人間不信になった俺は魔法使いに出会いました(打ち切り)   作:”アイゼロ”

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はい、どうも、アイゼロです。

タイトル適当過ぎるな………。次回で中学編終わりです。やっとです。やっと高校編に入れる。

それではご覧ください。


15話:三柴沙耶は物好き

さあ、中学三年生もいよいよ大詰め。受験に向けて最後の追い上げ期間に入り、教室はピリピリと緊張した雰囲気が漂っています。中には単願で余裕がある人が騒いでいるのが煩わしい。一瞬この教室に《クラッシュ》喰らわせたいと思った。

 

実は先週から勉強にさらに熱を入れている。それもそのはず、あの事を聞いてしまえばな。

 

それは、キリヤとシズクの2人が総武高を受験するという話だ。そして俺が抱いていた疑念もすっかり晴れ、驚き半分で喜んでいる。道理で去年からクレアとこそこそしてるなぁ、と思ったわけだ。ちなみにジークとリアは家の事情で残念ながら行けない。特にリアの家はウェルサクスの中でもかなり大きい家らしい。詳しいことはまだ分からない。

 

とにかく、キリヤ達と高校生活を過ごすためにも、まずは受験突破だ。…………と、言いたいんだが。

 

「やべぇ……いや、マジで」

 

図書館に1人静かに座る俺は、手に持っているテストを見て頭を抱えている。その内容は、というか点数だ。数学8点。もう見ただけで試合終了のゴングが頭の中に鳴り響いたぜこれ。それに比べて文系は全部90点以上。文系を全部100点取れば数学0点でもワンチャンあると思うが、総武高は県内屈指の進学校だ。受ける人も多いから、番狂わせが発生しやすい。念には念をという事で数学をちょい勉強したが……この有様である。

 

「うわ、あんた数学ヤバいじゃん」

「うるせえよ。つーか何でお前いんだよ」

「一緒に勉強した仲なんだから、点数見せ合うもんでしょ」

「一緒にした覚えはねえよ」

 

この三柴は図書室でずっと俺の前に座って勉強してただけだ。時々話かけられたりもしたが、適当にあしらっていた。そもそも、そういう友達同士ってなんでテストの点数を見せ合うのが好きなんでしょうかねぇ。俺からしたら、自分より下を見つけて不安を取り除いて、ついでに優越感に浸るためにやってるとしか思えない。逆に自分より上だったら、さらに不安になるだけだし、得がない。

 

「どうやったらそんな点数取れるのよ……」

「うるせえな。そういうお前はどうなんだよ…」

 

しまった。むきになって点数を見せ合う流れになってしまった。三柴の表情からは、かかったなと口角をあげて、計算通りと窺い知れた。

 

そして見せられたのは、数学のテスト。………95点、だと…!。

 

「ちなみに他の教科も70点以上取ってるわ」

「嘘だろ。トータルでも負けてるのか……。何で嘘告白なんてしようとしたんだよ…。それに俺に教わる必要ないじゃん。何が勉強教えてだよ……」

「アレはもういいでしょ!?それより、マズいんじゃないの?」

「だ、大丈夫だろ。数学ちょっとかじって、他100点とりゃいい」

「今年は倍率高いらしいよ。それにもう受験まで一ヶ月切ってる」

 

…………返す言葉も無いな。今まで数学を無視してきたツケがここで壁となってしまった。

 

論破された俺はそのまま黙認すると、隣に三柴が座ってきた。

 

「私が教えてあげる」

「結構です」

「即答!?しかもこの状況で!もういい、教科書開いて!」

「お、おい……」

 

無理矢理教科書を開かされ、シャーペンを握らされた俺は、されるがままに数学を教えてもらった。

 

分かりやすかったなど口が裂けても言えない。

 

 

学校が終わったらお互い用事がない限り、キリヤと魔法の特訓をする。今は俺もキリヤ、もちろん他の皆もオリジナルの魔法を習得してきている。

 

魔法というのは、先人から魔法の基礎を学び、そこから自分のオリジナルを編み出していくか、基礎を伸ばし続け強力にさせていくか、らしい。

 

