――デモンズアイランド
そこは深い森に包まれ、闇が支配する島。
気候の関係でこの島は常に暗雲が垂れ込み、たまに聞こえる猛獣の雄叫びや、空を飛ぶ怪鳥がその不気味さに輪を掛けている。
何時からそこにあるのか、そこに何があるのかは誰にもわからない。
過去に何人もの冒険家達がこの島の謎を解き明かそうと上陸したが、生きて帰った者は一人もいない。
500年前、ある王国から探索船が出航した。
その国の王は「デモンズアイランドは宝の山だ」という噂を聞き、国の兵士800人と将軍三人を船に乗せ旅立たせた。
結果として、探索は失敗。
国の主力を乗せた船が消息不明になり、国の戦力が削がれたのを好機と見た近隣諸国はここぞとばかりに戦いを仕掛けた。
たちまち戦争が起こり、多くの民が犠牲になった…家が焼かれ。男は惨く殺され。女は連れて行かれて…
力の無い国は淘汰され、何れ消えて行く。弱肉強食の世界なのである。
数ヵ月後、戦いに疲弊した兵士達の耳に嬉しいニュースが入った。
何と、行方不明になっていた探索船が戻ってきたという。これを聞いた敵国の兵士はたちまち自国に撤退していった。
港には全国民が集まっている。英雄の帰還。それは民の希望となり兵士の士気を上げるのに充分な効果を発揮する。
これでこの戦いに勝てる…もう自国の民に苦しい思いをさせなくて済むのだ…王はいてもたってもいられずに船にいる兵士の元へ駆けつけた。
しかし、その希望はあっさりと打ち砕かれた。乗っていた兵士全員の首が、洗濯物を干すかのように吊られていたのだ。
キレイなままの物もあれば、一部が腐り落ちて骨が露出している物もあった。
その異様な光景を見た王はあまりの衝撃に声も出せず、その場に立ち尽くすしかなかった。
その後、何の驚異も無いと解った近隣の国は大量の兵力を投入し、抵抗も受けずに国を制圧した。
デモンズアイランド近海に幽霊船が現れるようになったのはその頃からである。
「――それからこの島には悪魔が住んでるって話だ、どうだ?レイリー」
「そうだな…少なくとも、話が通じる相手ではなさそうだな」
生い茂る草木を退けながら森の奥へ進む二人の男は、ある場所を目指して歩いていた。
その姿は遠足に来てテンションが上がった子供のようだが、その体の奥底からはとてつもない強者のオーラが漂っている。
「さっき一瞬だけ感じた妙な気配は…その悪魔の物だろうな」
眼鏡をかけた初老の男が神妙な顔つきで言う、だがもう一人の男はどこか楽しそうにしている。
「あぁ…その悪魔ってのが一体何なのか?俺はそれを知りてぇんだ!」
笑顔でそういう男に、眼鏡の男はまたか。と言いつつも何処か楽しそうな顔をしている。
この二人、話だけを聞くと興味本意で訪れた冒険家のように聞こえるが、その正体は海賊である。
前の島で酒を飲んでいる時に他の客からこの島の噂を聞いて、真相を確かめに仲間達と共にこの島にやって来たのだ。
そして現在、仲間達と別行動で動いている。
「それでその悪魔ってのが面白ェ奴だったら…仲間にする!」
「おいおい…悪魔だぞ?」
「だから何だ?俺たちは海賊だ!周りから見れば何も変わらねぇよ」
「そうね、この島に来る人間は決まって宝目当ての盗賊か、悪魔目当ての変人だものね…私から見れば何も変わらないわ」
「「!!?」」
突然後ろから声が聞こえて、慌てて戦闘体勢を取る。普段は呑気にしていても、ハプニングには直ぐに対処出来るのがプロというモノである。
「……何者だ?お前は…」
眼鏡の男が質問をするが、群青色の長髪の少女は何も答えず笑みを浮かべている。今いる場所が暗い森の中という事もあって妙に不気味に感じてしまう。
「おい、お前は誰だ!ここで何をしている!」
もう一人の男が強めに聞くが、全く動じていない。そもそも自分達の言葉が通じているのかすら判らない。
数分後…当人達には永遠とも思える時間が経ってようやく少女が口を開いた。
「お酒が飲みたいわ、あるかしら?」
「は?酒?…お前が飲むのか?」
「えぇ、出来れば樽で十個ほどあればいいんだけど…」
「飲みすぎだ!」
突然の要求に眼鏡の男は驚いた。まだ年端もいかない少女が酒を寄越せと言ったのだ。
未成年の子供に酒を渡すなど普通ならしないだろう。
しかしこの男は違った。
「おぉ、酒か!よし飲ませてやろう!」
