洒落にならないくらい忙しいので、何とか合間を縫って出来上がりました。長くなりましたが、まあご愛嬌ということで。
守銭奴一夏への対応が忙しいですが、どちらも頑張りたいですね。
ではどうぞ。
数日前のことだ。ライダーが調査を行う一方でマッケンジー宅の二階には二人と一匹の姿があった。
今日もまたウェイバーたちは計画を練っていたのだ。もうすでに最終段階へと進んだそれは、この戦争に対する対策であり、ほかの陣営との間で如何に綱渡りをするかの指針であり、自分たちの生存戦略であった。
ウェイバーが特に注意を受けたのは、ウェイバーの判断が重要視される局面についてだ。何しろその場面は、ライダーの宝具“
「ここまでの下準備はほぼ順調だ。これならあと三日も経たないうちに計画を実行できる」
「傍から見るととんでもない計画だよな、これ……」
ガシガシと頭をかきながらウェイバーはつぶやいた。自分たちが立てた計画については、ウェイバーはもちろんその全容は知らされている。しかし、実行力の観点からウェイバーが実際に関わるのは最重要な場面のみ。殆どはライダーが実行する部分が大きかった。そこにウェイバーがいることで危険があるのは間違いないことだった。
「大丈夫だよ、ちゃんとライダーは君を守ってくれる」
「いや、怖いわけじゃないんだよ。ただ、僕の人生でもこんなことなんてなかったんだし……」
「はは、それにしてはだいぶ頼りがいがありそうじゃないかウェイバー」
からかうようなドクターの言葉に鼻を鳴らしたウェイバーは、それより、とウフコックに呼ばれる。
「聖杯の汚染についてだが…あれは恐らくホムンクルスのご婦人にも影響を及ぼしていると考えるのが当然だろう」
「この冬木の地下の大聖杯と魔術的なリンクがあるんだっけ?」
机の上に置かれた冬木の地図へとマジックペンで情報を書き込み、ドクターはウェイバーの言葉にうなずいた。いくつも引かれているんはこの冬木の地下を走る地脈の大まかな図だ。所々には大きく丸で囲まれた部分があり、
「うん。英霊の魂なんてものを一つどころか最大で七つも抱え込むんだし、機能が活発化している大聖杯から来るフィードバックで苦しんでいるのかもしれない。だからこそあんなものを体内に埋め込んでいたんだろうね」
「あんなもの?」
「もしもだがウェイバー。君が今回セイバークラスで呼び出されているアーサー王を召喚したいと考えたとき、何を触媒とするかな?」
アーサー王。まさか本物は女性というか少女だったことは驚きだが、それだけ知名度が高い英霊を呼ぶには何を触媒とすべきか。アーサー王に関わる聖遺物を使うのが順当で、そうなると数は限られてくる。
「えっと……アーサー王だったら鎧とか剣とか、アーサー王が使っていた楯とかもありだな……」
「そう、そういったものが必要だろう。だが、もっと縁が深いものがある」
ウェイバーがあげたものも、聖遺物としてはありだろう。だがそれ以上のものが伝承には存在している。
そう、間接的にブリテンの滅びの要因の一つともなった物品。かのモーガン・ル・フェイによって奪われた伝説上の武具の一つ。それは一つしかなく、最もアーサー王に縁が深い物と断言してもいいだろう。
「エクスカリバーの鞘。ご婦人は体内にそれを埋め込んでいる」
伝承では持ち主は傷を負うことがなくなるといわれているもので、アーサー王が奪われて以降は行方不明となっている物だ。
だけど、とドクターは手をひらひらとふる。
「もちろん行方不明になったところで、伝承にあるとおりの効果を持つものなら物質として当たり前に劣化することはないだろうから、アインツベルンが発掘したのだろう」
「概念武装ならありえるな。実存する宝具に等しいんだから」