え?数学大丈夫なのかって?それはそれ、これはこれ。なるようになるさ。

 

シズクの水魔法で作られたドーム型の防御壁で剣と鎖を交じらわせている。あまり刺激を入れすぎると、壁の水が崩れてびしゃびしゃになるから、今回は抑え気味にしている。

 

「ああもう!ちっとも当たらねえ!お前速過ぎだぞ!」

「いや、んなこと言われてもなぁ。ここすげえ軽いし」

 

地球とここ惑星ソフィーラは重力が10倍の差がある。普段地球で暮らしてる俺からしたら、まるで俺がいないみたいな感じになるのだ。元々存在感がねえじゃんとか言うなよ。しまいにゃ泣くからな。今説明した通り、俺はここだと速い。風系統魔法の《クイックレッグ》を使わなきゃ、追いつけないくらいにな。

 

クレアは自分に浮遊魔法をかけているから、重力を感じない。克服する気はないらしい。まぁしようと思ってできるものじゃないからな。

 

「そういやお前、剣ばっかだけど魔法も鍛えてんのか?」

「あたぼーよ。見せてやる」

 

そう言ってキリヤは右手で銃の形を作り、片目を閉じて俺を的として標準を合わせているようだ。見せるというよりは俺に攻撃するのか。まあその方が分かりやすいし。

 

「くらえ!」

「ッ!ってー!」

 

キリヤの掛け声と同時に、俺の左肩に痛みが入った。何をしたんだ?全く見えなかった……。ヒリヒリと痛む左肩を見ると、ビー玉サイズの炎が揺らめいでいた。

 

「すげえな。見えなかったぞ」

 

小さくて目にも追えない速さ、しかもこのサイズだったら魔力もそこまで使わないから燃費がいいし、乱用できる。しかも、それなりの威力があるから、汎用性が高いな。

 

だが、一方のキリヤは渋い顔をして、唸っている。

 

「確かに使えるんだが、正確に当てるのに時間がかかる」

 

試しにキリヤはもう一度中の形を作り、今度はゼロタイムで乱発し始めた。しかし、俺に向かって撃ってるにも関わらず、全弾が俺を横切り、水の防壁に当たっている。

 

さっきも言った通り、この水の防壁は刺激を与えると崩れる。よって、俺もキリヤも滝修業をした後のようにびしょびしょになった。足元にも大きな水溜りができている。

 

「………な?」

「な?じゃねえよ。さむっ」

 

成程、これは使えないな。うん。だが、キリヤの特訓次第で強力な武器になる。

 

「八幡は何かないのか?新しい技とか。八幡ってそっちがメインで特訓してんだろ」

「今んとこ考えてない」

「あれ?でもこの前背中から黒い物出してたじゃん」

 

木の上で赤い果実を食べているリアが口を挟んできた。

 

「おい、何で言うんだよ!」

「だって言っちゃダメって言われてないしー」

「いやここは空気読んで黙る雰囲気だろ」

「なんだよ、もったいぶらないで見せてくれよ~」

 

はぁ、とため息をつきながら背中に魔力を集中させ、形をイメージする。すると背中から黒い拳が出現し、そのまま一直線に大木に向かって伸びていく。黒い拳は大木を殴った途端、霧散した。当の大木は無傷だ。

 

「おー、凄いな。けど、脆いな」

「だろ?形作るだけで魔力使うからな」

「お互い、考えたはいいけど、まだ使えない感じか」

 

まぁ、中学生の魔力なんてたかが知れてるからな。運動次第で変動するけど、俺は基本運動しないし、キリヤはずっと剣振ってるし。

 

「ね、ねえ、何でリアは八幡のその魔法の事知ってたの?」

 

恐る恐るな様子で聞いてきたのはシズクだった。説明しようとしたが、リアが先に話し始めた。何であんなこそこそしてるんだ?

