「う…んん」
目を覚ますと、いつもの天井ではなく知らない天井が目に入った。木の匂いとアルコールの匂いがするし、少し横揺れしている。ここはどこだろう、そう思い周囲を確認した。
四方は壁に囲まれている、恐らく何処かの部屋なのだろう。本棚には何やら分厚い本が沢山並んでいる、後で少し読んでみようか。
私は寝棚に寝かされている、少し寝心地が悪かったのか背中が痛い。それに部屋も狭い、私の家だってもう少し大きいぞ。
私は寝棚から降りようとしてふと気づいた。お腹の辺りが少し痛む、それに何かが巻き付いているような、変な感じだ。
服をまくると、お腹に包帯が巻かれていた。何だコレは?少し触ってみるとかなり痛かった。何時の間にこんな怪我をしたのだろうか?記憶を辿るがあまり思い出せない、元々私は朝が弱いのだ。今は考え事など出来ない。
思考を切り替え、扉の方へ向かうと向こうから足音が聞こえてきた。
スタスタ…
――敵か
私はそう思い、警戒する。
幸い、近くに手頃な棒がある。もし部屋に入ってきたらこれでブン殴ってやろう。
足音は少しずつ近づいてきている。
スタスタと音を立てて歩く足音の主は、この部屋の前でピタリと足を止めた。
そしてドアノブに手を掛け、部屋へ入ってきた。
ガチャ…
「うおらあァァ!!」
ブンッ!
「…!?」
ゴスッ! ゴツンッ!
「全く…いきなり棒で殴ってくるとはな」
「…悪かったわよ」
私は今、寝棚で座らされている。
先ほど殴った男は、私の傷の手当てをしてくれた人らしい。感謝しなければ。
…互いの頭のコブは気にしない事にする。
「それより…ありがとう、傷の手当てしてくれて…えっと」
「クロッカスだ、礼なら船長に言え」
「そう、私はクルミよ」
派手な髪型の男はクロッカスと名乗ると、傷の具合はどうかと聞いてきた。
私が少し痛むと答えると、暫く大人しくしておけと言って部屋から出ていった。
まだ聞きたい事はあったんだけど…
クロッカスが出ていって暇になったので、本棚にあった本を拝借した。しかし何やら見覚えのない変な文字や人間の骨や体ばかりで、面白味がない。もっと楽しい本はないのか。
思い立ったが吉日、本棚の本を片っ端から取りだして目を通す。しかしどれもこれも同じような本で、どうしてこんなに似たような本を置いてあるのか不思議に思った。
気がつくと、そこら中に大量の本が散らばっていた。流石に散らかしっぱなしは失礼だと思い、私はこれを本棚に戻して、別の場所を探すことにした。
私の知識欲は誰にも止めることは出来ない…!
暫く部屋を捜索したが、興味を惹くものは何もなかったので私は部屋から出ることにした。
ギィィ…
扉を開けて、廊下に出る。
回りには誰もいないようだ、私はスタスタと歩みを進める。
誰も私の前にはいない。
まるでここには私しかいないような、妙な錯覚をする。
思えば、誰かとまともに話をしたのは久しぶりかもしれない。クロッカスとは少ししか話していないが、今までの奴とは違ってまともな方だと思う。…あの髪型は置いておくけど。
それにロジャーやレイリーだって…?
「あぁぁ!?」
思い出した!
ロジャー!あの髭の長い奴!
アイツと戦って負けたんだった…!
それを思い出すと同時に頭も覚醒していく。
何で私は船なんかに乗っているのだろうか?
それにさっきから揺れてるし…まさか海の上!?…いや、まさかそんな事はないだろう。
私は近くにあった窓を覗く。
悪い予感ほど良く当たると言ったのは何処の誰だったか。
そこから見えたのはキラキラ輝くどこまでも青い海であった。
「ウソ…」
私は島から連れ出されていた、人を連れていくなら先ず確認を取って貰いたいが、生憎今はそんなことしてるヒマはない。
多分私は今、ロジャーの船にいるのだろう。
あそこで私を捨て置く事が出来たハズなのに、一体何の目的があって船に乗せたのか。
まさか、私を何処かへ売り飛ばす気なのか!?
…いやいや、考え過ぎだ。アイツはそんな奴には見えなかった。
きっと、ズタボロに負けた私を哀れんで船に乗せたんだろう。そうに違いない。
気を取り直して探索を続ける。私は常にポジティブに生きるのだ。
暫く歩いていると、扉を一つ見つけた。
私は折角なので、入ってみる事にした。誰かがいるかもしれないが、その時はその時だ。
ギィィ…
「おぉ、お帰り…何処に行ってたんだ?」
バタンッ!
