西暦2015年7月――――人類は、滅亡した。
それは、核戦争や小惑星衝突のごとき大災禍ではなく、殺人ウイルスや異常気象・群発地震のような大自然の逆襲でもなく、政府や秘密結社の密やかなる陰謀でもない……地上に住まう誰一人にさえ想像できなかった、突然の破滅であった。
“人理焼却”。
すなわち、人類史における決定的なターニングポイントへの“超時空的介入”と“過去改ざん”。
人類の文明の礎たる「学問の成り立ち」「宗教という発明」「航海技術の獲得」「情報伝達技術への着目」「宇宙開発への着手」……それら星の開拓の歴史が、恐るべき改変者によって捻じ曲げられ、人類の未来までもが失われてしまったのだ。
“過去”から殴りつけられた人類は、はた迷惑にも惑星一つを火の海にしながら、為す術すらなく滅びるかと思われた……
……だが!
それでも人類は死に絶えてはいなかった!!
時を超えて人類史を守る最後の砦……その名を、“人理継続保障機関カルデア”という。
改変された過去を再び修正すべく、古今東西の英雄を引き連れた唯一人の“カルデアのマスター”が、
そして今、カルデアの施設に設けられた会議室に5人の男たちが集まっている。
その全員がモンゴロイドの人種的特徴を有し、日本語を母語とすることから外国人であることが察せられる。……事実、彼らは本来カルデアの職員ではない。
彼らは日本のとある出版社に務める編集部員であり、このカルデアの研究施設を取材に訪れていた。しかし、そのとき不幸にもカルデアを襲った大事故――すなわち、人理焼却に加担する人類の裏切り者“レフ・ライノール”による破壊工作の現場に居合わせてしまったのだ。
カルデア職員の生存者はわずか20名ばかり。人類の危機となれば、部外者たる彼らも協力するに否やはなかった。故障した機材の修理やメンテナンスなど専門的な仕事はできないが、施設の管理や資料の調査など、やるべきことはいくらでも残っていた。
そして、仕事の合間を縫って彼らは集合し、再び人類存亡の危機に立ち向かうべく、知恵を絞り議論を戦わせようとしていた……!
そう。彼らは、ただの編集部員ではない。
キバヤシ、ナワヤ、タナカ、イケダ、トマル……彼らこそ、かつて1999年の人類滅亡危機に立ち向かった、勇敢なる“
◇◆◇
「皆、よく集まってくれた!」
眼鏡を掛けたリーダー格の男、元MMR隊長のキバヤシが隊員たちを労う。
普段通りの気丈な表情を見せているが、どこか沈鬱な影をまとっているようにも感じられる……彼らにつきつけられた“人類滅亡”という事実の重さが伺われた。
「いえ、こんな非常事態ですから。でも……まさか、本当に人類が滅亡してしまうなんて」
「それに、その原因が、我々がこれまで調査してきた危機とは全く違う“過去の歴史への介入”……SF映画でも観てるような気分です」
全員の心境を代弁するかのように、タナカ隊員とイケダ隊員がそれぞれ困惑を露わにする。
ご存じない方もいるかもしれないので説明しておくが……MMRは前世紀末に活動したチームであり、出版社に寄せられた読者からの投稿や日本各地・世界各国からの情報をもとに様々な事件や超常現象を調査し、世紀末に予言された破滅に対抗すべく人類に警鐘を鳴らし続けてきたのだ。
そしてその中で、彼らが特に重点したのが“1999年7の月”の滅亡であった。
その予言を残した大預言者ノストラダムスの詩や聖書等の解読、科学者や霊能力者への取材、事件現場や遺跡へのフィールドワークなどを通じて、世界を滅ぼさんとする陰謀の数々を暴いてきたのであるが……
「……そうだな。今回のことは、俺たちMMRにとっても無念の極みだ……」
言葉の端に悔しさをにじませるキバヤシ。
かつてMMRは“超能力”の検証に挑み、その力を利用せんとする恐るべき計画にたどり着いたことがあった(単行本①巻参照)。その取材は途中で何者かに阻まれたかのように打ち切られてしまったのだが、超能力を認めつつも“魔法”や“魔術”の存在を検証しなかったことは、キバヤシにとって痛恨のミスであった。
「おいおい、そう暗くなるなよ! ま、気持ちは分かるけどよ……でも、アレだろ? 敵が魔法使いなら俺たちカルデアにだって魔法使いがいるじゃねえか!」
