人間不信になった俺は魔法使いに出会いました(打ち切り) 作:”アイゼロ”
特に言う事ないんだけど、このシリーズもかなりの長編物になりそうです。ほぼオリジナルなのに大丈夫かなぁ………。色々怖い。
それではご覧ください。
八幡とキリヤは今年の秋に行われる大会に向けて、いつもの森林で修行に励んでいた。シズクの作った水のドームに入っている。
「〈グレンドーラ〉!」
キリヤは掌の上に炎の輪っかを5個浮かせ、八幡に向かって放つ。輪っかは目でぎりぎり終える速度でそれぞれ違う動きで八幡に迫り、囲うように攻撃を開始した。
今まで体験したことのない速さに八幡は対応できず、いくつか鎖で防いだが、身体に直撃した。修行用のジャージには焦げ跡が付き、右手首、左二の腕にはグレンドーラが腕輪のようにくっついていた。
「おいなんだこれ。…熱っ!やべ!」
八幡は慌てて腕を振り、炎を掴んだりして炎を消し、キリヤが立っていた方向へ顔を向ける。しかし、既にいなくなっており、後ろを向くと剣を振りかぶってキリヤが迫っていた。以前よりも遥かにスピードが増している。
咄嗟に持っていた鎖で剣を防ごうとしたが、キリヤは瞬間的に剣に炎をエンチャントして、鎖を燃やし、霧散させた。
キリヤは剣の切っ先を八幡に向けて言う。
「ちょっと鎖に頼り過ぎなんじゃないか?」
「……確かにそうかもな。けど、こんな使い方もできるぞ」
八幡が指を鳴らすと、キリヤの足元から蔓のように鎖が出現し、キリヤの両足を捕らえた。
「なんだこれ!切れねえ!」
「当然だ。魔力をかなり込めたから、易々と壊れない」
八幡はそう言いながら、空中にシャドーボールを形成させ、キリヤに放っていく。足を縛られたキリヤは苦悶の声をあげながら、シャドーボールを剣で弾く。全て捌ききれなかったため、いくつかダメージを受けた。
「どう?」
「…なんか、漫画みたいな光景ね」
水のドーム外にいるシズクが、横にいる沙耶に嬉々とした聞いた。沙耶は今まで一度も見たことのない光景を見て、唖然としている。未だに自分の目を疑っている様子だ。
「ていうか、本当に地球と重力違うのね。体が軽すぎるわ」
「私とキリヤもつい最近軽く感じてきたよ」
シズクとキリヤは地球での生活が修行になっていた。
「それよりもあの剣、本物だよね?大丈夫なの?なんか斬撃戦始めてるけど…」
沙耶が指を刺す方では、両足の鎖を何とか切断したキリヤと八幡が剣と鎖で殴り合っていた。火花が散り、八幡のジャージは切られ、キリヤも所々服が汚れている。だが、経験値の差でわずかにキリヤが押している。だが、それをぎりぎり対応している八幡も中々の実力だ。
水のドーム内にいるにも関わらず、森に金属音が鳴り響いている。
「ねえ、ずっと気になってたんだけどさ」
「何?」
「その頭の上に乗ってる、変な生き物は何?」
「この子?これは、八幡のペット。八咫烏のクロウ君」
シズクはクロウを沙耶の前に出した。クロウはさすがに地球には連れて行けないため、クレアの家で飼っている。
案の定、クロウは沙耶に対して警戒の色を見せる。
「や、八咫烏ってあの……。足四本あるんだけど……」
「滅多に人に懐かないんだけどね。八幡がてなづけてペットにしたの」
クロウは未だに警戒しているが、好奇心旺盛な沙耶は恐る恐るクロウを撫でた。濡羽色の艶やかな毛並みが気持ちいい。
見知らぬ存在に撫でられたクロウは大きく鳴き声を上げ、シズクの頭上に戻った。
「この子って雄なの?」
「分からない。でも、男の子っぽいよね」
確かに、この相手を畏怖させるような鋭い眼は、雌には見えない。よくこの子を懐かせたな、と沙耶は八幡に少し感心した。
沙耶はクロウを横目に、激闘を繰り広げている八幡たちに目を向けた。
斬撃戦をしていた八幡とキリヤは一時中断している。八幡は肩で息をしている一方、キリヤはまだまだ余裕がありそうだ。
「八幡は魔法はすげえけど、やっぱ体力だな」
「逆にキリヤは何で疲れてないんだよ……。結構激しく動いただろ」
「俺は毎日走り込みしてるんだよ。八幡の課題は体力だな。スタミナは魔力に直結する」
確かにその通りだと八幡は一呼吸置き考えた。八幡はこれまで魔法にしか手を出さず、体力面は全く考えてもいなかったのだ。だけど、それは仕方がないのかもしれない。地球人にとって魔法というのは架空な存在で誰もが憧れる物だ。体力など頭からすっかり抜けていたのだろう。
「これからは俺と一緒にランニングだな」
「マジか……」