「持ち主であるのはセイバーだから、本人が近くに居なければ効果は薄い。けれどあの様子では代理マスターとなったご婦人は常にセイバーと行動を共にする……非常に頭がいいね」
だけど、とドクターは眉をしかめたまま言った。
「それでも、セイバー本人ほどの効果はないだろうね。真名解放とかはもちろんできないだろうし、いかに鞘といえど負担をゼロにはできない。そう考えるとご婦人の体液や呼吸した気体とかにも、聖杯の汚染の影響がある恐れがある」
「……じゃあ、何かに密閉して……カプセルとかに入れていった方がいいか」
「それに関しては俺が用意しよう」
ウフコックだ。手にネズミ用のコーヒーカップを持って提案する。
「さっそく今日のうちに制作にかかる。俺の予想だが、始まりの御三家が冬木の地脈へと施した大聖杯自体からも影響を受ける可能性がある。特に、地脈が歪んでいるところには聖杯の汚れが吹き出すかもしれないな」
「霊地に影響が出るのか?」
「ライダーにここ数日の間霊地の魔力量を調べてもらった。本来なら魔力量の増減は一定周期を保つはずなんだが異常に高い状態が続いている。監督役に注意を呼び掛けているが、果たしてうまく動いてくれるかどうか」
監督役は最低限の仕事はしていた。しかし一つの陣営とひそかに手を組んでいるとなると、果たして注意をまじめに受け取っているかは不明だ。最悪、疑われてしまって放置されているかもしれなかった。
「大聖杯、小聖杯。そのどちらも何とかしないといけない。監督役が動かないならこれも僕たちがやらないといけない。計画は慎重に実行しないとね」
「ああでも、これで漸く……」
ウェイバーの言葉に、ウフコックは頷いた。
「計画は構築終了だ」
「お、終わった……やっと終わった……」
「お疲れ様、ウェイバー」
顔に『疲労困憊』と書いてありそうなウェイバーは、ドクターが持ってきたマグカップを何とか受け取る。その中身はコーヒーではなくコーンスープだった。即席でできる粉末タイプのそれにはほとんど具などはないが、今のウェイバーには何物にも代えがたい恵のように思えた。
「ふう……」
一口飲みこむと、体全体が温かく包まれるような感覚がした。眠気も湧いてきたウェイバーは、しかしドクターに呼ばれた。
「さて、ここからちょっと重要な話をしようか」
「? まだ、あるのか?」
見れば、ドクターとウフコックは真剣な表情でウェイバーを見ていた。その迫力に思わずウェイバーはおとなしくソファーの上で姿勢を正した。
「うん、しっかり聞いてくれるとありがたいな。何しろちょっと重要なことだから」
ドクターも、ウェイバーと向かい合うようにソファーを動かすと腰かけた。ウフコックもドクターの方の上に座っている。
「……正直言えば、僕たちはいろいろ不安だ」
「?」
重々しく切り出したドクターに、ウェイバーは疑問を浮かべた。確かに計画には不安点もあるがほぼ完成している。
「正確に言えば、君自身が今後どうなるかってことにね」
「どうなるかって……僕が?」
そう、といかめしい表情でドクターはカップを呷る。それを嚥下した後、やや厳しい口調でドクターは言った。
「マスターであるし、これまでの戦いを通じて君の人格とかそういうのは理解してきたつもりだ。けど、だからこそ僕たちは不安なんだよ」
いいかい、と前置きする。
「昔のこと……僕たちからすれば昔で、君からすれば未来のことだろうけど、ライダーが英霊となるきっかけとなった事件があった。他ならぬライダー自身が、当時はルーン・バロットと呼ばれていた
「それって……」
「僕とウフコックが、彼女とかかわることになったきっかけでもある事件だよ。まあ、僕とウフコックのコンビはそれ以遠からそのカジノ経営者を追いかけていたんだけどね」