そう言って場の空気を和らげようとしたのは、ナワヤ隊員である。普段はお調子者の彼であるが、やるときはやる男なのだ。
「“魔法使い”じゃなくて“魔術師”だそうですよ、ナワヤさん」
「あぁ? それなンか違うのか?」
「ぼくも詳しくは知りませんが……科学技術で再現できるものを“魔術”、再現できないものを“魔法”というらしいですね」
「へえー。じゃあ、今回の事件は魔法ってわけだ。タイムマシンは開発されてねぇもンな」
ナワヤはそう言うと、急に何やら悩みだした。おそらく、もしタイムマシンが発明されたら何に使うか考えているのだろう、主にモテ的な意味で。周りの隊員たちは呆れた視線を送っているが、キバヤシにとって、自分なりに事態を把握しようとするナワヤの姿は勇気づけられるものだった。
「皆、聞いてくれ。この“人理焼却”は魔法と魔術によって引き起こされた……魔術を使えない俺たちにとっては専門外だが、それでも諦める訳にはいかない!」
「そうですよね! 我々にも、何かできることがあるはずです!」
「そうこなくっちゃな!」
「やりましょう!」
隊員たちの熱い賛同の言葉が、キバヤシの闘志を蘇らせていく。そうだ、まだ終わっちゃいない。俺たちMMRがいる限り、人類滅亡など認めるわけにはいかないんだ!
「ありがとう、頼もしい限りだ……! それで、俺たちが今後取り組むべきことだが……やはり、かつてのMMRのように、この“人理焼却”を俺たちなりの視点から調査すべきだと思うんだ」
「我々の視点というと……読者からの投稿ですか? しかしキバヤシさん、もうカルデアの外の人類は……」
「ああ、分かっているさ。若さゆえの鋭い感性と閃きを持った読者たちからの投稿を頼れないのは片翼をもがれた気持ちだが……俺たちの武器はそれだけじゃない! ……人類滅亡が訪れた今こそ、俺たちはもう一度あの“ノストラダムスの大予言”に立ち返るべきだと思うんだよ!」
「「「「ノ、“ノストラダムスの大予言”ーーー!?」」」」
まさに、意外な提案であった。
“ノストラダムスの大予言”。16世紀に生きた大予言者ノストラダムスが残し、MMRが全精力を持って解明に取り組んだ終末の予言である。すなわち、数多ある予言の中で最も有名な――
1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために。
「いや、待てよキバヤシ! その予言はもう外れただろ!? なんで今更!」
「ナワヤ……お前の疑問はもっともだ。だが、俺の推測が正しければ……“ノストラダムスの大予言”は、
「ど、どういうことだキバヤシーーー!?!?」
混乱するナワヤを落ち着かせるように、キバヤシは努めて冷静な口調を保ちながら隊員たちに問いかける。
「そうだな、皆……自分が犯罪者になったと考えてほしい。強盗でも殺人でも、何でもいい」
「犯罪、ですか……? あまりいい気分はしませんが……」
「イメージしてみてくれ。俺たちはこれから犯罪を犯そうとしている。だが……もし、その犯行をすべて見通す予言者がいたなら……どうする!?」
「予言者……!?」
ざわつく隊員たち。そして、キバヤシの視線が一人の男を射抜いた!
「タナカ……お前なら、その邪魔な予言者をどうする?」
「え!? えぇっと、そうですね……予言者がいる限り、犯罪は失敗するわけですから……なんとか味方に抱き込むか、でなければ…………あれ? どこかでそんな話を聞いた気が……」
タナカは眉間にしわを寄せ、記憶を手繰る。彼は筑波大学で考古学を専攻した経歴があり、MMR構成員の中でも特に歴史に詳しい。キバヤシは、その知識を見込んでいるのだ。
「予言……予言者……邪魔な……妨害……あ。あ、ああああァッ!!!」
「ッ!? タナカァ、大声出すんじゃねえよ、びっくりしただろ!」
「キ、キバヤシさん……そういうことだったんですね? だから……
身を乗り出しキバヤシに迫るタナカの表情は、興奮のあまり赤く染まっている。そう、彼はキバヤシの与えたヒントから、ノストラダムス大予言の真実を導き出したのだ……!
