オラリオの迷宮   作:上帝

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0話 プロローグ

 

 世界樹の迷宮。

 

 世界にはモンスターが生息している迷宮が存在している。特にここハイ・ラガード公国では、天を貫くほどの大樹の中に発見された迷宮を世界樹の迷宮と称した。

 ハイ・ラガードには言い伝えがある。この世界樹の迷宮を踏破した者には諸王の聖杯が与えられ、願いを叶えられるという伝説が残されていた。

 その伝説が真実か否かは判明していない。だが、ハイ・ラガード大公宮はその聖杯を持ち帰ったものに莫大な恩賞を与えると言い、冒険者たちが冒険に臨める環境を国掛かりで取り組んだ。

 

 冒険者は集い、世界樹の迷宮へと挑む。

 だがそんな環境でも踏破者はついに出ず、幾年の年月が立った。

 

 大公が公的な場に出なくなり、娘である王女が執政を取り仕切るようになってから幾か月。その王女の依頼を新参の冒険者ギルドが次々と達成していった。

 幻獣サラマンドラの羽を持ち帰り、氷の花を見つけだし、翼を持つ人との交流を深め。ついにはその冒険者たちは迷宮を踏破し、聖杯を持ち帰ったのだ。

 冒険者たちは言う。「上帝」を名乗る人物がこの世界樹を作り上げたのだと。世界樹の迷宮の謎を解き明かしたギルドは更にまだ謎と上の階層があると言い、その先で上帝すらも上回る幼子と呼ばれた存在を打倒した。

 

 そう。ハイ・ラガードの迷宮を完全に踏破したのだ。

 

 

 

 時は流れる。

 

 踏破された迷宮の謎がいつまでも残るわけはなく、冒険者たちは一人、また一人と新天地に向けて旅立つ。一人は海を跨いだ別大陸へ。一人は空を超えた先へ。

 ハイ・ラガードにはもう謎が無い。冒険が出来ない冒険者に何の価値があろうか。新参から駆け上がりハイ・ラガード1のギルドとなった冒険者たちは、迷宮の踏破と共に散り散りとなった。

 

 彼らには彼らの冒険がある。大公宮は引きとめはせず、ハイ・ラガードは世界樹の恩恵を受ける公国として繁栄をつづけた。ハイ・ラガードのそばに、新たに禍と言われる存在が出るまでは…

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのか?お前さん一人で」

 

 久々にハイ・ラガードに戻ったあなたに知らされたことは、世界樹の迷宮とは違う別の遺跡に上帝、いや幼子と同じほどの危険な存在がいると言う知らせだった。大公宮に戻った旨を伝え、自分一人しか戻って来てないことを伝えたら落ち込まれた理由がよく分かる。あれと同等の存在を倒すにはパーティで戦略を組まなければ難しい。実際に同等と言われる幼子と戦った自分たちだからこそ分かるし、それを他の冒険者に頼むつもりもなかった。

 

「つってもよぉ。いくらあの偉業を成し遂げた冒険者だからって、弓の一つだけで何とかなるのかよ?」

 

 あなたは頭を横に振る。大丈夫だ、ハイ・ラガードには新しい技術もある。

 

「グリモア、か。そいつで何とか…いや、して見せるって顔だな。じゃあもう言うことはねぇ。いざ行け、ボウケンシャーってな!無事帰ってきたら一杯やろうぜ!」

 

 今回は、大公宮直接の依頼ではなかった。酒場を通した依頼というところに大公宮の粋を感じつつ、あなたは酒場を後にした。

 

 

 

「しかし、一人で挑むとはな…。私はお前たちの武勇伝は話でしか聞いたことが無いが、無謀にも程があるんじゃないか?」

 

 大公宮直属の料理店ということで、このお店では迷宮料理というものを扱っているらしい。迷宮のモンスターや素材を使っての料理で様々な効果を促す…らしい。壁を食べろとか言われたときには驚いたが。

 

「グリモアは……なるほど、準備済みか。じゃあ私が出来ることは、あんたが生きて帰れるように料理を作るだけだ」

 