根っからのインドア派で運動なんてしたことない八幡にとって苦ではあるが、これも優勝するためだと思い、渋々了承した。八幡にも自分の魔法で優勝したいという思いは確かにあるようだ。
「はい、2人ともここまで。明日はいよいよ初登校だからね」
シズクが水のドームを消し、手を叩いて修行を終わりにした。
いよいよ、彼らは初の高校へ登校することになる。キリヤとシズクは違う星の学校のため、この間ずっと心を躍らせていた。沙耶も普通に高校生活を楽しみにしている。
ただし、問題があるのは八幡だ。唯一無二の友人たちと同じクラスだが、未だに過去を克服できていない八幡はクラスに溶け込めるのか。彼らの悩みであり、八幡の悩みでもある。
八幡は表にこそ出さないものの、常日頃頭を抱えている。シズクという可愛い彼女がいる以上、情けない姿を見せるわけにはいかないと。
そんな彼を見守る彼らは、何やら相談し合っている。
「ねえ、八大丈夫なの?」
「なぁに、心配ねえよ。俺が何とかする」
「本当に大丈夫なの?あんたって大抵ろくなことしないじゃない」
「失礼だな!ちゃんと策はあるって。…八幡と会った時最初に言っただろう、シズク。お前の事情なんてどうでもいい、俺らが勝手に近づいていくって」
どうやら、キリヤには何か作戦だがあるようだ。
◆
「おい!起きろ八幡!」
「八幡起きて!」
最悪の目覚めだ。カーテンを思い切り開けられ、日の光が攻撃………してくるわけがない。ここは異空間の家だ。窓もカーテンも光も無い。光の正体はキリヤの炎だった。
「ちょっとキリヤ気合入り過ぎよ。火事になっちゃう」
「お前もだろ!びしょびしょになったじゃねえか!」
今度はシズクが興奮して、キリヤの炎を消したが、水の量がとんでもなかった。
「制服濡れちゃった……」
「はぁ……出るまでに乾かしとけ」
と言ってもキリヤならすぐに乾かすことができるか。
学校へ入り、俺達の教室へと向かう。まさか全員が同じクラスになるとは思ってもいなかった。俺的には超助かっている。こいつらと一緒なら多少落ち着いた学校生活が送れるだろう。
ただ、周りの視線が痛い。そりゃそうだ。赤髪、青髪、桃髪、紫メッシュの一年生なんて、珍しいにも程がある。どんだけ気合入れてきたんだよって話だ。キリヤとシズクに至っては地毛だし。
教室に入っても同じだった。俺らが入ったと同時に、既にいたクラスメイトは話を止め、こちらを見ている。席は出席番号順のため、キリヤとシズクが近く、俺と沙耶が少し近いという状況だ。
俺達もグループになり、会話を始めた。
「なぁ、俺らなんか見られてね?」
「お前自分の髪を鏡で見ろよ」
「今朝見たぞ。いつも通りだ」
「登校初日から赤髪で来る人なんてまずいねえよ。いや、ここにいる全員そうなんだけどよ」
「それでいいじゃない。下手に舐められるよりよっぽどマシ」
「目立ちたくないんだけどな」
「メッシュ入れた時点でダメだと思うよ?カッコいいけど」
「お前らが入れろって言ったんだろ!」
深い意味もない、他愛無い会話を続ける事数十分。担任の登場により、HRが始まった。
まず、新入生の初日は基本学校案内や自己紹介、委員会決めなどを決めるだけだ。まずは自己紹介から始まった。
「キリヤ=バルハードだ。1年間よろしくな。ちなみにこれは地毛だぜ」
キリッとした爽やかスマイルで頭を指さしながら、自己紹介をしている。キリヤから光の粒子が見え、影の俺には眩しすぎる存在だ。火系統のくせに。何人かの女子はカッコイイだのイケメンだのざわざわとしている。一方、嫉妬の目を向けている男子が数名。同志よ…。
「シズク=アネシアです。よろしくね♪…ちなみに彼氏はいます」
いきなりとんでもない爆弾発言をした彼女に俺は頭を抱えた。男子は一瞬可愛い子がいて盛り上がっていたが、先程の発言で一気に奈落に落ちたかのように俯いている。女子はキャーキャーと盛り上がりを見せている。男というのは分かりやすいものだ。……お願いだからこっちを見てニヤニヤするなキリヤ。
「三柴沙耶です。よろしくね♪」
笑顔を振り撒き、落ち込んでいた男子を一気に湧きあがらせた。さすが過ぎる。ここは本当に県内有数の進学校なのか疑った瞬間でもある。…男子諸君、沙耶をよく見ろ。悪い笑みを浮かべているぞ。
そして、とうとう俺の出番がやってきた。
「…比企谷八幡です。よろしく」
俺の自己紹介には特に誰も反応せず、わずかに女子がこそこそ喋っていたくらいだ。いきなり陰口ですか?泣きますよ俺?彼女の前で涙流しますよ?
