水も滴る触手精霊、始めました。   作:ジョン・ドウズ

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今回えらく駆け足になりました。大丈夫かな。読みにくくなってないかな。

全部打ったら一万文字越えてたんや(震え声)。分割しても良かった。

行くぞ読者の皆さん、時間の貯蔵は十分か。

そういや充分って十分とも書きますよね。つまり十分で充分。違うか。

ところで、今回も触手が猛威を振るうゾ?

知ってた?知ってた。


Date.7「エンド・オブ・ロンリネス」

「存在一致率97.5%………。これは、確実に精霊ね」

 

  日下部燎子一尉。鳶一折紙の上官である彼女は、観測機のもたらしたデータを見て溜め息を吐く。町中を精霊が、しかも二体も彷徨いている。この事実に頭が痛くならないAST隊員など居るものか。

 

  ………いや、居た。

 

「隊長、狙撃許可は」

 

  抑揚の無い声で、燎子を見つめる、年頃の少女………鳶一折紙だ。

 

  頭痛より前に、殺意を、害意を、敵意を研ぎ澄ませる。精霊を相手にした途端、彼女は刃と化す。

 

「まだ出てないわ。お偉方が揉めてるんでしょ。待機してなさい」

 

「了解」

 

  燎子の返答に最低限度で反応すると、折紙は目を閉じる。まるで修験者のようだ。

 

  彼女は実力的には折紙に劣る。経験は燎子が圧倒的に上。しかし、折紙はそれを覆した。

 

  ()()()()()()、ただそれだけで。

 

  実際、指揮能力・実務能力を見れば燎子が勝り、隊長としての器はある。しかし。個として見るなら、指揮官として()()()を付けねばならない燎子は、復讐の炎を燃やす折紙を超えられない。

 

  だからこそ。燎子は、精霊の狙撃役に折紙を選んだ。

 

  優れた個を活かすことこそ、指揮官に求められることだ。

 

  例え相手がどう見ても()()()()()だとしても。それを撃つのも()()()()()だとしても。空間震を止め、平和を守ることには代えられない。

 

  なお折紙の報告では、精霊の一名は、中身が男らしい。名を色無誠。精霊は女ではなければいけない決まりでもあるのだろうか?

 

  この色無誠についての折紙の報告書を上層部に提出したところ、大いに揉めている。

 

  『人類に味方する可能性がある精霊』。 

 

  それはもう、お偉方の意見がまるで纏まらない程の荒れ模様だ。知ったこと無いから殺れという者も居れば、交渉材料を探れと叫ぶ者も居る。騙して研究材料にしようと企む声が上がれば、保護して人間に戻してやるべきだと反論される。

 

  しかも、それを出したのは今朝の定例会議。丁度会議中に折紙から連絡があり、()()()本人の証言と連絡先まで仕入れてきた。合わせて精霊の出現情報もしてきたのでその場は逃げられたが、会議がどうなったか考えたくもない。

 

「…………!」

 

  少々現実逃避していた燎子の通信端末に、連絡が入る。

 

  狙撃許可。

 

  驚いた。撃つのか。

 

  折紙の追加報告には、こうあった。

 

  普段は非常に友好的かつ人間的。ただし、()()()()()()()()()()()()()。色無誠は、人間にも精霊にも仲間意識が強いのだ。今回は事態を静観するのかと思いきや………何か、あったか。

 

  上層部の決断を意外に思いつつも、燎子は折紙にゴーサインを出す。

 

「いい?一発で仕留めるのよ。外したらこっちが終わり。世界が終わる前に、私達の命が終わるわ」

 

「了解」

 

  またも折紙は、呟くように答える。

 

  普段と変わらぬ、剃刀のような意思を感じた燎子は、僅か、僅かだが、そこに普段と異なるものが浮かんでいるように思えた。

 

  迷い 。

 

  折紙は()()()普段通りにしていたのだ。

 

  手を握って開いてを繰り返し、感覚を確かめる。その間にも、浮かんでは消える、雑念。

 

『俺が思うに、精霊は()()なんです』

 

『有無を言わさず精霊を殺すなら、それは人殺しと何ら変わりませんよ、先輩』

 

