代医学を大きく凌ぐ薬品や魔法が多い。

 病気ならば解毒薬で治る。致命傷の怪我でもHPの回復さえできれば治すことができる。人体の損傷は治療できないが、命が危うくなることはない。

 要は、一撃で死ぬようなことがなければ死に至る危険性は低いと言えるのだ。

 それらの要因がありこの世界の平均寿命は高い。勝てないのは正に老いだけである。それも、若い時の鍛え方次第で大きく延びるのだが。

 

 リーナが驚いたのはそういった点があるからだ。宏壱の伸び率は、流石勇者だ、程度の認識だったが、どうも聖剣、魔剣持ちはリーナが思っていた以上にとんでもない存在らしかった。

 

 

「えっと、レベル8だよ」

 

 

 驚くリーナをよそに、宏壱は自分のレベルを言う。

 

 

「この差は聖剣の有無、かな。経験値に補正が掛かっているのかもしれないね」

 

「……なるほど。聖剣と魔剣を持っていた方が便利と言えば便利なのかもしれませんね」

 

 

 晶の言葉に納得顔で頷くリーナ。その手は既に止まっていて、料理を口に運ぶことを止めていた。

 

 

「もう食べないんですか?」

 

 

 それを見た宏壱がリーナに聞く。

 この話の合間も、宏壱と晶は食事を進めていた。カエデは既に食べ終えていてじっとしている。

 山盛りあった料理は、10分の間に3分の1程度まで減っていた。

 

 

「勇者ミフネの食べっぷりには驚きましたが、勇者コーイチ……貴方も相当食べるんですね?」

 

 

 リーナは驚きを越えて呆れに変わった視線を宏壱に向ける。

 リーナは彼が自分の前でこれほど食すところを見たことがないのだ。

 

 

「今日はお腹が空いていたんですよ」

 

 

 誤魔化すように言って宏壱はドラゴンステーキをナイフで切り取り、切り取ったドラゴンステーキをフォークで刺して口に運び食べる。

 

 

「もぐもぐ」

 

 

 ドラゴンの肉は筋が多く、弾力がある。

 この肉はアースドラゴンというドラゴンの物で、翼はあるものの空を飛べず、地を這う分足腰の筋力が凄まじい。

 しかし、筋肉の下にある脂肪は芳醇な味わいをもたらす。

 その味に頬を緩めながら宏壱は食事を続けた。




――キャラクター紹介――

三船 晶

身長:170cm

体重:48kg

中性的な顔で女性を魅了する美男子。声も中性的で女装すると女性にしか見えない。彼の裸を見たものはいない。



カエデ・ミカグラ

身長:167cm

体重:45kg

B:80 W:55 H:73

見た目は東洋人そのもの。大陸から東にある島国出身。盲目だがブルセオ・ジェネガンの近衛をしている。手に持つ杖は仕込み刀だ。
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