PHANTASY STAR ONLINE2 Archive of Memory   作:black_boots

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Act:1 黒いメッセージパック

 

人類にとって

過去や歴史を知るということは

食事を摂る事と似ている。

 

例えば自分が2人居たとして

肉しか食べない自分と

野菜しか食わない自分がいたとしよう。

 

最初、2人に大きな差はない。

だが僅かな差が起き

それは日に日に大きな差と成っていく。

 

肉しか食べない自分は

怒りっぽく、情熱的に

野菜しか食べない自分は

温厚で、薄情になるかもしない。

 

 

別に日々の衛生管理について喚起したいわけじゃない。

人間は、食べた物で出来ているという事を言いたい。

 

 

過去や歴史を知るというのも

これと同じでは無いだろうか。

 

例えば自分が2人居たとして

Aという歴史を知る自分と

Bという歴史を知る自分

 

最初2人に大きな差はない。

だが僅かな歴史の違いは

やがてその差を大きくし

全く別の人間と成るだろう。

 

歴史にAもBもないと言いたげな顔をしているね。

では、かつて人が残していた記録という物

 

言わば伝記とでも言おうか。

それは何で出来ているだろう。

 

人が、見たものを

文字に起こし、記している。

 

違和感を覚えないかい?

Aという紡ぎ手からみた歴史と

Bという紡ぎ手からみた歴史が

 

必ず一致するのだろうか。

 

もう既に、僕らの歴史はAにもBにも成っている、そうは考えられないかい?

 

 

モンタギューの演説議事録より抜粋

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

それは僕が

目の前に現れたダーカーに驚き

尻餅をついた事から始まった。

いや、もっと具体的に言えば

尻餅をついた時に、左手に当たった黒いメッセージパックを

拾った所から、だろうか。

とにかく、その長い長い文章の書かれたメッセージパックが見つかったのは

3日前の出来事だ。

それがまさか、こんな結末を招くなんて

その時の僕は知る由もなかった。

「・・・こんなことになるなんで・・・。」

「・・・そうよ、ディー。あんたがあんなもの見つけなければ、こんな事にならなかったのよ。」

 

 

 

3歩程先を歩きながら、顔を半分だけこちらに向け名前を呼ぶ。

金髪のボブカットで、少し前にカールしているのはクセっ毛だからだろうか。

彼女の名前はアイリス。

僕と同じアークス研修生の同期だ。

そして彼女の視線は今、不満で満ち満ちている。

 

「・・・僕だってね、好きでこんな事をしている訳じゃないんだ。本当なら今頃マイルームでゴロゴロしながら、雑誌でも読んでた頃だっていうのに。」

 

 

不満の視線に耐えかね、宙に逸らすと

青々とした木々が空を塞いでいる。

【惑星ナベリウス】緑豊かなこの惑星は

かつてダーカーの大量発生があり

研修地から一時的に除外されたものの

名残からか

今でも僕らアークス研修生の実習地でもある。

「・・・っていうかさ、なーんで全部のメッセージパックを回収するの?」

口をラッピーのように尖らせアイリスが不満気に尋ねてきた。

 

「僕に聞くなよ・・・。黒いメッセージパックなんて珍しいから、シルヴァ教官に渡したらこうなったんだ。」

「ふーん。黒いメッセージパックねぇー。」

少し間延びした返事。

こんな時大体彼女は別の事を考えているか既に会話に飽きている。

僕が演習中に発見した黒いメッセージパック。

先述の通り、僕はそれを教官のシルヴァさんに渡した。

僕は、珍品を見つけた優越感というか、どちらかと言えばお遊び半分な気持ちで

それをシルヴァさんに渡した。

厳しいけれど、優しい性格のシルヴァさんだから

こんなもの拾ってるくらいなら、ちゃんと実習しろ!だとか

笑いながらそう言ってくれるかと思っていたけれど

実際そうはならなかった。

受け取ってすぐ、眉間にシワが寄り

低い声で僕にこう聞いてきた。

“これはどこにあったんだ。答えろ。”

その日の実習は途中で切り上げる事になった。

「っていうか、その黒いメッセージパックだけを探して回収すればいいんじゃないの?なんで全部なの?」

 

 

