「それじゃ、そろそろ始めましょうか?」
クルミは余裕の表情を見せながら、決闘の開始を促す。155cm程の小さな体からは、絶対に負けないという意志がひしひしと伝わってくる。
対するロジャーはクルミを警戒していた。
自分の“覇気”をすり抜けた事や、先程から感じるクルミの“覇気”が並のものではないという事に。
――油断は出来ない。
だからこそ、面白い。
ロジャーは口角を吊り上げた。
「おう!いつでも来い!」
剣を握り、覇気を強める。どんな攻撃にも対応出来るように。
クルミは「来い」と聞こえた瞬間、全力でロジャーの元へ駆け出した。そのスピードは常人では捉えきれない程であるが、これまで幾多の死線を潜ってきたロジャーにはクルミの姿がハッキリと見えていた。
「そこだな!」
横凪ぎに剣を振るう。しかし突如クルミの姿が消えた。直ぐ様ロジャーは気配を探る。
(上か!)
クルミは驚愕した。何故すぐにバレたのか?しかしここは頭上2m、攻撃に移る他ない。
「おらあぁぁ!!」
ブオン!
ロジャーの頭を全力で蹴る。しかしあっさりと避けられてしまった。
そしてロジャーは再び剣を振るう。着地したばかりのクルミにこれを躱す手段はない。
クルミは咄嗟に右腕で庇った。
ガキイィィン!
「!?」
「ふぅ、危なかったわ…油断してた」
なんと、ロジャーの剣がクルミの右腕に当たった瞬間。小高い金属音を上げて弾かれたのだ。
(…この手応え、覇気か?)
ロジャーは自身の剣撃が弾かれた要因を、クルミの覇気によるものだと推測した。
「はああぁ!」
攻撃を防いだクルミは、そのままロジャーに拳を叩き込む。
ロジャーはその攻撃を、覇気を纏った剣でガードした。しかしその拳は想像以上に重く、ロジャーは後方に少しだけ吹き飛ばされた。
「…中々鋭い覇気だな、誰に教わったんだ?」
ロジャーは興味深そうに聞く。このような少女にこれだけの覇気を教えた人間に興味があった。
しかしクルミの答えは予想外の物だった。
「ハキ?何よそれ…最近の流行り?」
「何だと?お前、知らずに覇気を使ってんのか?」
「知らないわよ」
クルミは覇気という言葉に首を傾げたが、あまり意に介さずに、追撃の為に拳を構える。
(…さっきの動きからするとクルミは近距離で戦う武闘家タイプか。パワーはガープの奴より下だがそれ以上に速ぇな…それにあの腕、かなりの覇気を纏ってやがる。下手に受けるとヤバイ。こちらから攻めるか)
(…どんな手を使ったかは知らないけど、どうやらロジャーは私の動きをすぐに察知出来るみたいね…なら視界を潰して気配を消すまでよ)
双方が相手の分析を済まし、行動に移す。
クルミはロジャーに、ロジャーはクルミに接近する。
勢いのままにロジャーは剣を降り下ろす。クルミはこれを左に躱してロジャーに殴りかかるが、
蹴りを入れられ距離を取られる。
「ッ!」
続けて剣を振るう。その素早く不規則な剣技をクルミは何とかギリギリで躱せていた。
しかしこのままではマズイと思い、足元の砂を蹴りあげた。
「ぬぅ!?」
砂で視界が遮られた為、ロジャーは覇気でクルミを探す。
しかし見つからない。
(あの時と同じように気配を消してやがるな…)
クルミはロジャーの背後にいた。攻撃の体勢に入っている。
その時、ロジャーがクルミの居場所を感じ取った。しかし時既に遅く
「ウラアァァァ!!」
ドゴォ!
「グッ!?」
ロジャーはクルミのパンチをモロに食らってしまった。ギリギリで覇気を纏ってガードしたが、それでもかなりのダメージをもらった。
骨が軋み、激痛が奔る。
「…痛ぇな…やるじゃねぇか」
「当たり前よ、私は強いんだもの」
「あぁ、強ぇな…だが俺の方がもっと強ぇ」
そう言ってロジャーは高速でクルミの元へ移動する。
「え――」
ドカ!
反応する暇もなく、クルミは蹴り飛ばされた。
すぐに体勢を立て直そうとするが、ロジャーが追撃に来る。
「ぐっ…!」
ガキイィィン!
だがやはりクルミの体に攻撃が弾かれる。するとロジャーの剣が黒く変色した。
その刀身は輝きを増し、少し触れただけでスッパリ斬れてしまいそうだ。
ロジャーは剣を降り下ろす。クルミはそれを右腕で受けようとして、何か嫌な予感がした。
「ッ!」
クルミは咄嗟に後ろへ回避するが、少しだけ間に合わず腕に切り傷が出来た。
「痛っ…?血?」
「どうだ?お前のその硬さを貫通したぜ?」
「嘘っ!?まさかこの“呪い”が破られた!?」
自身に出来た傷を見てクルミは初めて動揺した。
そして彼女が言った“呪い”という単語にロジャーは首を傾げる。
「“呪い”?何だそれは?」
「っ!いえ…何でもないわ、続けましょう」
クルミはロジャーの疑問に応えず、戦闘を続けようとする。
(それにしてもあの剣、黒くなったら切れ味が上がったわね…どういう原理か知らないけど、私の呪いも貫通してくる…)
クルミは懐から一枚の貝を取り出した。
するとロジャーは、見覚えがあったのかその貝の正体を口にした。
「…ん?クルミ、そりゃひょっとして貝(ダイアル)か?)