「ちょっと待ってください! タナカさんだけ分かっても僕らには分かりませんよ!」
「そうだぜ、説明してくれよ説明」
不満を露わにする他の隊員たち。キバヤシは、ニヤリと笑ってタナカに告げた。
「タナカ、説明を頼めるか?」
「任せてください!」
そう言って、タナカは会議室のホワイトボードの前に立つ。皆の前で自説を発表するのも、MMRが活動を休止してからというもの随分久しい。どこか懐かしさすら感じながら、タナカは語り始めた。
「そうですね、まず……キバヤシさんの喩え話ですが。犯罪を犯そうとしている者というのは“人理焼却”の黒幕を指し、邪魔な予言者とは……ノストラダムスその人のことです」
「おぅ、そこは分かるぜ」
「次に、ノストラダムスについてですが……1999年の予言を除けば、彼は確かに様々な予言を的中させてきたはずです。そうでなければ、あれほど多くの人々が彼の予言を信じるわけがないですからね」
「そして、だからこそ我々MMRもノストラダムスの予言を調べていた……」
「つまり、ノストラダムスには確かに予言の力があった。そうすると……“人理焼却”の黒幕にとっては、間違いなく目障りですよね? だから、それを排除する必要があるわけです。そして……予言者を無力化する方法は、既に我々人類の神話において語られているんですよ!」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。それは、ギリシャ神話の“トロイア戦争”にまつわる物語です。アガメムノン王や英雄アキレウスが属する“アカイア”と、勇将ヘクトール率いる“トロイア”の戦いなのですが、実は、トロイアには太陽神アポロンから予言の力をもらった女性がいたのです……!」
「そ、それが無力化された予言者……」
「彼女の名はカッサンドラ。
しかし、予言の力でアポロンの愛がいずれ失われることを知ったカッサンドラは、アポロンを振ってしまいます。怒ったアポロンは、彼女に呪いをかけました。『カッサンドラの予言は誰も信じない』という呪いです!
やがて、トロイアは敵の計略にかかって滅んでしまいました。カッサンドラは、それが罠だと誰より早く予言していたのに……!」
「チッ、ひでえ奴だぜ、アポロン。男ならもっと潔く無きゃダメだろォ」
プリプリと怒るナワヤ。彼的には、悲劇の予言者よりも女性を不幸にする性悪イケメン神のほうが気に障ったようだ。キバヤシは、タナカに合図して立ち位置を入れ替える。
「ありがとう、タナカ。ここからは俺が続けよう」
「キバヤシさん。タナカさんの説明で、予言者カッサンドラについてはよくわかりました。でも、それが何だと言うんです?」
「カッサンドラの伝説……それが俺たちに伝えるのは、『予言者を無力化するには、その予言を誰も信じないようにすればいい』ということだ」
そう言い切って、キバヤシは一度言葉を切る。その迫力に、ごくり、と隊員たちがつばを飲み込んだ。
「思い出してくれ。“人理焼却”の黒幕は、過去を改変することができた。だとしたら……奴らが予言者を無力化するために取る方法は、一つだ。
……奴らは、ノストラダムスの本当の予言を、過去に遡って改変したんだよ!!!」
「「「「な、なんだってーーーー!?!?!?」」」」
驚愕する一同。キバヤシの仮説がもし正しいとすれば、自分たちMMRのかつての調査は、“人理焼却”の黒幕の手のひらの上で踊っていたことになる……!
「予言の内容が改変されている……そう仮定して、先ほどの予言をもう一度見てほしい」
なお冷静に指示するキバヤシに、混乱を隠せないまま隊員たちは従った。
「『1999年7か月、
空から恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
マルスの前後に首尾よく支配するために』
……これが、既に改変されているってことですか!?」
「そうさ……恐ろしいことだが……皆、予言の“1999年”を“2015年”に置き換えるんだ」
「……ええと……『2015年7月に恐怖の大王がやってくる』……!? ああ! まさに今が2015年7月ですよ!!!」
「ああ。たった一箇所を置き換えただけで、この“人理焼却”の危機をピタリと言い当てているんだ……! それだけじゃない。裏切り者レフ・ライノールは、自分に“王”がいると言っていた!」
「王……恐怖の大王……!」
「だ、だがよキバヤシ。それじゃあ、最後の行が解釈できねェぜ。マルスって火星だろ?」
恐るべき整合性におののく隊員たち。だが、ナワヤはキバヤシに異論を唱えた。こうして疑問を検討し、議論を積み重ねていくことでMMRの調査はより重厚に、説得力を増していくのである!