  誠の言葉は、確かに折紙を揺らしていた。これまで、ただ精霊に対して悪意だけをぶつけていた。害だとただひたすらに信じ、疑わず、全く迷いなどなかった。しかし、誠の投げた言葉は、折紙の心に波紋を作った。

 

  人間が精霊に変わるという驚愕の事実。それが、普段の折紙なら受け付けなかったであろう、誠の言葉を耳に焼き付けた。

 

(違う。精霊は災悪。生きていることが罪。存在が毒。命を絶つのが慈悲である程の、世界の異物)

 

  十年間蓄積させてきた殺意を全身に充たすことで、無理矢理に自身を維持しようとしていた。 そうでなければ、自分が折れてしまいそうだった。

 

  そもそも、何故一般人である士道が精霊と関わっているのか。何故あの精霊(十香)は士道と共にいるのか。昨日も、今日も、ともすれば十日前も、偶然の廻り合わせでは無いのではないか。では、何のために。

 

  まさか、士道が精霊と繋がっている?それとも、明確な目的があって?

 

  巡る思考は疑念を次々と浮かべ、考えれば考える程に深く深く、疑問の海に沈んでいく。

 

  それら全てに意図的に目を瞑り、折紙は銃を構える。

 

  狙うは、〈プリンセス(十香)〉。対話交渉、或いは人類への貢献の可能性のある〈サッカバス(色無誠)〉は今回標的にしない。寧ろ、彼女………いや、彼に見せしめる。人間は本気だと。

 

  対精霊用狙撃ライフル、〈 C C C 〉(クライ・クライ・クライ)。己すら破壊しかねない、殺意だけを撃ち出す鉄の塊。

 

  今の折紙は、自分でも予期していなかった己の弱さを、鋼鉄の()()()()()で支えているだけかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

  やはり、士道先輩は凄い人だ。

 

  他人が十香の存在を否定するなら、自分がそれ以上十香を肯定する。そんな台詞、 この変態にはとてもじゃないが言えない。

 

  天宮市を士道先輩とデートして回った十香は、人間の生活を素晴らしいと感じるようになったと同時に、自身を否定し始めていた(本当にラブホに入っていたらどうなってたか分からん)。

 

  しかし、先輩はそれを引き留めた。

 

  ありゃあ要するに、良くある口説き文句だ。『お前を守る』ってやつ。ただし、重みが違う。何故なら、先輩は十香の精霊の力を封印出来ることを()()()()

 

  たった今、先輩は十香と共に、世界に宣戦布告したにも等しいんだ。これを男らしいと言わずに何というか。

 

  「抱いてッ!!メチャクチャにしてッ!」か?違うか。

 

  ともかく、俺は先輩のことをマジで尊敬しそうだ。

 

「いやぁ、いい雰囲気ですね」

 

「そうそう。俺ら変態も空気は読める」

 

  見晴らしの良い公園………何日か前に、俺が司令から朝日をプレゼントされたあの場所で、夕日を背景にして二人のデートはまさにクライマックス。俺と神無月の変態ハッピーセットは街路樹の影から見守ってます。

 

  そういやクライマックスって片仮名で考えると『涙の最高点』みたいにも見えるよな。おいハンカチの用意はいいか。十香が希望を見出だす感動のシーンだ、泣けよ。良かったな十香、兄ちゃん嬉しいぞ。誰が兄だ。姉ちゃんだよ。違うか。

 

「握れ!今は──それだけでいい……ッ!」

 

  士道先輩は一体ナニを握らせようとしてるんですかねぇ。不馴れで恥ずかしがってる十香に辿々しくナニを握ってもらうんですかねぇ? 手だよ。常識的に考えて手だよ。エロいこと考えた人は切腹。間違いなく俺だけハラキリ。イヤーッ!グワーッ!

