次回をお待ちください。
なお、今回試験的に繰三語を一部訳を付けました。今後も必要でしょうか?
「このバカ精霊!!アンタ何考えてんのよ!?」
「あだだだだだだだ司令取れる取れる俺に新しい頭が必要になっちゃうががががが」
「ああその方がいいんじゃないの!?アンタのその頭じゃ、おがくずの脳味噌貰った所でポロポロ溢すだけよ!!」
「司令の罵倒ってば文学的センスに満ち溢れていだだだだだだだだだ」
現在、フラクシナス艦橋。
琴里司令に鯖折りされてます。
理由は簡単。四糸乃をトリプルデートの覗きに誘ったから。
「もし四糸乃の精神状態が不安定になることがあったら、折角封じた霊力が逆流するのよ!?元も子もないじゃない!?」
「いやでも四糸乃が寂しいかなと思ったんでお出かけがてらやったんですよぉーーーーーー!!!!」
「なら普通に出掛けなさい!!それにわざわざASTに知り合い作るなんて本格的に頭ポンコツなんじゃないの!?」
「ヤッダーバァァァーーーー!?」
まあ、司令の怒りもごもっとも。真那はASTのエース。狂三の分身なら容易く葬れる腕前だ。四糸乃が精霊として相対していたなら間違いなくただでは済まない。俺がいたこと、四糸乃が人間と変わらぬ存在になっていたことで手が出せなかっただけ、かも知れないのだ。
迂闊だったが、何にせよ真那は四糸乃を襲わなかった。俺は真那を信じたい。
「こ、これが………兄様の、義妹………!?」
四糸乃は現在別々の部屋に待機させられているが、真那はここにいる。CR-ユニットを自在に展開できる
『真那も連れていかないなら、本社にチクるしかねーです』
………と強かさを見せた。しょうがないから連れてきた次第だ。
あー痛い。気を紛らすために長考していたが、何か痛すぎて快感になってきた。神無月ィ!物欲しそうにこっち見んな!代わってやらんぞーーーーッ!!
それから五分あって、作戦中だからと司令のお仕置きから解放された。背中を擦りつつ立ち上がり、真那と共に予備の座席に座る。
そういえば俺も艦橋で攻略する様子を見るのは初めてだ。いつもは現場にいたからな。ここから見るのも中々乙だ。
「何が始まりやがるんです?」
「世界の命運を賭けたデート」
「何ですとッ!?」
映画でも見るような気分で俺が足をばたつかせながらメインモニターに映る士道先輩を見ていると、令音さんが近付いてきて俺の左隣に座った。
「誠、いいかな」
「何ですか?」
「この小さいのは何だい?」
と言って指差したのは、胸元の繰三だった。気絶した後そのまま寝ていたらしい。ちゃんと拾ってくれたのは嬉しい。だか、何も元々クマのぬいぐるみ突っ込んであるポケットに入れなくても。羨まけしからん。
「俺の相棒、繰三です。元・時崎狂三の分身で、日本語喋りません」
「………色々と理解が及ばないね」
「繰三誕生に関しては同感です」
ここで、唐突に目を醒ます。
さて………俺は余裕で分かる訳だが、試しに一つ繰三語を訳していくかね。水で触手を一本生成、令音さんの右耳にそっと添える。俺の訳を、霊力を使って令音さんの耳に出力する。
「
「我等が琴里司令の座乗艦、〈フラクシナス〉だよ」
「
「現在進行中。繰三が気絶してから大体五、六分しか経ってないぜ」
「
触手をスッと消し、繰三をつまみ上げて自分の胸元に押し込む。令音さんの方を伺うと、何とも言えない表情をしていた。
「訳、分かりました?」
「まるで法則性が見えないね」
溜め息を吐く令音さんに気付いた繰三が、フシャーとツインテールを逆立てる。ホントに子猫かお前。
「くーーー!!くくーー!!」
「今は何と?」
「『わたくしを蹴った方ですわね!覚えておくがいいですわ!』って感じです」
「やはり分からない。ひょっとしてフィーリングの問題なのかね」
「『考えるな、感じろ』って奴です。強いて言うなら、くーくー言ってたら嫌われてます」
「………そうかね。気を付けよう」
