王狼は荒野に吠える   作:深淵騎士

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荒野の狼

 

「~♪」

 

 

何処からともなく聞こえる、陽気な鼻唄。此処は《ヘリック共和国》と《ガイロス帝国》の国境……どちらかと言えば、共和国側に位置する辺境の村《ケーニヒ・コロニー》。

 

現在、共和国と帝国は戦争を起こしており戦火を広げていた。このケーニヒ・コロニーは比較的戦争の影響は殆ど受けておらず、平和で穏やかな村である。

 

そんな村のとある民家の屋根で気持ち良さそうに寝ている少年が一人。そしてその民家の側には、白く大きな体躯を持つ狼型のゾイドが。

 

狼型のゾイドが顔を上げると、少年の方にオレンジの眼を向ける。

 

 

「……なんだ?」

 

 

ウウウゥゥゥゥ……

 

 

小さく唸る。まるで何かを訴えるように。

 

 

「わかってるって、けど出発は明日だろ?今はのんびりしよう」

 

 

彼の言葉を聞き、ゾイドは再び顔を寝かせる。

 

少年の名は『ファング・ヴォールフ』。側に居るのは彼の愛機(パートナー)の……

 

 

「明日から楽しみだな……『ケーニッヒウルフ』」

 

 

 

 

――数週間後

 

 

 

 

ここは《ヘリック共和国》の首都“ニューヘリックシティ”から遠く放れた地。辺り一面、砂、岩、砂、岩……所謂荒野だ。日光によってじりじりと照らされ熱砂により景色が揺らいで見える。

 

その荒野を横断する一機の黒いカラーリングの昆虫型ゾイド『グスタフ』。後ろの荷台には大きなコンテナが積まれている。

 

搭乗者は髭を生やした中年の男、陽気な鼻唄と共にグスタフの操縦をこなす。男の名は『ジーン』、愛機のグスタフと共に運び屋としてそこそこ名は通っている男だ。

 

今回、彼が請け負った仕事はこの荒野を越えた先にある街に荷を届ける事、何て事のない物だがこの近辺は“スリーパーゾイド”が生息しているという。比較的安全とも言える道を使っているか 、下手をすればそれに襲われる可能性もあるため油断は出来ない。

 

 

「さてと……」

 

 

地図を広げ、現在地を確認する。

 

 

「ここを越えれば街に着くか……もう一踏ん張りだ、頑張ってくれよ相棒(グスタフ)

 

 

ジーンの声に答えたのか、少しだが走る速度が上がる。上機嫌なジーンを他所に迫り来る影が。

 

グスタフのセンサーに反応があり、ジーンは画面を食いつくように覗く。

 

 

「ん?おいおい、まさかだとは思うが―――」

 

 

嫌な予感は的中、グスタフは左右にぐらりと揺れる。キャノピー越しに見えるのはサソリ型のゾイド。

 

 

「やべぇ『ガイザック』か……」

 

 

ガイザックはグスタフにまとわり付き、機体を激しく揺らす。センサーにはもう一機の反応が見られる。今度は後方から音が聞こえた。

 

 

「おい!まじか!」

 

 

荷台に積んだコンテナにガイザックが乗っかっていたのだ。中には街に届ける食物や水等が大量に入っている。あれがダメになっては報酬もクソもない、それにグスタフ自体が戦闘用ではないため、ジーンは逃げようとすると

 

 

「……なんだ?」

 

 

耳に届く狼のような声。その声が聞こえた瞬間、荷台から大きな音と共に反応がグスタフから離れる。

 

 

「!?」

 

 

グスタフ本体に接触していたガイザックも引き離され、視界にはこの砂地にはそぐわない真っ白な装甲が映る。

 

装甲の持ち主は全長20mはある、狼型のゾイド。同じく狼型のゾイド、コマンドウルフとはあまり似つかない外観、見たことのないゾイドだ。

 

そのゾイドから通信が入る。

 

 

『大丈夫か?』

 

「こ、子供?あ、ああ何とかな」

 

 

モニターに映るのは白髪の少年。狼型のゾイドはグスタフを守るように、前に立ちガイザックを睨み

 

 

オオオオオォォォォォン―――!!!!

 

 

遠吠えを上げると、ガイザックはゆっくりと後退し砂に潜り姿を消した。側には反応は無い、狼型のゾイドがジーンのグスタフの方に向くとハッチが開く。ジーンもグスタフのハッチを開け

 

 

「お陰で助かった、礼を言うぜ」

 

「気にしなくてもいいって、無事で何より」

 

 

笑顔で答える少年。

 

 

「俺は運び屋をやってるジーン、よろしくな」

 

「俺はファング・ヴォールフ、こいつは相棒のケーニッヒウルフだ」

 

 

王狼(ケーニッヒウルフ)―――聞いたこともない名前のゾイドである。恐らく見た目からするに、共和国の新型か何かだろうと考える。

 

 

「ファングだったか、助けてもらった恩を返したい、晩飯でも一緒にどうだ?」

 

「え?」

 

 

もう空は茜色に染まり、太陽も沈む時間になっている。

 

 

「いや、いいよ……悪いし」

 

「こちとらお前さんのお陰でコンテナが助かったんだ。それくらいはさせてくれよ」

 

「……それじゃあお言葉に甘えて」

 

 

 

 

 

 

夜空に浮かぶ二つの月、暗くなった大地にはコンロの小さな光だけが照らしている。それを挟むように座るジーンとファング。

 

 

「そうか、お前さん一人で旅をしてるのか」

 

「そうそう、ケーニヒ・コロニーって村から出てきたんだ」

 

「ケーニヒ・コロニー?国境付近のか?」

 

 

