魔法少女なゼロ!   作:千草流

7 / 11
第五話

「ルイズ、杖はどうしたのですか?」

 

その質問をルイズは待ち焦がれていた。

 

魔法が貴族を貴族として成り立たせている世界において、魔法を発動するための媒体である杖は貴族の象徴とも言えるモノであった。故に杖は貴族にとってなくてはならないもの、戦うための武器であり、また自らの地位を誇示するための物であった。そんな杖を疎かにする貴族はまずいない、燃えて灰になったりでもしない限りは愛着のある杖を手放す者はいない。

 

そして当然の事ながら魔法の練習をしている最中に地球に転移してしまったルイズも、杖を持っていた。しかし様々なお土産が詰まっていたカバンの底が見え始めても、ルイズの杖が出てくる様子はない。杖というのは文字通り棒状のものなので、どこか身に着けていたならばすぐに分かるはずだが、ルイズが杖も持っている様子は無かった。自宅に帰って来てわざわざ隠し持つ必要もない。

 

そんな様子から、おそらく地球とやらで紛失してしまったのだろう、と当たりを付けてヴァリエール婦人はルイズに問いかけた。

 

「ここにあります」

 

しかしルイズから返答は意外なものであった。ルイズは自身が首元に下げていたネックレスの先に付いたクリスタルのようなアクセサリーを持ち上げて、これが杖です、と言った。それを聞いたヴァリエール夫妻は首を捻った。ルイズのそれは美しい石だとは思えても、杖などとは到底考えれないものだった。

 

「ほら、挨拶しなさい」

 

「はい、テゥースです、マスターのデバイスをやっております」

 

ルイズが持ち上げたクリスタルが、薄く点滅しながら言葉を発する。流暢に喋る様子を見てもヴァリエール夫妻が驚いた様子は無かった。これが地球であったならば、少し驚いた後にまずクリスタルの中に小型の電話機が入ってるのではないかと疑うだろう。次にその正体がAI、つまり人工知能だと聞いてその技術力の高さに驚くだろう。しかし、ここは魔法が日常的なハルケギニア、珍しくはあるが言葉話す道具というのも無くはなかった。

 

「珍しい、インテリジェンスアイテムですか。しかし杖には見えませんね」

 

「いえ、これは確かに私の杖で、大切な相棒です」

 

ルイズはトゥースと、そのクリスタルに呟くと、意図を察したトゥースは一瞬光に包まれた。光が晴れると、先程までは無かった杖が現れていた。一見すると少し短めのレイピアのようだが、よく見ると先端はあまり鋭く尖っている訳でなく刺突するには向いていないことが分かる。そもそもルイズはテゥースをタクトとしていた。形状から見て指揮棒の意味でのタクト、役割として杖としての意味でもタクト、ということだった。

 

取っての部分は丸みを帯びており掴みやすくなっており、そこから少し登ったところに、まるで剣のような鍔が左右にの伸びており、その鍔の先端は持ち手側の方向にくるりと巻いている。そして鍔の中心部分には先程までのクリスタルが煌めいていた。そこから先は真っ直ぐに先端まで、シンプルな銀色で覆われた剣でいうところの刀身が伸びていた。

 

まさか形が変わるとは思っても見なかったヴァリエール夫妻もこれには驚いた。それと同時にある疑問が浮かんだ。

 

「なる程、シンプルではありますが美しい杖です。しかし見たところ魔法を用いた道具のようですが、地球には魔法は無かったのでは?」

 

その言葉を聞いて、ルイズは地球ともハルケギニアとも違うさらに別の世界の事を語り始めた。地球よりも遥かに発達した魔法文明を持つ世界のこと。地球にもたらされた、願いを叶える石を巡る争いがあったこと、最高の結末には後一歩足りなかったこと。長い月日の中で闇に浸食された魔導書のこと、闇を振り払う為に、大事な家族の為に皆で戦ったこと。

 

時に楽しげに、時に悲痛にまみれた表情で、時に哀しみに溢れた表情でルイズは語った。いつの間にかヴァリエール夫妻も時間を忘れて聴き入っていた。

 

その物語を語り終えるのには、それ程長い時間は掛からなかった。しかし、ルイズにとって、その時間は永遠とも呼べる程の長さに感じていた。しかし、それでハルケギニアに帰ってきました、と最後の一言を発した時、ルイズの中で永遠の時間は刹那の感情となった。込み上げてきそうな涙を堪えて顔を上げた。

 

「ルイズ」

 

よく頑張りました、とそう一言だけ発し。ヴァリエール婦人はルイズを抱き締めた。一瞬か、はたまた永遠か、そうしてルイズはじっと抱きしめられていた。

 

「さあルイズ、今日は疲れたでしょう。ただ休む前に、あなたの魔法を母に見せてくれますか?」

 

抱擁の時間は終わり、そっと離れたところで言われた母の言葉にルイズは静かに頷いた。

 

一度呼吸を整え、トゥースを持つ手に軽く力を入れる。そうした段階になって、ルイズは悩んだ。彼女自身が使える魔法はただ一つしかない、しかしそれは室内で使用するには少しばかり危険だと判断したからだ。トゥースの補助があれば他にも幾つか使用出来るモノもあるが、あまり見栄えがよくない上に自分自身の魔法だと言い切れなかった。