 

  これで、少しは苦労も報われる。といいなと言うのが素直な所で、今回別に俺は目立ったことをしてはいない。

 

  十香がおかしなことをしないようフォローしろとは言われたが、士道先輩のエスコート(と見せかけたフラクシナスのエスコート)が非常に順調で口を挟む機会無し。ぶっちゃけ暇だった。

 

  やったことと言えば、神無月と共に周囲の警戒。 十香と先輩の前で手を繋いで見せて恋人繋ぎを促す。あと物足りなげな顔してた神無月に、特に理由の無い暴力を振るってモチベ維持させたくらい。殴ると元気になる人種って某野菜戦闘民族と神無月だけだと思うの。

 

  ちゅー訳で、『十香を影から見つめ隊』やってただけだった。あらストーカーよ。通報しました(自首)。

 

  鳶一先輩にバレた時点でかなり気を回していたのだけど、どうもASTに動きが見られない。〈フラクシナス〉にいる司令も、『嫌に大人しい』と言っていた。………今日は様子見でもしているのか?

 

  ─────!?

 

  何だ?

 

  急に嫌な予感がした。 

 

  不快感を解消したくて、俺は周囲に目を遣る。

 

  そして、公園よりも更に一段高くなっている高台の上に、()()()()()()()ことに気付く。

 

  肝が冷えた。鳶一先輩の構えるあれは、狙撃銃ッ!?んなもんゲームかテレビでしか見たこと無いぞ!?

 

「あれは───ASTでも平時は使用しない、対精霊用狙撃ライフル〈 C C C 〉(クライ・クライ・クライ)!流石に今の十香ちゃんでは無理ですよ!」

 

  俺の見ているものに気付いた神無月が、銃を判別し、焦る。狙撃、更に特殊兵装の持ち出し。だから動きが殆ど無かったのか!精霊をぶち抜けるなら、〈触抱聖母(アルミサエル)〉の【寵愛(ヤッド)】では盾にならない。ならば!

 

「神無月ッ!後頼む!」

 

「誠君!?」

 

「変態は凌辱エンドだけじゃなく、ハッピーエンドも大好きだからな!ちょっと行ってくる!!」

 

  俺は、遂に二日連続挿入しっぱなしの触抱聖母(アルミサエル)を起動させると、身体を水に代えて二人の元へと飛び出した。ローターか。

 

 

 

 

 

 

  ざらつくような感覚を感じた。

 

  それが誰かの悪意だと、直感が身体を動かした。十香を突き飛ばしたのは、根拠なんて無い、勘だった。

 

  十香が地面に倒れるのとほぼ同時に、目の前に大量の水が押し寄せる。にわかに霊装を纏った誠に変化して、仁王立ちになった。何故、とは思わなかった。()()()()()()()()、と本気で嬉しく、そして申し訳無くも思った。

 

  自分の為に、傷付かなくていい誠が盾になる。それが最善の策にも思えたが、そうならなければ良かったのにと強く思った。

 

  一秒にも満たぬ、刹那の時間が過ぎた時、誠の身体が弓形に折れた。腹部に攻撃が命中したらしい。殺しきれなかった衝撃に吹き飛ばされ、身体が振られるように仰け反った。

 

  スローモーションで見える世界の中で、倒れる誠と俺の目が合う。誠は嬉しそうに笑っていた。『これでいい』と言わんばかりに。

 

  いや、それじゃ駄目なんだ。お前が傷付いたら、それじゃあ怪我人が変わるだけ─────

 

  あ、れ?

 

  立て、ない………?

 

  誠の目が、俺の腹部を見て、見開かれる。

 

  何、が………?

 

  手を伸ばして探ってみる。

 

  え?嘘だろ?

 

  誠が身体を張って助けてくれたのに。

 

  ()()()()()()()()………!?

 

 

 

 

 

 

  天地が逆転していく中で、俺は見た。

 

  士道先輩の腹部に開いた大穴越しに。

 

  一瞬だけ、ちらと見えた。

 

  ()()()()()()()()()()

 

  撃った、のか。士道先輩を。

 

  喰う、つもりなのか。

 

  なら、何故消えたのか。

 

  だが理由はどうでもいい。先輩が撃たれた事実は変わらない。

 

  糸が切れた人形のように、とは使い古された表現だけど、まさにその通り。先輩は、膝から座り込むようにストンと崩れ落ち、前のめりに地に臥した。

 

  ────それが、先輩の最期だった。

 

  大事なものが切れてしまった感覚。

 

