麻雀少女は愛が欲しい   作:小早川 桂

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京ちゃんが女性に興味あるって示したかった、ただそれだけなんだ。


18.『国広一は熱く語りき』

「きょ、京さんの家よりでかいっす」

 

「ザ・豪邸だな」

 

「素敵なお家だわ」

 

 三者三様の反応を見せる京太郎たち。彼らは今、衣の家。ひいては龍門渕グループの本家の前にいた。

 

 先週、寝ていた衣を引き渡した際に彼女の親戚にして龍門渕家の娘である龍門渕透華にお呼ばれしていたのだ。インターホンではなく呼び鈴を鳴らした彼らは目の前に広がる豪邸と広大な土地に驚嘆していたところだった。

 

「お待たせ、三人とも」

 

 しばらくして中から出てきた案内人は透華付けのメイドにして昨年、長野県大会を優勝した龍門渕学園の一人である国広一。

 

 頬につけたタトゥーシールがチャームポイントの女の子だ。

 

 しかし、彼女の特徴はそんなところにはない。国広一という人物を語るにあたって外せないのが奇抜な服装である。

 

 ぷりっとしたお尻の割れ目が見えてしまっているミニスカート。肌を全く隠せていない上着。少しでもずれたら秘部が見えてしまいそうなギリギリのラインを責めていた。

 

 下着すらつけていないのがわかる。

 

 初対面の時に、京太郎と桃子が急いで110番通報したくらいだ。

 

 なにより彼女のひどいのは自覚症状があり、なおかつこのファッションがイケていると思い込んでいるところ。つまるところ、好んで露出しているのだ、国広一は。

 

 三人を連れて衣の部屋へと向かう道中の中頃。思い出したように一は口を開く。

 

「ねぇ、巨乳好きの京太郎」

 

「なんだ、露出狂の国広君」

 

「は?」

 

「あ?」

 

 息をするように互いの額をぶつけてにらみ合う二人。

 

 変態は変態に通じるものがあるらしく、一は京太郎の趣向を把握している。

 

 彼女は京太郎を自分側に引き込みたい。京太郎は当然、かたくなに拒否する。だから、京太郎にとって一は天敵のような立場にあるのだ。

 

「いいかい? この服は現代アートなんだ。元来、人間が身に持つ魅力を存分に引き出そうとしているんだよ。だからこそ、恥ずかしさもなく、こうして闊歩できる」

 

「建前はわかった。で、本音は?」

 

「ボクはこうして肌を晒すのが好きなんだ。いや、違うな。こうすることで欲が詰まった下衆い視線を一身に受けるのがたまらなく気持ちいいんだ」

 

「………………」

 

「あの好奇の視線で下から上までなめ回されるように見つめられるとゾクゾクする。背徳感、緊張感……多くのことを感じられるんだ。それがたまらない」

 

 自分の腕を抱いて身震いする痴女。

 

 その頬は恍惚と朱に染まっている。過去の汚い思い出にでも浸っているのだろう。

 

 とりあえず、モモと福路さんとは離しておこう。

 

 純粋無垢という天然記念物を穢すわけにはいかない。

 

 そう思った京太郎は歩調を遅らせて一歩下がった。

 

「どうしたんだい、京太郎。頬が引きつっているよ」

 

「いや、今日も全力で飛ばしているなって。お前はマジで衣に悪影響だと思う」

 

「君は不満ばかりだね。だから、ボクも遠慮なく不満を吐かせてもらおう。――どうして君はボクに欲情しない?」

 

「は? 大きいおっぱいが好きだからに決まっているだろ」

 

「京さん! 本音! 本音漏れてるっす!?」

 

 しかし、熱くなっている彼に桃子のツッコミは届いていない。

 

 ヒートアップしていた京太郎は止まらない。一のあおりも止まらない。噛み合っていらない相乗効果を発揮する。

 

「それなら仕方ない。ボクにはないからね。じゃあ、聞こうか? 君は東横さん、福路さん。どっちの胸が好き――」

 