ドクターは訥々と語る。
「そして、ルーン・バロットに対し、身を守る手段として“禁じられた科学技術”の物品を与え、担当官として僕たちも裁判に臨んだ。訴えられたのはそのシェル・セプノティス、罪状は殺人未遂と戸籍偽装、あとは色々……正直に言えばもっと罪状はあったけど、裁判じゃ扱われなかった」
「なんで……犯罪が裁かれないんだ?」
「弁護士に言わせればね、今更強姦とか窃盗とか、
もちろんそんなことは言ってないけどね、と付け加えるが、ウェイバーは見たこともない相手に怒りを覚えた。その弁護士でも、その社会の風潮でもない。ただ怒りが沸き上がっていた。
「けど、質疑の中で、ルーン・バロットがそういうことを目的にしていないことが明らかになると、シェルの側は不利になる。だから、裏で手を打っていた」
「手を打った? まさか……!」
「委任事件は、依頼主の死亡もしくは行方不明によって継続できなくなる。つまり、消し去ってしまえばいいんだよ」
●
ありえないはずのサーヴァント、アヴェンジャー。いったいどういう経緯で召喚されたのかは、キャスターが討伐された夜から一夜が明けたときにまで遡る。
「旦那ぁー! どこにいるんだよーう!」
龍之介は、自分の先達である“青髭”ことジル・ド・レイを探していた。昨夜不意に姿が見えなくなり、帰ってこないことを心配した龍之介はその足で冬木中を探していた。二日目に入ったその捜索は、今は海側から山の方へとその場所を移していた。そここそ、龍之介が確信を持っていた場所だった。
水晶玉で何やら探していた青髭の旦那がやたらとご執心だったのがこの近辺だからだ。おそらくここに手がかりがあると考えた龍之介は、今日もここの捜索に明け暮れていた。
「んーどこ行っちまったのかなぁ……このままじゃぁ“作品”が完成できなくなっちまうし…」
拠点として利用する古い貯水槽の置かれた空間に置いてある“作品”のことを心配しながら、龍之介は歩く。ちょうど道路が近くに見えるところだ。この国道が唯一こちらの方に伸びており、龍之介が知る由もないがアイリスフィールたちは車でここを何度か通過している。
「ん?」
そこには黒い『何か』があった。黒いという表現を超えた、闇よりも深い色をした塊だ。回りに生えていた植物は枯れ、腐り切っていた。また植物が腐った以上のすさまじい腐臭が黒い何かから漂わせていた。
だが、龍之介が引きつけられたのはそれから放たれるオーラのようなもの。それは龍之介が知るはずもなかったが汚染された『破壊』の色を帯びた魔力であった。地脈からあふれ出たそれは泥のようになって地上に現れていた。
「お?」
聖杯から漏れた泥に反応したのは、龍之介の右手に残っていた礼呪だった。本来はあり得ない、しかし、偶然が偶然を連鎖的に呼んだ現象は、ここにその決着を迎えた。
「な、なんだよ!?」
突如として発された光は一瞬で龍之介の姿を飲み込んで、しかし急速に納まっていった。
「……!?」
そして現れていたのは五人分の人影だった。そして、かつて青髭と呼んで親しんでいた人物が最初に自分に投げかけたときと同じように、彼らは自分へと問いかけた。
「お前が、俺たちを呼び出した
それを聞いた龍之介は、恐怖ではない感情を抱いた。
……クールだぜ、これ。
●
イレギュラーサーヴァント アヴェンジャー。悪意に染まった魔力が強引に召喚したのは、未来においてライダーと因縁のある者たちだった。もしもサーヴァントの召喚に詳しいものがいれば、わずかにこの世界に残留していたキャスターの霊核の欠片を利用して、聖杯の泥を媒介として召喚されたのだと理解しただろう。
だが龍之介にとってはどうでもよいことであるし、アヴェンジャーにとっても原理云々はやはりどうでもよいことだった