 この料理店の女将さん…。と言うほどの歳ではないか、お姉さんは見た目と雰囲気とは違ってだいぶ熱血漢のようだ。気にしないでいい。いつもの通りの料理が食べたいんだ。その旨をあなたはお姉さんに伝える。

 

「おいおい、これから救国の英雄になるかもしれないんだぜアンタは。それを助けた料理に気合を入れずして、いつ入れるのさ」

 

 出された料理、ハチミツのジャーマンポテトを食べ、気合を入れ直す。これはあなたの好物で、樹海料理の効果として食べるとしなやかに動ける効果もある。

 

「また、来いよ!」

 

 料理店はハイ・ラガードに新たに伝わった技術「グリモア」の教える場でもある。スキルの数は戦力の数だ。少しでも吟味してあなたはグリモアを選び、料理店を後にした。

 

 

 

 ハイ・ラガードの街並みを巡りながら、昔と今とでは様変わりしている部分をあなたは眺めていた。

 たとえば、昔は冒険者が常に担ぎ込まれていた病院も、今では縮小し入院患者なんてのも殆どいなかった。

 宿屋の女将さんは相変わらずのきもったまのようで、これから死地に向かうあなたのことなんか一切心配せず、帰ってくることだけを信じていた。

 万屋のお嬢ちゃんはアイテムのサービスをしてくれた。絶対、絶対戻ってきてくださいとは彼女の言葉だ。

 冒険者ギルドでは、昔世話になったギルド長が今でも働いていた。新人の芽を潰すわけにはいかない。必ず勝て。だそうだ。

 大公宮は…良いだろう。あなた一人に責を負わせることに、あの王女はとても心苦しそうだった。勝って帰ってくればそれもすぐに晴れる。

 

 

 

 

 

 

 

 ハイ・ラガードの街並みを歩く、一人の弓使いがいる。レンジャーか、と問われればその者は是と答えるだろう。だがその弓使いの風貌は、黒い髪を束ね、鋭い目つきに、動くのに適した華奢な体躯。かつて、このハイ・ラガードにおける聖杯を持ち帰った冒険者ギルドの中に、同じ姿の者はただ一人。

 

 ブシドー。それがハイ・ラガードにおける彼女の通り名。かつての刀を主体とした戦闘を行うはずの彼女は、袴姿から軽鎧姿に、刀から弓へと装備が変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ギンヌンガ。それが今回の依頼の場所。遺跡の名である。

 禍と呼ばれる何かはこの遺跡の奥底に存在している。と、王女は言っていた。そして、禍を鎮めるには特別な存在ファフニールが必要とも。

 あなたがそのファフニールではないことは確かであった。現に遺跡にファフニールが入れば変調と共に禍を鎮めるための最適化がされるらしいが、その様子は今のところあなたには起きていない。

 

 あなたは周囲を警戒しつつ、どんどん先へと進む。途中、バジリスクやアラクネーと言った強力なモンスターもいたが、たとえ一人であろうとその程度の敵はあなたの敵ではない。ハイ・ラガード特有の戦闘技術、フォースブーストも温存しつつ遺跡の先へと進んで行く。

 

 そして…

 

『なんということだ。ファフニールの騎士ではなく、ただの人が、それも一人とは』

 

 進んだ先にいたのは、影のごとき存在だった。

 これが、禍?

 あなたは首をかしげる。確かに強力なモンスターの雰囲気を感じはするが…

 

『否、我は黒の護り手。ファフニールの騎士を完成たらしめん存在』

 

 なるほど、ファフニールとはこの遺跡を通じて力を上げる存在らしい。途中途中で厄介な罠があったが、それらは全てファフニールのための試練というわけだ。

 

『人の子。汝は彼の上帝、そして幼子も下した存在。違うか』

 

 合っている。ただし、ソロではないが。

 あなたは黒の護り手と称した存在と会話を試みる。どうやらあなたのことを知っているらしい。

 

『幼子を下した存在ならば、ファフニールでなくともあるいは…。いずれにせよもう時間が無い。禍はもう既に覚醒の時を迎えたり。汝、その全霊を持って禍を封ぜよ』

 

 何と言うことだ。眠ってるならまだしも覚醒しただと?

