水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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今回は長いので分割しました。

連投、ご容赦下さい。


Date.27「二人羽織」

  オーシャンパーク上空まで辿り着いた折紙は、疑問を覚えた。

 

  〈イフリート〉の反応が、()()()()。大きな反応と、それより微弱な反応。計器の不調も疑ったが、誠と繰三は適切に判定出来ているのでそれはない。ならば何故違いがあるのか。折紙は思案し選択する。理由はともかく、より脅威になるであろう強い反応の〈イフリート〉から潰す。

 

  決断は下した。後は、余計なことは考えない。そもそも、自分がこの〈ホワイトリコリス〉をいつまで動かせるかも解らないと言うのに、悠長にしてはいられない。

 

  しかし、進路を変えた折紙の前に、淡いブロンドの髪を揺らして一人の魔術師(ウィザード)が現れた。

 

「おや。〈ホワイトリコリス〉をそれだけ乗りこなし、尚且つバイタルも安定している。思いの外やりますね」

 

「─────ッ!!」

 

  追っ手。脳裏でその単語が浮かぶのとほぼ同時に、反射的に〈ホワイトリコリス〉が誇る二門の魔力砲を向ける。しかし、相手は世界最強の魔術師、エレン・M・メイザース。照準が彼女を捉える前に、折紙の眼前に大剣の刃先が突き付けられていた。

 

「気が早いですね。私は確かにあなたを追って来ましたが、連れ戻しに来た訳ではありません。用があるのは〈サッカバス〉だけですから」

 

「誠に、用?」

 

  いつ攻撃されても対応出来るよう、折紙は随意領域をフル展開する。しかし、折紙の領内にいる筈のエレンは、平然としていた。

 

「ええ。あなたが〈イフリート〉との対決をお望みなら、私は()()()()()()()()()()ことにしますので、存分に暴れて下さって構いません。では」

 

 一方的に告げると、容易く随意領域から抜け出し、〈ホワイトリコリス〉を優に上回る速度で飛び去る。油断せず照準を合わせ続けるが、数秒で射程外に達し、捉えられなくなる。歯牙にも掛けられなかったことに敗北を感じつつも、折紙は降下を開始する。

 

  世界最強に見つかった際にはどうなるかとも思ったが、無事に復讐の機会を得た。

 

「増えた所で、結果は変わらない」

 

  士道のデートに、殺意が降臨する。

 

 

 

 

 

 

「クソテン、焼きそば奢れ下さい」

 

「るるみー」

 

「お前ら………ラムネ買ってやったろ………」

 

  こういう時ばっかり息ピッタリで要求してきやがってこいつらコノヤロー………。俺に固定収入が無いって知っててこの仕打ちか。ツラいぜ。

 

「飲み物を買ったら食事も提供する。デートの定番でいやがります。ほれほれー」

 

「くーーっ!!くくーー!!」

 

  真那が意図的に俺の腕に抱き付く。からかっても買わんぞーと思っていると、俺の頭の上にいる繰三が髪の毛を引っ張ってきた。よしなさい。何のつもりだよしなさい。禿げる。

 

  仕方無い、まあ焼きそばくらいならさほど懐も痛まない。買ってやるとしよう。

 

「二人で一パックな」

 

「けちぃー」

 

「るみぃー」

 

「……真那の方が金持ってんだから文句言うな」

 

「財布失格でいやがりますよ」

 

「ざふきえる………!!」

 

  ねえ神様。

 

  こいつら触手で調教していい?

 

  ちょっと真面目に検討して─────

 

「!!」

 

  霊力の流れに違和を感じ、流れの乱れに向かって反転。振り向く勢いを利用し、右手の人差し指と中指を揃えて振るう。

 

  直後、レイザーブレイドと指とが衝突し、鍔迫り合いのような状況となる。

 

「───いい勘をしていますね」

 

「あいにく、霊力の制御やらせたら精霊でもトップに食い込む自信あるんでねぇ!」

 

  相手は金髪の魔術師。くそっ、キャラ被った。単機で来てはいたが、纏う雰囲気が明らかにASTの比じゃない。相手の得意距離で闘いたくないな。距離を取るべく、足を狙って蹴りを放つ。

 

「反応は、良し。しかし────遅い」

 

「うおっ!?」

 

  が、随意領域に衝突した途端足を取られ、右足が動かなくなる。精霊のフルパワーを随意領域で掴んだってのかよ、とことんASTと格が違うぜ。

 

「クソテンッ!!そいつはDEM社所属の世界最強の魔術師、エレン・M・メイザースでいやがります!私よりもナンバーが上で強いんで、気を付けねーとマジに死にますよ!?」

 

「先に言えや!?」

 

「言う前に挑んだでしょうに!!」

 

  振り向いた時に振り落とした繰三を真那が拾い上げ、俺に注意を促す。もーちょっと早かったら嬉しかったかなぁ!?