同感だ。

僕がシルヴァさんに黒いメッセージパックを渡した翌日から

実習内容が

【ナヴ・ラッピー捕獲演習】から

【惑星ナベリウスの全メッセージパックの回収】に変更された。

変更の理由も、説明もないまま

僕らはナベリウスに送られたわけだ。

そうして回収し続け、3日になる。

あのシルヴァさんの言い方からして、黒いメッセージパックが

何か危険なものであったり、重要な秘密である可能性が高い。

でも僕らの実習内容は【全メッセージパックの回収】だ。

全部回収する意図が分からない。

「・・・あ、向こうに1個発見!ディー、罪を償うためにも、あんたが取って来なさい!」

 

 

 

アイリスの指差す先を見ると

小さな泉があった。

その泉を縁取るように生える草の中から

一筋の光が漏れている。

一歩一歩、生い茂る草を掻き分けながら

その光りへ近づく。

 

 

「・・・また、オレンジだ。」

 

 

 

僕は右手にメッセージパックを掴み、呟いた。

ちょうど泉に自分の顔が映りこむ。

黒い髪、茶色い瞳。

キレ長の目には、ヤル気の無さが満ちている。

もう少しこの目に覇気があれば

あるいは女子研修生からチヤホヤされていた

・・・かもしれない。

「っていうか、メッセージパックは基本オレンジしかないでしょ。あんたの見つけた黒いメッセージパックなんて、私一度も見たことないよ?」

 

アイリスは僕の手からメッセージパックを奪い取ると

自分のアイテムパックに入れる。

こうして今日の実習も僕の回収数は0で報告する事になるのだろう。

ちなみにこの三日で100回近く奪われている。

「少し休もう。歩き疲れた。」

 

 

メッセージパックを奪い返す気力もなく

泉の辺に腰を下ろした。

アイリスもそれに倣い、僕の隣で膝を抱える。

 

「ねぇディー。そもそもあんたが回収した最初の1個って何が書いてあったの?」

 

空色の瞳が下から覗きこむ。

水面に揺れる光が、瞳の中にも映りこみ幻想的だ。

 

 

「僕が回収した奴には、なんか食事がどうのって書いてあったな・・・」

アイリスの眉間にシワが寄る。

 

「食事!?なにそれ!超くだらないじゃない!!え、もっとアークスの根幹を揺るがすような、そういう重要な情報じゃないの!?」

「僕に言ったって仕方ないだろ・・・。僕が書いたわけじゃないんだし・・・。」

「でもその内容が食事!?なんなの!モノメイトの飲みすぎは太る!とかそういう事!?」

 

1度こうなると手がつけられない。

火山の噴火のように止まらない上

ダラダラと垂れる溶岩のような不平不満。

彼女はそんな自分をイメージしてか、赤い服をよく着ている。

なんてことはない。

単に赤が好きなだけだろう。

今回の実習に不満があるのは僕も変わりない。

でも、実は少しだけ嬉しくもあった。

アイリスとパーティを組むのは久しぶりだからだ。

彼女とは元々居住区も近く

研修生になる前からその存在を知っていた。

金髪で活発で、容姿も整った可愛い女の子。

第一印象はそんな所だ。

もう少し詳しく言えば、幼い頃

僕はアイリスの事が好き"だった"。

過去形なのは、彼女と話すようになってから。

幻滅したわけでもなんでもない。

ただ彼女は僕を友達として受け入れてくれた。

とても親しく接してくれる。

僕はこの関係を進める事よりも、今を維持していたい、そう思ったからだ。

「…っていうか、聞いてる?聞いてないよね!?ねぇ!」

「・・・ナベリウスのこの美しい自然をメッセージパックだらけにしてしまう悪の組織があると思ったら、思考が止まらなくなってね。いやすまないすまない。」

「・・・うそつけ!」

 

 

僕の脇腹にめり込むアイリスの肘は

モノメイトでは回復出来ないほど強烈な一撃だった。

 

「とりあえずここら辺の探索はほぼ終わってるでしょ?」

「あと一箇所だけ。マップの北西にある袋小路だけだね。ここからまっすぐ歩けば着くし、そこまで見たら帰還しよう。」

 

 

 

