輝けぬダヰアモンド   作:矢神敏一

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改稿済み




「はい、カラーネガの24枚がおふたつですねー。合計で3,240円です」

 

「はいどうも。いつもありがとうございます」

 

「こちらこそまたよろしくお願いしますねー」

 

 フィルムの現像が終わった。さあ、家に帰るまでのお楽しみだ。今回はどんなふうに撮れているだろうか。

 

 フィルムカメラ。アナログ式の、昔懐かしのカメラだ。若者世代には、写ルンですの系列と言えば理解していただけるだろうが。いやまあ、ホンモノは写ルンですなんかとは比べものにはならないんだが、中に入っているモノは一緒だ。

 

 近年は写真投稿ネットワークの発達により、若年層を中心に再興の兆しがあるという。一昔前はローテクの極みとして忌避されていたのに。

 

 こうしてみると、隔世の感がある。時代は繰り返すというのを、肌で感じる。

 

 

 

 相棒のミノルタSR505をひっさげて、少し探索してみる。街の風景は全体ではつまらなくても、切り出してみると意外に美しかったりする。

 

 レンズは35~70㎜のF3.5。フィルムは今はフジカラーC200を入れている。

 

 C200は逆輸入フィルム、つまりこの国のフジフィルムが出している外国向け商品を輸入しているもので、値段もそこそこ入手も難しい。

 

 ただ、夕焼けの色が綺麗に写るから、私は好みだ。

 

 

 

 猫がトコトコ歩いている。

 

 にゃー、なんて声を出してみるが、逃げられてしまう。猫は用心深くていけない。犬の様に馬鹿みたいに駆け寄ってくれないものか。

 

 川は枝垂桜が散っていて、菜の花が咲いている。もう春も終わりか。春が終われば、あの騒がしい季節がやってくる。

 

 真夏の前に、まず梅雨だ。梅雨と言えば紫陽花(アジサイ)だ。あの鮮やかな紫を、写真に収めてみたものだ。

 

 梅雨の土砂降りは、デジタルで撮るのは難しい。こういう時こそフィルムの出番だ。

 

 なんて考えるのは、フィルム馬鹿の私だけだろう。普通は多様な条件下でも問題なく稼働するNikonとかのデジ一がいい。

 

 梅雨時の土砂降りは、夏の初めの匂いがする。湿っぽく生暖かい空気がじれったく、心をどうしようもなく浮つかせる。

 

 心持ちを入れ替えれば、梅雨時の雨も楽しい。Singin' in the rain. 雨に唄えば、心は弾む。

 

 そんな梅雨時の曇天模様の高揚感を演出してくれるにふさわしいフィルムは、SUPERIA Venus ISO800だと思う。

 

 曇天でもしっかり写り、質感も最適だ。

 

 というか、みんな使ってくれ。Natura 1600が販売終了した今、気軽に購入可能な最高感度のフィルムだ。頼むから流行ってくれ。これが亡くなったら私はどうやって写真を撮ればいい。

 

 36枚撮りで1058円。十分お得だろうと思う。

 

 閑話休題、そんな梅雨時に思いをはせながら、小川を下る。

 

 川面にメダカが映る。メダカなんて今日日見れることもそうない。豊かな自然は、すぐ近くにあるものだ。

 

 眼前をひらひらと舞うてふてふ。モンシロチョウも今では絶滅寸前だ。

 

 子供たちの元気なはしゃぎ声。金属バットの快音が響くと、白いボールが遠くへ飛んだ。

 

 

 

 目に映る景色。全ての色が鮮やかで綺麗に見えるときがあれば、すべてがくすんで黒ずんで見えるときがある。

 

 目とはこれほどに、信用ならないのかと思うときがある。

 

 それに引き換え、カメラは正直だ。

 

 フィルムによって、レンズによって、現像の仕方によって、出力の仕方によって、色も形も何もかも変える事が出来る。

 

 一見自分の目より信用できないように見えて、カメラの方がよっぽど信用できる。

 

 きちんと耳を傾ければ、何を思っているのか必ず教えてくれる。

 

 厄介な自分の心より、何百倍も素直で正直だ。

 

 相棒をそっと構える。目の中に飛び込んでくる、少し色が薄くてセピアな世界。

 

 丁寧にシャッターを切る。写真が出来上がるのはずっと先の事だ。

 

 今、私はこんな気持ち。

 

 写真を見た時、私はどんな気持ちなんだろう。

 

 

 

 桜の樹から花弁がひらひら落ちる。

 

 花吹雪に包まれて、私はシャッターを切った。

 

 次の写真を撮ろうとフィルムを巻くと、硬い感触。

 

 36枚を撮り終わったらしい。

 

 このデジタルの時代、たった36枚をこんなにも時間をかけてゆっくり撮ることなどそうそうないだろう。

 

 一つモノを、ゆっくり見て、吟味して、捨てて、拾って、嘆いて、感嘆して、そして思いを込めてシャッターを切る。

 

 そんな日常は、既に贅沢なのだろう。

 

 時代はすでに、高速化する贅沢からスロ―な贅沢へと舵を切った。

 

 のんびりとする方がお金がかかるこの時代で、なんて幸せなんだろう。

 

 

 

 フィルムを巻き上げて交換する。

 

 次はモノクロフィルムだ。

 

 Across100。伝統と格式のフジネオパンシリーズ。その最期だ。

 

 先日、ついにAcrossの廃止が決定したらしい。悲しい限りだ。まだ中判では撮ってないのに。

 

 時雨ちゃんに頼みこんであのMAMIYAを貸してもらおうか。

 

 

 

 

 モノクロはモノクロで、また見える世界が違う。

 

 どんなに鮮やかで美麗な世界でも、出来上がりは白と黒の世界。

 

 だけれど、それ故に鮮やかで、美しい。

 

 でも、どんなときでもその美しさを表現できるとは限らない。

 

 もっと繊細に、もっと慎重に考えこんで、少しダークな世界観を演出する。

 

 この見事な色の桜も、出来上がればモノクロの世界に沈み込む。

 

 それは美しいか否か。

 

 ダイコンの花が咲き誇る野原、その中に一本の老木が朽ちている。

 

 それが美しいか否か。

 

 地元の人間がずっとお世話になってきた医院がその30年の歴史に幕を閉じた。時代に取り残された世界がモノクロに沈むことが

 

 美しいか否か。

 

 

 

 美しい。

 

 それは、甘美な言葉だ。

 

 人は美しさを求めて生きる。

 

 たとえそれが倒錯的であったとしても、退廃的であったとしても。

 

 この美しい世界の端っこに兵器として生を受けて、美しさを甘受する。

 

 ああ、素晴らしきかな、世界。

 

 醜ささえも、汚ささえも美しく見える。

 

 ああ、素晴らしきかな、世界。

 

 明日もきっとこうやって、美しさを感じながら生きていく。

 

 美しさの奔流の中で、溺れて生きていく。

 

 

 

 なんと贅沢で、倒錯的な生き方だろうか。

 

 楽しいのだから、仕方ない。

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