最新話かと思った方にはすいませんが改訂版です。
Fate/ZERO-NINE 1-0 開封
聖杯――かつて数々の奇跡を起こし、そして言われなき罪により十字架にかけられ処刑された“ナザレのイエス”がいた。そして処刑後、そのわき腹に生きているかを確かめるために刺された槍であるロンギヌスがあり、そこから滴った血を受け止めた器が“聖杯”と称される。或いは、キリストが最後の晩餐において、すなわち名前こそ挙げなかったが誰かが自分を裏切ることを弟子たちに告げたときに使っていた器を“聖杯”と呼ぶこともある。
世界中に伝承されている伝説にしろ、人知を超えた力を、あるいは魔法を有し奇跡を起こすのが共通する点として挙げることができる。
そして、ドイツの長年にわたって秘匿され続けてきた土地にはとある魔術師の一族がいた。その名をアインツベルン。錬金術に特化し、長い歴史とその中で守り続けた純潔を誇る。彼らは一つの目的を抱いて、その技を技術を磨いていた。
失われた“第三魔法”の復活である。第三魔法は魂の物質化を行う魔法。かつてアインツベルンが到達し、しかし失ってしまったものだ。この物質界において唯一不滅にして絶対存在の“魂”を肉体という脆い器、或いは枷から解放し、魂という精神体のままこの世界に干渉することを可能とする。魂そのものを生き物にして、次の段階に向かう生命体として確立する。端的に言えば真の不老不死である。
その再現、あるいは伝承の復活のために、アインツベルンは長い長い努力の果てにその“聖杯”を作り上げた。しかし長い歴史を持つアインツベルンでも単独では限界があった。聖杯は作れても、その中に満たされる中身は用意できなかったのだ。そこでアインツベルンは当時から有力であったマキリ、遠坂の魔術師らと力を合わせることを決めた。遠坂は土地を用意し、マキリはサーヴァントと呼ばれる英霊を召喚するシステムの構築を、アインツベルンは聖杯の器の準備を担当して、一つの儀式が始まった。およそ二百年前に始まり、血を血で洗う闘争となる“聖杯戦争”の幕開けとなる出来事であった。
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場所と時間を移そう。人知れず始まった最初の聖杯戦争から、すでに四回目の“周期”がめぐってきた。冬木の地下にある霊脈から魔力を充填した聖杯がついに完成したのだ。日本のとある県にある冬木の地に眠る聖杯が、マスターの資格のある人間へとマスターの証たる“令呪”の分配を始めたのがその証だ。
最も早かったのは“始まりの御三家”のひとつ、遠坂家の当主『遠坂時臣』。
そして、魔術とは縁のない教会の人間である『言峰綺礼』。
ついで、魔術の総本山の一つであるロンドン・時計塔のエリート講師にしてアーチボルト家当主、『ケイネス・エルメロイ・アーチボルト』。
過去三回の聖杯戦争において敗北を打続けてきたアインツベルンが、今度こそ勝利すべく外部から呼び寄せた魔術師にして、巷では“魔術師殺し”と恐れられる『衛宮切嗣』。
御三家のひとつ、間桐の表向きの当主の弟『間桐雁夜』。
七人のマスターのうち、すでに五人のマスターが選別された。残る参加枠、つまり、聖杯から配られる令呪は六画二組、二人分のみとなっていた。
そして、聖杯戦争のうわさを聞きつけ、ロンドンから冬木へと飛んだ一人の魔術師を目指す青年に、この物語は焦点を当てて行くこととなる。その青年の名はウェイバー・ベルベット。後のロードエルメロイ二世にして、時計塔の勢力図をひっくり返すと噂されるほどの魔術師となる男だった。物語は少しずつ、何かにかき混ぜられ始めた。それは
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さてここで一つ余計な話をしよう。
とある世界において、ある一人の少女がいた。彼女を例えるならば“卵”が適当だった。それも、デザートの様にして食べられる卵料理。孵化寸前の卵を中に眠る雛ごと煮殺して作る料理に。実際、彼女はセカンドネームとしてその料理の名前を持っていた。その名をつけた人物は時々その少女へと言っていたのだ。より自分自身を表しているのだと。