そうこうしているうちに、時間は流れる。気付けば、精霊の攻略開始時間が目前に迫っていた。
─────が。
『アイタタタタタ!?』
『シドー!?どうしたのだ!?』
ヘェーイ先輩、その大根役者っぷりは何だよ。腹痛を装って離脱とか、何してんのさ。………信じた十香も十香だが。
あー見てられん。
「令音さん。俺を水族館前へ送ってください。偶々来たと装って時間稼ぎます」
「そうするとデートでは無くなってしまうが………今回はそうも言っていられないか。頼めるかな?」
「ええ。どのくらい稼げばいいですか?」
「一時間………半、かな」
「改めて思う。ムチャクチャだろこれ………」
◇
「おおっ、これも凄いな!シドー!!───そうだった、居ないのだった………」
大量の鰯の群が、群を為して煌めき泳ぐ姿に十香は興奮する。つい士道の姿を探して振り向いてしまうが、そこに大好きな少年の姿はない。先程、腹痛を訴えてトイレに行ってしまったのだ。それを思い出すと、自分だけ楽しむことに罪悪感を覚えるし、士道がいなければ面白味も減ってしまう。
「シドー………やはり様子を見に行ったほうが………」
十香が不安げにそう口にした時、何かがピョコンと目の前に飛び出してきた。
『やっはー!!十香ちゃんおひさーー!』
「む!?お前はよしのん!?」
兎のパペット、よしのん。それが顔を出すということはつまり────。
「こ、こんにちは………」
「よう十香、奇遇だな!」
四糸乃が、いるということ。付き添いだろうか、誠の姿もあった。
「フッフッフ………さては十香、四糸乃を差し置いて士道先輩とデートだな!?」
『やー、羨ましいねーー!と言うことで、十香ちゃんに勝負を挑む!』
よしのんの短い手が、妙に力強くビシリと十香を指した。
「勝負?」
「おう。こいつだ」
こくんと小首を傾げる十香に、誠が一枚のカードを渡す。そこには、『ラブラブスタンプラリー』なる字が書いてあり、空欄が十ヵ所あった。
「水族館内の十ヵ所に、スタンプが隠して置いてある。しかも場所は日毎にランダム。これをカップルで巡ってこの空欄に押すんだ。全部集めるとペンギンのぬいぐるみがペアで貰える」
「さっ、さ、先に、っ………全部押したほうが………勝ち、です………!!」
四糸乃が若干ぷるぷる震えながら声を出す。まじまじとカードを見つめる十香。裏に、そのぬいぐるみとやらの写真がある。入り口近くの売店にも並んでいた、ふわふわの可愛らしいペンギンだった。もし入手出来れば、士道とお揃いだ。
一瞬乗り気になるが、十香は考え直す。士道が欲しいかは分からないし、それに今士道は腹痛なのだ。私だけ遊んでいいものか。しかし、ぬいぐるみが─────
「あっ、そうそう。さっき先輩と会ったけど、『十香にプレゼントする』ってやる気満々でスタンプ探してたぞ」
「─────受けて立つ!!」
十香は脇目も振らずに走り出す。何だ、士道も人が悪い。サプライズがしたかったのか。ならば、逆に驚かせてやろう。十香の顔に自然と笑みが溢れた。
「こら走るなーー。他の人に迷惑かかるぞーー」
途端にしゃかしゃかと歩き出す。誰かに迷惑はかけてはいけないな、と言わんばかりに頷きながら。
ともかく、十香の気を反らすことには成功した。誠と四糸乃は、ほっと胸を撫で下ろした。
なお、本来この水族館にそんなスタンプラリーは無い。〈ラタトスク機関〉のメンバーが今ごろ必死にスタンプを設置している頃だろう。
「さ、俺達も行こう。見たい魚、いる?」
「マンボウ…さん……が、見た、い………です」
「よーし、肩車で行こうかぁ」
「あぅあぅ………」
さて、一時間以上もどうしたものか。そう考えつつ、誠はスタンプではなくマンボウを探して歩き始めた。
◇
ランジェリーショップ。
時崎狂三のデートは、概ね順調
だが、思わぬ邪魔が入ったのだ。狂三は浮かない表情を浮かべる。
「み!」
「みみ!!」
「みみみ!!!」
何処からか