そこからの動きは速かった。五人との契約を結び、互いの自己紹介を滞りなく終え、すぐさま六人となった誘拐犬たちは龍之介が使っている隠れ家へと直行した。
そこでの光景に、バンダー・スナッチ・カンパニーは嫌悪感など抱きもしなかった。むしろ龍之介が同類であることを再確認して喜びをあらわにした。最高で最悪のマスターとサーヴァントの関係。生まれつきの殺人鬼である龍之介と、戦争の中あるいはそれ以前から人間として歪み切った殺人者たちは、聖杯戦争という名の狩りの場に歓喜した。
準備は余念がなかった。魔力供給が乏しいために、人の肉体や血液などの直接喰らうことでアヴェンジャーたちは独自の供給ラインを得ることが即決定した。また移動手段である車もすぐに手に入り、冬木に暮らしていた龍之介から詳しい地理を聞き出すこともできた。もちろん必要な物品なども多くあったが、そういったものを金を使うことなく得る手段についてもアヴェンジャーはよく心得ていた。そうした先達を新たに得た龍之介も、アヴェンジャーに心酔するようになるまでそう時間はかからないのは当然だった。
●
だが、そんなことを知ることができなかったセイバー陣営とライダー陣営は、冬木の町でのカーチェイスを繰り広げていた。両者は、ついに冬木の市街地から山の方へと延びる道路へと進んでいき、やがては町から数キロ離れた山地へと入っていく。
「よしライダー! 町から離れたぞ!」
ウェイバーの合図で、ヴェロシティ・タルトはアスファルトの道路へとその車体を下ろしていく。同時にライダーの操作によって車体からは機関砲などが後ろにいるセイバーめがけて銃口を向ける。人の指ほどの口径を持つ銃か気を見て、その威力を素人ながらも察したウェイバーは弱々しく付け加えた。
「……あんま周りの建物とか壊すなよ?」
---分かっている
頷いたライダーの声に応じるかのように、ヴェロシティは火器の安全装置を解除した。そして、未来の技術によって構築された数々の武器による砲撃が開始した。距離としては直線で百メートルほど。カーブを曲がりながらとはいえ、十分に機関砲の射程内。
「何!?」
対するセイバーにはこの火器に対する防御手段はない。ブローニングも真っ青な対物機関砲はアスファルトを木端微塵にしながらセイバーが操るV-MAXへ迫る。当然の判断としてセイバーは直感に基づいてハンドルを切った。アスファルトの欠片が飛び散り、金属製の弾丸の嵐は斜面を固めるコンクリートにもあたっていくつもの穴を作っていく。しかし、直撃も跳弾も受けることなくセイバーはのがれた。
「セイバーの直感スキルか! かわされたぞ、どうする!?」
「いいんだウェイバー。カーチェイスになるとなぜか追いかける側も追われる側も乗り物が頑丈になるという法則があってだな……」
「のんきに語ってる場合かよ!」
そして、セイバーがエンジンをさらに吹かせて、加速を以てライダー達へと迫ろうとする。だが、乗り物の間には技術差がある。想定されている最高速度も使う場所も違いすぎるために、攻撃ではなく振り切る方向へとシフトしたヴェロシティにはV-MAXも追いつけない。すぐさま機関砲の射程以上に距離を離した。牽制の意味も込めて、車体後部にあるハッチから機雷がまかれて爆炎がセイバーを襲った。
「どうだ……?」
黙々と上がる煙の向こうから、その答えはやってきた。煙とアスファルト片が宙を舞うが、風の刃がそれらを丸ごと切り払い、吹き飛ばす。
「風の結界で車体を薄く包んだのか!」
「どうやらそうだな……こちらの爆風が襲い掛かる一瞬間だけ壁のように展開して、相殺したんだろう。次はあれをもっと使ってくる。ライダー、俺を使ってくれ」