少女が十代の初めごろから働き始めた店はいわゆる風俗店だった。アンダーグラウンドから上流階級までが、冷めることのない夢を求めて訪れる世界の一角の店だった。そして彼女はそこではそれなりに名が知られたポルノ女優であった。その体にはとある特別な能力を持っていたためだ。だがそれをここで語るのは些か話がそれる。
重要であることは、彼女が十代半ばごろになった時のこと。それこそ運命を大きく変えるきっかけとなるっ出来事が起きたのだった。彼女は一度“死んだ”、“殺された”のだ。無抵抗の彼女を殺したのはそれこそ彼女を守るはずの、そして彼女が守ってくれると信じていた
“ルールを破った子がどうなるか、解っているな? ■■■■? ”
それが一度目の死の直前に聞いた言葉。自分を外界から守ってくれると、愛をくれると甘く囁いてきた声が、自分をはきだめよりもはるかに悪い地上から、
“わかるか? ブルーダイヤだ。それが答えなんだ”
漢の手によって閉じるリムジンのドア。去っていく男。そして彼女の体を包んだのはリムジンのエンジン爆発による圧倒的な熱量による死の感覚だけだった。
しかし彼女は最後の瞬間、確かに声を発したのだ。それは彼女が自分を支配してくるあらゆる脅威に従いながらも、けっして腐らせることなく保ち続けていた意志の表れだった。
「死にたくない」
その決断が、最初の一歩だった。
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冬木の闇夜に満月がこうこうと光りを放ち、空にぽっかりと浮かんでいた。それこそまんまるに膨らんだ卵の様に。その満月にはきちんと内包する意味があった。魔術的な側面から見て、月の満ち欠けは大きなファクターとなりうる。地脈はそれに合わせて流れる魔力が微妙に異なるし、魔力を持った生物はそういった月や天体の影響を受けるものが数え切れないほどいる。
また、中世ヨーロッパの医療―――と呼べるかはともかくとして、月というのは人を惑わせるものと定義された。英語では狂っていることを様々に表現するが殊に精神的に狂っていることをこういうのだ、“Lunatic”と。
ルナティック。分解するとLuna、すなわち月だ。月は人を惑わす。そして精神的な発狂は月にこそ原因があるのだと考えられた。月の満ち欠けの周期で人は狂うのだと。そう考えてしまうのも仕方がないだろう。闇に満ちる夜中にたった一つそれに浮かんで光を放つ月は、恐ろしいとも、神秘的とも、様々にとらえられるのだから。
そして、冬木の地の一角。霊地と呼ばれる、魔力が満ちやすい雑木林に囲まれた場所に、血による不可解にして不可思議な召喚陣が描かれており、そのそばには深い緑色の服を着た青年が立っていた。彼は荒い息を突きながら目の前にある殺した鶏の血で描かれた召喚陣の中央に立つ、一人の人物へと視線を釘づけにしていた。
「女…………だと? 」
バカな、とウェイバー・ベルベットは無意識に声を漏らしていた。呪文の詠唱により呼び出す英霊を変化させる“聖遺物”には、ウェイバーが自分の教師であるケイネスから奪った“征服王のマントの切れ端”を使ったのだ。これならばほぼ間違いなく征服王が呼ばれるはずだった。
ウェイバーが、というか聖遺物を取り寄せたケイネスが狙っていたのは東へとひたすらに征服を行いその名をはせたイスカンダルだ。ほかの地域で、この日本でなじみ深い呼び名ではアレキサンダー大王。知名度的にも、そしてその伝説からもケイネスが選んだことからもおそらく最強だろうと踏んでいたウェイバーは、目の前に現れた少女に驚きを隠せない。
(ドレス……? )
そしてその女性、いや少女がその体に纏っているのは、端的に言ってドレスだった。しかもそれはまるで全身水着の様にタイトに体を締め付ける、真っ白なものだった。まるで花嫁をだれにも渡すまいと気がおかしな花婿がそれを態々選んだかのように。確かにそれは完ぺきに彼女の体を覆っていた。一部の隙もなく。オンリーワンの、選び抜かれたドレスだ。
どう考えても、イスカンダルではない。では、何者だ? やっとそこまでウェイバーの思考が至りついた時、少女姿のサーヴァントはこちらを見た。
---あなたが、私のマスター?
そして
「うわっ! ? 」
呆然としていたが、我に返ったウェイバーはなんとも奇妙の声を上げ、そのまま地面へとへたり込んだ。魔術師が嫌う機械類を使いこなすウェイバーすらも、これが今目の前の現象が英霊の力によるものだというのを抜きにして度肝を抜かれた・
---どうしたの?
