ゴールデンウィークは実家に帰省していたので執筆が一時止まりましたが、今日からまた
三日くらい連投をしたいと思います。
切嗣は城のテラスにいた。ケイネスとの戦闘で破砕されなかったそこで、ワルサーWA2000
にAN/PVS04暗視スコープとスペクターIR熱感知スコープを装着したものを、もはや抱え込む
ようにして構えている。銃よりもスコープのほうが大きいのもそれの理由だ。
「今ここでライダーを倒さねば…僕たちは脱落の確率が高くなる…」
少女とはいえ、あのライダーは英霊である。
にもかかわらず、切嗣はこの長距離の狙撃を敢行した。弾丸に使用するのはアインツベルン
の秘術を駆使して作り上げた、第5要素の塊であるサーヴァントに対しても威力を持つ特注の
ものだ。弾丸内部に込められているのは聖杯を錬成する過程でできたエーテル体の凝縮物。
当たれば、それはすぐさまサーヴァントでも影響を及ぼす。高純度のエーテル体同士の対消滅
による致死傷。それがアインツベルンにおける実験で、高位の召喚物にあてたときの結果だ。
はっきり言って、この世に存在する中でも最も高い部類の弾丸だ。アトラス院にあるという
七大兵器“黒い銃身”には及びこそしないが、類似効果をもたらす。ケイネスに対して
起源弾を使ったのは、あの程度の魔術師を殺すために使うには弾のほうが惜しかったからと、
あくまでも高位のエーテル体である対サーヴァント専用であるためだ。人間などには効果が薄い。
これは弾数にして三発しかない。ワルサー対応が二発と礼装のトンプソン・コンデンター対応が
一発。あくまでもサーヴァントを倒す時の保険として考えていたが、まさかこのタイミングで使
うことになるとは思ってもいなかった。少なくとも序盤では使わない予定であった。
…落ち着け。
心にそう言い聞かせ、意識を集中せていく。この弾丸を、人間としての弱点である頭部
もしくは心臓に直撃させればいかにサーヴァントといえど、負傷どころかひん死になるだろう。
問題なのは霊核を狙わねばらならないことだが、それなりに魔術をかじっていればそれくらいは
わかることだ。
「…」
引き金に指をかける。絞り込むように弾くのが肝要だ。握りこんでは、余計な力がかかって
狙いがぶれる。たとえ倒せなくとも、弱らせればこちらの勝ちだ。令呪によってセイバーを
向かわせてとどめを刺すように命じればいい。たとえそれが、
しゃべることになっても、と切嗣は腹をくくっていた。追加の令呪も得られるのだ、プラス
マイナスゼロだ。何としても自分はこの聖杯戦争を勝ち抜かなくてはならない。
アインツベルンとの盟約など、あくまでも手段の一部。
自分が夢見る、目的のために。
冷たく冷たく、意識を機能としていく。
ほかの雑念を追い払い、集中し、人間としての体を銃を撃つための精密な機械とする。
余計な感情はいらない。
「…よし…」
銃口とスコープが向く先、ついにライダーの動きが止まる。何かをのぞき込むように膝をついて
いる。そしてその方から金色の何かが倒れているなにかの上に飛び乗った。
つい、好奇心からそれを追った直後、切嗣は後悔と同時に身が縮みあがるような感覚に襲われ、
危うくライフルを落としかけた。
アイリスフィールだ。
地面に倒れている彼女の姿は、狙撃をしようとする切嗣にとってはどれほどの衝撃だったかは
想像に難くはない。戦闘態勢という緊張状態に、愛する妻という弛緩状態への材料は『魔術師
殺し』と呼ばれていた切嗣にとって致命的となった。
…まずい。
しばらくの間、頭の中が真っ白に染まった。それでも狙いをぶらさなかったのは
訓練のたまものだろう。だが、思考を再開した時彼は焦りを知らずに感じ取っていた。
そして、引き金を握りこんだ、狙撃目標である少女の姿のライダーに向けて。
●
そして切嗣の誤算だったのは、そういったはるか彼方からの狙撃を探知しうる
ウフコックの存在と、生きた超高性能レーダーのような能力を持つライダーの皮膚の
存在だった。
「ライダー!」
飛び移りながらウフコックは
動きを読み切り、綺麗に利き手である左手にずっしりとした拳銃をつかんで、一瞬で
弾丸を拳銃の内側から装填した。ライダーの知覚は、一直線に飛んでくる弾丸の存在を正確に
とらえた。通常の拳銃に装填されるような弾丸とは違う、長く鋭い金属の弾丸。それに
刻まれた細かな螺旋すらも感じ取りながら、まったく別のことも感知した。違和感、いや
異変だ。それは霊体であるライダーの第六感に警報を鳴らし、立ち上がりかけた体を
そのまま後ろへ倒れこませることを選択させた。そして左手は拳銃の引き金を照準を目視で
合わせることなく、己の感覚に任せて絞った。
一撃での相殺は無理。そう判断するなり、ライダーの射撃は連続した。一発目をあてて、
わずかに軌道がそれた銀色の弾丸横っ面をたたくように二発目を打つ。そして三発目、
四発目と畳みかけるように。それでも、狙撃中の威力は高い。
---まだ…!