 

「おや、誰かと思えば。サボリですか?」

 

「二連休でいやがりますよっ!!」

 

  あ、なんか真那に飛び火した。

 

「それより、どういうつもりでいやがります。誠は一応人間側の精霊ですよ。それを襲うなど、馬鹿げているとしか思えねーんですが」

 

  いつでも装備を呼び出せるよう身構えつつ、真那はエレンとやらを睨む。その間も足を放して貰えなかったので、取り敢えず液状化して無理矢理引っこ抜いた。

 

「ふむ。確かにそれは言えています。ですが、思うような協力が得られていないということもまた事実。故に─────()()()()になっていただいた方が、人類に貢献して頂けるかと」

 

  あ。これヤバいやつだ。マジで殺りに来た奴だ。危険を察した俺が身構えると、それよりも早く真那が、CR-ユニットを呼び出して臨戦態勢を整える。

 

「どういうつもりですか、真那」

 

  これには予想外だったのか、エレンは眉をひそめる。真那は世界最強を睨み付けたまま、口許に笑みを浮かべた。

 

「ちょうどいいんでハッキリ言わせて貰いますが、私DEM社止めます。私の身体、随分弄くってくれたらしいじゃねーですか。兄様も見つかったし、恩義も失せたんで。辞表出してフリーの魔術師にでもなりますよ!!」

 

  動いたのは真那。肩のパーツを展開して双剣に変え、交差するように横凪ぎに振るう。エレンはレイザーブレイド〈カレドヴルフ〉を剣の軌道に差し込み、自分の太刀を挟ませる格好で攻撃を受け止める。

 

「バカなことを。アイクに牙を剥いて、あなたごときが敵うとでも?」

 

「今は一人じゃないんで、ね!!」

 

  身を捩って後方に飛び、距離を取る。真那の言動から俺が加勢すると思ったエレンがこちらを見るが、

 

「くふふふふゥッ!!余所見はナンセンス!次はわたくしでしてよ!!」

 

  12人の繰三の分身が、エレンの周囲を取り囲み、剣を構えて一斉に突撃する。

 

  真那が斬りかかったタイミングで、繰三に触手を伸ばして魔力を返還。繰三の分身【遍在(メシャレット)】を出現させた。本体は今、俺の背後で高笑いしている。

 

  完全な不意討ち。手数にも勝る。更に真那が双剣の剣先をエレンに向け、魔力を解き放って光線として発射。繰三の囲いを縫って援護射撃を加える。

 

  しかし、エレンはその場で一回転して〈カレドヴルフ〉を振るい、繰三の群れも真那の光線も弾き返す。ただの、一撃で。

 

「くふっ!?」

 

「これはこれは………」

 

「よろしくないですわね」

 

  格の違いを肌で感じた繰三の分身が、即座に撤退して本体を囲う。予想はしていたらしい真那は笑みを保つ余裕はあったが、それでも流石に冷や汗を流していた。

 

  遠い。遥かに遠い。世界最強の座が。

 

「私以下の魔術師。大した霊力の無い精霊。有象無象が集まったところで、有象無象でしかありませんよ」

 

  そう言ってのけるだけの実力がある相手ってのは恐ろしい。真那と繰三でダメなら、俺も加勢する他無い!!

 

「【整形(マセカー)】解除────」

 

「兄貴!!兄貴ぃーーーっ!!」

 

「!?」

 

  突然の彩の声に、解きかけた変身を慌ててやり直す。な、何てタイミングで来るんだバカ!!

 

「来るな彩!危険だから帰れ!!」

 

  追い返そうとするが、息を切らして走ってきた彩は見るからに冷静さを失っている。エレンの持つレイザーブレイドの輝きに気付いていない。俺しか見えていないのだ。

 

「兄貴!!どうしよう!?かまえちゃん飛んでっちゃった!!」

 

「はあ!?今ドッキリやってるどころじゃ────」

 

「空を見上げてたら、急に主人がどうのこうの言って、ジェットコースターとかある方に飛んでっちゃったの!!」

 

「何だって!?」

 

  司令の身に何かあった。それを裏付けるように、彼方より空気を震わす爆破音が響く。微かに聞こえてくる悲鳴。その後も爆音は途切れない。戦闘が始まっている。

 

  一刻も早く、司令の元へ行きたい。しかし、精霊としての全能を発揮するには、彩に俺の変化を見せねばならない。そもそも、エレンが逃がしてはくれないだろう。

 