「貝…確かそんな風に呼ばれてた気が…そうそう、収納貝(コンパクトダイアル)って名前よ」
クルミはロジャーの質問に答えながら貝を操作して、一本のレイピアを出した。
「ロジャー、私は貴方を甘く見ていたわ。ごめんなさいね…貴方は強い。とってもね。だから本気で行くわ」
謝罪と称賛の言葉を口に出しながら、レイピアを振る。
「さっきもちょっとだけ言ったけど私にはある“呪い”が掛かってる。その一つが“武装の呪い”自分の体と自分が触ってる物を異常に硬くする呪いよ、攻撃にも防御にも使えるわ。貴方の攻撃は防げなかったけど…」
クルミはレイピアを構え、ロジャーを見据える。その顔に先程の余裕はなく、真剣そのものであった。
「次はそうはいかないわ、覚悟しなさい」
「ガハハハ…!さぁ、来てみろ!」
クルミはロジャーに接近し、そのまま突きを繰り出す。しかしロジャーはそれをヘッドスリップで回避した。
ロジャーは剣を振るう。クルミはそれをしゃがんで避けて、蹴りを入れた。
ロジャーとの距離が少し離れたが構わず追撃に向かう。
そこでロジャーは覇気でクルミの動きを先読みする。
(心臓狙いの突きが来る…!)
ロジャーの読み通り、クルミは心臓目掛けて突きを繰り出した。その突きをバックステップで回避したロジャーにクルミは再度追撃の体勢に入る。
攻撃を躱したロジャーはそのまま横凪ぎに剣を振るう。するとその斬撃が銃弾ほどの速さでクルミの元へ飛んで行く。
(嘘!?斬撃を飛ばして来た!?)
斬撃を飛ばすなど誰が想像出来ようか。慌ててクルミは上に跳んで回避しようとするが間に合わず、斬撃に吹き飛ばされた。
「うああぁ!」
ズバッ!
ズザアァァ…
「ガハッ…!!」
ロジャーの放った斬撃で腹が切り裂かれ、今日まで長い間見ることの無かったドロドロの赤い液体がボタボタとこぼれ落ちる。
痛い、痛イ、イタイ。
燃えるように熱い、立ち上がろうと力を入れるだけでも死にそうな位痛い。
でも立たなきゃ、こんな痛みで私は倒れない。
「っぐ…ハァ…ハァ…」
「…出血が酷いぜ、まだやる気か?」
「うっさい…この程度で勝ったつもりなの?言っとくけど、私はまだ戦えるわ…」
こんな簡単にやられるなんて、私が許さない。
たった一発の斬撃でやられるなんて、絶対に認めないッ!
「この程度の傷…幾らでも受けてきたわ!いくら貴方が強くても、私は折れない!貴方を倒すまで私は倒れない!」
啖呵を切り、一歩を踏み出す。
大丈夫、今までの奴よりちょっぴり強いだけ。
もっと本気になればあんな奴、すぐに倒せる。
そういえば昔、ロジャーと似たような高速移動
する奴がいたっけ…確かやり方は…
ドスッ!
「…何?」
ズルッ…ドシャア…
突如クルミの姿が消えたかと思えば、ロジャーの目の前に現れた。
そのあまりの速さに加え、クルミが瀕死だという事もあり完全に反応が遅れ、気づいた時には腹を刺されていた。
そしてクルミはそのまま砂浜に眠るように崩れ落ちた。
「ぐっ…」
ズボッ
クルミのレイピアを体から抜く。血が流れ出るが気にしない事にする。
「おい、ロジャー!無事か!?」
今まで船の上で戦いを見守っていたレイリーが降りてきて、ロジャーの無事を確かめる。
「あぁ、少し腹が痛むが何ともねぇよ…それより、クルミの方はどうだ?出血が酷ぇが…」
「そうだな…息はある、だが放っておけば死ぬぞ…やり過ぎなんじゃないのか?こんな子供相手に」
「だがこいつの動き、そこいらの女の動きじゃねぇ…明らかに戦闘慣れした動きだった。それに最後の動き、ありゃ海軍の“剃”だ」
「六式の1つか…だがさっきのあれがか?今まで見た中で一番の速さだったぞ?」
「あぁ…何処で覚えたのかは知らねぇけどな。それに“覇気”も使いやがった。あいつは“呪い”だと言っていたが」
「…どうするんだ?ロジャー」
そう聞かれたロジャーはニヤリと笑い、こう答えた。
「連れていく」
TO BE CONTINUEDO→
武装の呪い
武装色の才能を強制的に引き出して体に纏い、好戦的な性格にする呪い。
本能的に危機を感じれば自動で発動する。
収納貝(コンパクトダイアル)
一定の量だけ物を入れられる貝。
入れられる量は貝によって異なる。