「いや、それも説明がついてしまうんだ……! ナワヤの言うとおり、マルスには火星という意味があるが……マルスとはそもそも、ローマ神話における神の名前だ。そして、マルス神が支配するのは……“戦争”!」
「せ、戦争ですか!?」
「思い出すんだ。カルデアのグランドオーダーにおいて、各時代で聖杯をめぐる戦いのことをなんと言ったのかを!」
「……“聖杯戦争”……!」
「そうだ……そして、これまでの議論をまとめると、予言はこうなる。
『2015年7月、
空から(人理焼却の黒幕である)恐怖の大王が来るだろう、
アンゴルモアの大王を蘇らせ、
どうだ……まさに俺たち人類の置かれた状況そのものじゃないか!
奴らは、カルデアとの聖杯争奪戦に勝利し、“人理焼却”を完遂して新たな支配者になろうとしているんだ! そして、邪魔になるノストラダムスの予言を書き換え、本当の破滅が訪れる前に予言を外すことで、誰も信じなくなるよう仕組んだんだよーーー!!!」
「な、なんてことだ……! じゃあ、我々はとっくに手遅れだったってことなんですかーー!?」
隊員たちを絶望が襲う……! しかし、キバヤシの瞳に燃える闘志は、未だ輝きを失ってはいなかった!
「いや……まだ希望はある!」
「!?」
「覚えているか、俺たちがかつて予知能力について調査した時のことを(単行本②巻参照)! なぜ予言者たちはあいまいな予言だけを残したのか、その理由は『予言者自身も、自分が見たものをどう言い表していいか分からないから』だと突き止めたはずだ!」
「あ、ああ……思い出したぜ。それで、霊能力者の宜保愛子氏に取材したンだよな」
「予言者自身にも表現しきれないことなら、部外者が改変するのは一層難しいはずだ。ここから一つの仮説が成り立つ……つまり、
「た、たしかに……! 文学的にも高度な予言詩をいじれば、そこから不自然さがにじみ出てしまう! だったら、固有名詞を書き換える方が安全かつ確実ですね……!」
「さっきの予言も、改変されていたのは1999年→2015年の部分だけだった。だから、俺たちは逆に具体的表現を疑い、それ以外の部分を重視していくことで、ノストラダムスの本当の予言に近づけるかもしれない……!」
「「「「な、なるほどーーー!!!」」」」
キバヤシの提示した仮説を聞き、隊員たちの表情が再び明るさを取り戻した!
「そうと分かればやることは一つだな! 俺、資料室からノストラダムスの本借りてくるわ!」
「あっナワヤさん! ……行っちゃいました。自分から雑用するなんて珍しいですね」
「ほら、資料室にはメドゥーサさんが入り浸ってるから……」
「ああ……」
「メドゥーサさん美人ですもんね……こんな状況じゃなきゃ、うちの巻頭グラビアに勧誘したいくらいですよ」
「むしろここのサーヴァントさん全員グラビアに載せたいよね」
「ははは、じゃあ人類滅亡が回避できたら、“実録カルデア美少女・美女カタログ”とでも名づけて企画を打診してみようか。そのためにも……まず、ナワヤが戻ってくるまでにカルデアの
希望が見えれば、未来に思いを馳せることが出来る。未来のためなら、力の全てを尽くすことができる。いまや、隊員たちの心は一つだった。キバヤシは、改めて仲間の心強さを思う。彼らの力こそMMR、そしてマガジン編集部のエンジンだ!
「よし。まずは基本的なところからだ。“人理焼却”を目論む敵は、人類史上の7つの時代に介入し、過去を改変した。改変された時代……すなわち特異点を修復するのがカルデアの目的だ」
そう言うと、キバヤシはホワイトボードに7つの年号と地名を列記した。それは、現時点において観測されている特異点の座標である。
【第一特異点】西暦1431年 オルレアン
【第二特異点】西暦0060年 セプテム
【第三特異点】西暦1573年 オケアノス
【第四特異点】西暦1888年 ?
【第五特異点】西暦1783年 イ・プルーリバス・ウナム
【第六特異点】西暦1273年 ?
【第七特異点】紀元前? ?
