Fate/ZERO-NINE【休載中】   作:縞瑪瑙

14 / 23
 第三章、開幕です。
 今後はオリジナル要素が多くなる可能性がありますのであしからず。


3rd 攪拌
Fate/ZERO-NINE 3-0 攪拌


 聖杯戦争の戦端が開かれて三日目。遠坂の屋敷への侵入を試みたアサシンが倒された戦闘が

偽装工作であったことが判明し、ライダー陣営からの警告と抗議を受けた監督役がアサシンの

マスターである言峰綺礼を中立地帯から退去させてから、最初の夜が明けた。

 令呪の受け渡しは、他の陣営からの干渉や監督役の中立維持のために、その日の午後に

人があまり多くはない柳洞寺で行われることになった。冬木の地にある地脈の流れが

ちょうど最終的に集まることだけあって、一級の霊地となっているここは空気中に上質な

魔力が満ちていた。

 そして、緊張の面持ちでそこにいるのは、日本の寺にはカソックは合わないと判断したのか

黒の私服を着込んだ言峰璃正であった。すでに白いものが頭を覆っている彼は、ちらちらと

辺りを窺いながら人を待っていた。魔術の人払いが施され、人気がない中でそれはようやく

現れた。

 

 「!? あれが…ライダーの宝具か」

 

上空から、寺の敷地内へと光学迷彩をゆっくりと解除しつつ降下してきた卵型の浮遊移動式住居

のハンプティ=ダンプティは、しかし、数メートルの高さで一旦停止した。ハッチが開き、

戦闘服姿のライダーが現れたのは、もはや監督役に信を置いていない証だった。

 目を周囲へと走らせ、さらにはその皮膚による探知を行ったライダーが下からは見えない

ハンプティの中へと合図すると、ようやく地面へと着地した。開いたハッチからはライダーと

姿を“緊急特例法案”によって呼び出した変装キットに身を固めたウェイバー、続いてランサー

とランサーのマスターであるケイネスの婚約者のソラウが現れた。上空からの

来訪者の一団は、璃正との間にライダーを、一番後ろにランサーを配置し多完全な警戒態勢。

 そしてライダーは、ランサーの黒子をかわすため例によって目をしっかりと閉じたまま

後方を振り返った。

 

---セイバー陣営も来たみたい。

 

 そして、階段を上がってきたのはスーツ姿のセイバーを従えた白のホムンクルスだった。

 

 『彼女には令呪はなかったはずだが?』

---ううん、ちゃんと右手にある。あの後で令呪だけを動かしたのかもしれない。

 

ライダーは、令呪という魔力の塊を移動させた痕跡をアイリスフィールの魔術回路と肉体の

両方に感知していた。しかも魔術回路の稼働状態を鑑みるに、アイリスフィール自体は

セイバーへと魔力供給を行っていなかった。つまり、彼女は囮だ。

 

 『令呪だけを移動させる方法まで編み出して、このような手段に出てきたか…』

 

 もはやウフコックもあきれるしかない。しかし同時に、不自然なことに気が付いた。

 

 『……ご婦人の怪我が完璧に治っている?』

---ホムンクルスなら、簡単に治癒できるはずじゃないの?

 『いや、そうじゃない。あれだけの怪我を、俺たちが最初に手当てをしたとはいえ、

  魔術を使って治癒したなら、そういう魔術のにおいが残るはずだ…だが、まるで

  自然に回復したようににおいがない…』

---そういう魔術用品とかがあるんじゃないの?

 

魂や肉体に関して特化したアインツベルンならば、そういうのがあるのではとライダーは

考えていた。しかし、ウフコックは違うようだった。

 

 『…いや、まさか…』

 

 しかし、その言葉は続かなかった。

 一歩前に出た璃正が咳払いをして、集まった全員に呼びかけたからだ。

 

 「さて、三陣営の諸君。キャスターの討伐ご苦労であった。魔術の漏えいと社会への混乱を

  抑えることができたのは諸君らの迅速な行動によるものであり監督役として礼を述べよう。

  すでに事後処理はこちらで終了しているので安心してほしい。

   では約束通り、令呪を贈呈しようか」

 