「何っ!?おいロジャー!」
「いいじゃねえか、ちょっとくらい」
「決まりね、じゃあ船に案内して頂戴。たっぷりと酒を頂くわ」
『デモンズアイランド海岸』
オーロ・ジャクソン号甲板
「ゴクっゴク…プハー…久々の酒は旨いわ…」
「ガハハハ!そうか、もっと飲め!」
「まったく…」
島の中で見つけた二人の男に酒が欲しいと言うと、意外とあっさり飲ませてくれた。眼鏡の男は色々言ってきたがもう一人の男が耳打ちで何かを言うと、一瞬驚いたような顔をした後何も言わなくなった。
そして今は三人で酒を飲んでいる。
「ところでおめぇ、名前は何て言うんだ?」
「私?私は…そう、クルミ、私はクルミという名前よ」
他人に自分の名前を言うなんて何千年ぶりだろう。まぁどうせこの二人は後で消すからどうでもいいか。
「そうか!俺はロジャー!それでこっちの奴がレイリーっていうんだ、よろしくな!クルミ!」
「…ロジャーの奴が先に言ってしまったが、私はレイリーという。よろしく」
二人の男…ロジャーとレイリーとの自己紹介を
済ませた私は新しく樽を開け、ジョッキに酒を注いでいく。すると眼鏡の男…レイリーが質問をしてきた。
「クルミ、君は何故こんな島にいるんだ?親はどうした」
レイリーは私が何処かの島の町娘と思っているのだろう、その顔は心配そうにしている。口には出さないがロジャーも気になっているようだ。
さて、どう答えようか。
「何故かと言われても…私はずっとこの島に住んでるのよ。それに親なんてとうの昔に死んだわ」
「ずっとだと?それに親もいないのか?じゃあどうやって生活しているんだ?」
レイリーは更に質問を重ねる。正直、煩わしい。ここは嘘をついて誤魔化そう。
「それは…そう、実はお爺ちゃんと一緒に暮らしてるの。」
「祖父がいるのか…そうか。ところでクルミ」
「ここには悪魔がいるらしいんだが、クルミは何か知らねぇか?」
ここでロジャーが口を挟んだ。レイリーが嫌な顔をしていない辺り同じ質問をしようとしていたのだろう。
――悪魔
最初に後ろから話を盗み聞きしていたが、やはり悪魔か。財宝目当ての賊よりたちが悪い。
「…悪魔?何の事かしら、わからないわ」
「本当か?」
「えぇ、本当よ…この島には悪魔なんていないわ。猛獣と勘違いしてるんじゃないの?」
「そうか?俺は悪魔がいると思うぜ、クルミ…今も何処かから俺たちを見てるんじゃねぇか?」
ロジャーが何か確信を持ったように話す。レイリーもどこか疑いを持った目で私を見てる。もう二人は気づいているようだ。
やれやれ、どこでバレたんだか。
「…そうね、もし悪魔がいればこの島に来た人間を一人も帰さないと思うわ」
「ほぅ?どうしてだ?」
「理由なんていらないわ、嫌いだから壊すの…髪の先から足の先まで徹底的にね」
その瞬間、ロジャーからとてつもない威圧感を感じた。何だこれは?と思った瞬間「武装の呪い」が発動した。
「…クルミ、お前が例の悪魔だとは思いたくなかったぜ…」
「折角だし、何時から気づいたのか教えてくれる?ちょっと興味があるわ」
「あぁ、それは最初にあった時だ。あの時俺とレイリーはかなり周囲を警戒していた。なのにお前はそれをくぐり抜けて俺たちの後ろを取った。普通のガキにそんなことは無理だ」
どうやら初対面の時点で気付かれていたようだった。今までの奴とは違うと思ってたけど…まさかここまでなんて。
「なるほどね…つまり私を敵だと知った上で酒を飲ませたって訳?」
「あぁ、酒が欲しいってのは本当だと思ったんでな」
「呆れた…まぁいいわ、戦いましょう…本当はこのあと騙し討ちしようと思ってたんだけど予定が狂っちゃったわ」
「へぇ…おいレイリー!手を出すんじゃねェぞ!」
「何?まさかお前、一対一でやる気か!?」
「ガハハハ!あぁ勿論だ!おいクルミ、海岸で決着つけようぜ…だが俺の仲間には手を出すなよ?一対一だ」
どうやらロジャーは一人で私と戦うつもりらしい。いいだろう。こちらとしても二人を一度に相手するのは願い下げだ。
「えぇ、いいわよ…貴方のその自信満々の顔が苦痛に歪むのを楽しみにしてるわ」
「言うじゃねぇか…お前こそ、負けた時に酒を言い訳にするなよ?」
こうして、私とロジャーは決闘をする事となった。
TO BE CONTINUEDO→