「お話は終わりましたか?」

 

「ああ………これもお前の差し金か?」

 

「いいえ?()()()()()()()()()ですが」

 

  ………折紙先輩………。つまり、司令が、先輩の仇なんですね。()()()()………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ええっ!?」

 

  俺達が即座に察する中、彩が場違いなまでに驚く。エレンが先輩のことを知っているのは、恐らく調べたであろうから不思議ではない。よって、この場に於いて、折紙先輩の復讐心を知らないのは彩だけ。しかも、何を恨んでいるのかも知らない。何が起きているかも分からない。

 

  彩だけが、知らない。

 

  〈ラタトスク機関〉も精霊も、魔術師もASTも。─────俺の事も。

 

  何もかも知らない。

 

「兄貴、どういうこと!?何が起きてるの!?分かんないよ!!」

 

  いずれ明らかになる事だった。どうせ隠し通せやしない。ならば、俺から明らかにしよう。

 

「………彩。実はな。お前の兄貴辞めて、姉貴になっちゃったんだ」

 

「え?」

 

「ほれ」

 

  俺が彩の前で変身を解除する。キャミソールを纏う長身の金髪美少女に大変身。あー、何か久しぶりの気分だわ。ボッサボサ頭の目付きの悪い男性形態の方が、今じゃ疲れるからなー。

 

「え?─────え?」

 

  彩が、信じられないものを見たとばかりに身を震わす。

 

「この世界は、実はファンタジーに充ちているんだ。聞いてくれ、俺の真実!!」

 

  俺はやはり、彩に嘘は吐かない方が気楽だ。そしてシリアスなんて嫌いだ。俺が見たいのはただ一つ、幸福から来る笑顔のみ。

 

  さあ、始めよう。俺の第二の人生を、最愛の妹の中でも!

 

 

 

「水も滴る触手精霊、始めました!!」

 

 

 

  両腕を天に掲げ、背中から触手を百数十本伸ばす。さながら蒼い孔雀の羽根の如く、俺の有り様を見せ付ける。

 

「えっ、ええええええええええっ!?」

 

  顎が外れそうな程の大口で、彩の口から絶叫が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

  炎の中から悠々と姿を現し、瓦礫を踏み抜いて、カマエルは挑発するように暴言を吐き続ける。

 

「フフフ………ハハハハハ!!温い!!温いぞ鳶一折紙!!私を殺してみろ!!そのデカブツは飾りか!そうだな、そうなんだろう!?間抜けめ!貴様が望んだ戦いだ、全霊を以て臨め!!」

 

「………指向性随意領域、座標固定ッ!!」

 

  カマエルを随意領域が包み込み、ミサイルの雨が注ぎ込まれる。爆発が随意領域内で押し留められ、逃げ場を失った衝撃が全方位からカマエルの身体を粉砕する。

 

「まだまだ、私は膝を突かんぞ?」

 

  しかし、煙が晴れればそこには、平然と立つカマエルがいる。琴里の水着と色違いの赤いビキニを纏い、不敵に笑っている。回復能力の恐ろしさを、まざまざと見せ付けるように。

 

  だが、それを見つめる士道は気が気ではない。

 

  妹と瓜二つの存在が、何度も何度もその身を焼かれ、斬られている。しかも、痛みは消せないので、カマエルは琴里のためにひたすら耐えているのだ。見ているだけで辛かった。

 

  折紙もそうだ。復讐に取り憑かれ、一般市民のいる中で攻撃を開始したのだ。このままでは、折紙は戻れなくなる。折紙の五年間研ぎ澄ました殺意について本人から聞いているからこそ、士道は折紙に止まって欲しかった。

 

  だが、二人の戦いは予想外に呆気なく終了する。

 

「どうした鳶一折紙。そんなものか?」

 

「まだ。あなたを必ず殺す。五河琴里も殺す。〈イフリート〉を全て消し去り………私の両親の復讐を果たす!!」

 

「「──────え?」」

 

  カマエルと琴里の声が、重なった。二人とも、茫然としていた。

 

「五年前の………大火災!私の両親の命を、私の目の前で奪ったこと、覚えていないとは言わせない」

 

「えっ………嘘………?」

 

「な、何だ………それは………!?覚えていない!知らないぞそんなこと!!」

 

  琴里よりも、カマエルの狼狽ぶりが上回っていた。先程までの余裕は何処へやら、髪を振り乱して折紙を睨む。

 

「私は殺していない!断じて違う!町を焼いたのは認めよう!だが、貴様の面など今の今まで知らん!貴様の親も知らん!知らんぞ!私は違う!違うぞぉおおっ!!」

 