 

そして、いくらか悩んだ末に、自分自身が使える魔法がもう一つだけあることをルイズは思い出した。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

 

再び、その呪文は唱えられる。それはルイズにとって異世界に自分を連れ去った忌まわしきもの。だがルイズはそれに感謝していた、とても大切な欠けがえない出会いをもたらしてくれたそれに。

 

「5つの力を司るペンタゴン」

 

初め、異世界の杖を用いた魔法を見てみたいと思っていたヴァリエール婦人は、自分もよく知るその呪文を聞いて口を挟もうとした。しかし、開きかけた口がそれ以上開くことは無かった。その口と共にそっと瞼を落とし、ただ静かにルイズの声に聞き入った。

 

「我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」

 

呪文の完成、そして扉は再び開かれた。

 

そっと目を開けて、ルイズの魔法の成功を見届けたヴァリエール婦人は胸の奥から込み上げてくる感情を噛み締めていた。

 

と、ここで魔法を完成させたルイズ本人はというと、目の前に現れた扉を見て感動を覚えた次の瞬間には冷静になっていた。

 

―――これ、誰か向こうからくぐってきたらかなりマズイんじゃ…

 

ルイズの後ろで、感動に震えている両親を尻目にルイズの頭の中では、誘拐、拉致、犯罪、前科持ち、そんな言葉ぐるぐると回っていた。そこらへんにいた、犬や猫ならまだなんとかなる、いやもし誰かのペットとかであったなら犬猫でも窃盗罪になる、それよりなにより人間が通ってきてしまうことがルイズにとって不安だった。慌てて扉を消そうとしたルイズだったが、出し方は知っていても消し方を知ら無かったルイズの内心はダラダラと冷たい汗が流れ続けていた。

 

そんなルイズの心境を無視して、少し床から浮いていた所にあった鏡面のようなその扉の中心に波紋が生まれた。そしてその波紋の発生源からニョキリと黒い棒のようなものが生えてきた。だんだんと全容が見えてきたその棒は、何か細長い物が入った布の袋であることにルイズは気が付いた。はいアウトー、完全に人工物だわこれ、と、ルイズは半ばやけになっていた、これで自分も犯罪者の仲間入り、次元規模の誘拐だからたぶん地球の警察じゃなくて、友人たちが所属する時空管理局に捕まるんだろうなー、などと諦めの境地に至っていた。

 

「痛ッ!」

 

ルイズが意識を飛ばしている間に、扉から先ほどの棒状の物の所有者がペッと吐き出された。空中に浮いている出口から落とされた為にバランスを崩して、頭から落ちたその人物の痛みに呻く声を聞いて、ルイズは正気に戻った。あー、そういえば私も頭からいったわね、といった現実逃避を振り払いルイズはまず謝罪の言葉を発する為に、その人物に目をやった。そして口を開きかけて、その人物の正体に気が付いて固まった。

 

「あれ、ルイズじゃん。自分家に帰ったんじゃないのかお前?」

 

「なっなななな」

 

「な?」

 

「なんであんたが出てくんのよおおおおおおおおおおおお!?」

 

そこにいたのは地球での友人の一人、魔力の欠片も無い癖にただ我武者羅に前に進もうと努力してたその友人が出てきたことによるルイズの驚きの声は屋敷中に響き渡った。

 

「なんでって言われても、何か変な鏡みたいなやつに吸い込まれたと思ったらここにいたんだよ。というかここどこだ? あ、もしかしてミッドチルダとかいう世界か?」

 

事態の深刻さを理解せずに、呑気な言葉を放つその青年の姿を見てルイズの驚きも静まっていった。

 

「何呑気な事言ってんのよ、サイト!」

 

「いやだって、どうせまた魔法の何かだろ。だったらその内誰か迎えに来てくれるだろ」

 

「…無理よ」

 

「え?」

 

今だ状況を呑み込めていない青年に、罪悪感を覚えたルイズは俯いて小さく否定の言葉を発した。

 

「無理って言ったのよ。いい、よく聞きなさい、ここは地球でもミッドでもない。私が何年も掛かってようやく帰ってこれたハルケギニアよ。管理局の技術でも容易に行き来はできない。だからその…」

 

「ん? つまり暫くは俺帰れないってことか!?」

 

「そうよ!」

 

ルイズがきっぱりとそう言うと、青年はしばらく呆気に取られた後に、わなわなと肩を震わせ始めた。

 

「なっなななな」

 

「な?」

 

「なんだっておおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

その日、ルイズに続いて二度目の絶叫がヴァりエール邸に響き渡った。そしてその日、ハルケギニアの大地に一人の青年、平賀才人が降り立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ルイズ達の絶叫をとある、ウォシュレットの犠牲になったメイドが聞いてしまい、そこからルイズが誰かを拷問にかけていたという、誤解が広がっていた。




内の才人は魔改造済です。
もはや彼は才人でも、サイトでもない。
SAITOだ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。