プロローグ前半―託されし子―
コツン コツン コツン
狭く青暗い空間、そこに紫色の足音が反響する。
足音が止むと“女性”の目の前には扉がある。
現代で言えば自動ドアであり、近未来的な構造をしたドアだ。
何重に扉があり、通るのには多重のロックを解除しなければならない仕組みだ。
しかし彼女は、何の苦もなくその扉を通った。
通ったというよりは“繋げた”が正しいだろうか。
何重のドアの前には目のようなものがたくさんあるような空間が現れる。
彼女は躊躇いもせずその空間を通り“約束の場所”へと足を踏み入れた。
“科学者
これは私の罪だ。
私はあらゆる命を奪う兵器を造ってきた。
目の前にいる“彼”を見て私は思う。
これは懺悔というのだろうか。
剣蔵「お前にも辛い思いをさせてしまったな」
剣蔵「これからは、人間として生きてくれ」
剣蔵「ゼイン…」
彼には平和を知ってほしい。これが私の“最後”の願いとなるだろう。
だから呼んだ、彼女を――――
???「来たわ、科学者“剣蔵”」
そう、幻想郷を創造した“
“八雲紫”SIDE
剣蔵「久しぶりだね紫君。5年ぶりかな」
紫「えぇ、まだ“彼”が15歳の時かしら。懐かしいわ」
久しぶりだからだろうか、目の前にいる剣蔵は老けて見える。
いや、これは恐らく疲れだ。
そして大型のポッドにいる彼は安らかな顔で眠っている。いや
剣蔵「ゼインはこの通りコールドスリープで眠っている」
紫「ふふっ相変わらず可愛い顔をしているわね」
剣蔵「言ってやるな、本人も気にしているんだから」
紫「それにしても、なぜコールドスリープしているのかしら?」
剣蔵に呼ばれた約束だが、実は私は内容を聞かされていない。
でも、ゼインに関係することで呼ばれたことは知っている。
それだけでも私は出向く必要がある。
彼をこうしてしまったのは
剣蔵「ゼインは戦力外通告を受けたんだ。彼はもう戦えない。だから凍結処分されることになった」
紫「!?」
剣蔵「驚くのも無理はない。紫君も知っての通り、ゼインは私の造ってきた兵器の中でも最高戦力の一つだ」
こういう時に自分の読みの鋭さは嫌になる。
ゼインが“最強の人間兵器”でありながら、処分されるなど………普通はありえない。
理由は恐らく一つ。そう、それは―――
剣蔵「ゼインは殺したくなくなったんだ、命を。」
私が彼に人間としての心を能力で与えてしまったがために。
兵器としての存在理由が危ぶまれてしまったのだ。
紫「そう………」
これこそが私の“罪”。
5年前に私が彼にしでかしたことの愚かしさを思い出し、俯いてしまう。
剣蔵「そんな顔をしないでくれ紫君」
剣蔵「君のせいじゃない。君の罪ではないんだ。これは全て私の罪さ。君が背負うものではない」
紫「でも…!私がゼインに“感情”を生まれさせたせいで、彼は苦しんでいたんでしょう」
剣蔵「それでも私は感謝しているんだ。紫君…彼に人間としての心を芽生えさせてくれたおかげで今の私はここにいる」
つい、涙がこぼれ落ちる。視界がボヤけ、彼の顔が見れなくなってしまうほどに。
零れるのではなく溢れるぐらいにまで、私の涙は止まらなかった。
剣蔵「君に頼みたいのは他でもない。彼を…
紫「え?」
剣蔵「幻想郷は私たちの世界と比べて争いが少ない平和な世界と聞いた。ゼインに平和を知ってほしい。だから君を呼んだ」
それを聞くと、不思議と涙腺がおさまった。
“ゼインに平和を知ってもらう”
それは何より、私が望んでいたものだった。
紫「ゼインを…幻想郷に?」
剣蔵「あぁ。これは“科学者”としてではなく、“父”として君に託したい」
これほどに真剣な剣蔵の表情を見るのは初めてだ。
剣蔵はそう言うと、“スーパーコンピューター”と呼ばれるものに近づき、
ゼインの冷凍睡眠状態を解除する。操作はここを統括してる場所全てに伝わるだろう。
昔、そう聞いたことがある。
紫「剣蔵は…どうするの?」
そう聞くと、剣蔵はこちらを振り返って微笑む。
剣蔵「私にはやることが残っててな」
そうしているとアラームが鳴る。
恐らくもうすでにこちらの操作が伝わったのだろう。
仕事が早いものだ。
剣蔵はすぐ、大型ポッドを開きゼインを抱え上げて私に渡す。
ゼインを抱くと非常に冷たい。
冷凍されていたからだろう。
“普通の人間”なら死んでいる。
相変わらず女のような顔立ち。
右腕と右足が改造された義手義足。
そして長く金色に近い茶髪が私の鼻をくすぐる。
剣蔵「頼んだぞ紫君。ゼインを…
彼がこのあとどうなるかなんて、小説を嗜んでいるなら誰にでもわかる。
涙がこぼれ落ちそうになるが
彼の最後に悲しい顔は見せたくない。
紫「えぇ、必ず幸せにするわ!幻想郷に誓って!」
剣蔵「それが聞けただけでも十分だ」
私は即座に“剣蔵が生きてきた世界”と“幻想郷”への境界を繋ぐ。
ゼインを幸せにするという決意を胸に抱いて。
私がスキマを通るとき
剣蔵「ありがとう」
そう、聞こえた気がした。
うまく書けてるか、心配です。