ライダーは加速する感覚の中でさらに引き金を絞った。そして、体を覆うように
ようにウフコックに伝えてそのまま地面へと飛び込む。
「かわしたか…」
一秒以下の刹那に、弾丸の軌道を自分からそらしたライダーは、戦闘服の裾から広がった
巨大なクッションに包まれながら地面に安全に着地した。はじいた弾丸は近くに生えていた
木に命中すると、木は砕けるというよりは真っ白な光を辺りにふりまいて、軽い爆発を
発生させていた。半径数メートルが文字通り“消滅”に近いような現象によって更地となった。
ライダーは直撃を受けていたらと考えるだけで背筋が凍るような感覚を得る。
---あの弾丸、変な感じがした。
「うん…どうやら対サーヴァントの特化型銃弾とみるべきだな…第五要素の我々に
影響を与えるようなエーテルを使った武器ということは並の人間が鋳造できる
ものではないはずだ」
つまり、とウフコックは左の手袋の中で言う。
「アインツベルンが造り出した物だろう。セイバーを擁し、さらにはこんな手段まで
つぎ込んでくるとは、相当この戦争に入れ込んでいるな」
---私たちには相性が悪いみたいだけどね。
ライダーは、その見た目に反して裏社会の人間たちと生前に数えきれないほど戦ってきた
経験を持っている。自己の存在証明とはいえ、その経験はかなり豊富。これまで狙撃や
毒殺、爆弾などのトラップにも対処してきたのだった。そういう点、ある意味切嗣に
とっては天敵以上の化け物といっても過言ではない。この場で反撃してもいいのだがこの手の
狙撃をして失敗したということは、もう狙撃したポイントにはもういないだろう。
「どうする?このご婦人がいれば、この聖杯戦争の謎が解けるとは思うが」
---でも、それは本当に有用なこと?私たちの聖杯戦争への
ことになると思う。
焦げ付き。自身の中にある、醜い部分に身を任せて行動することをライダーは懸念した。
自身の宝具である緊急特例法案の力を使えば、おそらくウフコックの感じている違和感の
正体を解明し、さらには聖杯戦争のシステムを知ることもできて大きなアドバンテージを
得ることとなるだろう。
だが、それが果たしてライダー達がの私情を交えていない、社会的に有用なことかは
判断がしにくいことだった。白のホムンクルス アイリスフィールは人質にもなりうる
人物であることは明白だ。彼女はおそらくこの戦争のキーパーソンであり、けっして欠くこと
が出来ない存在。それを盾に聖杯戦争を勝ち抜こうという意思が強くなれば、緊急特例法案は
宝具の持ち主であるライダーに牙をむき、ウェイバーの脱落が決定する。
---確か、令呪が配られるときは教会に行くの?