  呼吸が出来ない。ライフル弾を腹にモロに貰ったからではない。そうじゃないけど息出来ない。何でか自分でもわからない。

 

  空が赤い。血の色みたいだ。

 

  一瞬視界がブレて、それ以上空が遠のかなくなる。どうやら、完全に倒れたらしい。

 

  十香が呆然として、俺を覗き込む。視点が前後している。俺と、士道先輩を交互に見ているってことか。

 

  十香、ごめん。

 

  俺、やっぱお前がいないと駄目だわ。

 

  ああ、泣くなよ。泣いちゃ駄目だよ。女の子は笑顔が一番なんだ。一番輝く宝物なんだ。

 

  司令。すいません。

 

  約束 、守れませんでした。

 

  やっぱ俺じゃ、駄目だ。

 

  ()()()()()()()

 

  ()()()()()()()()

 

  目蓋が落ちる。暗闇を漂う感覚。音がしない。その中で、俺は、自分が摩耗する感覚を─────

 

 

 

 

 

 

『しゃんとしなさい誠!まだ何も終わってないわ。()()()のよ!』

 

 

 

  突如、俺のスマホから司令の喝が飛び、微睡みから冷水で叩き越されたように思考がクリアになる。強制的に通話回線を開いたらしい。そんなことも出来たんかこのスマホ。

 

『いい?誠、士道はその程度では死なない。今に甦るわ。だから誠、()()()役目を果たしなさい』

 

  先輩が、甦る?頭がハッキリするなり、意味不明な現実を押し付けられる。だがしかし、俺の心は高揚していた。

 

  士道先輩は、甦る。ならば、まだハッピーエンドは潰えない。

 

  そして、司令から期待されているという今。やらないわけには、いくまいて!!

 

「何をすればいいんです、司令?」

 

  俺は寝転がったまま、スマホを手に取ることすらせず、司令に問う。

 

『アンタと士道がASTにやられたと思った十香が、尋常じゃなくマジギレして暴れまくってるわ』

 

  言われてみれば、酷い有り様だ。恐らく微睡んでたのはわずか数十秒だが、公園は見る影もない。真っ二つ、いや真っ六つ(意味不明)?もう大地が斬られるとか意味不明。誰に手伝って貰ったんだ。素晴らしい。すこぶるヒイッツカラルド(感動詞)。

 

『このままだと死人が出る。士道が十香を止めるまで、速攻でASTと十香を抑えて』

 

「無茶ぶり頂きました。辛っ!?」

 

『ASTはアンタにはものの数では無いはず。骨が折れるのは十香よ。頑張んなさい』

 

「オッスお願いしまーす」

 

『アンタにやれって言ってんの』

 

  俺は腕の力だけで跳ね起きると、腹の傷を見る。既に何ともない。霊装の無い所に当たった弾が腹に突き刺さっているが、ちょっと引っ張ったら抜けた。出血も大したこと無し。身体にも不調無し。

 

  敢えて言おう、絶好調であると。

 

『ああ、それと誠。一言付け加えとくわ』

 

「はい?」

 

  何を、付け加えるのだろうか。

 

  俺の返事から一拍あって、司令の指示が来た。

 

『私が全て許すわ。《持てる全てを以て応えなさい》』

 

  それは、願ってもない言葉。

 

  嗚呼、司令。俺はあとあなたに何回惚れればいい。

 

  この晴れ舞台で、俺に『全力を尽くせ』と仰る。

 

「変態にそんなこと言っていいんですか?」

 

『あら、自信無いの?』

 

「寧ろ逆です─────ご期待には、全力で」

 

  先輩を神無月に預け、俺は二人と距離を取る。

 

  そして、俺は初めて全力を振るう。

 

「行くぞ、AST。くっころの準備は万端か」

 

  ─────そして、十香。

 

  今から、お前を幸せにしてやる。

 

  今日が、お前の人間としての誕生日だ。

 

  〈触抱聖母(アルミサエル)〉の名の元に。全ての誕生に、祝福を。

 

 

 

 

 

 

 

  唐突に鳴り響く、空間震警報。

 

  〈フラクシナス〉艦橋では、対ショック用意が緊急で行われていた。

 