温めたスープをよそいファングに手渡す。

 

 

「ありがと。まあ旅に出た理由としては、もっと世界を見たかったってのがあってね」

 

「その口ぶりからするに、他にも理由があるのか?」

 

「ああ」

 

 

頷くと、彼はケーニッヒウルフを見る。

 

 

「こいつが何なのかを知りたいってのもあるし」

 

「ふーむ、俺も長年ゾイドを見てきたが、このタイプのゾイドを見るのは初めてだ」

 

「やっぱり?……ケーニッヒはあまり“自分の事”を話してくれないから解らず仕舞いなんだ」

 

 

ファングの言葉に奇妙な感覚を覚えるジーンだがあまり詮索をしないことにする。自分の分のスープをよそい口に運ぶ。

 

 

「あっち!お前さんよく平気だな……」

 

「そう?ちょうどいいけどな……」

 

 

熱々のスープを再度口に運ぶファング。何処か変わったボウズだ、ジーンはそう思い彼を見ていた。

 

 

「それで、今は何処に向かってるんだ?」

 

「今はニューヘリックシティ。そこに用事があってね、行った後は流れに任せて、かな」

 

 

ニューヘリックシティにはジーンも何度か赴いたことのある場所である。だが現在戦争の真っ只中、最近は全く行っていない。

 

 

「その前に、この荒野を越えた先にある街で食料の補給をしようと思ってさ」

 

「ほう、なら途中まで目的地は同じか。なら街まで一緒にどうだ?またスリーパーに襲われたら敵わん、お前さんとケーニッヒウルフが居れば安心だ」

 

「俺は構わないよ。お前もいいだろ?」

 

 

声をかけるが、ケーニッヒウルフから反応が無い。

 

 

「全く、無口だよなぁお前……」

 

 

不満そうなファングであった。

 

 

 

 

 

 

翌日、荒野を進むグスタフとケーニッヒウルフ。

 

 

「ところでさ、ジーンさんは何時から運び屋をやってたんだ?」

 

「さあな、物心付いたときにはもうこうしてグスタフの操縦をしていた」

 

「長い付き合いなんだ……そっか、こうして一緒に居るのが好きなんだな、お前」

 

「何か言ったか……!?」

 

 

グスタフを急停止させるジーン。前方には2体のデザートカラーのコマンドウルフが立ち塞いでいた。

 

 

「何だあいつら……」

 

「……」

 

 

ファングの元に音声通信が送られる。

 

 

『小僧、またあったな』

 

「会いたくはなかったんだけどね……」

 

『抜かせ……さあ、今日こそ貴様のゾイドを頂くぞ!』

 

「断る、ケーニッヒをお前らなんかに渡すものか」

 

 

会話に置いてかれたジーンは、ファングに

 

 

『奴等は一体なんだ?』

 

「ケーニッヒを狙う盗賊、前に襲われたことがあるんだ」

 

『盗賊か……』

 

「あいつらの事は任せて、ジーンさんは後ろに!」

 

『ちょ、おい待て!』

 

 

ファングとケーニッヒウルフはジーンの制止の言葉を聞かずコマンドウルフ目掛け走る。

 

 

「全く……みた感じ射撃武装も持ってなさそうなのによ……」

 

 

そう、ファングの駆るケーニッヒウルフには射撃武装の部類は見当たらない。あるのは後方に伸びた一対のユニットと牙と爪だけだ。

 

盗賊のコマンドウルフの接近するケーニッヒウルフ。片割れは不適に笑い

 

 

「この間は油断したが……今回はそうはいかない!撃て!」

 

 

背部に設けられた“50mm対ゾイド2連装ビーム砲座”による砲撃がファングとケーニッヒウルフに襲いかかる。しかし彼はふっと笑う。

 

素早い身のこなしで双方から放たれるビームを避け迫る。

 

 

「何であの図体で当たらねぇんだ!」

 

「構うな撃て!撃ってればいずれ……」

 

 

既にコマンドウルフの目と鼻の先に肉薄しているケーニッヒウルフ。

 

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 

グオオォォ!!!!

 

 

右側に位置していたコマンドウルフの2連装ビーム砲は、ケーニッヒウルフの鋭い爪で引き裂かれる。

 

 

「くそが!」

 

 

ケーニッヒウルフは飛び退き、残ったコマンドウルフのビームを回避し距離をとる。

 

 

「よくも仲間を……許さねえぞ!」

 

「許すも許さないも……あるかっての!駆け抜けるぞ、ケーニッヒ!」

 

 

ウオオオオォォォォンッ!!!!

 

 

天に向かい吠え、襲うビームを左右に飛びながら避け、コマンドウルフとの距離を縮める。間合いに入った、銀爪が青白く輝き始め跳躍。

 

 

「くらえぇっ!!」

 

 

放たれた爪撃はコマンドウルフの右脚を装甲もろとも容易く砕く。

 

 

「ごめんな、コマンドウルフ……」

 

 

右前脚を失い倒れるコマンドウルフにそう言葉を投げ掛けるファング。

 

彼の戦いを見ていたジーンは唖然とする、2体のコマンドウルフを一分にも満たない時間で倒し、尚且つ一切の被弾すらなかった。

 

 

「やるな、あのボウズ……ケーニッヒウルフ、か……」

 

 

勝利したことからか、ケーニッヒウルフは高らかに遠吠えを上げた。

 




子供の頃を思い出しながら、この作品を執筆していました。ライガーゼロイクス、バーサークフューラーがお気に入りですが、昔一番好きだったのはケーニッヒウルフだったのを思いだし、この作品の主人公機として選びました。

ケーニッヒウルフのコンセプトも結構、私好みでもあるので…
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