Place:八雲家居間
"藍"SIDE
ゼイン…いや、ツルギが部屋に戻った後のことだ。
紅茶を飲んだツルギはとても子供らしい眼差しで
ツルギ「こんなに美味い紅茶は久しぶりだ!」
と何杯もおかわりしていた。
あの表情が可愛いという紫様の言葉も、嫌々ながら納得をせざるはえないだろう。
紅茶を飲んだ後、ツルギは睡眠を取りに部屋へ戻った。
今この場には、私と紫様だけが残されていた。
藍「では、紫様。お聞かせください。あの男は一体、何者なのでしょうか」
紫「藍?あの男ではなくツルギとお呼びなさい。彼も今日から八雲家の一員なのだから」
藍「も、申し訳ございません」
紫「まぁ、貴方が疑り深くなるのはわかるわ。あんなもの見せられたらね」
そう言うと紫様がスキマからツルギの所持品…
殺傷兵器の数々が出てくる。
といっても色が正反対の二つの銃。黒と白の双銃。
それとあらゆる形をしたコンバットナイフだった。
そこまで多くはないが
"
紫「これについては、ツルギの出生から話していかないといけないわね」
そう紫様が呟くと紅茶を軽く口に含んで飲み込む。
私は内容が気になって聞く姿勢を維持していた。
紫「話したことはあると思うけれど、あちらの現実世界は戦争が頻繁に起こっていたのよ」
以前に聞いたことがある。
平和な国の日本だったはずの場所も今では技術は全て戦争に費やされており
かつての原型はそれほど残されておらず
戦争に対抗できない国は全て周囲の国が飲み込んでしまっている………と。
藍「はい、お聞きしました。我らの知っている日本とは大違いであると」
紫「えぇ、そう。日本ではその高い技術力を駆使して戦争の道具をたくさん生み出しているわ。その中でも禁忌なもの、それが
藍「人造人間……ですか」
SF小説はそれほど読んだことはないが、どういうものかぐらいは知っていた。
人間が生み出した
人造人間は生命への冒涜だ。それは人間の傲慢によって生み出された"偽物"に過ぎない。
紫「まだ、何かに役立つ仕事のために作られたならわかるのだけれど…」
藍「まさか…戦争の道具として作られたのですか?」
紫様はコクっと肯定の意を表した。
紫「それの一つがゼイン…いえ、正確に表すならその原初がゼインなのよ」
藍「!?」
なぜそれにツルギと呼ばないのかは大体見当はつく。
人造人間の話が出てきた時点で、ツルギがそうであるとは思ったが……
原初…つまりプロトタイプ。
紫「といっても完全な人造人間のプロトタイプなのだけれど…」
藍「完全ということは…不完全な人造人間が多くいるのですか?」
紫「えぇ、生み出された人造人間の9割は不完全でしょうね」
確かに彼は非常に人間らしかった。
正直人造人間と聞いてあれほど人間らしいとなれば
完全であると聞いても驚きはなかった。
藍「確かにツルギはとても人間らしい様に見えましたね。それが完全なのも」
紫「藍」
紫様の表情が急に鋭くなる。
何か間違ったことを言ってしまったのだろうか。
紫「確かに彼はとても人間らしい。少なくとも人造人間の中では一番。でもね、
藍「あっ!」
言われてみればそうだ。戦争の道具、兵器として扱われているにも関わらず
感情があるのは確かにおかしかった。
紫「人造人間はそもそも人間の脳のリミッターを解除させるために作られたのよ。藍も雑学とかで聞いたことない?
人間の脳にはリミッターがかかっていて、人はその2割程度しか力を発揮させていないって」
藍「はい、しかしそのリミッターがないとそもそも人間の体は持たないと……」
紫「えぇ、私たち妖怪にそのリミッターは存在しないわ。人の形をしていても関係なくね。
でも、研究者たちにとってそれは一段階目に過ぎないの」
藍「一段階目…」
人間のリミッターを解除しても耐えられる身体能力を持った人間が兵器として使われるのはわかる。
実際それほどの力を持てば戦争に勝つ確率はぐっと上がるだろう。
しかし…これでも一段階目だというのか?