「来たわね、誠!!」

 

  それを平然と見つめる、琴里の姿があった。

 

  今度の空間震を起こすのは、誠。

 

  それは、今まで人として有った誠が、()()()()()()()()()()()()という宣言。

 

  その全力を観測する意図もあり、琴里は誠に火を点けた。

 

「司令!?いいんですかあんなこと言ってしまって!?」

 

  クルーの一人が上擦った声を上げる。これでは誠がASTから危険な精霊として更に警戒されないか、と。

 

「キャンキャン吼えないで頂戴、チワワを飼った覚えは無いわ。それとも、私の采配が考えなしだとでも?」

 

「いえ、そうでは……」

 

「なら、艦の制御に全力を尽くしなさい。あそこにいる色無誠は、〈フラクシナス〉が誇る()()()とでも思っていればいいわ」

 

「空間震、来ます!!」

 

()()()()対ショック用意!」

 

  司令の言葉の枕が気になったが、クルー達は衝撃に備える。

 

───しかし、何秒待っても、艦の随意領域にはダメージも何も無い。

 

「ふむ………やはりか」

 

  静寂を打ち破ったのは、令音の呟きだった。通信端末を取ると、艦外部に連絡を取る。

 

「神無月、そちらはどうだい?」

 

『五体満足、無事です。まさか誠君の空間震が、こんなにも()()()とは思いませんでした』

 

  艦のメインモニターに誠の姿が映し出され、クルー達の驚く声が響く。

 

『ざっと見ですが、半径3m程しかありませんよ』

 

  クレーターの中心に立つ、誠。既に水の触手を展開しており、数多の蛇を従えているか、或いは自分の背丈以上の津波を背後に控えさせているかのようだった。

 

「村雨解析官!副司令から色無誠の身体能力値(スペックデータ)が来ました!」

 

「メインモニターに回してくれ」

 

「了解!!」

 

  誠の映像の上に、半透明のウィンドウでその詳細が明らかにされる。

 

 

-MAKOTO IRONASHI-

SpiritNo.---

AstralDress-SuccubusType

Weapon-CoreType[Almisael]

総合危険度AA

空間震規模D

霊装B

天使AAA

力  170

耐久力  329

霊力  207

敏捷性  50

知力  150

 

 

「耐久力無駄に強すぎじゃない!?」

 

  琴里はちょっと吹いた。

 

  敏捷性を犠牲にして耐久力に特化した、ゲームで言うところの耐えて反撃するタイプのステータス。しかも、霊装がBランク(それほどでもない)と言うことは、ほぼ誠本人のタフさだ。

 

  更に天使の触手を考慮すると、誠のスペックは完全に()()()()()なのだ。カビゴン?

 

  琴里が誠の能力の極端さに呆れていた丁度その時、司令室に飛び込んでくる人影がひとつ。

 

「ああっ、素晴らしいです誠君!それほどの耐久力があれば、そう!ビルから飛び降りたり、爆弾を抱いて火に飛び込んだり!様々な痛みを経験し放題ではありませんか!!羨ましい!!」

 

「お帰りください」

 

「ちょっと今忙しいんで」

 

「あっ、川越さん、中津川さん!?何故押し出すんです!?私もここから誠君を応援し───────」

 

  艦橋に帰ってくるなり追い出される神無月だった。

 

 

 

 

 

 

  精霊としての筋力を生かし、大ジャンプで高台まで飛び上がる。着地の瞬間に両足で大地を踏み締め、アスファルトの一部が粉砕される。

 

  「伸ばせ、〈触抱聖母(アルミサエル)〉」

 

  俺を中心に、放射状に触手を広げる。

 

  触手は枝を伸ばし、更にその腕を広げる。蜘蛛の巣を編み上げるように、草が根を伸ばしていくように。

 

  本気の【寵愛(ヤッド)】、逃れられるなら逃れて見せろ。

 

「半径200m、俺の掌の上。さあ!」

 

  触手が一斉に速度を増し、範囲内にいる全ての存在を絡め捕る。地面を覆うほど広げた触手のために、触手でASTの隊員が水面から上に持ち上げられているような様相を呈する。