 あなたの頭には、世界樹を喰らう蟲の姿が思い浮かぶ。投薬しなかったあれと同等は…考えが甘かったかと一筋の汗が流れる。

 

『案ずるな。封じるは汝にあらず。我がこの身に変えてでも禍は封じる』

 

 黒の護り手はあなたの動揺を封印術が無いことと勘違いしたようだ。違う、そうじゃない。戦力的な問題だ。

 大公宮からの報告では禍はまだ稼働してないとのことだった。それなら事前に大量の準備を経て一瞬で殺しきることも可能だったかもしれないのに、それが絶たれてしまったのだ。

 

『幼子を打ち破りし汝の力に期待する。禍を封ぜよ』

 

 後ろの扉が、ゆっくりと、勝手に開いた。

 

 

 

 

 

 

 禍と、冒険者との戦いは苛烈を極めた。

 冒険者は矢を天高く射ぬく。時間差で落ちてくる矢に合わせて一気に追撃を掛け禍を追い詰めていく。禍もその間に攻撃を続けるが、冒険者は紙一重でそれを避け続ける。

 

 ……だが、冒険者が無事でも遺跡が禍の暴虐に耐えきれない。このままでは禍と冒険者の戦いが遺跡の外に広がり、未曽有の災害となるだろう。禍は冒険者との戦闘で手一杯のようだ。ならば、冒険者一人の犠牲で禍を封じる好機ではないか。冒険者が戦っている最中、禍を封じていた存在は考える。このままでは戦火はこの遺跡だけにとどまらない。最後の力を持って、禍を奥深くへと封じる。

 

 冒険者は良くやってくれた。あの禍の力をここまで削ぐとは。ファフニールの騎士でない、ただの人間の可能性がここまでとは。だが、それもここまでだろう。大立ち回りを続ける冒険者の力は時が立つにつれて衰えてきている。

 

『よくやった、冒険者よ。後は我に任せるがいい』

 

 

 

 

 

 

 あなたがその声を聴いたのは、おおよそ禍の力があと半分と差し掛かったところだった。声と共に禍に光が走り、禍は苦悶の声を上げて地に沈んで行く。

 

『よくぞ限界まで戦い抜いた。まさしくあの上帝、ひいては幼子を下しただけの力はあったようだ』

 

 黒の護り手の声が響く。あなたは唐突な戦闘の終わりに若干の消化不良を残しつつも声を聴いた。だが、腑に落ちない。あなたは禍との戦いでまだ限界というわけではなかったのだ。

 禍との戦闘では、フォースブースト『夢幻残影』を頼りに、圧倒的な速さで持って攻撃を避け、隙を見て天高くいる曲射、サジタリウスの矢と同時に追撃を行っていた。確かにフォースブーストが切れた後は曲射と共に追撃を行うことは出来なくなる。だがそれでもまだ戦えたはずだ。

 

『禍は封印する。そして、汝も同じく眠りにつくがいい』

 

 ……?

 

 疑問で思わず首をかしげる。封印は良い、禍がそのまま封じれるというのならば来た甲斐があったものだ。だが、自分まで眠りに付くとはどういうことだろう?

 嫌な予感がよぎり、あなたはすぐ脱出しようと扉を叩く。だが、最初に勝手に空いたはずの扉は開かない。引いても押しても叩いてもびくともしなかった。

 

 ……どうやら、あなたのことを黒の護り手は人柱程度にしか思っていなかったらしい。脱出しなければとあなたはなりふり構わずに扉に矢を射る。ダメだ、謎の力で刺さりもしない。ならばと、バックパックからアリアドネの糸を取り出し、使う。うんともすんとも言わない。

 

 打つ手が………無い。

 

『禍と共には辛かろう。せめて、我らの加護を持って汝を守護することを誓おう』

 

 声はその言葉と同時にもう聞こえなくなる。あなたは、戦いの極度の緊張と現状のギャップに頭がふらついてしまう。膝を折り、崩れ落ちる地盤に倒れ伏す。

 ああ、ギルドの皆。ハイ・ラガードの皆。ごめんなさい、帰れなかったよ。ちくしょう黒の護り手め。

 ブシドーの頃の自分なら、余りの情けなさに切腹していたかもしれないが、そんな気も起きない。ただ、ただ。無気力感に苛まれたあなたはそのまま目を閉じた…。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――」