サーヴァント―――非常に認めたくないところだがどうやら自分が呼びだしたらしい
少女は眉をひそめて、こちらを覗き込んでくる。
「んんなななななんで、しゃべってるんだよ! 口を閉じたまましゃべるなんて大道芸かよ! ? それになんでドレスなんだよ! ? 英霊は最も力のある姿が呼ばれるっていうけど、なんでドレスだよ! それにイスカンダルが女だって聞いてないぞ! アレか! 男色説があったけどその真実はこれなのかよ! そもそもも、おまえは誰なんだー! 」
ウェイバーの人生で、最も長いつっこみが、終わった。おそらく本来の歴史においてもここまで長い突っ込みは不可能だっただろう。ここにギネスの審査員が言ないことが非常に悔やまれる。『世界一長いつっこみを一呼吸で入れた人:ウェイバー・ベルベット』という具合に。ある意味聖杯戦争などしなくても時計塔連中を見返せそうである。
閑話休題。
長いセリフを一気に言い終えて、ゼエゼエと肩で息をするウェイバーに対し、サーヴァントの少女はしばらく迷った後、静かにこう言った。
---ごめんなさい、私はしゃべることができないの。だから喉元にあるこれを使ってしゃべるの』
そうして、首にあるチョーカーをウェイバーへと見せた。クリスタルの中に金色のネズミがウインクしている絵が見える、小さなものだったが、それは明らかに現代の技術で作られたものではない。
---驚かせたなら、ごめんなさい
静かな、しかししっかりとわびる声に、ウェイバーのヘタレ魂はどこかへと消えたようだ。その証拠に彼女に対しウェイバーはもたつくこともなく、しっかりとした言葉を放った。
「い……いいんだ、僕の方こそいきなり怒鳴ったりしてすまなかった。だって目的とは別の英霊が急に呼ばれたんだから、僕の方も冷静さを欠いていたんだ」
それに、と息を入れなおす。
「なんだか気味が僕が怒鳴っちゃったときにびくってしてたみたいだったからひょっとしてそういうのが苦手だと思うんだけど……そうだったら僕の方が本当に悪かったよ」
なんとまあ、ナンパの手管の一部を流用したような物言いだ。しかしそれでもウェイバーは目の前のサーヴァントへと最初の問いを投げかけた。
「じゃあ、君の真名、教えてくれるかな? 」
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他方、サーヴァントたる少女もまた、目には見えぬ相棒と会話していた。
《大丈夫だ、どうやらマスターはは召喚された我々に驚いて混乱していただけのようだ》
――イスカンダル……あの征服王を呼び出すつもりだったって言っていたけど?
《ふむ、君の後ろにある布の切れ端をどうやら触媒にしたようだが……見かけは古いがおそらくレプリカか何かだろう。当然のことだが効果はない。大方、保管先の係員が送るときに間違ってしまったのかもしれない》
―――私のことを話しても、大丈夫だと思う?
《そこはこれから判断すべき段階だ。既にマスターが我々の持つ宝具の効果がかかっていることも含めて考えれば、ゆっくり話し合って行く必要がある。だからこそまずは……》
―――私の名前、ね。
マスターの態度に安心した少女は改めてマスターへと向き直る。すくなくとも、目の前にいるマスターは自分の相棒と同じように、自分としっかり話をしていくタイプだと判断したし、相棒もそれを肯定してくれた。
ひ弱そうに見えるが、その目に宿る医師はライダーにもきちんと伝わってくるものがある。
《俺たちは良いマスターと出会えたようだ、バロット。いやライダー》
――私も、そう信じたい。あなたみたいだもの。
《何処が? 》
――私を一人の人間と見てみてくれるもの。初めて私と会った時みたいに。
つい、言ってしまう。からかうような感じで。
――妬ける? ウフコック。
《そうだな……そういう自覚症状はない》
まるで、何かを気にするようにゆっくりと言うウフコック。
《ともかく、だ。ライダー。彼が我々を選択したことは委任事件捜査官としては絶対の仕事だ。09(オーナイン)を選んだことが彼を良い方向に導ければいいな》
――あなたに頼るかもしれないけど、いい?
《その通りだ、俺は君に使ってもらって初めて存在が許される。俺は君に俺自身を預けたい》
きっぱりと言い切るウフコックに、ライダーは手を軽く握ることで返事とし、青年の方へと歩いて行った。
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第四次聖杯戦争に本来呼ばれなかったはずのサーヴァントの召喚された。これが一体どのような運命を紡ぐのかは、まだだれも知ることはできなかった。
白の少女と金色のネズミ、そして青年のコンビは、闘争へと身を投じた。
第一章の改訂版の投稿を開始します。これに続いて投稿を行っていきます。