 

   抵抗を試みるASTだが、動けない。あ、隊長格も捕まえたっぽい。

 

「くうっ………随意領域を上回るパワーだって言うの!?」

 

  腕ごと胴体を縛り上げられ、身を捩っても拘束を逃れることは叶わない。

 

「エロは全てを凌駕する。くっころスーツを着た時点で、お前らの負けだよ」

 

「何の話!?」

 

「で、だ。あれほど言ったろ………野郎に用は無いわァ!!チェストォ!!」

 

『ぬぁぁぁぁぁっ!?』

 

  男衆を捕らえていた触手を振り上げ、頭を下に一気に振り下ろす。情けない声を上げながら次々と地面に突き刺さり、足だけ地面から出ている(スケキヨ)状態の哀れな格好になる。

 

「では………。ところで皆さん、俺の触手が水から出来てることはご存じ?」

 

「な、何を言っているの?」

 

  隊長がポカンとしているが、構わずに説明を続ける。

 

「俺は分子レベルで水を操り、成形する。そういう能力の精霊なんですよ。だから、今触手の姿をしているこれも、水なんですよ」

 

「だから………だから何なの!?いいから放しなさい!!」

 

「おっと………では隊長さん?()()()()()()()()()()?」

 

  捕らえられているにも関わらず強気な発言に、俺の口角はニィと釣り上がる。隊長さんって、某対魔忍に出てきても行けそうですよね、いろんな意味で。

 

  フフフ………貴女にはくっころがよく似合う。そして()()()()よく似合う!!

 

  隊長さんの目の前に、一本の触手をニュッと伸ばす。

 

「くっ──────え?」

 

  攻撃されると思った隊長さんは触手を睨み付けるも、胸元にピチョンと水を一滴落とすだけ。つつ、と肌を伝った水滴が、水着みたいなスーツに触れる。

 

  呆気に取られてるみたいだが、何悠長にしてんの。俺のターンはまだ終わっちゃいないぜ!!

 

「【整形(マセカー)】」

 

  俺の能力は水を操る。

 

  《体積も、形も、温度も》全て!!

 

「いひぃっ!?」

 

  隊長さんが、顔を青くする。

 

  そりゃそうだ。胸元に落ちた水滴が、突如体積を膨れ上がらせ、スーツと体表面の間に入り込んで行くんだからなァ!!

 

「なっ、あ、あ、あ………イヤァァァァアッ!?!?」

 

  さっきまでと異なり、涙を浮かべて、激しく、なりふり構わず暴れる隊長。その様子に、怯えつつ様子を見ていた隊員が一斉に震え上がる。

 

  もう………分かるだろ。《触手服》のプレゼントって訳だ。中はどうなってるか分からないが………まあ、よろしくやってるでしょうな、触手が。

 

「安心しろ!─────皆、こうなるから」

 

『ヒィィィィィィィィッ!?!?!?』

 

  勿論、この後滅茶苦茶触手仕込んだ。

 

 

 

 

 

 

  俺は、AST凡そ半数を約一分で片付けた。いやぁ、激しい闘いだった。眼福眼福。あー濡れる濡れる。無惨にも抵抗不能な隊員達を放置し、孔雀の尾みたいに触手を広げた俺は、十香を相手にしている一団へと向かう。

 

  ………が、既に片付いてる。うわぁ、鳶一先輩以外全滅してらぁ。完全に伸びてやがる。よく立ってられるなぁ先輩。最も、息も絶え絶え、背中の顕現装置半壊、武器が剣一本の時点で結果はお察しだが。

 

  十香は十香で、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を見たこともない巨大な剣にしてやがる。上段に振り上げて、今にも鳶一先輩をぶった斬りそうだ。あれはまずいな。当たったら流石に無傷は無理だな。

 

「終われ」

 

  十香の口から殺す宣言がッ!!あの無邪気な十香の口からっ!!お姉さん泣いちゃう!!そっちはフォースの暗黒面よ!!

