“ゼイン”SIDE
目が覚めると知らない天井が見えた。
ふかふかな感覚が身を包む。
これはもしかしたら布団だろうか?
そう思いながら体を起こす。
「起きたかしら?ゼイン」
隣から俺を呼ぶ声が聞こえた。
隣を見ると、そこには白い服に紫色をかたどったものを着ている女性がいた。
俺は服に関して詳しくないから彼女が着ているものが何かはわからない。
だが、俺には見覚えがあった。
ゼイン「久しぶり、というのかこの感覚は…紫」
紫「えぇ、五年ぶりになるわね」
八雲紫、かつて俺の感情が生まれるきっかけを作った女だ。
ゼイン「状況を理解できない。なぜ俺はここにいる。俺は
紫「それについては説明するわ。でもその前に、貴方に服を着せないと」
ゼイン「え?」
布団の中を確認すると、全裸だった。
普段なら動揺しないが、さすがに女性の前だと俺の心は揺らいでしまう。
ゼイン「……頼んだ」
紫「えぇ、といっても男物の服はないから…私の服でいいかしら?」
ゼイン「冗談はよしてくれ…」
紫「えぇ、冗談よ。貴方の服があるから」
可愛い顔、と言われたことがある俺だが
悪いが俺は男なんだ。
あと女物の服は効率がわるい。防御力に不安がある。
紫「はいこれ」
そう言って紫が渡してきたのは、俺の武装する時………いわばバトルスーツだ。
全身を纏う黒衣にところどころ橙色が輝いた黒いコート。
だが、疑問がある。
なんでコイツがこんなものを持っているのか
ゼイン「なぜお前がこれを持っている?」
紫「説明はあとでするって言ったでしょ」
と言って彼女はこちらを笑顔で見つめてくる。
流石にこれほどの美女に見つめられると照れるんだが…。
それよりもひとつ言いたいことがある、それは。
ゼイン「着替えるんだから出て行け!」
紫「いやん、いけず~」
とりあえず彼女を部屋の外にだす。
一人になって落ち着いたところで部屋を見回す。
どれもこれも見覚えがないものばかり。
これが普通の人が住まう場所…いや、紫は大妖怪というカテゴリの存在だったな。
しかしなぜ俺はこんな場所に…
ゼイン「とりあえず、着替えるか…」
そうして服を取り出し着替える。
着慣れた感覚が身を包んでいる最中にも視られている感覚も背中を刺す。
そしたらドアに小さい紫色の空間“スキマ”があった。
ゼイン「覗きは犯罪だぞ、紫」
そう言うと空間はすぐに消失した。
まったく…昔から変わらんな。
着替え終えると少し違和感を感じる。
顔元になにか足らない気が…
ゼイン「あぁ、
いつも戦闘服の時は仮面を付けていた。違和感としたらこれだろう。
着替え終えて部屋を出ると扉の横で紫が待っていた。
なんとなくだが、一瞬悲しそうな顔を浮かべていた気がする。
紫「あら、相変わらずかっこいいじゃないそれ。身長もかなり伸びてるから五年前とは大違いね」
ゼイン「仮面がないから少し違和感だがな」
紫「まぁ可愛い顔を仮面で隠すのはもったいないわ」
ゼイン「まさかそんな理由で渡してないわけじゃないよな?」
そう言うと紫が少し明後日の方向へ目を向ける。
相変わらずだなこいつ。
紫「まぁそれもあるけれど、さぁついていらっしゃい」
そうして俺は紫の後ろをついていき、驚愕の真実を知ることになった。
“藍”SIDE
私の名は“
幻想郷を創造した大妖怪“八雲紫”様の式神だ。
先日、紫様が素っ裸ーニバル…ごほん全裸の男を連れてきた。
紫『彼の名はゼイン、私たちの新しい家族よ』
あまりにも急だったもので私は疑念を抱かずにはいられなかった。
まさか我が主紫様が、誘拐をしてきたのではないかと…。
とまぁ冗談はさておき
何者だ?あのゼインという男は。
どう見ても普通じゃない。右腕右足は義手義足だし、紫様が持ってきた彼の持ち物
その一部にはどう見ても
後日説明するとは言われているが………
紫様はこの幻想郷で何をしようというのか…
紫「おまたせ、藍」
私が考えに耽っていると、紫様とゼインという男が姿を現す。
私は無意識の内に、あの男への目つきが鋭くなっていた。
“ゼイン”SIDE
紫に連れられて来た部屋には、知らない女性が座っていた。
なんか尻尾があるしそれも9本もある。
彼女も妖怪という類なのだろうか。
紫「紹介するわゼイン、彼女は八雲藍。私の式神よ」
そう言われて藍と呼ばれる女性は椅子から腰を上げ、こちらに会釈をしてくる。
それにしても、部屋に入った時から殺気こもった目を向けられているんだが…
ゼイン「初めまして藍さん。俺の名前はアイン…じゃなかったゼインです。」
そうして俺も会釈した後、紫に指定された席に座る。
ゼイン「ところで式神ってなんだ?」
式神という言葉は馴染みがないどころか知らない。
俺には不要な知識だったせいだろう。