何だ?今のは…何で最初に目が覚めた部屋に繋がってるんだ?それにクロッカスも戻ってきてたし…
まぁ、そういうこともあるだろう。それよりあっちに行こう…何かあるかもしれないし。
廊下を真っ直ぐ進むと扉が一つあった。
中からアルコールの匂いがする。酒か、折角なので貰って行こう、一本くらいバレやしないだろう。
ガチャ…
「何だ?またお前か、包帯を取り替えたいからこっちに来い!」
バタンッ!!
またお前かッ!
何で私の行く先にいるんだよッ!
…待てよ、もしかして私はクロッカスに何かされたんじゃないか?
うん、そうに違いない!きっとヤバイ薬を打ち込まれて、自分の思うように動けないんだ!
フフフ…残念だったわね、私はもうお前には惑わされやしないッ!今度はこっちとは逆に進むッ!
…やはり扉があった。
けど私はもうお前の洗脳からは解き放たれているッ!
私は愉税の表情と共にある言葉を思い浮かべた。
――勝ったッ!第3部完!
ガチャ!
「『相手が勝ち誇ったとき、そいつは既に敗北している』…面白ぇ言葉だな」
「うわあぁぁ!!?」
ドサァ…
「うわっクルミ!?何でそこにいるんだ!?」
「何故いきなり叫び声をあげて倒れたんだ?こいつは…?」
洗脳だとか無限ループだとか、そんなチャチな物ではないもっと恐ろしいものの片鱗を味わいながら、私は意識を手放した…
「で、お前はクロッカスに何かされたと思い込んで、自分が迷子だって事に気付かなかったって事か!ガハハハッ!」
「私は医者だ、変な薬を打ち込んだりはしない…」
「ごめんなさい…クロッカス、さん…」
「ガハハハッ!ちょっと大人ぶった生意気なガキかと思ってたが…まさか、迷子とはなァ!」
「笑うなッ!私はガキじゃないし、迷子でもないッ!」
私は今、診察室の寝棚に座っている。
机の前ではクロッカスが薄っぺらい紙を見ている。そしてクロッカスの横で笑っているのがあのロジャーである。
その姿は最初に会った時と何ら変わりがない。
「そもそも、何でロジャーがここにいるのよ…どこか具合でも悪いの?」
「…あぁ、ちょっとな…」
私が少し聞いてみると、ロジャーの顔が少し険しくなり、言葉を濁した。
どうしたのだろうか、もしかしたら聞かれたくなかった事だったのかもしれない。
「あ、そうだ!ロジャー!私を早く船から降ろしてよ!」
「え?何でだ?」
私が降ろせと言うと、ロジャーは心底不思議そうな表情を浮かべて理由を聞いてきた。
「何でって…私の家があの島にあるのよ!さっさと降ろして!」
「そうは言ってもな…あの島にはもう来ねぇと思うし、
「じゃあいいわ!その…えたる?ナントカが無くたって自力で帰るわよッ!」
ロジャーはもうあの島へ行く予定がないと言う。仕方がないので、自力で帰ろうと扉に手を掛けたとき、クロッカスが口を挟んで来た。
「帰ると言うがクルミ…お前、方向音痴なんじゃなかったか?」
「ッ!?」
「そうだぞ、お前さっき迷子になってたじゃねぇか」
「だから迷子じゃないわよッ!」
ロジャーは私を何だと思っているのだろうか、自慢じゃないが私は樽に入って航海したことだってあるのに…
その時だってちゃんと島に着いたのだ。
「この海じゃあ迷子というのは致命的だぞ…良くて漂流、悪くて死d。大人しく船に乗っていけ」
「そんな…島に、帰れないの…?」
「そんなに気を落とす事ァねぇよ。世界を一周して、また帰ってくればいいさ」
「そんな簡単に言わないでよ…何年掛かると思ってるの?」
「何年でもいいだろ、お前はガキなんだ…大人の言うこと聞いとけ」
「…ガキじゃないし、私だって大人だし…」
この男、何でこんなに楽天的なんだろう…でもどこか安心感がある。
…まぁ、たまには外に出るのも悪くないかも、ヤバくなったら逃げればいいし。
「…クルミ、お前の怪我はまだ治っていない。
医者として、最後まで診させて貰いたいんだが」
「…し、仕方ないわね…怪我が治るまでよ」
「…フフッ…」
「…決まりだな!それじゃあ、暫くの間よろしく頼むぜ」
こうして私は、ロジャーの船に乗る事になった。だが、このときの私はまだ知らなかった…ロジャー達が“海賊”という事に、そして海へ出るという事がどれだけ大変な事かを…
TO BE CONTINUED→