 

  じゃあ、やることは決まってるよね。

 

「とーうか♪」

 

  明るく声をかける。肩をビクンと震わせた十香が振り返る。涙でビチョビチョ、目は充血して真っ赤。

 

「ま、こと………?」

 

  俺の前で、まるで子供のようにコロコロ表情を変えていた十香に、表情が無い。まさに壊れる寸前。間に合って良かった。

 

「大丈夫」

 

  触抱聖母の触手を解除し、俺は優しく十香を抱き締める。

 

「もう、大丈夫だから」

 

「まこと………しどーが………」

 

  十香に表情が帰ってこない。俺が生きてることも認識出来てないのかも知れないな。だが、俺は笑顔で返す。

 

「大丈夫。皆無事だから」

 

「でも…………でも…………」

 

「ううん、大丈夫」

 

  抱擁を止め、俺は十香と目線を合わせると、そっと頭を撫でてやった。

 

「俺も士道先輩も、十香をひとりぼっちには、しないから。約束する」

 

「う、ぁ…………」

 

  十香の顔がくしゃくしゃに歪んでいく。瞳に光が帰ってきた。瞳が潤み、涙が滲んで溢れ出る。

 

  お帰り、十香。辛かったね。

 

「あああああっ!!うあぁぁぁぁっ!!」

 

  声を上げて本格的に泣き出してしまった。あーあ。こりゃあ士道先輩も罪な男だなぁ。こんな子泣かせてどうすんの。あ、それ俺にも言えるわ。メンゴメンゴ。

 

  もう一度抱き締めて十香を宥めつつ、俺は背後の鳶一先輩に目配せする。緊張の糸が切れた先輩は、顕現装置の重みに引かれるように倒れた。やはり、随意領域は展開できてなかったみたいだ。本当にこの人凄いな。

 

「よーし、いい子いい子。十香はいい子だね。よく我慢した。ほら、いい子の十香にはプレゼントがあるよ?」

 

  泣きじゃくる十香に、上を向くように促す。鼻水を啜りながら天を仰いだ十香の顔が、笑顔になる。

 

「十香ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「し………シドー!!シドーーーっ!!」

 

  空から、士道先輩が落ちてきた。十香を解放してやると、元気一杯にジャンプしてお姫様抱っこで先輩をキャッチする。ヤダ十香ったら格好いい。抱いて!この節操無い女を抱いてぇ!!

 

「シドー!!シドーだな!?足は付いてるな!?」

 

「お、おう………。何だか分かんないけど生きてたぞ、十香」

 

  地面に降ろされた先輩は、自身も何が起きたか釈然としない様子で頬を掻く。ま、ハッピーエンドなんだから別にいいでしょ?

 

「誠、ありがとう。助かった」

 

「一回死んだでしょ先輩。助けられてないです。生き返るとか、なかなかトンデモですよねーー。俺要らなかったんじゃ?」

 

  今回、俺は大したことしてないって。先輩何言ってんの。

 

「そんなことない。お前がいなかったら、きっともっと大変だった。だから、ありがとう」

 

  あら、良くもまあ躊躇い無く言えるもんだ。すげぇなホント。じゃあ、お言葉に甘えまして。

 

「それじゃ、先輩。一個だけお願いがあります」

 

「何だ?」

 

  士道先輩の手を取って、楽しそうにブンブン振る十香。それに苦笑いしつつも、どこか楽しそうな先輩。

 

  これが、俺が護ったもの。

 

  強欲な変態は、これ以上を望むとしましょう。

 

 

「十香を、必ず今より幸せにして下さい。やってくれなきゃブッ飛ばしますよ?」

 

 

  士道先輩は一瞬はっとすると、すぐに、女だったら惚れてしまいそうな程に爽やかな笑顔をくれた。

 

「ああ、任せとけ!!」

 

  それを聞いて、安心した。

 

「じゃあ、後は二人でヨロシクやって下さいね♪先に帰りますから」

 

「な、なっ!?」  

 

  焦りに焦る先輩の声を背に、俺は一人帰路に就く。

 

  今日は疲れた。公園で寝よう。

 

  長いようで、短い一日だった。

 

 

 

 

 

  ─────多分、今日の公園の水は、いつもより美味い。

 

 




触手の開発と女の子の開発(意味深)に余念がない誠君。

さあ、次の精霊の明日はどっちだ!?
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