ウェイバーの服の胸ポケットに収まっていたウフコックは、猛スピードで走行するバイクの上で器用に飛び上がってライダーの伸ばした左手におさまる。そして手袋へと変身した相棒をぎゅっと握りしめたライダーはその手の中に拳銃を出現させる。
---ウェイバー、かなり揺れるから気を付けてね。
「わかった」
ライダーの操作で現れた固定用ベルトを体へと巻き付け、“アイリスフィール”もまとめて固定する。第二ラウンドの始まりだ。
●
セイバーの乗るバイクは、所詮は一般に販売されているバイクだ。しかしそれに付与されるのは人知を超えた英霊のもつ力。距離が離されていくことに気が付いたセイバーは、風の結界を使った。それの強化はバイクを覆い尽くし、別次元のものへと押し上げる。
「風王結界!」
激しい風が車体を覆い、そしてそれが晴れたとき、V-MAXはその造形を変形させていた。より鋭く、より鋭角的に、そして何よりも速度を向上させる。当然のこととして、常人が扱えるものではない。だがセイバーは騎乗スキルAを持つ。幻獣や神獣など以外を乗りこなす技能のあるセイバーが、この程度の乗り物で苦労するはずもない。ライダーの生まれが未来であることに目をつむれば、騎乗スキルはライダーを上回る。
エンジンが、セイバーの意思に応えて駆動音を大きくしていく。見る間に距離をむさぼり、再びライダーの姿を捉えたとき、セイバーの目は、バイクの上で身をひねり拳銃をこちらに向けて構えたライダーの姿を捉えた。
直撃を喰らう。そう判断したセイバーは右手一本でハンドルを支えると、左手で剣を取り、直感のままに飛来した弾丸をはじく。うまく動かないとはいえ、別に銃弾を防ぐだけならば剣でモノを切るよりも負担は小さい。あとは直感と左手の動きを素早く行えばいいので楽だ。どうしようもなく防げなければ風王結界で守ればいい。
「!」
銃がさらに発砲される。ただ乱射するのではなく、正確にこちらの位置を把握し、牽制や囮を散りばめながらも本命を叩き込んでくる。この速度の中で、時速百キロ以上の世界で狙いを外さないライダーの腕前にはさすがのセイバーも舌を巻くしかない。かつて、走る馬の上から弓で動く目標を性格にいることは熟練の騎士でなければ難しかった。それをあの少女はあの年齢で叶えている。
キィン!カン!
激しい金属音は断続的に続く。ライダーの持つ銃は絶え間なく弾を放ち、セイバーがはじく。そしてセイバーの耳は拳銃の弾倉をリロードするタイミングを読んでいた。十二発が装填されているのはこれまではじきながらカウントしていたので間違いない。
カシャッという音が聞こえてきたときにはすでにセイバーはエンジンをさらに開放していた。肉薄。しかし、それに対する返答としてライダーがヴェロシティの武装群から放ったのは炸裂弾だった。丁寧に、自分たちが被害を受けないように疑似重力による楯をセイバーとの間に構築していた。
「くっ!」
風王結界はかろうじて間に合った。車体にいくらかの傷こそできたが運転するには問題がないレベル。熱い息を一度入れたセイバーは改めて視線をライダーへと向ける。視界にはライダーがいくつかの火器を手にしているのがわかる。
手袋が変身すると、新しい鋼鉄の塊がライダーの手に納まる。キャレコM950だ。一瞬で弾倉がセットされると引き金が引かれた。皮肉にもセイバーのマスターが使う銃がセイバーへと襲い掛かる。拳銃などとはけた違いの、しかしそれ以上に正確に狙いを定める弾丸の嵐にはセイバーも声をあげて対応した。
「なんという攻撃ですか!?」
これまでの経験では考えられない攻撃。知識として銃のことは知っていても、実際に対応するのでは話が違う。倉庫街の戦闘で一度見ているとはいっても、それを上回っていることも原因だ。