「こ、こらっ!?済まない狂三、ちょっと待っててくれ!!」
「ええ、行ってらっしゃいまし」
慌てて店を出て追い掛け、小さくなっていく士道の背中を見ながら、誰かに話し掛けるように狂三は呟く。
「突然姿が見えなくなったと思えば………………わたくしの邪魔をするつもりですの、
「みー」
すると、近くに立っていたマネキンの頭から、小さな自分が飛び移って来た。
頭の上に乗った小さな狂三は、みーみーと鳴き声を上げた。
「え?トリプルデート?きひっ、どうやったらそんなに面白い生き方が出来るのでしょうね、士道さんは」
もたらされた報告に、思わず笑ってしまった。デートの予定が重なり、その全てを同時にこなそうとする。何と不器用なことか。最も、それ以外の解決法は
「では………気長に待つとしましょうか」
「みみ。ざぁぁぁふきえる!」
忽然と小さな人影は消え、再び狂三は一人になる。
「きひ、きひひひひ……………」
◇
「あのバカ………何引っ掻き回してんのよ」
「まあ、良くやっていると思うがね」
モニターを不機嫌そうに見つめてチュッパチャップスを咥える琴里と、傍に立つ令音。二人の視線はある一点………色無誠の映る映像に向けられていた。
「こちらから提示するデートプランを無理なく実行するように上手く立ち回っている。繰三の力もあるがね」
強引ではあるが、誠と繰三が士道不在の空白を埋めるようにそれぞれのデートに
今は、折紙のスマートフォンを繰三が盗んで逃走中。と見せ掛け、先に盗んだ士道のスマートフォンを持って逃げることで、折紙の気を引いて追い掛けさせることに成功。折紙の目を欺いている。
更に、誠は水で士道の姿の分身を作り出して、水族館内を彷徨かせている。分身を見た十香は、自分もスタンプラリーをしていることに気付かれたくないのか慌てて逃げ出しており、上手く誤魔化せている。十香が見つけたスタンプは、七つ。士道との食事も違和感なく挟んだので、目に見えてご機嫌だ。水族館を回る足取りも軽い。もう少しだけ時間を稼げそうだ。
「しかし、狂三はノータッチなのね」
「繰三が最初に接触した際に、もしかすると
「肝が冷えるわ、もうやらないで欲しいわね。そういえば繰三って狂三の何なの?」
「誠曰く、狂三の分身が瀕死だった所を治療した結果、繰三になったらしい」
「分身?なるほど………道理で死なないわけね。というか真那、あんた知らなかったわけ?」
「んはぃっ!?え、ええ。私も知りませんでした。知ってたらさっさと本体を探して殺っていやがります」
予備席に座る真那は、唐突に話を振られてはっとなる。本気で精霊相手にデートをしている兄及び謎の機関員を見ていて、呆れ果てて何も言えなくなっていたのだ。
「それで、この後はどうするつもりで?まさかデートだけして終わりなんて話じゃいやがりませんよね?」
「勿論よ。ムードが最高点になったところで、士道と狂三を──────」
琴里がチュッパチャップスにキスをする真似をしようとした、その時。
「司令!!狂三に回していたカメラに異常!!映像が切れました!!」
映像を注視していた椎崎が、アクシデントの報告をする。デートの様子が映らなくなるのはまずい。琴里は指示を出す。
「急ぎで予備のカメラを二機回して!一機は先に落とされたのと同じポジション、もう一機は望遠で十メートルは離しなさい!!」
「了解!!」
琴里の様子を見ていた真那は、何かを感じていた。狂三との
「真那を下ろしてください。────何か、起きやがる気がします」
席を立った真那の目は、戦士のそれだった。かつては磨耗しきっていた使命から解き放たれ、今一度手にした願いのために。
精霊を倒し、人々の命を守る。
やっと出逢えた、兄を護る。
そのためなら、何度我が手を汚しても、心が擦り切れる気がしなかった。
◇
狂三は、笑っていた。猫を撃って遊んでいた少年達を撃って、
「ひ、ひゃあああああああ!!!!」