まぁこんなもんだろうと、教壇から離れようとした矢先、何かよくわからないものが俺を襲った。痛みはなく、ただ何も感じない。意識もはっきりしている。……………ん?
気のせいだろうと思い歩き出そうとしたが、足が動かない。寧ろ体が思い通りに動いてくれない。そして、俺が混乱しているうちに俺の体が勝手に再び教壇の前へと歩いた。
「ちなみに、俺には最愛の彼女がいます。そこのシズクです」
『……ええぇぇぇぇぇ!』
………何ぃぃぃぃぃ!どういう事だ!何故口が勝手に動く。押さえようにも手が動かないせいで、俺の意識に従わず、言葉が発されていく。
「シズクの言っていた彼氏が俺の事です。キリヤとも仲が良くて、沙耶とは中学生の時からの仲です。1年間よろしくお願いします」
席に戻ると、同時に不思議な感覚がなくなった。普通に手も足も口も自分で動かせている。
どうなっている?何故俺がこんな辱めを受けなくてはいけない。見ろシズクを。顔真っ赤にして手で隠してるじゃん。俺にこんなことできるなんて、あいつしかいない。……キリヤ。よく見るとあいつの目が若干色が変わっている。絶対にあいつの仕業だ。
キリヤを睨みつけると、悪魔のような笑みで返してきやがった。沙耶は腹を抱えて、笑いを堪えている。後ろからじゃ分からないが、間違いなく涙目だ。
あいつ後でぶっ殺してやる。
この後の休憩時間で俺達が質問攻めを受けたのは言うまでもない。
◆
「「どういうつもりだーーーーー!!」」
昼休みの校舎の屋上に、俺とシズクの怒号が木霊する。屋上には鍵がかけられていたが、そんなもの俺達には通用しない。
「ちょ、待て!タンマ!」
シズクは生成した氷塊を次々とキリヤに撃っている。速さが尋常じゃないため、溶かす余裕もなくダメージを負っていく。俺は逃がさないよう足に鎖を巻き付けている。俺の中の魔力をほとんど注いだから、絶対に切れない。
「待てーい!そもそも俺はお前のために」
「どこで人を操る魔法を覚えた?アレは高位の魔法使いじゃなきゃ使えないし、無系統の部類だぞ」
「ふっ、よくぞ聞いた。俺は火系統の次に適正だったのは無系統だ。まぁ、これは一時的にしか使えないけどな。それに魔法はある人に教えてもらったんだ。お前の近くにいるだろう?高位の魔法使いが」
成程、クレアが一枚噛んでいたのか。それにしてもクレアってこんな魔法も覚えていたのか。この魔法は制約が課されていて、使用するには条件が必要なのだ。分かりやすく説明すると、日本で言う銃みたいなものだ。
「それに、八幡は色々悩んでたんだろ?だから手助けしてやろうと」
「だからってあの方法はないでしょ!私まで恥かいたじゃない!」
次は氷塊に変わり、強力な水鉄砲の如くキリヤの顔面目掛けて放つ。シズクの顔は依然として真っ赤だ。
確かに悩んでいたのは事実だが、このような事態になるんだったら、ボッチの方が良かったぞ。平穏な高校生活を願っていたのに見事に崩れてしまった。
「そ、そろそろその辺にしといてあげたら?」
苦笑してる沙耶にそう言われ、キリヤを見るとボロボロになっていた。さすがにやり過ぎた思い、鎖を解いた。
「ふぅ、酷い目に遭ったぜ…」
「俺達よりマシだろ…」
「けどよ、俺がああしなかったらずっと1人でいた気だろ?」
言い返したいが、何も言い返せない。悩んでいたとはいえ、その考えもあったからだ。もちろんこれは最悪の場合だ。本当だったら、キリヤ達と過ごしたいと思っている。だから、正直キリヤのしでかした事は本気で責めることはしない。俺のために高位魔法を覚えたくらいなんだから。
「まぁ、過ぎたことは仕方がない」
「そうこなくっちゃな。ま、楽しもうぜ」
「ああ、そうだな」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
前半は今回初の三人称視点に挑戦してみました。どうでした?戦闘描写は中々難しいです。
クレアの出番少ないから近いうちに登場させよう。
また次回。