そして、そんな隙を見せたセイバーにライダーはキャレコを投げ捨てて、次なる銃を左手に出現させていた。同時に、ボディスーツの一部が変身して外骨格を形成するとその銃の反動を殺す用意をした。
そして両者がカーブに入った次の瞬間に、その銃は構えられた。トンプソン・コンデンター。切嗣の使う魔術礼装だ。こちらにはさすがに起源弾はないし、対サーヴァントのエーテル弾もない。しかし、装填された弾は並の防弾シールドでも、そして風王結界でも安々と防げるものではない。
そして、ライダーは無言のままに発砲した。
「ッ!」
流石のセイバーも、これには目を剥いた。頭の中の知識が直撃時の威力などを一瞬ではじき出し、すぐによけろと警告を発する。だが、片手で支えた剣の風王結界を解除するのは運転に支障が出かねない。
「南無三!」
セイバーがとったのは両手放し運転による迎撃だった。速度を十分に出していなければ、道路から飛び出して大事故となるところだったが、ギリギリのところで弾丸をはじき切ったセイバーの操作が、バイクの車体をガードレールへの激突を回避させた。ゴムの焦げるような臭いと激しい火花の散る中で、追い打ちをかけるかのようにライダーの持つ拳銃が火を噴いていく。今度はなんと両手で拳銃を構えての手放し運転。しかしハンドルは誰かが握っているかのように車体のバランスを取り、走らせる。
そして、銃の引き金はためらいなく引かれた。単純計算で二倍の弾丸が襲い掛かる。
セイバーは、もはや全力での防御を強いられている。魔力で編み上げた鎧を腕と胴体の部分だけ纏い、防御の足しとする。さらには左右に細かくハンドルを切り、道路を左右ぎりぎりまで使ってライダーの狙いを定めさせない。
そして、セイバーは疲労を得ながらも一つの結果を得ることに成功していた。距離が縮まったのだ。近接戦闘を避けようとするライダーは、そのために銃撃を連続してきたが、その分だけ速度が落ちていた。
……一撃でも与えられれば!
一瞬でもいい、剣の間合いへと接近できればどうとでもなる。銃弾をはじきながらも、左手に走る痛みに耐えながらも、けっして騎士王はあきらめない。この程度であきらめていては、祖国であるブリテンを守りきることはできなかった。
だから、セイバーはあきらめていない。もっとも、それはライダーにも、ウェイバーにも言えることだ。
「くっ……」
ウェイバーとて、無傷ではない。爆発や戦闘の余波で傷を負うし、これまで使い魔やライダーの視界越しに見ていた戦場が今目の前で繰り広げられているのだ。恐怖が、ウェイバーへと襲い掛かっていく。その牙は意思を鈍らせ、思考を妨げ、さらには撤退という最悪の手段をとれと囁いてくる。
甘く甘く甘美な言の葉。市足それは、一瞬の快楽と、永遠の苦痛を伴うもの。ここで逃げることは最悪の一手だ。それでは、自分が生きて戦う意味を自分から放り捨てるに等しい。
「まだか……ウフコック……!」
「もう少しのようだ、耐えきれ!」
かわすのは会話。その内容を理解するのは二人と一匹だけだ。綿密に練り上げられているこの計画は、その成功度を各ステップの達成度に大きく依存する。最大の効果を得るためには、最低でもすべてのステップで七割以上の達成度を必要とした。最低条件は、アイリスフィールを通じて、ライダーがもち得る最後の宝具によって元へと戻すこと。
そしてウェイバーの決死の声はライダーにも届いていた。その声を通して、恐怖と戦うウェイバーの意思を酌んだライダーは、歯を食いしばって攻撃を続ける。
やることは唯一つ。セイバーを引きつけつつも一定の距離を保てるように銃撃を放つこと。