「そうなるだろうな…ただ、果たして無事に家まで帰ることができるかは不明だ。
アーチャー陣営が不気味なほど沈黙を守っているのも怪しいうえに、監督役とも
グルであるからな…」
---ランサー陣営だって令呪はほしいでしょ?あの時使ってしまったもの。
三画しかない令呪は、命令権としての機能以外にもサーヴァントへのブーストを行ったり
瞬間移動などの“魔法”に等しい事も実現可能で、単純な無色の魔力としての機能も
あるという心強いものなのだ。
「ならば、ランサー陣営とともに教会に行けば比較的安全だろう。ハンプティを
使えばあのアサシンでも追尾は難しいはずだ」
現在ライダーが“緊急特例法案”によって得ているのはハンプティと、ドクターを召喚
するスキルの二つ。あと二つの宝具を具現化することができるが、その選択は慎重にしよう
と考えている。戦闘向きの宝具を一つライダーの適正に合わせて候補にしているほか、
場合によっては、法案の力を借りて“とある大魔術”すらも使用することを検討しなくては
ならなかった。それとの兼ね合いも考え、ウフコックは提案した。
「最後は、マスターであるウェイバーの判断を仰ぐしかない。あのアインツベルンの
本当のマスターがあのホムンクルスのご婦人でないとするなら、いったい何者なのかを
確かめる必要もあるからな」
---うん。じゃあ、今日は帰りましょう。
手をかざして目の前にハンプティ=ダンプティを呼び出し、それへと乗り込む。
決して長くはない時間だったが、この間に様々なことがあった。キャスターの討伐、
ランサーのマスターの侵入、アサシンのマスターの侵入、さらにはアインツベルンの
ホムンクルスの正体と腕の立つ狙撃手。いよいよ混戦模様を鮮明にする聖杯戦争は
最初の脱落者を出して、二日目を終結した。
「もう一つ、やることもあるようだがな」
●
キャスターの脱落は、綺礼を通じて監督役である言峰璃正へと伝えられていた。勝手に
教会から出たことを綺礼は注意されたが、その目的が独断専行を正当化したことは紛れも無い
事実だった。
しかし、当初の目的をあまり果たせていないのは明らかで、いささか落胆の色を
にじませながら、璃正は通信用の礼装を通じて時臣と密談していた。
「判明したのはライダーの巨大な飛行住居と対象を浮遊させる機械の、合計二種類の
宝具のみ。これらによってキャスターの上空からランサーとともに強襲し、子供たちを
救助。あとはキャスターとの戦闘にはセイバーとランサーが行い、ライダーは
飛行住居によって人質をこの教会に送り届けました」
『手際のいいことだ…ランサー陣営とライダー陣営は同盟関係にあるとみてもいい。
しかも、ランクが低いとはいえ宝具を惜しげもなく使うということは…』
「まだ宝具を隠していると、そういうことになりますな」
『あるいは、アーチャーのように多くの宝具を内包した宝具を有しているということも
考えられる事でしょう』
時臣が一番警戒しているのは、アーチャーの“
が有していることだ。今回得た情報の限りでは、それほど、アーチャーのように自由では
ないにしろいくつかの宝具を利用できる可能性が高い。しかもライダー自体の属性や行動パターン
から言ってアーチャーよりも戦略的に扱いやすいサーヴァントなのだ。
「アサシンの件が露見している以上、あまりランサー・ライダー陣営には手を出すことが
出来ないかと…ここはおとなしく令呪を褒賞として贈り、干渉を抑えるのが得策だと
私は考えます」
『…仕方がない。キャスターのマスターについてはアサシンを利用して何とかしましょう。
場合によってはキャスターのマスターも討伐の対象としておけば、私は令呪を得られ
ますので』
「では時臣君。こちらで何とかそこは…」
ブツリ。璃正の目の前で、礼装は不可思議な音を立てた。まるでどこからともなく邪魔が
入ったのかのように。しかし落ち着いて璃正は礼装を操作し、魔術的な回線を復旧させようと
した。
「聞こえるかね、時臣君?」
沈黙しか、帰ってこなかった。さすがに不審に思った璃正はいぶかしげな表情を
作った。この教会はマスターやサーヴァントの侵入や干渉は禁止された中立地帯。現段階で
ルールに問題なくこの教会に干渉できるのはいないはずだ。
…いや…まさか…
璃正は努めて冷静に思考した。ルールに従っていれば不可能だが、ルールをあえて無視した
のならばどの陣営にも可能だ。そして、監督役にこんな行動をとれるのは以前にもこのような
警告を発してきた陣営だけだ。
「…ライダーか?」
『お察しの通りだ、正確にはライダーの協力者だがな。そちらは監督役の言峰璃正かな?』