紫「そうね~、簡単に言えば従者みたいなものよ」
ゼイン「あぁ、なるほどね」
あまりにも簡単且つ的確だったのかすぐ納得できた。
紫「ごめんなさいね藍、この子に説明した後でいいかしら。あと紅茶を頼めるかしら?」
藍「はい、わかりました紫様」
そして紫が席に付き、藍が席を立ち部屋を出る。
紫「さて、じゃあひとつずつ説明していくわ」
ゼイン「頼む」
紫「まず、ここは幻想郷と呼ばれる所よ」
ゼイン「幻想郷って…確か紫が住む世界のことじゃないか?」
紫「えぇ、正解よ。付け加えるなら私が作った世界でもあるわね」
ゼイン「それも知ってる。で?俺がなんでその世界にいるんだ」
紫「剣蔵に頼まれてあなたをこっちの世界に連れてきたのよ」
ゼイン「なんだと!?剣蔵が!?」
剣蔵は俺を作った科学者だ。人間でいうなら父親みたいなものだ。
俺たち人間兵器は父親と思う感情さえないだろうが。
俺の中じゃそういう立ち位置だ。
ゼイン「剣蔵はいまどこに?」
紫「………推測だけど、死んだわ、いえ殺された」
ゼイン「なっ!」
俺が
ゼイン「どういうことだ!俺が眠ってる間に…そんな」
紫「今から説明するわ、三日前の出来事よ」
そして紫から聞いた。ことのあらましを。
紫は剣蔵に俺を託され、剣蔵が俺に“平和”を知ってほしいという願いを託したということを。
ゼイン「…大体は把握できた。なるほど、だったら
紫「えっ!それはどういう意味!?」
ゼイン「俺たちの世界では記憶を人間から読み取り情報、データ化する技術が存在している。
紫「自殺…ということ?」
ゼイン「あぁ、紫の言っていることが本当なら、剣蔵は情報を漏らさないためにお前と別れた後に頭を撃ち抜いたんだろうさ。剣蔵…バカだよお前ってやつは」
紫「あなた……ッッ」
紫は怒りの表情を見せた後、すぐ俯いてしまった。
多分、俺の顔を見たからだろう。
“父”が死んで悲しむ感情は、確かに俺にはあったらしい。
ゼイン「それで、俺がこの幻想郷で“
紫「それを私たち“八雲”が貴方に教えるわ。貴方に感情を与えた。それは私の罪。貴方のためならなんでもするわ」
その言葉を聞いて、俺ははっとした。あの時の紫の悲しむ表情は…
なるほど、そういうことか。
ゼイン「紫、一つだけ言っとくぞ。俺はあんたに感謝してる」
紫「えっ…?」
ゼイン「人としての感情を与えてくれたことを感謝してるんだ。俺はさ」
紫「でもあなたはそれで苦しんでしまったじゃない!剣蔵から聞いたわ…貴方に感情が芽生えてから、命を殺すことに苦しむようになったって…」
ゼイン「………そこまで聞いたのか」
そう、苦しんでないといえば嘘になる。
あの日、紫が俺の脳の感情を抑制するリミッターの境界をいじったことにより
兵器としてではない、人間の感情が俺の中で芽生えた。
その中でも一番強かったのが
あの日から機械のように人間を処理していた俺が
怖くなった。
それでも殺すことが俺の“
だが、目の前で泣いている紫を見て思い出す。
よかったこともいっぱいあるということを
ゼイン「確かにそれで苦しんだこともいっぱいある。それでも感情が…人間でよかったと思ったことはある」
紫「人間でよかったこと?」
ゼイン「そうだ。殺すしか能がない兵器だったが、人を救うこともしたことがある」
紫「!?」
ゼイン「おかしなはなしだろ?殺人機械として生まれた俺が人助けなんてさ。それでも救ったことを後悔したことは一度もない。むしろ」
そう、人間ならよく言われるんだろうが兵器としては決して言われる言葉。それは
ゼイン「救った人に
その言葉こそが、俺の新たな
ゼイン「その時からだ。俺が“人を救いたい”なんてさ。それを初めに話したのは剣蔵だったよ。あいつも驚いてたな」
紫「そう…」
紫の顔を見ると、彼女は救われたような顔をしていた。
涙を目に浮かべるその綺麗な笑顔は、とても美しかった。
ゼイン「だから、気負うなよ紫。泣いてるお前なんてらしくないぜ」
紫「ふふっ…そうね。じゃあ貴方に新しい名を授けるわ」
そして紫は席を立ち、いつも通りの余裕のある風情を見せる。
ゼインでいいだろ。とは思ったが、その名は兵器としての俺だ。
どんな名前を付けるか期待で胸が躍る。
俺の新しい名…それは――――
紫「“
ゼイン「安直すぎて聞く気も起きねーな。了解。」
ツルギ「今より俺の名前は“八雲剣”この幻想郷で俺は人間になりたい」
紫「もちろんよ、ツルギ、今よりあなたはこの八雲家の一員。家族よ」
こうして俺は家族というかけがえのないものを手に入れる。
幻想郷…不思議な響きだ。温かい感覚。
この幻想郷で、俺は新しく生まれ変わる。この新たな場所で。
ここから本編開始になりますが、次に投稿するのはキャラ紹介になります。