「以上が、ロマン博士から教えてもらった特異点の座標だ。現在は、『第一特異点』まで修復が完了している……! みんな、これを見て意見を聞かせて欲しい!」
「ええと……こうしてみると、“?”が多いですね」
「ああ。それは、カルデア側の観測精度の問題らしい。他の特異点を修復していけば、観測のゆらぎも減って特定できるようになるそうだ」
「すみませんキバヤシさん、ちょっと地名が分からなくて……」
「トマルか。いや、謝ることはない。それは重要な指摘だ」
申し訳なさげにしているトマル隊員だが、実際、時間座標はともかく空間座標については奇妙な結果が非常に多い。まずはそれを解析する必要があるだろう、そう考えたキバヤシは、海外経験豊富なイケダ隊員と歴史に詳しいタナカ隊員の意見を募る。資料集めに行ったのがナワヤ隊員だったのは、結果的には良い人選だったのかもしれない。
「オルレアンは、そのままフランスの地名ですよね。セプテムとオケアノスはわからないんですが、イ・プルーリバス・ウナムは確か『多数から一つへ』という意味だったはずです。オバマ大統領の演説で出てきましたよ」
「なるほど。確かに、俺もどこかで聞いたことがある……なにか引っかかるな。イケダ、その“イ・プルーリバス・ウナム”という言葉について詳しく調べてくれないか?」
「了解です!」
「さて、残りの2つだが……」
「あ、セプテムとオケアノスはちょっと分かります」
「タナカ!」
「セプテムはラテン語で“7”の意味、オケアノスはギリシャ神話で外洋の神様の名前ですね。ただ、どちらも具体的な地名とはちょっと違う気がするんですけど……」
「そうだな……そのあたりは、年代と照らしあわせて予想するしかないか」
キバヤシは、羅列された年号を眺める。既に修復された第一特異点=西暦1431年のオルレアンでは、同年に処刑されたジャンヌ・ダルクが復活して国王シャルル7世を殺害、竜を呼び寄せて国中に虐殺の災禍をばらまいたという。
カルデア側の推測によれば、これによってフランスにおける人間の自由・平等の権利成立が遅れ、人類全体の人権意識の進歩が停滞する可能性があったとのことだ。
(つまり、各特異点の年代に起きた事件を調べればいいということか……)
IQ170を誇るキバヤシだが、さすがに年号から世界中の事件を漏れなく列挙できるほど記憶力に自信はなかった。ならばナワヤを待つしか無いと思うも、何か引っかかるものがある。
違和感の正体を考えるキバヤシに、トマルが質問した。
「キバヤシさん、そういえば先ほどの予言詩、3行目は結局わからないままですね」
「ああ、そうだな。『アンゴルモアの大王を蘇らせ』……これが相手の目的なのだろうが……推測するには材料が足りなすぎる」
「そもそも、アンゴルモアの大王っていったい何なんです? どこかの王様ですか?」
「あ、僕知ってますよ。
アンゴルモアの大王の正体は諸説あるんですが、有力なのはノストラダムスと同時代のフランス王でアングーモワ地方出身の“フランソワ1世”説。
もう一つはフン族の王“アッティラ”説。英雄ジークフリートを謳った“ニーベルンゲンの歌”では“エッツェル”とも呼ばれますね……あと“アルテラ”なんて呼び方も聞いたことがあるような……」
「なるほど……うーん……でも正直、そんな昔の王様が蘇っても別にって感じですよね?」
答えたのはタナカだ。トマルの反応こそ渋いが、資料も見ずに即答できるとは隊長として頼もしい限りである。
「……行き詰まってきたな。いくつか気になることはあるが……ナワヤの資料待ちか」
そう言って一息入れようとしたとき……ガラリと音がして扉が開いた。大量の資料を抱えて入ってくるのはナワヤだ。しかし、その後ろ。褐色の肌に白髪の、赤い外套を纏った男が立っている。
「奇妙な集会を開いている者がいると聞いた。一応、私もこのカルデアの世話になっている身なのでね、こうして自発的パトロールに赴いたわけだが……」
男の眼光は鋭い。心なしかナワヤの表情に怯えが見られるのも、この部屋に来るまで背後から剣呑な気配を浴びせ続けられたからだろう。キバヤシは臆さず前に進み出た。
「カルデアの関係者だろうか? 俺は日本の出版社から取材に来ているキバヤシというものだ……運悪く今回の事件に巻き込まれてしまったが、俺たちなりに検討をしてみようと思ってね。何も怪しいことはない、いっそ参加してくれても構わない」
カルデアには、サーヴァントとよばれる召喚された英雄たちが多く所属している。赤外套の男もその一人なのだろうが……なぜかキバヤシの返事を聞いた途端、その両目を驚きで見開いた。
「日本の、キバヤシ……まさか、MMRなのか!?」
後編(明日)に続く