が、璃正の目はソラウへと向いていた。無意識のものだが、気にするのは当然のことであった。

 もともとのマスターであるケイネスは、戦闘によって起源弾を受け、それの効果で虫の息状態

でこんな場所まで来るなど不可能であった。マスターの弱体化の隠匿とアーチボルト家の体面を

保つためと、ソラウは何とかケイネスを説き伏せてここに来ていたのだ。しかし、危険も伴う

ところへなど、ソラウとて来たくはなかった。だからこそ、ライダー陣営の申し出は

渡りに船だった。

 

 「ケイネスの代理よ。証人はランサーとライダーと…まあ、身内ばかりだけど監督役よりは

  信頼がおけるからいいでしょ?」

 

暗黙裡に監督役へと警告を発したソラウは、身じろいした璃正へと右手を差し出した。

 

 「受け取った直後にアサシンの攻撃なんて、やめてほしいものね」

 

 「…それはあるまい。そんなことをしようものなら、アサシンのマスター共々討伐令が

  下りることになる…」

 

 袖まくりをした璃正の腕には、数画の令呪が一つの模様となって連なっている。かつての

聖杯戦争で使用されず、残った令呪はこうして監督役のもとへと集められる。もちろん、殺した

マスターから令呪を奪うこともできるので、その数は毎回ばらけるが、それでもかなりの数が

あった。

 しばらく璃正がソラウの手の甲に手を置いて話すと、そこには一角分の令呪が現れていた。

続いて進み出た人物に、監督役は不信を強めて問いかけた。

 

 「そちらがライダーのマスターかな?」

 

 「そうだ」

 

応える声は、かろうじて男性であることがわかるが、高いとも低いとも取れる独特の声だった。

背丈は高くなり、肉付きもそれなりに良い。細かった体のラインもどっしりと安定感がある

男性のものとなっていた。“緊急特例法案”における、斥候あるいは潜入するスパイ用の

変装キットというのは、そこら辺に落ちているようなちゃちなものではない。赤外線センサー

やX線、サーモグラフィーなどを欺瞞し、金属探知機までもをかわせるという逸品だ。

 いまだに正体隠匿をするのは、この変装キットが一応は宝具であり、もしもの時にも

ウェイバーの身を守るためだ。一種の概念武装であるこれは、ひそかにこの令呪受け渡しを

監視する陣営から見事にウェイバーを隠していた。

 

 『マキリの蟲が数匹と、トオサカの使い魔がいるな。もっとも監督役も半ば黙認している

  うえに、アサシンまでいる』

---干渉は禁じられているのに…

 

宝具“電子の殻(スナーク・シェル)”を持つライダーと、そういったにおいを探知するウフコックは周囲に

隠れている存在をすでに発見していた。

 

 『宝具の力には及ばないようだな…手出しはできないだろうし、このまま無視しよう』

 

しばらくして、追加の令呪がウェイバーの右手に与えられ、次いでアイリスフィールの手にも

与えられた。すぐにライダーはハンプティ=ダンプティを呼び出して撤退の準備を始め、

ランサー陣営もすぐにライダーのそばへと寄ってくる。一方でセイバー陣営は自前で

足を用意してあるらしい。飛行住居ほどアサシンの追跡を逃れやすいものはないのだが、

ライダーはまさか乗せるわけにもいかない。ランサー陣営が了承しないだろうし、

最悪住居の中で三大騎士クラス同士の激突が起こる。

 

 『…聖杯のトラブルについてはウェイバーとドクターを交えて決定しよう。俺たちだけでは

  手におえない』

 

左手を握ることで返事としたライダーは、ステップを上がってハンプティ=ダンプティの

中へ進んでいた。

 

---嫌な予感がする。

 

 吹いてきた風に、そうライダーが感想を漏らしたのちにするすると住居は上昇を開始した。

 聖杯戦争は、不穏な空気を醸し出し始めた。

 

 

 

 




 連投もここまでで一段落です。
 話のペースがやや遅くなっているのは要反省ですね…しかし、手を抜きたくないので
丁寧に書いて聞こうと思います。
 次回もお楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。