紫「研究者が人造人間にさせたかったこと、それは超常能力を行使させることよ」
藍「能力の行使!?それってまさか…」
我々幻想郷の民には『~~~程度の能力』という力を備えている存在は少なくはない。
現に紫様も『境界を操る程度の能力』という莫大な力を持った能力を保有している。
私にも『式神を操る程度の能力』を持っている。
力不足で私の式神"橙"は中途半端な力しか持ってはいないが……
いわば幻想郷でいう能力は一種の才能である。
能力の概念がどう言われているのかは詳しくはないが
私はそう考えている。
能力の属性として、霊力・魔力・妖力・神力とあるが
このいずれかの力が大きくないと能力には目覚めないだろう。
まぁ、例外はあるだろうが…
紫「要は私たちのように自然に目覚めるのではなく植え付けられるのよ」
藍「しかし、能力には…」
紫「えぇ、霊力・魔力・妖力・神力そのいずれかで能力は色々異なってくるけれど」
藍「人造人間には…」
紫「えぇ、そのどれとも該当しないわ」
藍「では植えつけられたとしても、行使はできないのではないですか?」
紫「えぇ、それを研究者はとてもじゃないけど狂ってるようなやり方で行使させているのよ…」
藍「狂ってるようなやり方…とは」
紫「寿命を力に無理やり変えているのよ」
藍「なっっ!?」
それはもはや生命の冒涜どころの話ではなかった。
現代の人間はそこまで腐りきってしまったのだろうか。
機械大好きのあの河童が聞いたらさぞ憤怒することだろう。
人造人間の仕組みはよくわからない。
そもそも魂という概念があるのすら…
しかしツルギからは小さいが霊力を感じた。
人間としては確立されているのだろう。
紫「そして能力の研究が進んだけど、そんな無理やりな方法では失敗は多いでしょうね」
藍「………」
それはそうだ。いくらリミッターに耐えられる体を作れても、寿命までは操作できないだろう。
ましてや能力の強さの匙加減でどれだけ寿命が持つかもわからない。
紫「でもひとつだけ欠点があってね。能力を所有させるとその個体しか持てない仕組みなのよ」
藍「えっ、では……」
紫「でもその欠点をカバーする"
藍「それは確かに失敗が多くなるわけですね」
紫「そして、その最初に生み出された能力で唯一成功してるのがツルギ…ゼインなのよ」
なるほど…彼は完全体のプロトタイプにして
人造人間の中でも最も完成された個体なのだろう。
能力の保有と感情の豊かさ。
それこそがあの男『ゼイン』なのだろう。
藍「それで…彼の能力は一体どんなものなのでしょうか」
紫「……私も直で見たことはないからどんなものかはわからないのだけれど」
と言って紫様は紅茶に手を伸ばし、喉が渇いたのか飲み干してしまう。
紫「"
藍「……0と1?」
一瞬、どんな能力かを想像してみたが混乱した。
数学の知識には自信がある。
だが、それはとんでもない能力のような気がした。
考え込んだ顔をしていると紫様から質問をされる。
紫「では藍に質問。0と1ってどんな意味がある?」
私は即座に対応できた。
藍「えーっと考えつく限りでは…」
1.真と偽
2.ONとOFF
3.陽と陰
4.光と闇
5.生と死
6.無と有
7.神と虚無
8.創造と破壊
藍「………」
正直、ここまで冷や汗をかいたのは我が生涯で初めてかもしれなかった。
紫「その様子じゃ、あなたも私と同じ考えに行き着いたようね」
藍「ではツルギの能力は!?」
紫「恐らく、この幻想郷でも最凶で災厄に成りうる能力でしょうね。私じゃ手も足も出ない程の。
それが彼を最強たらしめる能力でもある」
思いついてから冷や汗が止まらなかった。
そんな能力に体が持っているあのツルギが急に恐ろしくなってしまった。
藍「紫様、真剣にお聞きします…この幻想郷をどうなさるおつもりなのでしょうか」
無礼な質問であることは分かっている。紫様の目も非常に威圧的で鋭かった。
しかし、我が主が間違ったことをしようものなら
私は止めたかった。
紫「ツルギを幻想郷に連れてきた理由は、
藍「…はい。無礼は承知の上です。しかし私は紫様を…っ」
気づくと涙がこぼれ落ち、溢れていた。
それを見ると紫様は微笑みを浮かべる。
紫「安心しなさい藍。決してそんなことはしないわ。私は幻想郷を愛しているのだから」
藍「ゆか…りさま…?」
紫「これは五年前の話よ。私があちらの世界に赴いた時。ひとりの少年がいたわ」
紫様は思い出すように、いやまるであれは懺悔のような表情だった。
微笑みを浮かべてはいるが、それはどこか悲しそうだった。
紫「その少年はまだ15歳の時だったかしらね。彼は血まみれで座っていたの。あの世界のことを剣蔵から聞いていたから
その子が人造人間だったってことはすぐにわかったわ。人間はあれほどに無機質な表情しないもの」
藍「無機質…ツルギはそうは見えませんが」
紫「誰もその子がツルギなんて言ってないわよ?」
藍「あっ…」
紫様がクスっと笑った時、不謹慎ではあるが私もクスっとしてしまった。
そして紫様は話を続ける。
紫「その子が座ってたから挨拶したら、彼は手にある物を持ってたの」
藍「ある物…ですか?」
紫「えぇ、それは"小鳥"だったわ。人造人間の彼がその小鳥を持って、無機質な顔は変わらなかったけれど涙を流していたのよ」
藍「涙…」
紫「そして私がお花を添えてあげましょう。と言って一緒にお墓を作ってあげたわ。そしたら彼、こう言ったの」
ゼイン『命ってどうしてこんなにも儚いんだろう』
………私は無表情で驚愕した。
あちらの世界が戦争状態なのなら、命はすぐ散ってしまうものだ。
それを儚いと言った彼は、最強の存在である彼には、その答えがわからなかったのだろう。
紫「流石に驚いたわ。正直剣蔵に嘘をつかれたんじゃないかってね。人造人間の脳は感情を
藍「能力の影響でしょうか…」
紫「恐らくね。そして私は人間らしいその子を見たくなって、つい罪を犯してしまった」
藍「罪…まさか!?」
真実に至るまでの思考は思いとどまることを知らず、すぐにたどり着いた。
恐らく紫様は――――――
紫「『境界を操る程度の能力』で彼の脳の
シリアス多めっすね。まぁ序盤だから許してくだちあ。