情けない声を出して、腰を抜かして後ずさりしながら、涙に顔を濡らして命乞いする、最後に一人残された少年。その姿に狂三は更に昂り、口が裂けるのではないかと言うほどに口を吊り上げて笑う。
「あなたは、例えば自分が撃っていた猫が泣いていたなら、撃つのを止めまして?止めてと乞うていたら、撃つのを止めまして?──────つまり、そういうことですのよ」
「お願いです、許してください!!もうしません!!猫も病院へ連れていきます!!止めて下さい!!助けて下さい!!」
「話、聞いていましたの?」
少年の
だが、すぐに指の力を抜くことになる。
「うわぁぁがぎゃぁいああああ!?!?」
狂三より先に、二人の間に割って入るように突如現れた人影が、少年の命を絶ったのだ。
白いドレスに白い髪。翡翠の瞳。
人形のような少女が少年に覆い被さったかと思えば、悲鳴と共に少年の姿は消え去った。ただ、血の染みだけを大地に遺して。
「────ごちそうさま」
立ち上がった少女は、一言そう言った。
「横取りとは、お行儀が良くないですわね」
「…………?だれ?わたし、血のにおいがしたからきただけだよ?」
「根本的にマナーがなってないんですのね」
「わかんない。けど、まだごはんたべたいなぁ」
「でしたら、その辺りのをどうぞ。わたくし興が冷めましたので、結構です」
自分が仕留めた少年達の亡骸を指した後、興味を失った狂三は踵を返す。遊び過ぎた。そろそろ士道が戻る頃だ。
─────しかし、それは失策だった。
「うん、ありがとう。いただきます」
耳許で、声がした。
ぐしゃ、と何かのひしゃげた音。
潰れたのは、誰の心臓?
「こっ、これは……………!?」
〈フラクシナス〉のカメラと共に、狂三を追ってやって来た真那は、思わず目を背けたくなった。
空き地は、血の海だった。
その中で、ぴしゃぴしゃと音を立てながら、一人の少女が歌いながらスキップをしている。
「はーんぷてぃーーだーーんぷてぃーー、何処へ逝ったのーー♪」
そこに、彼女以外の気配は無い。しかし、人の居た痕跡は、確かにあった。
手首から上の無い、狂三の右手。固く握られた銃は、その役目を果たせぬまま、血の海に濡れていた。
「あれ?」
水音が止む。跳ねていた少女の丸い瞳が、真那を捉えていた。
反射的に、CR-ユニットを起動させていた。
「おーーい、真那、何やってるんだ!?」
近付いてくる、兄の声にも気付かずに。
真那は、ただ目の前の少女を睨んでいた。
「だあれ?でったとあそんでくれるの?」
霊波反応がある。奴は精霊だ。あの狂三が分身か本体かは分からないが、狂三を倒せる精霊だ。つまり────自分と同等の実力か、それ以上の相手。
ASTに支援要請を出す。危険だ、確実に仕留めなければならない。
「でも、でったおなかいっぱいだよ?」
こいつは、今、ここで止めなければならない。握る双剣に力が籠る。
こいつからは、
士道は、明確に恐怖した。恐怖を覚えた。買い物をした。食事をした。話した。笑った。手を繋いだ。
その狂三は、今はもう、手しか残っていない。
これが、精霊。
真那が対峙する相手を見て、足が震えた。吐き気がした。あの見目麗しく、あどけない少女が。
─────
思えば、自分を《私》と言う誠と会った時から、精霊が怖かった。あれほど仲の良いと思っていた誠の中に、あのような存在がいたことが。狂三が蘇ったことも、思えば不気味だった。
そして、命を何とも思わないこの少女が、士道の心に止めを刺した。士道の中に、精霊は
妹が戦っていることも、狂三の僅かに残った亡骸も、見えなかった。
士道は、逃げ出した。
自分が情けない、とも思った。
けれど──────この恐怖は、士道の手では、拭えそうになかった。
正義の味方、初の挫折。愉悦。さて、士道を助けるのは、十香か、琴里か、それとも誠か。
そうそう、繰三は増えます、自力で。
ただし皆同じ見た目です。
時崎戦隊クルミンジャーを期待した方、残念だったな!そっちは別料金だ!!(大嘘)