ライダーは目を閉じていた。運転に集中するためでもあり、後方に付けているセイバーの動きを感じ取るためだ。セイバーの正確な動きはライダーも舌を巻くほどだ。こちらの迎撃を最低限の動きで最大限回避してくる。しかも単純にかわすだけでなく、聖剣や風の結界、カーブや坂道、銃の再装填までのラグなど使えるものをすべて使ってこちらとの距離を詰めようとしている。それらを聖杯からの知識と直感だけで叶える適応力の素晴らしさは語るまでもない。
だがそれゆえに、ライダーもその動きを読み取ることができた。リズムが生まれるのだ。これまで倉庫街やアインツベルンの森、そしてこれまでの迎撃の中でセイバーの太刀筋を理解することはできた。あとはどの湯女状況でどのような動きをとるかを記憶して、理解すれば予測できる。あとは最善のタイミングを逃さないことだ。カジノでの最後の戦い、恐るべきセンスと技術を持つディーラーとの一対一の勝負で学んだ、夜の砂漠を延々と歩くような中で勝機を見出すことをライダーは思い出していた。
そして、その一瞬が来ると考えた次の瞬間には、ライダーの手からとあるものが投じられていた。
黒い球体。金属製のピンが抜かれて投じられたそれは、視線を動かしたセイバーの眼前へと吸い込まれるように投げられた。剣ではじくことも、軌道をそらすことで回避することもできない。ライダーがセイバーの動きを読み、そうなるべくして生まれた必然だった。
そして、それは直感によってセイバーが視線をそらす前に内に秘めた効果を発揮した。
「っ!?」
閃光弾。強力な光はセイバーの視界を一気に真っ白に染め上げた。
だが、セイバーも足掻いた。とっさにハンドルを切り、ライダーが構えた銃口の先から逃れたのだ。そしてアクセルを一気に踏み込んだ。そのままの勢いで剣が迫る。セイバーの決死の行動は、両者の距離が一瞬で詰まるという結果を生み出した。
---捕まって!
ライダーは拳銃を放り捨てて、左手にウフコックが変身した武器を呼び出す。ナイフだ。ただのナイフではなく高電磁を発して白熱の刃で対象を切り裂く未来のナイフ。包丁ほどの大きさのそれを一瞬で構えると、セイバーの剣を迎え撃つ。
高速度域で聖剣と未来のナイフが激突する。
「うわっ!」
当然のごとく干渉しあい、しかしその刃に宿る神秘の量か、あるいは質量の差か、ぐにゃりとナイフは折れ曲がっていく。しかしライダーは、はじかれてしまうことを予測し、セイバーの太刀筋を十分に感覚したうえで受け流した。互いの位置関係を感覚して、最適な行動を体に取らせた。
その瞬間だ、ライダーはウフコックを通じて通信を受け取っていた。合図だ。
「くそ、間に合うか!?」
ウフコックは叫んだ、しかしそれにかぶせるように、ウェイバーがどなった。
「間に合わせる!」
一瞬交差した二台の乗り物は、今は至近距離にある。次にセイバーが剣をふるって来れば、即アウトだ。
だが、準備はできている。ここまでセイバーを引きつけていれば十分だ。バーサーカーも、ランサーも、アーチャーも。
---ウェイバー、令呪を!
「ああ、使ってくれライダー! この聖杯戦争に挑んだ僕自身の価値のためにも!」
ウェイバーの右手の令呪四画のうちの一角が、赤い光を放ちながら効果を発揮する。そして、その場にいたサーヴァントとマスターたちを白い光が包み込んでいく。
それでもなお、ウェイバーは恐れることなく目を開けたままだった。
忙しいと逆に悟りますね。時間の使い方を気をつければいいのだと。
だけど、さすがにレポート三つはきついです。いや、四つでしたか……学業を頑張っても労災認定降りませんからね。
物語自体は結構すすめました。ちょっと予定より進行が遅かったので、今回は文字数が増えちゃいました。出来れば次の章で完結にしたいですね……。ちょっと伏線も配置したり。分かっても内緒にしてくださいね?
では、また明日更新しますのでお楽しみに。