少しだけ、笑顔が戻る。

1日の終わりが見えるだけで気が紛れるものだ。

3日連続で探索した甲斐あって

未探索エリアは今日でほぼ無くなる。

願わくば、明日はナヴ・ラッピーを追い掛け回すような

違う刺激が欲しいものだ。

しばらくナベリウスで森林浴をしながら歩いていると

件の袋小路が見えてきた。

「マップだと近いけれど、意外と遠かったわねぇー。」

背伸びをし、右手にテレパイプを用意するアイリス。

探索も終わっていないのに、帰還する気満々だ。

袋小路の入口に差し掛かった所で

僕らは歩みを止めた。

人が居る。

惑星探索であれば、他のアークスや研修生と遭遇する事も多い。

でも、僕らの視線の先に居る人は

なにか違う雰囲気を持っていた。

 

「隠れよう。」

 

 

アイリスの肩を叩き、呟いた。

幸い、袋小路の入口にはしゃがめば身を隠せるほどの岩があった。

 

「ねぇ、なんかあの人、雰囲気怖いんだけど・・・」

 

小声でアイリスが囁く。

 

僕は岩から少しだけ顔を出し

袋小路の奥に視線を向ける。

真ん中には大きな木。

その前に、白く長い髪の女性が一人。

全身黒く、羽のように尖った装甲を纏ったキャスト・・・のように見える。

頭の上にはピンク色のフォトンの走った黒い輪が浮かんでいる。

 

 

 

こちらに背を向け

ただじっと木を見つめている。

 

 

もう少し良く見える位置に、と腰を浮かせた瞬間、袖を引かれ尻餅をつきそうになる。

 

 

 

「何すんだ、あぶないだろ!!」

 

 

 

極力小声で憤った。

 

 

 

「ねぇ、あの人・・・もしかして【黒い天使】とか言われているキャストじゃない・・・?」

 

 

 

聞きなれない名前だった。

もとより僕は噂話の類が嫌いだ。

 

しかし黒い天使。言われてみればそういう風に見えなくもない。

だが、天使というには少し冷たい印象があるような。

 

冷たい印象?

 

 

自分の頭の声に、疑問を抱く。

冷たいのではない

 

あの【黒い天使】からはフォトンを感じる。

おそらく僕らと同じアークスだろう。

けれども、アイリスや他のアークスと何かが違う。

冷たいに近いけれど、なんだろう。

違和感がある。

 

 

少し不気味に思い

僕は腰を屈めたまま1歩退いた。

 

 

 

 

「・・・隠れているつもりでしょうけれど、気付いていますよ。」

 

 

 

 

抑揚の無い声だった。

その無機質で、か細い声が

僕らに向けられていると気付いたのは一瞬遅れてからだ。

 

アイリスは目を丸くして

僕の顔を見つめている。

 

どうするの、と言いたいのは分かる。

でも僕も言いたい

どうするんだよ、この状況。

 

 

 

 

「・・・随分警戒なさっていますね。でもご安心ください。食べたりしません。」

 

 

 

 

背中を冷たいものが走る。

僕らを安心させたいのか、怖がらせたいのか、全く分からない。

 

このまま息を潜めていたら、気のせいだと思ってくれるだろうか。

いや、無いだろう。

 

 

見つかっているのに隠れている居心地の悪さと、先ほど感じた不気味さが相まって

心拍数が上がっていく。

 

こちらが動かなければ

この居心地の悪さは消えない。

 

 

膝に力を入れ立ち上がる。

視線を袋小路に向けると

先程と同じ位置に黒い天使は佇んでいた。

 

こちらを向いて。

 

 

 

「あ、あぁー、僕らここら辺の草むしり頼まれましてねぇ?そしたらロックベアに遭遇して、命からがら逃げてきた所で、特に怪しい者ってわけじゃないんすよー!ははは!」

 

頭に右手を当てながら

腰を低くし、何度も会釈して僕はそう言った。

 

 

 

 

黒い天使は無言で見つめている。

 

視線に耐えきれず

そのままの姿勢で僕は目を閉じた。

 

 

何を口走っているんだ。

やましい事も何も無いのに、わざわざ怪しい者に仕立て上げてどうするんだ。

そもそも普通にこんにちは、で良かったじゃないか。

 

 

薄目を明け、目の前の黒い天使の様子を伺う。

 

 

 

エメラルド色の瞳

筋の通った鼻

まるで人形のように美しい顔をしていた。

 