  一頻り叫んだカマエルは、荒く肩で息をする。ゆっくりと琴里に向き直る。俯いたその表情は窺えない。しかし────

 

「カマエル、お前………」

 

「兄君、主人を頼む。幸せにしてくれ。望みを叶えてやってくれ。理解した───私は、要らない」

 

「おい!?待て、何考えてるんだ!?」

 

  士道に答えたカマエルの足元に、雫が一つ落ちた。気付いた士道が息を呑む。しかし、それ以外言うことは無いとばかりにカマエルは振り返り、宙に浮かぶ折紙に向けて声を張り上げた。

 

「鳶一折紙、今一度問う!!貴様がその目でしかと見た親の仇は、五河琴里と断言出来るか!!」

 

「当然」

 

  間髪入れずに返された返答に、カマエルは強く拳を握り締める。力を込めて強ばった手が、そのままひしゃげてしまいそうな程に。

 

「ならば、貴様の仇は五河琴里ではなく!五河琴里を操っていたこの〈灼爛殲鬼(カマエル)〉であるッ!!仇を見誤るな!!」

 

「止めろカマエル!!」

 

  犠牲に。身代わりになろうとしている。カマエルの意図を察した士道が制止すると、カマエルは再び振り返った。

 

「優しいな、兄君。だがな、罪は清算せねばなるまい。私は主人を導けなかった。主人の求めた強さを、私は力だと誤り、全てを焼いた。そのために主人が罪を負うなどおかしかろう?」

 

「カマエル、あなた………」

 

「主人。もういい。何も言わないでくれ」

 

  それこそがカマエルの真意。

 

  全ては、琴里の願った『強さ』の為に。

 

  それが間違いだと、誰にも教えて貰えず挑み続けた。

 

「けど、カマエル!!お前はやってないんだろ!?自信を持って言えるんだろ!?なら、諦めるなよ!!」

 

「いや………もう、真実なぞどうでもいい」

 

  カマエルは、笑っていた。

 

  酷く、寂しそうに。

 

 

「使命も果たせず、誰も私を必要としないなら、私が居る意味など無いだろう?」

 

 

  ─────それは、士道が世界で一番嫌いな表情(かお)で。

 

「止めろぉおおーーーーッ!!」

 

  折紙の振り下ろすレイザーブレイドが、カマエルのそのまま永遠にせんとしていた。

 

「────戻りなさい、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!!」

 

  しかし、一撃が届く前に、カマエルの身体が霧散し、レイザーブレイドはアスファルトのみを切り裂いた。士道を押し退け、紅蓮の戦斧を握る琴里が折紙に向き合う。

 

「鳶一折紙。私からも言わせてもらうわ。私はあなたの仇ではない。悪いけど、他所を当たってくれる?」

 

  不愉快とばかりに表情を歪める折紙だが、彼女が言葉を返すよりも先に、琴里の持つ戦斧が声を発した。これまでの琴里と変わらぬ声ではなく、僅かにエコーのかかった声だ。

 

『何故だ主人………私は………』

 

「何故?当然でしょう?冤罪には折れずに否と言い続ける。常識中の常識よ。私、泣き寝入りなんて嫌いなの」

 

  地面と平行に得物を掲げ、琴里は折紙を睨む。睨み返す。迷わないという強い決意を込めて。

 

「アンタの涙を信じてみる。だから────寄越しなさい〈灼爛殲鬼(カマエル)〉。アンタの持てる力の全て、出し惜しみなく!」

 

『お、おお………おおおおおおおおおおおーーーーーッ!!!!』

 

  大地が震える。溢れ出す霊力が、空間震ではなく空気を軋ませる。琴里の持つ最大の武器が今、真に琴里のモノとなる。

 

「鳶一折紙。私からの全力のノーよ、受け取って貰うわ」

 

「くっ………!!」

 

  精霊。それは、人類にとっての災悪。世界の劇毒。あってはならない存在。そして、少女の絶望を呼ぶ力。

 

  士道は、琴里の求めたものはまだ知らない。

 

  だが、一つだけ────突然頭に浮かんできた。

 

  理由は上手く説明出来ない。だが、唐突に思ったのだ。

 

  精霊とは────いや、天使とは。本当は、絶望に堕ちた少女を救うための、セーフティーネットなのではないかと。

 

「さあ、私たちの論争(デート)を始めましょう」

 

  今、天使(カマエル)と和解を果たした琴里を見ていて、そう感じた。

 

 

 

 




カマエルをいいこにしたい委員会。会長、俺。

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