 

「散歩してたらね、八幡がすんごい魔法使ってて、そこからしばらく2人でいた」

「ふ、2人で?今2人きりって言った?」

「2人きりとは言ってないけど、そのまま色んなとこ行って遊んでた」

「え?それってつまりデートだよね?何で八幡と」

「いやいやデートじゃないから。私八幡に好意寄せてないし。ただ『2人きり』で遊んでただけ」

「今わざと2人きりって言ったよね!私まだデートしたことないのに!」

「誘えばいいのに。八幡なら行ってくれるでしょ?」

「そう、だと思うけど………。うぅ」

「はぁ、恋する乙女ってめんどくさ」

「何よ!?」

 

「おい、なんか言い合い始まったけど?」

「ほっとこうぜ。仲良い証拠だ」

 

 

「なあ、一つ聞きたい」

「ん?何?」

「何で俺に数学を教えようと思ったんだ?俺には理解できない。前まではキモい存在だったんだろ」

 

俺がそう聞くと三柴は目を上に向け、しばらく考える態勢に入った。

 

言葉通り、カースト最下位の俺は上位者の視界にすら入らない、陰が薄いぼっちだ。集団行動の行事の時は学校を休み、教師には名前すら覚えられておらず、寧ろ誰も俺の名前を知らないほどの、究極ぼっちだ。いくら嘘告白で騙そうとした相手であっても、俺に数学を教えるのは俺にしかメリットがない。こんなことしてると三柴の方が迷惑になるんじゃないのか。

 

「あんたに興味があるのかな?」

「なんだそれ。意味わからん。何?俺の事好きなの?」

「いや、それは断じてない。ただ友人としてなら興味があるだけ」

「よくわからねえな。言っとくが、俺はそういうのは信用できないし、する気も起きない」

「私からしたら、あんたの方がよっぽどわかんないけどね」

 

そのまま分からずじまいの勉強が終わり、完全下校時間のチャイムが鳴ったため、帰路に就く。そうしようとしたが

 

「途中まで帰ろう」

 

三柴がありえへん発言をした。当然却下だ。

 

「絶対に嫌だ。お前と帰ると俺にもお前にも危害が及ぶ」

「危害?」

「誰かに見られて噂でもされてみろ。俺が殺される」

「気にしすぎだって」

 

いや、三柴は甘い。人の目なんてどこに潜んでいるか分かったもんじゃない。どんなに隠れていても絶対に1人は見ている。どれだけ油断を怠らなくても、アリの巣のような小さい穴が命取りになるときもあるのだ。それに、三柴は見てくれは良いから、男子からの報復があるはずだ。魔法使えるから怪我はしないが、俺の存在が一気に明るくなる。三柴には悪いが、急いで帰ろう。

 

早歩きで横断歩道を渡る。

 

「ちょっと待ってよー」

 

声はかけられるが無視して、公園へ向かう。向かおうとしたが、異変に気付いて足を止めた。今は赤信号のはずなのに止まる様子がなく、異常に速いトラックが走っている。…………居眠り運転か!

 

「おい!早く渡れ!」

「え?…………え」

「何立ち止まってんだよ!」

「きゃ!」

 

紫色の鎖を出現させ、三柴に目掛けて投げる。鎖は三柴の身体を巻き付け、俺は力強く引っ張り、〈リビテーション〉という浮遊魔法で引っ張った勢いを吸収させた。

 

「え、なにこれ……」

「ちっ」

 

〈ディセイブ〉を使って三柴の目を欺かせた。取り敢えず今は帰った方がいい。

 

「ちょっと!出てきなさいよ!」

 

そう言われて出てくる犯人はこの世にいない。

 

「出てこないと、あんたが不思議な力使った事言いふらすわよ!私の影響力はあんたがよく知ってるでしょ」

「それは困る」

 

やむなく〈ディセイブ〉を解除。こいつの発言は本当に影響力がとんでもないから、それだけはどうしても避けたい。

 

「じゃ、説明して」

「案外落ち着いてんだな」

「これでも結構混乱してるよ。疲れが一気に溜まる。それより説明」

「俺は魔法が使える。以上」

「…………それだけ?」

「他に説明いらんだろ。じゃあな」

「納得できない。もっと詳しく」

「ことわr」

「言いふらすよ?」

「うぜえ………。クレアって記憶消す魔法持ってたっけな」

「今怖い事聞こえたんだけど」

「気のせいだ。しゃあねえ、俺んちに来い。すべて話す。……安心しろ、家には俺の女師匠がいるからな」

 

