輝けぬダヰアモンド   作:矢神敏一

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色には負けぬと乙女の誓い

 妹が、色に現を抜かして大怪我をしたやうだ。

 

 まつたくだらしのない。那智の滝に打たれて出直して来い。そしてきちんと邪念を祓つて来た方が良い。今回は良かつたものの、いずれ命を落とすことになるやもしれぬ。

 

 

 まつたく世間は色だの性愛だの、どうしてそう乱れたものを好むのか。

 

 

 性愛とは確かに人間の本能である。男女が惹かれあい、快楽を求め、その結果として子を成す。

 

 人類の、いや生物の不変の仕組みであり、これによつて生ける物の多くは繁殖する。性愛が無ければ人類は滅亡しているのである。

 

 

 しかしながら、であるからこそ、性愛とはまッことに下らないものなのである。

 

 

 要するに、子を成せればいいのである。子を成すことが、生物としての目的なのである。

 

 であるからして、その過程である恋わずらひや男女の機微などと言つた甘ッたるく吐き気をもよおす物はそのための手段でしかない。

 

 しかし、今般の世間を見て見れば、やれ誰が誰と寝ただの、やれ誰が私の事を無視するだの。終いには、勘違いも甚だしい冴えぬ男が、夢を掴まんとするうら若き少女をメッた刺しにし、危うく全てを奪うところで合ったではないか。

 

 第一、アヰドルなどと言う虚構の存在に恋心を抱くという時点で、やはり性愛とは人間の体の仕組み上、西洋の言葉で所謂“ばぐ”というヤツではあらんのか。

 

 まだ、草子絵や浮世絵に描かれた架空の女子に向けて自らの精を発散している者達の方がマシである。彼らはそれがあくまでも虚構の存在と知り、それをしつかりと容認しているのである。

 

 それがなんだ。アヰドルなどに現をぬかしておる奴は、口にするのも虫唾が走る“がち恋”など言ひのたまい、まるで彼女が自らの事を愛しているかのやうに振る舞い、そして最後は凶行に走るのである。

 

 これが女でも同じだ。いや、更に酷いやもしれぬ。

 

 そして更にたちが悪いのは、おおよそこの国の人間とは思えぬ風貌で、だらしのない恰好で伊太利亜人の真似事をする阿呆共だ。

 

 頑張つて欧州の人間に寄せやうとしたのやもしれぬが、本場の欧州人はかのやうにかぶれた半端ものではなく、きつちりとした紳士然の人間だ。

 

 伊太利亜人は紳士とは言い難き者共だが、それでもやはりかの掃き溜めの中に住む油虫のごとき連中よりも格式は高いのである。

 

 

 嗚呼いやだ。なにが性愛、なにが色だ。

 

 

 

 

 

 

 姉の容体は大分落ちついたやうだ。

 

 ウツカリで砲弾が直撃したと聞ゐた時は、最悪の場合をも覚悟した。

 

 五体も満足。本当に良かった。

 

 

 本日は新たな司令と顔合わせの日である。

 

 私はどうも気が進まない。

 

 前任の司令は女子であつた。故に、何の気兼ねもすることなく、また、色に染まることもなく二人で邁進してきたのである。

 

 その我等の活躍に対する評価が余りにも高く、女子は昇進、私も待遇があがることとなった。

 

 それは、それはいいのだ。

 

 待遇があがるに越したことはないし、相棒が上に行くのも喜ばしいことだ。

 

 だが、これだけは解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 新しい司令は、チャラチャラとした男なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まったく、本当に解せない。

 

 私服である時はルンペンのごとく露出の多い服をだらしなく身に纏い、そして没落貴族のやうにその上に毒々しく光る悪趣味な装飾品を身につける。

 

 

 あれは本当に人間なのであらうか?

 

 

 まず、なぜ男なのに露出するのか。

 

 解せぬ。解せぬ。解せぬのだ。

 

 奴は空から降つてきた異邦人なのではないであらうか。

 

 アレが軍人を名乗ることが、ここまで腹立たしいとは思わなんだ。

 

 丁度いい機会である。奴のねじ曲がった陰茎のごとき根性を、私が叩き直してしんぜよう。

 

 いざ来い色男。ここが貴様の墓場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こつこつと軍靴の音がひいびいた。

 

「貴方が、これからの私の秘書でございませうか?」

 

「あゝ、如何に・・・・・・も・・・・・・」

 

 私は言葉を失った。

 

 そこには紳士然とした服に身を包み、鋭い目とキリツとした顔でこちらを見つめる者が居た。

 

「まさか・・・貴様が・・・?」

 

「我はこれより貴女の司令となる者。宜しくたのみませう」

 

 手を差し出される。欧州風の挨拶か。

 

 はたと気を取り戻しければ、驚きのあまり足をもつれさせる。

 

 まるで年頃の女子のような声を出しつつ崩れかかれば、奴ははっしと私の腕をつかみそして抱きあげた。

 

 アア顔と顔がこんなにも近く。朱に染まつた顔がばれてしまう。

 

 狼狽する私に奴はこう言ひた。

 

「大丈夫でせう?お気を付けを、貴女に怪我をさせたくはない」

 

 

 

 

 私の中で、何かがとんッと落ちた音がした。

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