「両方だ」

 

「ほう……」

 

 漢京太郎。本人たちが目の前にいるのに関係ないと言わんばかりに語りだす。

 

 一方、桃子は自慢げに胸を張り、美穂子は赤面しながら腕で隠すように抱きしめた。

 

「同じ巨乳に見えるがその実は違う。まず、モモは張りが凄い。あのサイズなのに垂れていないんだ。それでいて腕に押し付けられた時の柔らかさと確かに跳ね返してくれる弾力。必ずと言っていいほどの幸福感を与えてくれるだろう。一級品であることに間違いはない」

 

「……深いね。続けて」

 

「福路さんの胸は感触で楽しむんじゃない。目で、視覚で感じる高級品なんだ。型崩れすることなく美しく放物線を描いている。清楚な雰囲気を持つ彼女のイメージを壊さないように、いやらしさを隠しているんだ。だからこそ、思わず視線がいってしまう。なぜなら、芸術品だから。綺麗なものを見ようと思うのにどうしてためらう必要がある?」

 

「結論は?」

 

「モモが天上とするならば福路さんは極致。互いに俺の人生の中では最高点に到達している」

 

「……なるほど、じっくり勉強させてもらったよ、京太郎。それでいてボクは謝罪しなければならないね」

 

 一は歩みを止めると頭を下げる。突然の行動に驚く京太郎だったが、彼は黙って彼女の続きを求めた。

 

「ボクは君をなめていたようだ。ただの乳好きの変態だとね。でも、違った。確固とした理念を持ち合わせているならボクに興味を持つなんてありえないわけだよ」

 

「……お前にそこまで褒められるとは思ってなかったよ」

 

「ボクだってわかるさ。だけど、だからこそ思ったね。君はやはり変態(こちら)側だと。必ず素でその熱論を繰り出せるようにしてみせる」

 

「ふっ。やれるもんならやってみやがれ」

 

 差し出された手を互いに握り締めて、熱い視線を交わす。

 

 そこには確かな友情が、同じものを共有した戦友ともいえるような友情が芽生えていた。

 

 そして、二人は思う。

 

 この場をどうやって乗り切ろうかと。

 

「ふっふっふ、京さぁん。お話は終わりっすかぁ? 私にも看過できない部分があるってもんですよぉ」

 

「……須賀君。少しだけお話があるの、ええ。大丈夫、怖くないわ。ちょっとだけおふざけがすぎるかなぁって思っただけよ」

 

 京太郎に好意を抱く二人ではあったが、京太郎の熱弁には共感できなかったらしい。

 

 当然の結果だろう。

 

 いくら褒めてくれたとはいえ、他人の前で熱く語られるのは恥ずかしい。二人きりならば話は変わっていただろうが、そうはいかない。

 

 限界を突破した照れと喜びと怒りが混ざり合って混沌と化した感情の矛先は変態二人へと向かうことになる。

 

「……よかったね、須賀君。君の至高とも言える一品を持つ女性が相手をしてくれるみたいだよ、行きなよ」

 

「なに言ってんだ、国広君。熱い友情をたった今感じたじゃないか。ここは仲良くしようぜ」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「二人とも覚悟はいいっすね?」

 

「…………うふふふ」

 

「「…………逃げるが勝ち!」」

 

 窮地の二人は にげだした!

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「……ひどい目にあった……」

 

「お前なんかいいさ。俺は正気に戻すってチョップを後頭部に何発も喰らったんだぞ?」

 

「因果応報ってやつっすよ。……たく、揉みたいなら素直にそう言えばいいのに」

 

「そういう話でもなかった気がするのは私だけ? 桃子さん」

 

 いろいろと事情が重なり、少し遠回りした面々は早歩きで目的地へと向かっていた。

 

 一連の騒ぎで約束の時間を少し過ぎてしまっていたのだ。

 

 目指すのは本館から少し離れた場所にある別館とも言える一戸建て。

 

 そこは衣が暮らす彼女専用の家。しかし、実際は檻だ。彼女を閉じ込めるために用意された監獄。

 