なんか、とんでもないことになったな。溜息を何回も付きながら、公園へ向かう。

 

「ここだ」

「え?木の下?…………うわ!」

 

公園の風景は一瞬にして玄関へと変わった。当然三柴は、さっきっからえ?え?と呆けている。ちょっと面白いと思った。

 

「クレアー」

「あ、おかえり八幡。………え?その子は?」

「まぁ、色々あったんだ」

 

三柴を上がらせ、クレアにこれまでの経緯を説明した。クレアは若干難しい顔をしている。そりゃそうだ、魔法使いってことが地球の人間に知られれば、ここに住み続けるのは難しい。俺は預かられている身でありながら、とんでもないことをしたと自覚している。本当なら無理してでも連れてくる必要がないのだ。なのに何故ここに連れてきて話したのかは俺自身がよくわかってない。

 

「沙耶ちゃんだっけ?ちょっとごめんね」

 

クレアは一言断りを入れたと同時に三柴の頭に手をかざした。その瞬間、三柴の身体が光に包まれる。当の三柴は困惑を通り越して混乱している様子でびくともしていない。置物同然となっている。

 

「今から全部話すよ。沙耶ちゃんは誰にも言わないって誓える?」

「…………はい。言いません」

「…うん、分かった。話すよ」

 

クレアはそう言ってかざしていた手を降ろした。包んでいた光は消え、三柴はドッと疲れが出た様子で深い息を吐いた。何されてるか分からないから緊張するよな。

 

「ごめんね。沙耶ちゃんが嘘つくかどうかって試してたの」

「どうだったんだ?」

「沙耶ちゃんは絶対言わないって本気で思ってるよ」

「すごい。今のだけで分かったんだ」

「そうか。クレアがそう言うなら確かだな。じゃ、全部話す」

 

俺とクレアは、俺がこれまで送ってきた人生を話した。理不尽な暴力に暴言を受けてきたこと。クレアが助けてくれた事。惑星ソフィーラの事。全てを話した。三柴はたまに表情を変えながら、黙々と聞いていた。

 

「あんた、酷い人生送ったんだね。そりゃボッチになりたいわ」

「どうも。どうだ?追いついたか?」

「理解はしたけど、正直まだ追いつけてないかな。頭痛いし、取り敢えず今日は帰るね」

「……送ってく」

「別にいいのに」

「もう外暗いしな。さすがにそこまで俺は腐ってない」

「そう。じゃあよろしく」

 

 

 

三柴を送った後、再びクレアと少し話をした。

 

「八幡にも友達いたんだね」

「友達じゃねえよ。何かと俺に関わってくる物好きな奴だ」

「けど、八幡の中じゃあの子、何か特別なんじゃないの?だって、魔法使ってまで助けたんだから」

「……さあな。俺にはよくわからねえ」

「キリヤ君たちが良い影響になってくれたかな」

 

確かにあいつらに影響されたのは自覚がある。今まで受け身の人生だったけど、自分から何かすることも増えたし。もしかしたら気付かない間に俺の中で変化があったのかもしれない。

 

まぁそれはおいおい考えるとして、俺は今気になっていることがある。

 

「三柴に使ったあの魔法ってなんだ?」

「あれは人の脈とか臓器、瞳孔に魔力を通じて、嘘をついているか、ついてないかを見分けられるの」

「便利だな」

「ただ魔力を凄い繊細にコントロールしなきゃ使えないからね。私が天才だから使えるだけで、そこら辺の素人がやろうとしたら、内側から爆発して肉体が吹っ飛ぶよ」

 

なにそれ怖い。そんな危険な魔法使ってたのか。いや、クレアだから大丈夫だったのか。

 

取り敢えず明日、放課後図書室でまた三柴と話をしなければいけない。……受験前なのに悩みが増えた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

三柴沙耶はヒロインじゃないです。シズクがヒロインです。

また次回。

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