礼装に干渉されてる。発せられた声は男性の声で、あの少女のものではない。渋く深みが
ある声の主はショックで硬直した神父をよそにしゃべりだした。
『およそのところは聞かせてもらった。著しく中立を欠いた行動だと忠告させてもらう。
アサシンの脱落偽装、令呪を餌にした一連の策略、さらにはアーチャー陣営との癒着など
は、この聖杯戦争の参加者として抗議する』
言葉も返せない璃正に声の主は宣告する。
『この警告以降監督役の立場を無視した行為が続いた場合、我々は然るべきところへと
この件を通報する。最悪の場合、この戦争の一時中断にもいたるだろう』
だから、と鋭い声がする。
『キャスターのマスターが行った事件への対処を中立的に行うことを要求する。
またアサシンの存命により、即刻アサシンのマスターの中立地帯からの強制退去も
同様に求める』
神父には、もはや逃げ道はなかった。
「…了承しよう。明朝午前六時にアサシンのマスターはこの教会の保護下から外れる。
また令呪一角を剥奪しペナルティーとする。
キャスター討伐に貢献したセイバー、ランサー、ライダーの各マスターには
約束通り令呪を分配する。場所は中立を確保するため、追って連絡する場所に
来られたし」
『二言はないと信じていいのか?』
「当然。神の目の前である以上、私に二言はない」
『わかった、ではこれで通信は終わる。戦争続行のために監督役もきちんと役割を
果たしてほしい。では、もう会わないことを祈ろう』
吟味するような時間がしばらく流れ、やがて肯定の言葉が返ってきた。再び礼装の音声
に雑音が混じり、ライダーからの干渉が途絶えたことがわかった。
璃正はよろよろと近くの椅子に腰を落とし、深く深く息を吐いた。一気に十年も老け
込んだかのように動きは緩慢なままだった。先ほどのやり取りを以て、自分と時臣が計画して
いたことはほぼ完ぺきに崩れ去った。最悪の場合、アサシンのマスターである綺礼は
この教会から一歩足をふみ出た瞬間に殺されてしまうだろう。衛宮切嗣やライダーなどの非常識
な参加者にかかれば確率はなおのこと高い。仮にも親である璃正の心中は察するが、彼はただの
監督役であり、実際の抑止力を有しているわけではない。つまり自分の身はもはや保障されたもの
でもなくなった。
年老いた神父は、ただ十字架の前で神へと祈りをするしかなかった。自分と自分の息子の
無事と許しを求めて。
●
廊下を走り抜ける音がする。かなり急いだそれは何か金属音も交えている。それは
真っ黒なコートに身を包んだ切嗣のものだった。キャレコを左手に、そして右手には
トンプソン・コンデンターと呼ばれる巨大な銃を持ったまま、疾走する。
後方、それほど遠くないところからは激しい破砕音が続いてこちらを追ってくるのが
耳に届いてくる。
「予定通り…」
水銀の魔術礼装”月霊髄液”は通常の状態では防げないことをあえて教えてある。だからこそ
次に自分がこの銃を使ったとき、渾身の魔力を注ぎ込んで防御してくるはず。
…そうしてもらわねば困るな。
トンプソン・コンデンターから先ほど撃った30-06スプリングフィールドの薬莢を取り出し
切り札を装填してカチャリ、という金属音とともに準備完了。同時に振り返った視線の先の
廊下の壁がいきなり吹き飛ばされた。
だが、切嗣はゆっくりと振り向く。焦りも、おそれも、戸惑いも、ましてや恐怖など
みじんにもなかった。ただあるのは、体という機構を動かす意思のみ。
「見つけたぞ、ドブネズミめが」
ひきつった、狂気めいた表情のケイネスがゆらりとあらわれた。左肩の傷は応急処置を施した
のか血がすでに止まっており、変色した血液だけが服へとへばりついていた。痛みだけは
まだあるのかケイネスの表情はゆがんだままだったが、その口から洩れるのは獣のような
唸り声だった。憤怒の声である。
ここで一つ、ケイネスのミスを記しておこう。彼が怒りを感じているのは魔術らしからぬ
手段を平気で用いる事に対してである。それは、魔術の能力を競い合うこの聖杯戦争に
あまりにもふさわしくないと考えているからだ。しかし、これがミスだ。ケイネスはこの戦争
を単純な決闘かなにかと考えていたこと。これは聖杯決闘ではなく聖杯“戦争”であることを
失念していたことだった。戦争ともなれば騙しあい、策略、謀略、トラップ、暗殺何でも
アリなのだ。要するに最後まで残った人物が勝者であり、最も優れていたと胸を張って
言える。皮肉にも彼の生徒の一人であったウェイバーが当たり前のように考えていたことを
彼は考え付かなかった。
「よくもこの私に泥を塗ってくれたな…アインツベルン!」
「…」