 透華の父が衣の持つ人外じみた力を恐れて作り上げた場所だった。

 

「衣ちゃんに申し訳ないことしたっす」

 

「ちゃんと謝りましょう」

 

「俺は土下座する」

 

「なら、ボクは服を脱いで詫びよう」

 

 それぞれ誠意を示す謝罪をしようと心に決める。

 

 ようやく入り口に着くと、衣の執事であるハギヨシが外で待っていた。

 

「すみません、ハギヨシさん! 遅れました!」

 

「申し訳ないっす!」

 

「ごめんなさい!」

 

「いえ、みなさまお待ちしておりました。ご足労、不便をおかけしましたことをお詫びします」

 

「いやいや、俺達も衣と麻雀打つのは楽しみでしたし」

 

「大会ではライバルでも今は友達ですから」

 

「あ、私はあるっすよ、ハギヨシさん。この人は何でここで働いているっすか?」

 

「国広さんは透華お嬢様のご選出ですので」

 

「あっ」

 

「そう。だから、ボクはこうして自由にできるのさ」

 

 自覚している分、なおさら質が悪いと京太郎は思った。流石の美穂子も苦笑いしている。

 

「ちなみに、龍門渕さんの反応は?」

 

「嫌がっているけど?」

 

「お前って本当やばいな」

 

「知ってるさ。でも、やめられない。それが露出……!」

 

 ドヤ顔を披露する一に呆れる一同。しかし、これが国広一という人物でもう受け入れられているのだ。

 

 おそらくこれから一生正すことはできないだろう。

 

 気分が乗った一は改めて京太郎に持論を展開しながら絡み始める。その様子を遠巻きに眺めながら桃子と美穂子は別件のことを話し合っていた。

 

 二人しか知らない大切なことを。

 

「……この人には手紙は来てなさそうっすね、大人になっても幸せそうだし」

 

「いいことじゃない。手紙にはいいことが書かれていないのでしょう?」

 

「そうっすね。ライバルも減るわけですから、あとは衣ちゃんに聞くだけっすかね」

 

「そうね。きっと衣ちゃんも受け入れてくれるはずよ」

 

「……そうっすね。と、噂をすればっす。来たみたいですよ、衣ちゃん」

 

 大きな扉を開けてひょこっと姿を覗かせる金髪幼女。

 

 家の前で談笑していたメンバーを見て、瞳を輝かせるとタタタと可愛らしい小走りで駆け寄ってきた。

 

「待っていたぞ、京太郎! 桃子! 美穂子!」

 

 きっと時間になってもやってこないことに不安があったのだろう衣の喜びは一層大きい。

 

 普段の大人ぶった様子はなく、見た目相応のはしゃぎっぷりを見せていた。

 

「おう、ごめんな。ちょっと俺のせいで遅れちゃって……」

 

「……構わぬ。ここに三人が無事に来てくれたことが衣は何よりうれしいからな!」

 

「衣ちゃん!!」

 

「だ、だから桃子は抱き着くな! き、きつい!」

 

「どうだ、衣。張りが凄いだろ?」

 

「……須賀君?」

 

「すみません、冗談です」

 

「おお、美穂子! 助けてくれ! お前だけが頼りだ!」

 

「ふふっ。スキンシップよ、衣ちゃん」

 

「またか! またなのか!?」

 

 いつも通りの決まったやり取り。

 

 けれど、飽きることなど絶対にない。一分一秒がかけがえのないものだから。

 

 だから、笑顔が絶えることなどありえない。

 

 こうして衣宅での楽しい一日が始まるのであった。




おもちの部分は消すか迷ったけど、そのままいった。
反省はしていない、後悔もしていない。

衣編の次に清澄ぶっこむ。

次回は文章が長くなる可能性があるので投稿できないかもしれない。
闘牌シーンは時間がかかるから許してください。

あと、感想返しは絶対にやる。
ちょっとだけ待ってください、なんでもするから。

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