 

 深い、深い眠りについていた気がする。

 いや、実際に眠っていたのだろう。閉じているまぶたは長い間閉じすぎてどうも開ける気にはならない。

 

「――――へんな、この子」

 

「――――と思うが」

 

 だが、声が聞こえる。人の声だ。

 禍はどうなったのだろうか。封印とやらは機能しなかったのだろうか。あなたは確認のため気だるげに起きる。極度の緊張感からの疲れと言う訳ではなく、長い間身体を動かしてないようなそんな感覚だった。

 あくびをかきながら起こし、あなたは周囲を見た。赤い髪、人だ。男だ、いや、女か?

 

「お、ようやく起きよったな」

 

 あなたは寝ぼけ眼をこすろうとする。が、ずいぶんと体が重い。まぶたも重く動く意思がみるみると削られていった。あなたは眠り足りないといち早くそう判断し、二度寝の体制に入る。

 

「はい、寝ない寝ない。寝ぼけてるとこ悪いけど、ここがどこだか分かる?」

 

 もう一人の、男性の声に促されてしぶしぶ起き上がり、寝ぼけ眼をしっかりと開く。どうやら赤髪以外にも人がいるようだ。

 しかし、はて。ここがどこだかと来たか。どこなんだろう?

 

「……うん。嘘はついてる感じはせーへんな。フィン」

 

「ふむ、任された」

 

 バトンタッチして出てきたのは先ほど起こしてくれた男、いや子供…のような人だった。アーモロードにいたときに見かけたファーマーの男の子…よりかは少し年上なんだろうか。

 

「ああ、これでもファミリアのリーダーを務めている。僕の名前はフィン・ディムナ。こっちは主神のロキ。君は?」

 

 あなたは自分の冒険者ギルドと自分の名前、そしてハイ・ラガードの国名を言う。うぬぼれで無ければハイ・ラガードに自分の名を知らない者はいないだろう。

 

「ブシドー…ハイ・ラガード…うーん、聞いたことが無いね」

「うちも聞いたことないわ。うーん…」

 

 出鼻をくじかれた。とがくりとあなたは肩を落とす。だが、これではっきりした。少なくともこの付近はハイ・ラガードではない。

 いや、であったのかもしれない。禍と共に封印された以上、時間の感覚なんて正しいはずがない。黒の護り手の言う加護がどういうものかは分からないが、少なくとも自分のいた年代との差異は出ていても仕方ないことかもしれない。

 あなたがそう独りで納得していると、フィンはあなたに対してこう聞いてくる。

 

「ところでブシドー。ここがどういう場所か、分からないんだよね?」

 

 是、とあなたは首を縦に振って肯定する。元ギンヌンガであっても瓦礫に埋もれた地で、国の名前も変わっているのかもしれないのだから。

 

 

「ようこそ、迷宮都市オラリオへ。君はオラリオが誇るダンジョン地下50階で発見された。モンスター蔓延る迷宮の中で、すやすやと眠っていたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 




《ブシ子》
世界樹の迷宮のキャラクター。職業:ブシドーのグラフィック1の黒髪ロングを纏めた子。
外見がシリーズを通して皆勤賞。今回の彼女は世界樹4のスナイパーグラフィック。さらし一丁の痴女ではない。

《グリモア》
装備するとそのグリモアに封印されたスキルを使えるようになる。新世界樹の迷宮2からの新システム。ブシ子さんが何を装備しているかは、追々。

《フォースブースト》
世界樹の迷宮2および新世界樹の迷宮2での戦闘スキル。行動ごとに発動ゲージがたまり、発動後3ターンの間職業ごとに強力なスキルが発動する。
旧世界樹の迷宮2ではレンジャーがこのフォースブーストを発動すると、味方の回避率が上がるはずが敵の回避率があがってしまうバグがあった。

《夢幻残影》
レンジャーのフォースブースト。3ターンの間、自身に回避補正と攻撃命中時の追撃スキルを得る。
独自設定で、このスキルを発動中のブシ子さんはすさまじい速さを得ることで回避、追撃を可能としている。





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