一方で切嗣は、どんな手段をもってしてもこの戦争に勝ち抜くと決めているし、そのように
してこれまで行動している。だから、今更そんなことを罵倒されようとも何とも感じなかった。
だから、ケイネスの声ははなから認識の外にある。ここで焦って攻撃せず、最良のタイミングで
引き金を引けるように注意を払っているだけ。
一通りの文句を叫び終えたケイネスに、切嗣はキャレコを向けて引き金を引く。それは
まるで柱のように乱立し防御体制となった月霊髄液にあたって防がれた。廊下に百を超える
薬莢と、水銀の壁に激突しひしゃげた弾丸が散らばっていく。
「愚か者が、そんなものが通じるか!」
銃声が鳴り続ける中、右手はゆっくりと肩の高さまで持ち上がり、トンプソン・コンデンターの
照準を水銀に守られた魔術師へと向ける。一瞬のにらみ合い。そして、キャレコの斉射を止めた
切嗣はそのままトリガーを引く。
「来たかぁ…!」
それはケイネスも見ていた。彼も安々とくらってやるわけにはいかないので、自身の魔術礼装
へと指示を飛ばして渾身の魔力を注ぎ込む。身を守る柱状の水銀の一部が切り離され、ぐるりと
展開。そのまま飛んできた弾丸をカーテンで包むようにして包囲網を築き上げ、そのまま受け止
めようとした。
そしてケイネスが、体に襲い掛かった痛みに意識を手放す直前に見たのは、不敵に笑う
切嗣の顔と、自身の口からあふれ出た真っ赤な血だけだった。なぜだ、という思いが
頭の中をめぐるが、一瞬のことだ。銃口がこちらを向き、指がかかったのを見たとき
ついにケイネスは失神した。これまで意識したこともなかった、自分の死を覚悟して。
●
「なるほど…これを喰らったわけだね」
そんな声がしたのは、冬木の住宅地の一角の住居だった。あまり広くはないがそれなりに整った
外見の家の中には、見るからに瀕死といえる状態の人間と、それを囲む三人の姿がある。
ドクター、ソラウ、ランサーの三人だ。ベットに横たわっているのは言うまでもなくケイネスで
ある。しかしその姿は、アインツベルン襲撃前の姿は微塵も残っていなかった。
気を失ったケイネスは現在、ドクターが記憶を頭の中から再生する装置を用いて行っている
負傷原因の検査を受けていた。お椀上のそれをケイネスの頭から外し、その映像を見分し終えた
ドクターは、ふむ、と考え込む。
「最後の弾丸、一体どんな種があったのかなぁ……」
「俺がもっと早く参上できれば…」
「そう自分を責めることはないわよ、ランサー。ドクターの話では、まだ良かったほう
なんだから」
体そのものには、トンプソン・コンデンターを受けたところ以外それほど外傷はなかった。
ただ、体中魔術回路がむちゃくちゃにつながって、ズタズタにされていた。それは当然
ショートして肉体的なダメージへと転化して、ケイネスの肉体を傷つけた。
しかも、その損傷は体の体表近くにまで内側から及んでおり、魔術礼装であった“月霊髄液”を
構成していた水銀がそこから体内を汚染していた。
「そうだね、少なくとも水銀のプールに浸りっぱなしてのも医者としては推奨できない。
とりあえず、水銀汚染は抜くけど…」
「…セイバーのマスターらしき男が、すぐそばにいた。よもやあの男が…」
「…アインツベルンが外部から呼んだ、衛宮切嗣だろうね。ケイネスの記憶からも
それらしい人間はいたよ。多分、追跡してくるだろうね」
顔をこわばらせる二人をよそに、ドクターはいそいそと手術用の清潔な白衣へと着替え始めな
がら指示を出す。
「一応、できるだけやってみよう。多分二時間から三時間くらいの手術になるだろうから、
それまで外で僕を守ってくれるかな?」
「…すまん、なんとしてもわが主を助けてほしい」
任せてくれ、とドクターは軽く言いながらも、その目は一流の医者としてのものへと変わって
いる。祈るしかない二人は静かに部屋を出た。
ケイネスの負傷、それはライダーとランサー陣営にとっては小さくはない影響を及ぼした。
Fate/ZERO-NINE 2 END
前話みたいなシーンが最後にあると、たいてい無事であるという伝統を踏襲いたしました。
切嗣に対しては最悪といっても位ほどのライダーの能力。マジで涙目。切嗣応援のスレ、誰かたてませんかね?決死の攻撃も愛妻による動揺は致命傷です。
とにかくようやく第二章も完結。いよいよオリジナル展開へと驀進ですよ~
…いかん、このあとがきのネタが尽きてきた。ほとんど原作準拠で、淡々とシーン書いてくと窮屈な感じがしてくるものです。
このフラストレーションをどう発散するのか…チラシ裏にでもネタを書いて投稿すべきか?それとも溜まり溜まった境ホラの二次創作でも投稿するか?
ともかく、次回もお楽しみに。