白く、長い髪の毛は二つ結びになっていて

太陽に照らされた部分が銀色に輝いていて美しい。

 

 

 

 

見とれている場合では無かった。

黒い天使は瞬きもせずにこちらを見ている。

ダメ押しだ。

 

 

 

「それでですね!?なんとそのロックベアが実は」

 

 

「あなたが混乱している事は、もう十分に伝わっています。」

 

 

「ですよね。」

 

 

 

 

黒い天使は少し振り返り、大きな木を見つめた。

 

 

 

「私はこの場所で佇んでいました。」

 

 

 

見ればわかる。

黒い天使はただここに居ただけ。

単に僕らが、というか僕が、黒い天使という通り名や普通と違うフォトンに戸惑い

混乱していたに過ぎない。

 

 

 

 

「あなた達は、ナベリウスで何をされていたんでしょうか。実地訓練中の研修生に見えますが。」

 

 

 

抑揚が無く、か細い声は

誰に話しているのか一瞬分からなくなる。

 

 

 

「えっと・・・仰る通り、研修生。んで、僕らはナベリウスのメッセージパックを回収してたんだ・・・。」

 

 

 

黒い天使は首を傾げる

 

 

 

「メッセージパックの回収?それがなんの訓練になるのでしょうか。」

 

 

「それは・・・分からないっす。でも、とにかくナベリウスにあるメッセージパックを回収しろっていうのが、この実習で。」

 

 

 

黒いメッセージパックの事は

話さなかった。

こうして話してみても

やはり感じるフォトンに違和感がある。

 

全てを話すのは危険な気がした。

 

 

 

 

「妙ではありますが、私にはあまり関係ありませんね。こんな袋小路に来たと言うことは、ここも探索するおつもりで?」

 

 

「あ、ええ。まぁ。ここで最後っす。」

 

 

「でしたら、協力して差し上げます。これを。」

 

 

 

 

黒い天使はおもむろに右手を差し出して来た。手には何か握られている。

 

僕は恐る恐る近づき

それを受け取った。

 

 

 

 

黒いメッセージパックだった。

 

 

 

「この奥に、置かれていました。」

 

 

 

僕が見つけた1個だけでは無かった。

いったいいくつあるんだろう。

そして、中身は一体。

 

 

 

「アイリス!黒いメッセージパックだ!」

 

 

 

岩陰に顔を覗かせるとそこにアイリスの姿は無かった。

嫌な汗が頬を伝っていく。

まさか、僕が黒い天使と会話している間に、何か・・・。

 

 

 

「色々疑問を抱いているご様子ですが、あなたと一緒に居た女性、先程テレパイプで帰っていましたよ。」

 

 

 

 

口を大きく開け、目を丸くした。

恐らく僕の人生の中で最も間抜けな顔だったろう。

 

 

 

 

「丁度あなたが私に、怪しさ満点の説明をしていた時です。」

 

 

 

 

唖然としている中、少し遠くの方に目をやると、起動したテレパイプが見えた。

 

 

 

 

「では、私も用がありますので、ここで失礼します。」

 

 

 

 

右手を胸にあて、丁寧にお辞儀をした後、黒い天使はテレパイプを起動する。

薄緑色の輪の中に身を包みながら、最後にこちらを振り返り

こう言い残した。

 

 

 

 

「・・・あと、おサボりは関心しませんね。今回だけは、内緒にしておきます。研修生さん。」

 

 

 

 

その一言にはっとした。

メッセージパックの回収という名目でサボっていると思われていた。

違う、違うんだ黒い天使さん

これには深い訳が・・・深くもないけれど

 

 

釈明しようと口を開けた時には

その姿はどこにもなかった。

 

 

黒いメッセージパックを発見し

黒い天使に出会った。

その天使から、もう1個の黒いメッセージパックを受け取る。

 

 

 

思考が巡る。

黒い天使という得体の知れない人は何者なのか

彼女は偶然黒いメッセージパックを拾ったのか

そしてこのメッセージパックの真意は・・・。

様々な思考が巡るが

今、これだけは言いたい。

 

 

 

 

 

 

「僕、サボってませんからーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ナベリウスに木霊した僕の声は誰にも届かないまま

青々とした空に消えていった。

 

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